ホーム/記事一覧/困りごとガイド/人間関係の困りごと/誘われても断れない…断り方のトレーニング

誘われても断れない…断り方のトレーニング

📖 約51✍️ 鈴木 美咲
誘われても断れない…断り方のトレーニング
誘いを断れない原因は、「嫌われたくない」という対人不安や、特性による判断基準の曖昧さにあります。解決策として、「自分には断る権利がある」という認識を確立し、体調や時間などの「断るべきライン」を客観的なルールとして設定します。断り方の基本は、状況を説明しIメッセージで気持ちを伝え、代替案を示す「DESC法」です。トレーニングでは、友人、上司、勧誘といった関係性に応じて、理由を述べる度合いを変える使い分けを練習します。SSTでロールプレイングを繰り返し、拒否される恐怖を克服する認知行動療法(CBT)を活用することで、健全な境界線を維持するアサーションスキルを定着させます。

「本当は疲れていて休みたいのに、誘われると断れず無理してしまう」「『断ったら嫌われるのではないか』という不安が強く、結果的に自分だけが消耗してしまう」「強引なセールスや勧誘を断れず、後悔した経験がある」

「断る力」、すなわちアサーション(自己権利主張)は、健全な人間関係を維持し、自分自身の心身の健康を守るために不可欠なスキルです。しかし、発達障害(ASD、ADHD)や精神的な課題を持つ方の中には、他者の感情を過度に読み取ってしまう、明確なルールがない状況での判断が苦手、または対立を極度に避けるといった特性から、「断る」という行為に強い困難を感じる方が多くいます。結果として、自分のキャパシティを超えた要求を受け入れ続け、バーンアウト(燃え尽き症候群)や心身の不調につながってしまうことがあります。

この記事では、誘いを断れない背景にある障害特性と認知のメカニズムを深く分析します。そして、**「断る」ことを「相手を拒否すること」ではなく、「自分と相手を尊重するコミュニケーション」**と捉え直すための具体的な4つのステップを紹介します。感情的な対立を避けつつ、**自分を守るための「I(アイ)メッセージ」**を活用した具体的な断り方のテンプレートと、段階的なトレーニング方法を習得し、あなた自身の安全な境界線を築きましょう。


1.誘いを断れない根本的な3つの原因

断れない行動は、個人の「意志の弱さ」ではなく、特性や過去の経験に根ざした認知や不安が原因となっています。原因を深く理解することが、トレーニングの第一歩です。

原因1:「嫌われたくない」という対人不安と認知のズレ

多くの人が断れない理由として挙げるのが、「拒否されたくない」「嫌われたくない」という強い対人不安です。

  • 全か無かの思考: 「一度断ったら、この関係は完全に終わりだ」と極端に考えてしまう(全か無かの思考)。断ることと、関係そのものを否定することを混同する。
  • 過剰な配慮: 相手の期待や要求を過度に推測し、「断ったら相手が可哀想だ」「相手を怒らせてしまう」と、必要以上に責任を感じてしまう(他者の感情の過剰な読み取り)。
  • 自己肯定感の低さ: 「自分には断る権利がない」「誘いに応じることでしか、自分の価値を証明できない」と感じてしまい、自己主張ができない。

原因2:明確な「ルール」と「理由」の言語化困難(ASD特性)

ASDの特性を持つ方は、明確な論理的根拠がない状況での判断や、自分の内的な状態(疲労度など)を客観的に把握し言語化することが苦手なため、断ることが困難になります。

  • 判断基準の曖昧さ: 「どこからが自分のキャパシティを超えているのか」という明確な基準がないため、誘いを「断る」という判断を瞬時に下せない。
  • 理由の言語化困難: 「疲れたから」「気分が乗らないから」といった抽象的な理由を、相手に伝わるように論理的に説明し、納得させることができない
  • 衝動性の欠如: 衝動的に「ノー」と言い返すことができず、考える間に「イエス」と言ってしまい、後悔する。

原因3:対立・摩擦の極端な回避(全般)

過去にいじめや人間関係のトラブルを経験したことがある場合、「対立そのもの」を極端に避けようとする学習が働いていることがあります。

  • フリーズ反応: 相手からの要求や誘いに対して、脳がフリーズしてしまい、反射的に「はい」と答えてしまう(闘争・逃走・フリーズ反応)。
  • 曖昧な返答: 相手を傷つけたくない一心で、「うーん、ちょっと考えてみる」「多分大丈夫かな…」などと曖昧な返答をしてしまい、結果的に相手の期待を裏切ってしまう。

