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「覚えが悪い」と感じるときの対処法

📖 約65✍️ 伊藤 真由美
「覚えが悪い」と感じるときの対処法
仕事や訓練で「覚えが悪い」と悩む障害者・支援者に向け、脳の特性に基づいた実践的な対処法を解説した記事です。記憶が定着しない原因をワーキングメモリや認知特性(視覚・聴覚優位など)、ストレスの観点から解き明かし、自分を責める必要がないことを伝えます。具体的な対策として、メモやチェックリスト、スマホ活用などの「外部化」のコツや、情報を小分けにする「チャンキング」、教えるつもりで学ぶ「アウトプット法」を紹介。環境調整や周囲への協力依頼の方法も具体的に示し、自分らしいペースでスキルを習得するためのステップを提案します。

「覚えが悪い」は才能の使い方の違い。脳の特性に合わせた習得術

「一度聞いたことが頭に入らない」「何度も同じミスを繰り返してしまう」。新しい仕事を覚えようとする際、周囲と自分を比べて「自分はなんて覚えが悪いんだろう」と落ち込んでしまうことはありませんか。特に障害特性を持つ方にとって、従来の「見て覚える」「一度で理解する」というスタイルが、脳の情報の受け取り方と一致していないケースは非常に多いものです。

しかし、それはあなたの能力が低いわけではありません。単に、情報の「入力方法」や「整理の仕方」が、今の環境と合っていないだけなのです。脳にはそれぞれ得意な情報の処理ルートがあります。自分に合った覚え方のコツを掴むことができれば、これまで「壁」だと感じていたスキルの習得が、驚くほどスムーズに進むようになります。

この記事では、覚えが悪いと感じる原因を科学的・心理的な側面から解き明かし、具体的で実践的な対処法を詳しく解説します。この記事を読み終える頃には、自分を責める気持ちが消え、明日から試せる新しい学習のヒントが手に入っているはずです。あなたのペースで、着実に力を伸ばしていくための第一歩を一緒に踏み出しませんか。


なぜ「覚えが悪い」と感じてしまうのか

ワーキングメモリの特性を理解する

私たちが一時的に情報を保持し、同時に処理する脳の機能をワーキングメモリと呼びます。この「脳の作業机」の広さには個人差があります。机がいっぱいになると、新しい情報が入ってきたときに古い情報がこぼれ落ちてしまいます。覚えが悪いと感じる方の多くは、この作業机が少しコンパクトであったり、情報の整理が苦手だったりする特性を持っています。

例えば、上司から「Aをやって、次にBを確認して、最後にCを報告して」と一度に言われると、最後のCを聞く頃には最初のAの細かな手順を忘れてしまうといった具合です。これは記憶力の問題というより、一時的な容量の限界によるものです。自分の机の広さを知ることは、決して悪いことではありません。机が小さいなら、こまめに片付けたり、外部の道具を使って机を広げたりすれば良いのです。

最近の研究では、ADHD(注意欠如・多動症)などの特性を持つ方は、このワーキングメモリの容量が特定の種類(聴覚的情報など)において変動しやすいことが分かっています。自分がどの情報をこぼしやすいかを知ることで、対策の方向性が明確になります。脳の構造上の特徴を「欠点」と捉えるのではなく、単なる「仕様」として受け止めることから始めましょう。

情報の受け取り方のタイプ(認知特性)

人には、情報を理解しやすい「得意な感覚」があります。これを認知特性と言います。大きく分けて、視覚情報(図や文字)に強いタイプ、聴覚情報(話し言葉)に強いタイプ、身体感覚(実際に動くこと)で覚えるタイプが存在します。学校や職場での教育は、多くの場合「言葉による説明」が中心ですが、これがあなたの認知特性と合っていない可能性があります。

もしあなたが、耳で聞いた指示を覚えるのが苦手でも、図解されたマニュアルを見ればすぐに理解できるなら、それは「覚えが悪い」のではなく「視覚優位」な特性を持っているということです。逆に、マニュアルを読んでもピンとこないけれど、一度誰かがやっているところを見たり、自分で手を動かしたりすれば定着する「身体感覚優位」の方もいます。

