認知の違いから生まれる誤解を減らすコミュニケーション

「自分は論理的に話しているつもりなのに、『話し方が回りくどい』と誤解される」「相手の言っていることが、文脈によって意味が変わってしまい、どう解釈していいかわからない」「なぜかいつも会話が噛み合わず、関係がギクシャクしてしまう」
人間関係のトラブルの多くは、「認知の違い」、すなわち物事の捉え方や解釈の仕方のズレから生じます。特に、発達障害(ASD:自閉スペクトラム症、ADHD:注意欠陥・多動性障害)の特性を持つ方は、非言語的なサインの読み取り、言葉の裏の意味の推測、文脈に応じた柔軟な思考といった、コミュニケーションの根幹部分で定型発達者と異なる認知特性を持つため、誤解が生じやすくなります。これらの誤解が積み重なることで、人間関係の破綻、二次的な精神疾患、社会的な孤立といった深刻な問題を引き起こしてしまいます。
この記事では、ASD/ADHDの特性から生じやすい5つの具体的な認知のズレを詳細に分析します。そして、このズレを埋め、「誤解を減らす」ための実践的な3つのコミュニケーション戦略(1. 言葉の「翻訳」と明確化、2. 思考の柔軟性トレーニング、3. 外部支援の活用)を紹介します。あなたと相手の**「辞書」**を照らし合わせ、建設的で安心できる対話を実現するための具体的な方法を見つけましょう。
1.誤解を生みやすい発達障害の5つの認知特性
発達障害の特性は、「なぜ誤解が生じるのか」という原因を特定する鍵となります。あなたのコミュニケーションの「辞書」と、相手の「辞書」の違いを分析しましょう。
特性1:言葉の「額面通り」の解釈(ASD特性)
ASDの特性を持つ方は、曖昧さや抽象的な表現を苦手とし、言葉を**文字通りの意味(額面通り)で受け取りやすい傾向があります。
- 誤解のメカニズム: 相手が言う「大丈夫だよ」という言葉を、定型発達者は「気にしなくていいよ」「心配していないよ」といった文脈上の意味で解釈しますが、特性を持つ方は「物理的・論理的に問題がない状態」とだけ解釈する。結果、相手が「大丈夫ではない」非言語的なサイン(ため息、不機嫌な表情)を見せても、言葉を信じてしまい、気付かない。
- 対人関係への影響: 冗談、皮肉、比喩、遠回しな表現が理解できず、場違いな反応をしたり、真に受けて深刻な事態と受け止めたりして、相手との「ユーモアの共有」**が難しくなる。
特性2:文脈・非言語サインの読み取り困難(ASD特性)
会話における表情、声のトーン、ジェスチャー、場の雰囲気といった非言語的な情報から、相手の意図や感情を推測する能力(心の理論)に困難が生じます。
- 誤解のメカニズム: 相手が**「今は話しかけてほしくない」というサイン(例:腕を組む、作業に集中している)を出していても、そのサインが「話しかけてはいけない」というルールとして認識されない。結果、良かれと思って話しかけ、無遠慮だと誤解され、相手を怒らせてしまう。
- 対人関係への影響: 相手の感情の変化**(例:不満から怒りへの変化)に気づくのが遅れ、対応が後手に回ることで、トラブルを深刻化させてしまう。
特性3:過度な「論理」と「情報量」の重視(ASD特性)
会話の目的を**「正確な情報伝達」**に置きすぎる傾向があり、関係性の構築や感情の共有という側面を無視しがちです。
- 誤解のメカニズム: 質問に答える際、すべての背景情報や細部まで網羅しようとして、情報の取捨選択ができず、長々と話してしまう。相手は「結論がわからない」「話しが長い」と感じ、情報処理がオーバーロードする。
- 対人関係への影響: 相手の感情的な訴えに対し、論理的な反論や解決策の提示から入ってしまい、「冷たい」「共感性がない」と誤解される。
特性4:衝動的な発言と待機困難(ADHD特性)
**衝動を抑制する機能(実行機能)**の弱さから、「言いたい」という感情を制御できず、会話の流れや相手の気持ちを考慮せず発言してしまいます。
- 誤解のメカニズム: 相手の話を遮って自分の話をし始める、または、その場で思いついたことをフィルタリングせずに口にしてしまい、**不適切な内容(例:プライベートすぎる質問、失礼な感想)**を発言してしまう。