2.ステップ1:断る「権利」と「境界線」の明確化

断り方のトレーニングに入る前に、まず**「自分には断る権利がある」という認識を確立し、「何を断るべきか」**の基準を明確にします。

戦略1:「アサーティブ・ライツ」の確立

アサーション(自己主張)の訓練では、まず自分には以下の権利があることを認識します。断ることは、わがままではなく、自分の権利の行使であることを理解しましょう。

  • 断る権利: あなたには、他者の要求を断る権利があります。断る理由を説明する義務も、常に相手を納得させる義務もありません。
  • 意見を持つ権利: あなたには、自分の意見や感情を持つ権利があります。たとえその意見が相手と異なっていても、尊重されるべきです。
  • 間違う権利: あなたには、間違いを犯す権利があります。間違いを恐れて行動しないよりも、挑戦し、修正することが大切です。
  • 「わからない」と言う権利: あなたには、すべてのことを知っている必要はないという権利があります。

戦略2:「断るべきライン」の客観的な設定

「疲れた」「やりたくない」といった抽象的な状態を、具体的な行動の基準に変換し、「断るべきライン(境界線)」を明確にします。

  • 体調のライン:睡眠時間が6時間未満の誘いは断る」「頭痛や腹痛の症状があるときは断る」。
  • 時間のライン:自分の定時・帰宅時間後の誘いは断る」「準備に3時間以上かかる誘いは断る」。
  • 金銭のライン:〇〇円を超える出費が伴う誘いは断る」「金銭の貸し借りはすべて断る」。

これらのルールを**「マイ・アサーション・マニュアル」として書き出し、誘われた瞬間にマニュアルと照らし合わせる習慣をつけます。これは、ASD特性を持つ方の判断の困難さ**を補完する強力なツールとなります。


3.ステップ2:断り方の基本技術「DESC法」と「Iメッセージ」

断る技術(アサーション)は、**「DESC法」という4つのステップに基づいて、非攻撃的かつ建設的に行われます。特に、自分の感情や状態を伝える「I(アイ)メッセージ」**は、相手との対立を避けるために不可欠です。

技術1:DESC法による断り方の構造

DESC法は、客観的な状況→自分の感情→建設的な提案→結果という順序で話を進める技術です。

D (Describe:描写)
客観的な状況や事実を記述する。「今、〇〇(誘い)という状況ですね」
E (Express:表現)
Iメッセージで自分の気持ち・状態を表現する。「私(I)は、今、非常に疲れていて、体調が優れません」
S (Suggest/Specify:提案)
具体的で代替可能な提案をする。「だから、今回は見送りたいです。代わりに〇曜日の昼間なら参加できます」
C (Consequence:結果)
提案を受け入れた場合/受け入れなかった場合のポジティブな結果を伝える。「今回は休んで、次回は万全の体調で楽しみたいです」

技術2:DESC法に基づいた具体的なテンプレート

よくある誘いに対して、DESC法を活用した断り方のテンプレートを用意しておきましょう。

【体調不良・疲労による断り】 D: 〇〇さん、お誘いありがとうございます。 E: 私(I)は、昨晩から体調が優れず、非常に疲労が溜まっています。 S: 今回は大変申し訳ないのですが、欠席させてください。 C: ゆっくり休んで、また元気なときに必ず誘いに乗りますね!

【強引な勧誘・セールスへの断り】 D: ご説明いただきありがとうございます。 E: **私(I)は、**今すぐこのサービス(商品)を検討する予定がありません。 S: 結構です(必要ありません)。これ以上のお話はご遠慮ください。 C: ご理解いただけると幸いです。

特にセールスや勧誘に対しては、**S(提案)を「結構です/必要ありません」**というシンプルな断定で終わらせ、会話を長引かせないことが重要です。


4.ステップ3:断り方を状況に応じて使い分けるトレーニング

DESC法は万能ですが、すべての状況で使えるわけではありません。関係性や状況に応じた使い分けが必要です。

トレーニング1:関係性に応じた断り方の使い分け

断り方の表現の丁寧さや、理由をどこまで伝えるかは、相手との関係性によって変えます。

  • 公的な関係(職場の上司・取引先):
    • 丁寧さ: 最高レベルの丁寧さ。
    • 理由: 具体的で業務的な理由(例:「他の業務との兼ね合いで難しい」「〇〇の資料作成に集中したい」)を、簡潔に述べる。
    • 代替案: 必ず代替案(例:「明日朝一番で対応します」)を提案する。
  • 親しい友人:
    • 丁寧さ: ほどほどの丁寧さ。
    • 理由: 自分の正直な状態(例:「今日は一日中、刺激の多い場所にいたので、一人になりたい」)を、簡潔なIメッセージで伝える。
    • 代替案: 「今回は無理だけど、来週なら大丈夫」と、次に繋がる提案を必ずする。
  • 見知らぬ相手・強引な勧誘:
    • 丁寧さ: 最低限の丁寧さ(無言で立ち去らない程度)。
    • 理由: 一切言わない。「必要ありません」で、断定的に終わらせる。
    • 代替案: なし。

