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発達障害のある人がつまずきやすい対人関係と対処法

📖 約55✍️ 谷口 理恵
発達障害のある人がつまずきやすい対人関係と対処法
発達障害のある方がつまずきやすい対人関係は、雑談、指示受け、意見の衝突、距離感といった場面で、非言語サインの読み取り困難や衝動性から生じます。対処法として、まず自分の特性と対処法を記した「人間関係の取扱説明書」を作成し、コミュニケーションを構造化します。衝動的なトラブルを防ぐため、感情が高ぶる前に「タイムアウト戦略」や代替行動を実行します。また、Iメッセージを活用したアサーション(自己主張)で健全な境界線を維持します。トラブル後は迅速な謝罪と再発防止策を提示し、SSTやジョブコーチの「通訳」機能を利用して、客観的なフィードバックを受けながら、安定した関係性を長期的に築くためのスキルを定着させます。

「自分では普通に話しているつもりなのに、なぜか相手を怒らせてしまう」「職場で周りから浮いている気がして、どう振る舞えばいいかわからない」「人間関係が長続きせず、いつも孤独感に苛まれている」

発達障害(ASD、ADHDなど)を持つ方々にとって、対人関係は学校生活、就労、地域生活のあらゆる場面で最もつまずきやすい領域の一つです。それは、社会で求められるコミュニケーションの多くが、非言語的なサインの読み取り、文脈の理解、臨機応変な対応、そして感情の調整といった、特性によって困難が生じやすい複合的なスキルに依存しているためです。対人関係でのつまずきが続くと、自信の喪失、二次障害としての抑うつや不安につながり、社会生活そのものが困難になってしまうこともあります。

この記事では、発達障害のある方が特につまずきやすい対人関係の5つの具体的な場面と、その背後にある特性を深く分析します。そして、誤解を最小限に抑え、安定した関係性を築くための実践的な3つのステップ(1. 自己理解と構造化、2. 感情と衝動の管理、3. 外部支援の活用)を詳細に解説します。あなたの「人間関係の取扱説明書」を作り、安心と信頼に基づいたコミュニケーションを築くための具体的な戦略を見つけましょう。


1.発達障害のある人がつまずきやすい対人関係の5つの場面と原因

対人関係のつまずきは、特定の状況で特性が強く現れることによって生じます。つまずきやすい場面と、その特性の関連を理解しましょう。

場面1:雑談・世間話の場面(ASD特性)

特に職場や休憩時間での**目的のない会話(雑談)**は、ASDの特性を持つ方にとって難易度が高い場面です。

  • 原因: 雑談は論理的な情報交換ではなく、関係性の構築と維持を目的としています。この「空気を読む」「共感を示す」という非言語的な目標の理解が困難なため、会話のテーマを一方的に深掘りしたり、相手の関心のない話題(自分のこだわり)を話し続けたりして、会話が成り立たない。
  • 結果: 「会話が続かない人」「何を話しているかわからない人」と誤解され、孤立につながる。

場面2:指示・依頼を受ける場面(ADHD特性、処理能力の課題)

職場や学校で、口頭やメッセージで複数の指示や依頼を受ける場面で、ミスや聞き返しが多くなり、相手の苛立ちを招きやすいです。

  • 原因: ADHDの特性による注意の転導性や、ワーキングメモリ(作業記憶)の容量不足により、複数の情報を瞬時に処理し、整理することが苦手。その結果、重要な指示の一部を聞き漏らしたり、実行の優先順位を間違えたりする。
  • 結果: 「仕事ができない」「注意散漫だ」と評価され、信頼関係の低下を招く。

場面3:意見の衝突・対立の場面(ASD/ADHD特性、感情調整の課題)

友人や同僚との意見の相違や、自分の非を指摘された場面で、感情的になってしまい、関係を悪化させます。

  • 原因: 感情を制御する機能(実行機能)が未熟なため、強い感情(怒り、不安、焦燥感)を衝動的に表現してしまう。また、ASD特性により、自分の非を論理的に認めたり、他者の感情的な痛みを推測したりすることが苦手なため、謝罪や解決策の提示が遅れる。
  • 結果: 「感情的で扱いづらい」「自己中心的だ」と見なされ、関係が破綻する。

場面4:距離感の設定の場面(ASD特性、境界線の課題)