- 対人関係への影響: 「協調性がない」「自己中心的だ」と見なされ、グループ内の和を乱す存在だと誤解される。
特性5:予定外の状況への適応困難(ASD特性、実行機能の課題)
急な変更や予定外の状況に対して、思考を柔軟に切り替えたり、適切な対応を瞬時に選択したりすることが苦手です。
- 誤解のメカニズム: 待ち合わせ場所が急に変わったとき、パニックに陥り、相手の連絡に冷静に対応できなくなる。また、仕事の指示が当初の予定と異なるとき、「なぜ変わったのか」という理由に過度に固執し、不平不満と誤解されるような反応をしてしまう。
- 対人関係への影響: 融通が利かない、こだわりが強いと評価され、チームでの柔軟な協力関係の構築が難しくなる。
2.ステップ1:言葉の「翻訳」によるコミュニケーションの明確化
曖昧さや非言語的な要素から生じる誤解を減らすためには、**会話で使われる言葉を具体的かつ論理的な表現に「翻訳」**する戦略が必要です。
戦略1:抽象的な言葉の「3W1H」による具体化
会話の中で曖昧な指示や質問があった場合、そのまま推測で進めず、具体的な質問で確認する習慣をつけます。
- 「急いで」の翻訳: 相手:「この資料、急いで作って」→自分:「**いつ(When)**までに必要ですか?」「どのくらい(How much)の質を求めますか?」と確認する。
- 「適当に」の翻訳: 相手:「配置は適当にでいいよ」→自分:「誰に(Who)確認すれば、適当の範囲を決められますか?」「どんな(What)配置が最も適当ではないですか?」と否定形も活用して確認する。
- 「後で」の翻訳: 相手:「この件は後で連絡する」→自分:「**何時頃(When)**連絡をいただけますか?」「どの方法(How)で連絡をいただけますか?」と具体的な時間と手段を確認する。
戦略2:非言語サインの「言語ルール」化
表情や態度といった非言語サインを、具体的な行動のルールに変換し、予測可能にします。
- 疲労サインのルール化: 相手が「眉間にしわを寄せている」「貧乏ゆすりをしている」というサインを見せたら、「話しかけない方が良い時間」というルールとして認識する。
- 傾聴サインの導入: 自分が相手の話を聞いていることを明確に伝えるために、「3秒に一度頷く」「『なるほど』『そうなんですね』と相槌を打つ」といった視覚的・聴覚的なサインを意識的に行う。
3.ステップ2:思考の柔軟性トレーニングと「共感」の練習
認知の特性からくる思考の偏りや、感情表現の困難さを緩和するために、意図的に思考を柔軟にするトレーニングを行います。
戦略1:「もしもボックス」で思考の選択肢を増やす
予定外の状況やトラブルが発生したとき、一つの解決策に固執せず、複数の代替案を瞬時に考えられるように訓練します。
- 予測ゲーム: 日常生活で、「もし電車が遅延したら」「もし待ち合わせ相手が来なかったら」といった**「もしも」の状況**を想定し、最低3つの異なる対処法を事前に考えておく。
- 柔軟な対応テンプレート: 予期せぬ変更があったとき、「なぜですか?」という問いかけではなく、「承知しました。その変更で、AとBのどちらに影響が出ますか?」と、影響範囲の確認から入るという定型文を用意する。
戦略2:「共感のサンドイッチ話法」の練習
相手の感情的な訴えに対し、論理的な反論を優先しがちな特性を修正し、共感→論理→共感という流れを作る練習をします。
- 共感の先行: 友だちの愚痴や不満を聞いたとき、すぐに解決策を言わず、「それは辛かったね」「大変な状況だったんだね」という**感情を受け止める言葉(共感の定型文)**から必ず入る。
- 論理の挿入: 共感を表現した後、一呼吸置いて、「〇〇という観点から、こういう風に考えられるかもしれないね」と、柔らかい表現で論理的な分析や提案を挿入する。