自分がどのタイプかを知るための簡単なチェック方法があります。「昨日の夕食は何でしたか?」と聞かれたとき、料理の映像が浮かぶか、献立の名前が浮かぶか、あるいは味や食感の記憶が蘇るか。映像が浮かぶなら視覚、名前が浮かぶなら言語、味が浮かぶなら感覚の特性が強い傾向にあります。自分の特性に合わせた「翻訳」を行うことで、記憶の定着率は劇的に向上します。

ストレスと「覚える力」の深い関係

脳が情報を記憶するためには、リラックスした状態が必要です。過度な緊張や「間違えてはいけない」という強いプレッシャーは、脳の海馬(記憶を司る部位)の働きを低下させます。周囲の視線を気にしたり、以前の失敗を思い出して不安になったりしているとき、脳のエネルギーはその不安に対処するために使われ、学習のためのスペースがなくなってしまうのです。

特に就労移行支援や職業訓練の現場では、新しい環境への適応ストレスもあり、本来の能力が発揮しにくい状態にあります。2021年の調査データによると、強い不安感を感じている状態での学習効率は、平常時の半分以下にまで落ち込むという報告もあります。つまり、あなたが覚えられないのは、努力が足りないからではなく、脳が「非常事態モード」に入ってしまっているからかもしれません。

精神障害や発達障害の特性により、周囲の音や光に敏感な(感覚過敏)場合も、脳は常に情報を処理し続けて疲弊しています。覚えやすさを高めるためには、まず「安心できる環境」と「リラックスした精神状態」を確保することが不可欠です。焦る気持ちを一度脇に置いて、まずは深呼吸から始める。それが、実は最短の学習ルートになります。

💡 ポイント

「覚えられない」のは脳のクセや環境とのミスマッチが原因です。あなた自身を責める必要は全くありません。対策は必ず見つかります。


記憶を助ける「外部ツール」の活用術

最強のパートナー:メモとチェックリスト

ワーキングメモリの負担を減らす最も効果的な方法は、情報を脳の外に出すこと、すなわち「外部化」です。指示を聞きながらメモを取るのは基本ですが、覚えが悪いと感じる時期は、そのメモを「自分専用のチェックリスト」へと進化させましょう。一度書いたメモを、作業手順の1、2、3といったステップに書き換えるのです。

人間は、不確かなことを覚えようとするときに最も脳を使います。「次はどうするんだっけ?」という不安をゼロにするために、見れば必ず次にすべきことが分かるリストを手元に置きます。この「見ればできる」という安心感が、結果として脳の緊張を解き、いつの間にかリストを見なくても動けるようになる(記憶の定着)という好循環を生みます。

ある事務職の訓練を受けていたCさんは、電話応対の手順を覚えられず悩んでいました。そこで、「電話が鳴ったら」「受話器を取る」「会社名を言う」といった極めて細かなステップを付箋に書き、電話機に貼りました。数日後、Cさんは「次に何をすべきかが見えているので、緊張せずに応対できるようになった」と笑顔で話してくれました。記憶に頼らないことが、記憶を助けるのです。

スマホとボイスレコーダーの活用

今の時代、スマートフォンは記憶を補佐する強力な多機能ツールになります。メモを取るのが間に合わない場合は、許可を得た上で写真を撮ったり、音声を録音したりすることを検討しましょう。特に複雑な機械操作や、色味・配置が重要な作業の場合、言葉による説明を必死に書き留めるよりも、一枚の「写真」の方が圧倒的な情報量を持ちます。

音声録音は、後で自分のペースで聞き返せるのが大きな利点です。話すスピードが速くて理解が追いつかない場合でも、録音があれば、分からない部分で一時停止し、調べ直すことができます。最近では、録音した音声を自動でテキスト化してくれるアプリも普及しており、これを使えば「聞いたことを読み返せる情報」に変換することも容易です。