トレーニング2:断る瞬間の「間(ま)」と「表情」の練習

断る技術は、言葉だけでなく、非言語的な要素も重要です。非言語的な要素を意識的に構造化して練習します。

  • 「間」の確保: 誘われた瞬間にフリーズしたり、反射的に「はい」と答えたりするのを防ぐため、誘いに対して「ありがとう。少しだけ考えさせてね」と**必ずワンクッション置く(3秒ルール)**練習をする。
  • 表情の練習: 断るときは、「申し訳なさそうに眉を下げる」など、自分の気持ちに合った表情を意識する。また、強引な勧誘を断るときは、真顔や無表情で断定的に話す練習をする。


5.ステップ4:外部支援の活用と「失敗」の受け入れ

断り方のトレーニングは、一人で行うには限界があります。専門家のサポートを受けながら、失敗を恐れず挑戦するための心理的な基盤を作りましょう。

活用1:SST(ソーシャルスキルトレーニング)での実践練習

SSTは、安全な環境で「断る」ロールプレイングを何度も行い、スキルを定着させるために最も効果的です。

  • ロールプレイング: 支援員に**「しつこい友人役」「強引な上司役」を演じてもらい、DESC法や定型文を使いこなす練習を繰り返す。特に、「断られた後の追撃(なぜ断るの?)」**に対する対応(例:「理由を言う義務はない」と毅然と返す)を練習する。
  • ビデオフィードバック: 練習を録画し、自分の声のトーン、姿勢、非言語的なサインが、意図した「アサーティブ(非攻撃的かつ自己主張的)」なものになっているかを確認する。

活用2:カウンセリングによる「拒否される恐怖」の克服

「断ると嫌われる」という強い不安や認知の歪みは、カウンセリングを通じて修正することが可能です。

  • 認知行動療法(CBT): 「断ったら嫌われる」→「だから応じるしかない」という思考の連鎖を断ち切り、「断っても、健全な関係は続く」という新しい認知を構築する。
  • 感情の調節: 断るときの緊張や不安、罪悪感といったネガティブな感情を認識し、それらの感情をコントロールし、行動に影響させない方法を学ぶ。

失敗の受け入れと「成功の記録」

断ることを練習する際、相手に不満を与えてしまったり、時には関係が途切れてしまったりする「失敗」は必ず起こります。大切なのは、失敗の経験をどう扱うかです。

  • 失敗の再定義: 関係が途切れたら、「それは、あなたの健全な境界線を尊重できない人だった」と捉え直し、自分を責めない。
  • 「成功の記録」の徹底: 小さな成功(例:コンビニのレジ袋を断れた、職場の断れないお願いを断れた)を「アサーション成功ログ」として記録し、自己肯定感を高める。
  • 自己報酬: 「今日は〇〇を断れた!」という成功体験の後には、自分にご褒美(例:好きなものを食べる、ゆっくり休む)を与え、断る行為をポジティブな経験として脳にインプットする。

「断る力」は、あなた自身が快適で安全な生活を送るための最も重要な防御スキルです。焦らず、一歩ずつ自分のペースで習得していきましょう。


まとめ

誘いを断れない問題は、「嫌われたくない」という対人不安や、明確なルールがない状況での判断困難に起因します。この問題を克服するためには、「自分には断る権利がある」という認識を確立し、具体的なトレーニングが必要です。

  • まず、自分の体調、時間、金銭に関する「断るべきライン(境界線)」を客観的なルールとして設定しましょう。
  • 断り方の基本技術であるDESC法を習得し、I(アイ)メッセージを使い、自分と相手を尊重する表現で断りましょう。
  • 断る際には、公的な関係、親しい友人、勧誘といった関係性に応じて、理由や丁寧さの度合いを使い分けましょう。特に勧誘は「必要ありません」と断定し、会話を長引かせないことが重要です。
  • SST(ソーシャルスキルトレーニング)でのロールプレイングやカウンセリングを活用し、断られた後の追撃への対応を練習し、失敗を恐れることなく、アサーションスキルを定着させましょう。

断ることは、自分を大切にし、結果的に相手との関係を健全に保つための重要な行為です。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

📢 この記事をシェア

関連記事