親しい友人や、初めて出会った人との適切な物理的・心理的距離感がわかりません。

  • 原因: 相手との関係性の深さを測る暗黙のルールがわからないため、初対面の人に個人的な情報を開示しすぎたり、親しい友人に過度に依存したりする(境界線の侵害)。また、身体的なパーソナルスペースの認識も苦手で、相手に近づきすぎる。
  • 結果: 「馴れ馴れしい」「無遠慮」と誤解され、相手に引かれてしまう

場面5:グループワーク・チーム作業の場面(ASD/ADHD特性、協調性の課題)

チームで目標を共有し、役割分担を行う場面で、摩擦が生じやすいです。

  • 原因: ASD特性による融通の利かなさやこだわり、ADHD特性による計画性の欠如が、協調性を妨げる。自分の役割以外のタスクに手を出して混乱させたり、逆に自分のタスクを期限までに完了させられなかったりする。
  • 結果: 「チームプレイヤーではない」「自分勝手だ」と評価され、孤立化が進む。

2.ステップ1:自己理解の深化と対人関係の「構造化」

対人関係のつまずきを減らすには、まず自分の特性を客観的に理解し、曖昧なコミュニケーションを**「予測可能なルール」**に変換する構造化が不可欠です。

戦略1:「人間関係の取扱説明書(サポートブック)」の作成

自分の特性と、それに対する具体的な対処法・配慮事項を文書化し、「なぜその行動を取ってしまうのか」を自分自身と周囲に示せるようにします。

特性 具体的な行動例 対処法(自分ルール)
聴覚過敏 大勢の雑談でパニックになる 雑談の場は最長15分で離脱する。ノイズキャンセリングイヤホンを携帯する。
情報の処理困難 口頭で複数の指示を聞き漏らす 「必ずメモを取る」習慣化。聞き終わったら、「〇〇と〇〇ですね?」と必ず復唱して確認する。
衝動的な発言 相手の話を遮って自分の話をする 発言したくなったら、心の中で3秒数える。「話しても大丈夫?」と相手に確認してから発言する。

この説明書を、**信頼できる友人や職場の支援者(上司・ジョブコーチ)**に共有し、相互理解を深めます。

戦略2:「関係性カテゴリ」の設定と境界線の言語化

誰に、どこまで、何を話していいかという**「距離感」の曖昧さ**を、明確なルールに変換します。

  • 3つのカテゴリ分け: 関係性を「A. 公的な関係(上司、取引先)」「B. 知人・仲間(同僚、サークルメンバー)」「C. 親しい友人・家族」の3つに分類する。
  • 情報開示の制限: カテゴリAには、**私的な情報(病歴、金銭、過去のトラブル)は絶対に話さない、というルールを徹底する。カテゴリBには、個人的な感情や深い悩みを話さない。
  • 物理的距離の確保: カテゴリA・Bの相手に対しては、会話中に「一腕分の距離」**を保つことを意識的に行う。

3.ステップ2:感情と衝動を管理するコミュニケーションスキル

トラブルの多くは、感情の衝動的な表出から生じます。反射的な行動を防ぎ、冷静な対応を可能にするための具体的なスキルを習得しましょう。

スキル1:感情の「タイムアウト」戦略

怒りや不安を感じたとき、すぐに反応せず、感情と行動の間に時間差を作る技術です。

  • その場からの離脱: 感情が高ぶったら、「ごめん、少し冷静になりたいから、5分だけ離れていい?」と伝え、物理的に会話を中断する
  • 「ストップサイン」行動: 衝動的に何かを言いそうになったら、心の中で「ストップ!」と叫び、代わりに手を強く握る、深呼吸を3回するといった代替行動(アンカリング)を行う。
  • 冷静なメッセージ: 強い感情を伴うメッセージは、すぐに送信せず下書き保存し、翌朝、冷静な状態になってから読み直し、修正してから送る。

スキル2:「共感」と「アドバイス」の切り分け

雑談や友人の悩みを聞く場面で、論理的なアドバイスに終始し、「冷たい」と誤解されるのを防ぎます。

  • 共感の優先: 友人の悩みをまず聞いた後、すぐに解決策を提示せず、「それはすごく大変だったね」「頑張っているのに報われないのは悔しいね」といった共感の定型文を優先して伝える。
  • アドバイスの許可: アドバイスが必要な場合でも、「何か具体的な解決策を考えてみたのだけど、話しても大丈夫?」と、相手の許可を得てから提案する。