ただし、職場や訓練校ではプライバシーや情報漏洩の観点から制限がある場合もあります。その際は「覚えを確実にするために、写真を撮らせて(録音させて)いただけませんか?」と相談してみましょう。自分の特性を説明し、それを補うための道具を使う姿勢は、前向きな「合理的配慮」の要請として認められるケースが増えています。

「見える化」を促進するホワイトボード

家での学習や、個別の作業デスクが許される環境であれば、小さなホワイトボードを活用するのも手です。その日のスケジュールや、どうしても忘れがちな重要ポイントを常に視界に入る場所に書き出しておきます。紙のメモと違い、ホワイトボードは情報の更新が簡単で、さらに「今やるべきこと」を強調して表示するのに向いています。

例えば、PCの作業中に「保存を忘れない!」と大きな赤い文字でボードに書いてモニターの横に置きます。私たちは集中すると視野が狭くなりがちですが、パッと目を逸らした瞬間に情報が入ってくる環境を物理的に作るのです。これは「意識する」という不確かな努力を、「視覚に飛び込んでくる」という確かな仕組みに置き換える工夫です。

視覚的なリマインダー(思い出させるための仕組み)は、脳への負担を最小限に抑えます。覚えが悪いと感じる時期は、記憶力を鍛えるトレーニングをするよりも、いかに「覚えなくて済む環境」を作るかにエネルギーを注ぐ方が、実務上の成果は早く現れます。仕組みで解決する快感を、ぜひ体験してみてください。

ツールの種類 主なメリット おすすめの活用シーン
チェックリスト 手順の抜け漏れを防ぐ ルーチンワーク、複雑な操作
写真・動画 視覚的な再現性が高い 配置の確認、手元の動きの記録
ICレコーダー 自分のペースで復習できる 長時間の会議、口頭指示


脳に定着させる「学び方のコツ」

「小分け」にして覚えるチャンキング

一度に覚えられる情報の固まりは、一般的に「3つから5つ」程度と言われています。これをマジカルナンバーと呼びます。10個の新しい情報を一度に覚えようとするのは、脳にとって無理難題です。情報を小さな「チャンク(固まり)」に分けて、一つひとつ確実に自分のものにしていきましょう。

例えば、あるソフトの使い方を学ぶなら、今日は「立ち上げからログインまで」、明日は「データの入力方法」というように、区切りを明確にします。1日の終わりの達成感が脳を活性化させます。「まだこれだけしか覚えていない」と考えるのではなく、「今日はこの3つを完璧にした」と考えることで、脳の報酬系が刺激され、翌日の学習意欲が持続します。

チャンキングのコツは、意味のあるまとまりを作ることです。電話番号を「03-1234-5678」と分けるように、関連する動作をセットにして名前をつけます。「準備セット」「作業セット」「片付けセット」といった具合にラベルを貼ることで、脳はバラバラの動作を一つの塊として効率よく処理できるようになります。

「誰かに教えるつもり」で口に出す

学んだことを自分の言葉で説明することは、最も強力な記憶定着法の一つです。これをアウトプット学習と呼びます。ただ聞いているだけ(インプット)の状態では、脳は情報を「受動的」に受け取りますが、説明しようとすると「能動的」に情報を整理し始めます。完璧でなくて構いません。独り言で「まずこれをこうして、次にこれをやるんだな」と呟くだけでも効果があります。

できれば、家族や友人、支援員さんを相手に「今日学んだことを3分だけ聞いてください」とお願いしてみましょう。説明している途中で「あれ、ここはどうだったっけ?」と詰まる部分があれば、そこがあなたの理解がまだ浅い場所です。自分の弱点を瞬時に把握でき、効率的に復習ポイントを絞ることができます。

この方法は、記憶を「記号の暗記」から「意味の理解」へと昇華させます。丸暗記は忘れやすいですが、自分が納得して誰かに伝えた内容は、長期記憶として脳に深く刻まれます。実例として、ある就職を控えたDさんは、毎日帰宅後にその日の作業を「エア部下」に教える練習をしたところ、1ヶ月で現場リーダーも驚くほどの知識を身につけました。

