家族が障害を理解してくれないときにできること

家族が障害を理解してくれないときにできること:孤独を和らげ、理解を深めるステップ
「家族だからこそ、一番わかってくれるはずなのに…」「努力が足りない、わがままだと責められるのが辛い」「親や兄弟に自分の苦しさが伝わらず、家にいることが苦痛だ」
最も身近な存在である家族から、自分の障害や特性を理解してもらえないとき、私たちは深い孤独感と絶望感を覚えます。家族間の理解の隔たりは、ご本人の自己肯定感を著しく低下させ、ご家族や支援者の方々にとっても、どう接すれば良いか分からないという大きな悩みの種となります。
この記事では、家族が障害を理解してくれない根本的な理由を、情報、感情、そして立場のズレという観点から掘り下げます。そして、この難しい状況を乗り越え、相互理解を深めるための具体的なステップと、ご本人が自分自身の心を守るための対処法を詳しく解説します。特性を否定せず、あなたを尊重してくれる新たな関係を築くためのヒントを見つけてください。
1.なぜ家族は障害を理解してくれないのか?3つの要因
家族が障害を理解してくれないのは、「愛情がない」からではありません。多くの場合、それは情報、感情、そして立場のズレという、複雑で構造的な要因によって生じています。これらの要因を知ることが、対策の第一歩です。
要因1:情報と知識の「非対称性」と誤解
家族の間で、障害に関する情報量や専門知識に大きな差があると、理解の隔たりが生じます。特性を持つご本人が診断や専門的な情報を得ていても、家族がその情報に触れていない、あるいは誤った知識を持っていることがあります。
- 「目に見えない障害」への理解不足: 発達障害や精神障害など、外見からは分かりにくい障害の場合、「怠けているのではないか」「気持ちの問題ではないか」と誤解されやすいです。特性を「わがまま」や「性格」と捉えてしまい、適切な支援が必要な状態であると認識できないことがあります。
- 過去の経験の「呪縛」: 親御さんが、「昔はそんなものはなかった」「育て方が悪かったのか」といった古い価値観や罪悪感に囚われ、新しい情報や特性を受け入れることができない場合があります。
ご本人がいくら苦しさを訴えても、家族に知識という土台がなければ、その言葉は感情論として受け止められてしまいがちです。
要因2:親の「理想像」と「現実」の間の葛藤
特に親にとって、自分の子どもに対する「理想像」や「こうなってほしい」という未来への期待があります。障害特性によってその理想像とのギャップが大きくなるとき、親はその現実を受け入れることに大きな心理的負担を感じます。
この受け入れ難さが、時に「障害を認めない」という形で現れることがあります。障害を認めることは、親自身の理想の崩壊や、将来への不安と直面することになるため、無意識にそれを拒否してしまうのです。親の拒否的な態度や非難の言葉は、ご本人にとっては「自分の存在自体を否定されている」と感じられ、強いストレスになります。
要因3:立場や役割の違いによる「感情のズレ」
家族の中でも、それぞれの立場によって感情の持ち方が異なります。
- ご本人: 「辛い」「助けてほしい」「一人でやりたいができない」という苦痛や葛藤を抱える。
- 親: 「心配」「不安」「疲れ」とともに、「なんとかしなければ」という責任感や焦燥感を抱える。
- きょうだい: 「疎外感」「不公平感」「将来への重圧」といった複雑な感情を抱える。
これらの感情がぶつかり合い、お互いの立場の違いから「なぜわかってくれない」というすれ違いが生じます。ご本人の「自立したい」というメッセージが、親には「自分を頼らない」という突き放された感情として受け取られてしまうこともあります。
💡 ポイント
家族の理解不足は、知識、理想、立場の3つのズレから生じています。ご本人を責めるのではなく、これらのズレを埋めるためのステップを踏むことが重要です。
2.相互理解を深めるための「情報提供」のステップ
家族の理解を得るためには、感情的に訴えるだけでなく、客観的で冷静な情報提供を通じて、知識の土台を築くことが不可欠です。
ステップ1:専門家の言葉を「共通言語」として活用する
ご本人の言葉だけでは感情論と受け取られがちなため、まずは専門家や公的な文書を「共通言語」として活用しましょう。
- 診断書・医師の意見書: 主治医や専門家から、ご本人の特性、困りごと、必要な配慮について家族向けの簡潔な文書を作成してもらい、それを共有します。
- 専門書・公的パンフレット: 信頼できる団体(例:発達障害者支援センターなど)が発行するパンフレットや、分かりやすい専門書を家族に提示し、読む時間を設けます。
- 特性の「プロフィール」化: ご本人の「得意なこと」と「苦手なこと」を具体的にリストアップし、それに必要な「配慮」を併記した特性プロフィールを作成し、リビングなど皆が見る場所に掲示します。