- 共感の再確認: 最後に、「でも、やっぱり頑張ったよね」と、感情のサポートで会話を終える。
戦略3:「衝動の3秒ルール」と「外部委託」
ADHDの衝動性からくる誤解を防ぐため、反射的な行動を抑制する具体的なルールを設定します。
- 3秒待機: 会話で衝動的に発言したくなっても、心の中で3秒数える。これにより、**発言のフィルタリング(不適切でないかの確認)**を行うための時間的猶予を作る。
- 連絡の外部委託: 感情が高ぶったり、内容が複雑で誤解を招きそうなメールやメッセージを送るときは、**家族や支援者に一度内容を確認してもらう(外部委託)**ことを義務付ける。
4.ステップ3:自己理解の開示と専門的な支援の活用
認知の違いを埋めるためには、個人の努力だけでなく、自分の特性を開示する勇気と、専門的な訓練が不可欠です。
戦略1:「自己開示シート」による事前予防
人間関係を始める際や、誤解が生じやすい状況で、自分の認知特性を周囲に具体的に伝えます。これは、誤解を未然に防ぐための予防的な合理的配慮の要請です。
- 開示の具体的な内容: 「私は言葉を文字通りに受け取ります。冗談や皮肉は、言葉で明確に伝えてください」「私は情報量が多くなりがちです。もし話が長すぎたら、**『結論からお願いします』**と遮ってください」といった、具体的な協力依頼を含める。
- 開示のタイミング: 信頼関係がある程度構築された段階で、上司や親しい友人に個別に行うのが望ましい。
戦略2:SST(ソーシャルスキルトレーニング)での実践練習
SSTは、安全な環境で認知のズレからくる誤解を修正し、適切なコミュニケーションスキルを定着させるための最良の場です。
- 認知の「翻訳」練習: 支援員が発する曖昧な言葉や非言語サインに対し、「それは具体的にどういう意味ですか?」と質問で確認する練習を徹底的に行う。
- ロールプレイング: 「冗談を言われたときの正しい返し方」「相手の不機嫌な態度への対処法」など、過去に誤解を生んだ具体的な場面を想定し、ロールプレイングを通じて行動の代替案を学ぶ。
- フィードバック: 会話中の言葉の選び方、情報量、表情について、支援者から客観的なフィードバックを受け、自己認識と修正能力を高める。
戦略3:認知行動療法(CBT)による思考の柔軟化
「自分はコミュニケーションが下手だ」「また失敗した」といった、コミュニケーションの失敗からくる自己否定的な認知や、極端な思考のパターン(全か無かの思考など)は、CBTを通じて修正します。
- 極端な思考の修正: 「一度断ったら嫌われる」という全か無かの思考に対し、「断っても、健全な関係は続く」という現実的な代替思考を構築する。
- 失敗の再定義: コミュニケーションの失敗を「自分の存在の否定」ではなく、「認知のズレからくる、修正可能なミス」として客観的に捉え直す。
まとめ
発達障害のある方が抱えるコミュニケーションの誤解は、言葉の額面通りの解釈、非言語サインの読み取り困難、衝動性、過度な論理重視といった認知の違いから生じます。この誤解を減らすには、曖昧さを排除し、認知のズレを埋める「翻訳」戦略が不可欠です。
- 曖昧な言葉や指示は、「3W1H」で具体的に確認し、非言語サインは「眉間にしわ=話しかけない」といった具体的な言語ルールに変換しましょう。
- 思考の柔軟性を高めるために、「もしもボックス」で複数の代替案を準備し、共感→論理→共感の「サンドイッチ話法」で感情的なサポートを優先する練習をしましょう。
- 信頼できる相手には、「言葉を文字通りに受け取る」といった具体的な認知特性を伝達する**「自己開示シート」**を活用し、予防的な誤解防止策を講じましょう。
- SSTでのロールプレイングや認知行動療法を通じて、スキルを定着させ、コミュニケーションの失敗を恐れない心のレジリエンスを育みましょう。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