隙間時間の「思い出し」トレーニング

記憶を定着させるために、長時間机に向かう必要はありません。それよりも効果的なのが、短い時間で何度も「思い出す作業(想起)」をすることです。エビングハウスの忘却曲線という有名な理論がありますが、人は覚えた直後から忘れていきます。完全に忘れる前に「さっきやったことのポイントは何だっけ?」と思い出すことで、記憶の回路が強化されます。

通勤中やトイレの中、寝る前の数分間で構いません。テキストを見ずに、頭の中で今日の内容を再生してみます。思い出せなかったら、後でそこだけ確認する。この「思い出そうとする負荷」が脳に良い刺激を与えます。1時間の猛勉強よりも、5分の思い出しを1日に3回行う方が、記憶は定着しやすいのです。

トレーニングの成功のコツは、自分をテストする感覚で楽しむことです。「クイズ:今日の会議での決定事項は?」と自分に問いかけます。正解できたら、自分を大いに褒めましょう。覚えが悪いと感じる時期は、自分への肯定感を高めることが、脳の機能をフルに活用するためのガソリンになります。

✅ 成功のコツ

「100点」を目指さないことが最大のコツです。まずは「60点の理解」を積み重ねていくことで、結果的に最短で習得できます。


環境を整えて「覚えやすさ」をデザインする

視覚的・聴覚的ノイズを遮断する

「覚えが悪い」理由の一つに、周囲の環境によって集中力が削がれていることが挙げられます。特に発達障害の特性により感覚過敏がある場合、隣の人のタイピング音や、掲示物の鮮やかな色、窓から入る光などが脳に侵入し、記憶するためのリソースを奪ってしまいます。自分の集中を邪魔している「ノイズ」を特定し、物理的に対処しましょう。

音に敏感なら、耳栓やノイズキャンセリングヘッドホンを検討してください。視覚的に散漫になりやすいなら、机の周りにパーテーションを立てたり、不要なものを視界から消したりします。デスクの上が散らかっているだけでも、脳は無意識にその情報を処理しようとして疲弊します。「覚えるべき情報」だけが目に入る環境を作ることが、記憶効率を最大化させます。

ある職業訓練校では、特定の時間に照明を落としたり、BGMを消したりする「静寂タイム」を設けたところ、生徒全体の学習定着率が20%向上したという事例もあります。環境は、あなたの意思の力以上にパフォーマンスに影響を与えます。「自分を環境に合わせる」のではなく、「環境を自分に合わせる」工夫をしましょう。

自分に合った「学習タイミング」を見極める

脳の活動にはリズムがあります。午前中に集中力が高まる「朝型」の人もいれば、夕方からエンジンがかかる「夜型」の人もいます。障害特性や服用している薬の影響で、特定の時間帯に眠気や倦怠感が出やすい場合もあります。自分が一日の中で「最も頭がスッキリしている時間」を把握し、そこに新しいことを覚える作業を配置しましょう。

例えば、朝一番が最も冴えているなら、重要な指示は午前中に聞くように調整し、午後のぼーっとする時間は単純な作業や復習に充てます。逆に、薬の副作用で午前中に頭が働かないなら、無理をして覚えようとせず、周囲にその旨を伝えて午後に重点的なレクチャーを受けるようにします。自分のバイオリズムを知ることは、限られた脳のエネルギーを賢く使う知恵です。

睡眠との関係も無視できません。記憶は眠っている間に脳内で整理され、定着します。睡眠不足の状態では、どんなに優れた学習法を試しても「ザルで水を汲む」ようなものです。覚えが悪いと感じるときこそ、まずはしっかり眠る。これが脳科学的に見た最も誠実な対処法です。十分な睡眠は、最強の記憶補助薬になります。