「私は〇〇が苦手」という主観的な訴えを、「専門家によると、〇〇という特性があるため、〇〇という配慮が必要だ」という客観的な事実に変えることで、家族は理性的に情報を受け取りやすくなります。
ステップ2:「できること」と「配慮」をセットで伝える
特性を伝える際に、「できないこと」ばかりに焦点を当てると、家族は絶望感や負担感を感じやすくなります。必ず、「配慮があればできること」と「本人の強み」をセットで伝えましょう。
| 「できないこと」だけ(NG) | 「できること」と「配慮」をセットで(OK) |
|---|---|
| 「私は片付けができない。」 | 「私は視覚からの情報処理が得意なので、物の場所を色分けした箱とラベルで見える化してもらえれば、片付けができます。」 |
| 「仕事のミスが多い。」 | 「私は集中力があるので、口頭指示ではなく、必ずチェックリストで手順を明確にしてもらえれば、ミスなく作業ができます。」 |
この伝え方は、「支援を求めている」だけでなく、「自分は能力を持っている」というメッセージになり、家族はご本人への期待感を失わずに済みます。
ステップ3:体験談や動画を共有する
知識や文書だけでなく、同じ障害を持つ当事者の具体的な生活の様子を伝えることも、感情的な理解を促します。YouTubeの動画、ブログ記事、当事者団体の書籍などを家族と一緒に見る時間を作りましょう。
「他の人も同じことに困っているんだ」「こういう工夫で乗り越えている人がいるんだ」という気づきは、家族が抱える「なぜうちの子だけ…」という孤立感を和らげ、具体的な解決策があるという希望を持たせます。
3.感情的対立を避ける「コミュニケーションの技術」
知識を共有しても、感情的対立が続くと理解は深まりません。非難や衝突を避け、建設的な対話を進めるための具体的な技術を身につけましょう。
技術1:I(アイ)メッセージと「冷却期間」の活用
家族との会話で感情が爆発しそうになったら、すぐに「I(アイ)メッセージ」を活用し、非難の言葉を避ける習慣をつけましょう。そして、感情が高ぶっているときは、必ず会話を一時中断するルールを設けます。
- 会話中断の合図: 「一旦ストップ」「ごめん、ちょっと席を外すね」など、感情を含まない短い合図を決める。
- 冷却期間: 物理的に離れ、30分以上経過してから、冷静になった状態で再開する。
ご本人が感情的にならずにIメッセージを伝える練習は、ソーシャルスキルトレーニング(SST)などで専門的に学ぶことができます。
技術2:「聴く」ことを練習し、相手の不安を理解する
家族の理解を得るためには、まずご本人が家族の抱える不安や不満を「聴く」姿勢を持つことが大切です。家族が理解してくれないのは、彼ら自身の不安や疲労の裏返しである可能性があります。
- 親の「将来が不安だ」という言葉の裏には、「私がいなくなったらどうなるのか」という恐怖があるかもしれません。
- きょうだいの「わがままだ」という言葉の裏には、「自分の時間が削られている」という不満があるかもしれません。
家族の言葉を途中で遮らずに聴き、最後に「〇〇ということが、あなたを不安にさせているのですね」と相手の感情を要約して返す(アクティブリスニング)ことで、家族は「理解されている」と感じ、心を開きやすくなります。
技術3:会話の「構造化」と「議事録」の作成
重要な話し合いや、特性に関する説明の場では、会話を「構造化」し、必ず「議事録」を作成する習慣をつけましょう。特にASDの特性を持つ方は、この論理的なアプローチが得意です。
話し合いの構造:
- 議題の明確化: 今回話すことを一つに絞る(例:自立訓練への参加について)。
- 事実の共有: 現状の困りごとや特性を客観的に述べる。
- 提案と合意: 解決策をご本人から提案し、家族がそれに対して具体的に「できること」を表明し、合意する。
- 議事録作成: 誰が、何を、いつまでに行うかを明確に記録し、家族全員で共有する。
感情論ではなく、「タスク」と「ルール」として残すことで、後々の誤解や蒸し返しを防げます。
4.自分と家族を守る「外部支援」の活用
家族だけで問題を解決しようとすることは、かえって関係を悪化させます。外部の専門家の力を借りて、客観的な視点と休息、そして具体的な支援を導入しましょう。
支援1:相談支援専門員と福祉サービスを頼る
家族の理解不足が続くとき、最も重要なのは「相談支援専門員」に相談することです。相談支援専門員は、ご本人の生活状況を聞き取り、必要な福祉サービスを提案し、その利用計画(サービス等利用計画)を作成します。
- 客観的な仲介: 専門員が家族との間に立つことで、第三者の視点からご本人の特性と必要な配慮を家族に伝えることができます。
- 負担の分散: 居宅介護、移動支援、短期入所(ショートステイ)といったサービスを導入することで、家族の介護負担を物理的に軽減できます。親の疲労が減ることは、ご本人への理解を深める余裕につながります。