支援者や上司への「伝え方」を工夫する

自分一人で頑張るのではなく、周囲の教え方を自分に合わせてもらう「巻き込み」も重要です。「覚えが悪くてすみません」と謝る必要はありません。代わりに、具体的なリクエストを伝えましょう。「私は耳で聞くよりも、書いてあるものを見るほうが理解しやすいので、メモを頂けますか?」「一度にたくさんではなく、一つずつ指示をいただけますか?」といった伝え方です。

教える側も、どう教えれば良いかが分からず手探りなことが多いものです。あなたの特性に基づいたリクエストは、教える側のストレスも減らし、お互いにとってハッピーな結果を生みます。これを伝えることは、わがままではなく、仕事の質を高めるためのプロフェッショナルなコミュニケーションです。

具体例として、ある障害者雇用の現場では、社員が自分の「取扱説明書」を作成し、上司に提出しています。「指示は短文で」「否定的な言い方より、改善案で伝えてほしい」といった要望を明文化することで、指導のミスマッチが激減し、早期のスキル習得が可能になりました。周囲をあなたの「サポーター」に変えてしまいましょう。

⚠️ 注意

「分かりました」とつい言ってしまう反射に注意しましょう。分からないときは「もう一度お願いします」と言う勇気が、後の大きなミスを防ぎます。


実例:壁を乗り越えた当事者たちのエピソード

エピソード1:ASD特性を持つEさんの「自分専用マニュアル」

自閉スペクトラム症(ASD)のEさんは、ホテルの清掃の仕事を始めましたが、部屋ごとのリネンの配置や清掃の順番がなかなか覚えられず、時間内に終わらせることができませんでした。先輩から「さっき言ったでしょ」と怒られ、自信を失いかけていました。

そこでEさんは、就労支援員のアドバイスを受け、清掃手順をすべて写真に撮り、カード化しました。さらに、清掃が終わった箇所をペンで消せる「透明フォルダ入りチェックリスト」を清掃カートに取り付けました。その結果、覚えようとする努力をやめたことで逆に作業がスムーズになり、3ヶ月後には新人教育を担当するまでになりました。「覚えるのを諦めたら、体が覚えた」と彼女は語ります。

エピソード2:ADHD特性を持つFさんの「タイマー活用術」

注意欠如・多動症(ADHD)のFさんは、Web制作の訓練を受けていましたが、一つのことに集中すると他の指示を忘れ、逆に気が散ると作業内容が頭から抜けてしまうことに悩んでいました。情報のインプット自体は早いのですが、保持が長続きしないタイプでした。

Fさんは、作業を「15分単位」に区切り、キッチンタイマーを使うことにしました。15分経つごとに「今、本来やるべきことをやっているか?」と自分に問いかけ、メモを見返す時間を5分設けるルールにしました。この「こまめな現在地の確認」により、Fさんは学習の迷子になることがなくなり、複雑なプログラミング言語も一つずつ確実に習得していくことができました。

エピソード3:精神障害のあるGさんの「レコーディング学習」

うつ病の既往があるGさんは、以前に比べて記憶力や集中力が落ちていることに強い不安を感じていました。特に、口頭での指示を受けると、後で「あのアドバイスのニュアンスは何だったかな」と思い出せなくなり、自分の能力に絶望していました。

Gさんは、上司の許可を得て、重要なレクチャーをスマホで録画することにしました。さらに、自宅に帰ってからその動画を静かな環境で再生し、自分の理解を音声で吹き込み直すという学習法を取り入れました。録画を見る(他者の声)だけでなく、自分の声で内容を再定義することで、脳への定着が驚くほど早くなりました。今では、「覚えが悪いのは、丁寧な確認が必要なだけだった」と前向きに捉えています。

「覚えが悪い自分を嫌いだったけれど、道具を使い始めたら、ただやり方を知らなかっただけだと分かりました。今は、覚えることよりも『仕組みを作ること』に自信を持っています。」

— 就労移行支援事業所 卒業生の声


よくある質問(FAQ)

Q. どんなに頑張っても、昨日のことを忘れてしまいます。病気でしょうか?

A. 障害特性や体調、薬の影響など、様々な要因が考えられます。まずは主治医に相談し、医学的な背景がないか確認しましょう。その上で、重要なのは「忘れる自分」を前提にした仕組み作りです。昨日のことを忘れても、昨日書いた「引き継ぎノート」があれば作業は再開できます。記憶を脳に依存せず、外部の媒体(ノート、デジタルツール)に完全に預けるスタイルに移行してみましょう。多くの人が「忘れないように」と努力しますが、成功している人の多くは「忘れてもいいように」と工夫しています。

Q. 周囲から「やる気がないから覚えられないんだ」と誤解されます。

A. 非常に辛い状況ですね。しかし、それは周囲の理解不足です。「やる気」と「認知処理」は別の問題です。この誤解を解くためには、あえて「真剣にメモを取る姿」や「確認のために質問する姿勢」を見せることが有効です。行動で「覚えたい意志はあるが、特性上工夫が必要である」ことを示しましょう。また、支援員さんなどの第三者から職場の担当者に、記憶の特性について説明してもらうことも検討してください。客観的な説明があると、周囲の態度が「叱責」から「協力」に変わることが多いです。

Q. 覚えやすい方法を試しても、すぐに飽きて長続きしません。

A. 「飽きる」のは、脳が新しい刺激を求めている証拠です。ADHD特性のある方に多い傾向ですが、同じ方法を続けるのが苦痛なら、学習方法自体をローテーションさせてみましょう。月曜日は動画、火曜日は書き出し、水曜日は誰かに話す、といった具合です。また、学習に「ゲーム性」を取り入れるのも効果的です。覚えた数だけポイントを貯めて自分にご褒美をあげるなど、脳の報酬系を上手く活用してください。長続きさせることよりも、その時々に「脳がワクワクする方法」を選ぶ方が、結果的に記憶の蓄積は増えていきます。

Q. 就労移行支援などで、具体的な覚え方を教えてもらえますか?

A. はい、多くの事業所では「個別の特性に合わせた学習支援」を行っています。単にスキルを教えるだけでなく、あなたが「どうすれば覚えやすいか」を一緒に探してくれるのが就労移行支援の強みです。自分一人で悩まず、スタッフに「覚えが悪いと感じていて辛い」と正直に相談してみてください。職業評価などを通じて、あなたの認知特性を分析し、最適なメモの取り方やツールの選び方を提案してくれます。そのようなサポートを受けながら、自分自身の「取扱説明書」を作り上げていくプロセスが、就職後の大きな自信になります。


まとめ

「覚えが悪い」という感覚は、あなたを苦しめるためにあるのではなく、あなたの脳が「今のやり方では非効率だよ」と教えてくれているサインです。脳のワーキングメモリの特性を理解し、メモやアプリなどの外部ツールを駆使し、認知特性に合った学び方に翻訳する。これらの工夫は、単なる弱点のカバーではなく、現代社会で必要とされる「情報の管理能力」を磨くことそのものです。

  • 脳のクセを受け入れる:覚えられないのは仕様です。自分を責めるのをやめ、対策にエネルギーを使いましょう。
  • 仕組みで解決する:記憶力に頼らず、チェックリストや写真を「脳の外付けハードディスク」として活用しましょう。
  • アウトプットを重視する:「教えるつもり」での独り言や想起が、記憶の回路を太くします。

次の一歩として、まずは「今日学んだこと、または明日やるべきことを、1つだけ付箋に書いて目立つ場所に貼る」ことから始めてみませんか。覚えようと必死になるのをやめて、その付箋を信じて動いてみる。そんな小さな「仕組みの成功体験」が、あなたの学びを劇的に変えていくはずです。あなたは、あなたらしいスピードで、必ずゴールに辿り着けます。

伊藤 真由美

伊藤 真由美

いとう まゆみ33
担当📚 実務経験 10
🎯 就労支援🎯 進路支援

📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士

特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。

大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。

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💭 福祉の道を選んだ理由

特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。

🎨 趣味・特技

ハンドメイド、音楽鑑賞

🔍 最近気になっているテーマ

発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み

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