「家族だからすべて解決しなければならない」という考えを捨て、社会全体で支えるという意識に切り替えましょう。
支援2:家族カウンセリングとペアレントトレーニング
家族間の感情的な対立が激しい場合、家族カウンセリングは非常に有効です。臨床心理士などの専門家が、家族一人ひとりの気持ちを整理し、安全な場で対話を仲介してくれます。
また、特に親御さんには、ペアレントトレーニングをお勧めします。これは、特性を持つ子どもへの具体的な接し方、問題行動への建設的な対応を学ぶトレーニングです。親が新しいスキルを身につけることで、ご本人とのコミュニケーションが改善し、親自身のストレスも軽減されます。
支援3:当事者会とピアサポートグループへの参加
家族に理解されない孤独を抱えるご本人は、同じような経験を持つ当事者会や、ピアサポートグループに参加することを強くお勧めします。
同じ悩みを共有する仲間と繋がることで、「自分だけではない」という安心感と、家族との関係を乗り越えるための具体的な知恵を得ることができます。また、ご家族向けの家族会に参加することで、親御さんも孤立を防ぎ、他の家族の体験談から学ぶことができます。
5.「理解されない自分」を守るセルフケアと境界線
家族の理解は時間がかかるプロセスです。その間、ご本人が「理解されない自分」を否定せず、心の健康を保つためのセルフケアと境界線の引き方が不可欠です。
工夫1:一時的に「心理的距離」を取る習慣
家族からの非難や理解不足に直面し、辛いときは、一時的に「心理的距離」を取る習慣をつけましょう。これは、家族を拒否することではありません。自分の心を守るための防御策です。
- 家族の言葉を「否定された」と受け取るのではなく、「知識がないから不安なんだな」とフィルターをかけて解釈する練習をする(認知行動療法的なアプローチ)。
- 会話が始まったら、「この話は、自分にとってどの程度重要か」を判断し、重要度が低ければ「適当に聞き流す」勇気を持つ。
すべての言葉を真に受けて傷つくのではなく、「これは家族の不安の問題だ」と切り分ける練習をしましょう。
工夫2:アサーティブネスで自分の「心の境界線」を守る
家族から過度な要求や非難があったときに、自分の権利を守るためにアサーティブネス(自分も相手も大切にする自己表現)を使って「心の境界線(バウンダリー)」を引く練習をします。
例:「あなたの言いたいことはわかります。でも、それは私の責任ではありません(事実)。これ以上その話を続けると、私は辛くなります(Iメッセージ)。一旦、この話は終わりにしたいです(要望)。」
家族だからこそ、毅然とした態度で自分の境界線を守る姿勢が、結果としてお互いを尊重し合う関係につながります。
工夫3:家族外に「安心できる居場所」を作る
家族が唯一の居場所であると、理解されないときのダメージは甚大です。地域活動、趣味のサークル、就労移行支援事業所など、家族外に「ありのままの自分を受け入れてくれる安心できる居場所」を意識的に作りましょう。
家族の理解が得られなくても、「自分には味方がいる」「自分の価値は家族の評価で決まるのではない」という自己肯定感を、家族外の安全な居場所で育むことが、心の健康を保つ上で最も重要なセルフケアとなります。
まとめ
家族が障害を理解してくれないという悩みは、深く、辛いものです。しかし、知識、コミュニケーション技術、そして外部支援の3つのステップを踏むことで、必ず理解の隔たりを埋めることができます。ご本人の自己肯定感を守り、家族全体の負担を減らすことが、関係改善の鍵です。
- 専門家の言葉や特性プロフィールを「共通言語」として活用し、知識のズレを埋めましょう。
- 感情的対立を避け、I(アイ)メッセージや構造化された対話の技術を練習しましょう。
- 相談支援専門員や短期入所などの福祉サービスを積極的に活用し、家族の負担と緊張を物理的に分散させましょう。
- 家族外に「安心できる居場所」を作り、自分の心の境界線を守るセルフケアを最優先しましょう。
理解は一夜にして生まれるものではありません。今日から一つずつ、あなたにできるステップを始めてみてください。

酒井 勝利
(さかい かつとし)38歳📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター
作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。
リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。
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福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。
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