スキル3:「非攻撃的な自己主張(アサーション)」の活用

自分の意見や感情を正直に伝えることで、ストレスの蓄積による爆発を防ぎ、健全な境界線を維持します。

  • I(アイ)メッセージ: 相手を責める「あなた(You)メッセージ」(例:「あなたはいつも待ち合わせに遅れる」)ではなく、「私は(I)あなたの遅刻で、毎回不安な気持ちになります」という自分の気持ちを主語にした表現で伝える。
  • 断る勇気: 疲れているときや気が進まない誘いに対しては、DESC法(Describe→Express→Suggest→Consequence)を用い、自分と相手を尊重した丁寧な断り方を実践する。

4.ステップ3:トラブル後の「リカバリー戦略」と外部支援

どれだけ対策しても、人間関係のトラブルは起こり得ます。トラブル後の**迅速かつ建設的な対応(リカバリー)**と、専門家による支援が不可欠です。

戦略1:トラブル後の「迅速かつ簡潔な」謝罪

トラブル発生後、感情的にならず、迅速に謝罪と行動修正の意思を伝えることが重要です。

  • 謝罪のテンプレート:
    1. 謝罪の言葉: 「先ほどは感情的になってしまい、大変申し訳ありません。」
    2. 原因の簡潔な説明: 「感情の調整が苦手で、あなたの話を遮ってしまいました。」(言い訳はしない
    3. 再発防止策の提示: 「次は、冷静になるために一度その場を離れるようにします。」
  • 間接的なフォロー: 対面での謝罪が難しい場合は、時間をおいて冷静になってから、テキストメッセージで謝罪文を送るなど、自分の特性に合った手段を選ぶ。

戦略2:ジョブコーチ・支援者による職場での「通訳」

職場の対人関係でつまずきが多い場合は、ジョブコーチや就労支援員による介入が有効です。

  • 中立的な翻訳: ジョブコーチが、あなたの行動の意図(例:こだわりが強い)を、上司や同僚に**専門的な視点から「通訳」**し、誤解を解消する。
  • 仲介と調整: チームの対立が生じた際、ジョブコーチが第三者として間に入り、役割分担やコミュニケーションルールの調整を仲介する。

戦略3:SST(ソーシャルスキルトレーニング)の継続

SSTは、対人スキルを安全な環境で練習し、定着させるための最も効果的な手段です。

  • 具体的な場面練習: 過去に失敗した雑談、指示受け、意見の衝突といった場面を想定したロールプレイングを繰り返し、支援者からの客観的なフィードバックを受ける。
  • 非言語スキル: 表情、姿勢、ジェスチャーといった非言語的なサインを意図的に練習し、自分の意図と行動を一致させるトレーニングを行う。

5.長期的な視点:自己肯定感の維持と「居場所」の多様化

対人関係のつまずきは、自己肯定感を大きく傷つけます。スキルを磨くと同時に、**心の回復力(レジリエンス)**を育むことが、安定した社会生活に繋がります。

戦略1:失敗を「データ」として捉える認知の転換

トラブルを「自分の人間性がダメだからだ」と捉えず、「自分の特性と相手の特性が衝突した、改善すべきデータだ」と客観的に捉え直します。

  • 反省ノートの活用: トラブルが発生したら、「自分の行動:〇〇」「相手の反応:××」「次回以降の修正点:△△」という3つの項目で事実を記録し、感情を入れずに分析する。
  • 成功体験の記録: 小さな成功(例:雑談で3往復会話ができた、指示を一度で聞き取れた)を**「成功ログ」**として記録し、自信の土台を築く。

戦略2:「居場所」の多様化と分散

特定の人間関係(職場、学校)だけに心の居場所を求めると、そこでつまずいたときに大きなダメージを受けます。心の支えを分散させましょう。

  • 趣味のコミュニティ: 共通の興味・関心に基づくコミュニティ(オンラインゲーム、サークル活動など)は、特性が問題になりにくく、安心できる居場所となりやすい。
  • 当事者会・家族会: 自身の特性や悩みを共有できる当事者会に参加し、「自分だけではない」という共感と安心感を得る。
  • 家族・支援者の活用: 家族や支援者など、無条件に受け入れてくれる安全な関係を心の拠り所とする。

戦略3:特性を開示する「戦略的カミングアウト」

信頼関係が築けている相手や、業務上必要な相手には、特性を開示する勇気を持つことも、つまずきを防ぐ有効な手段です。

  • 「私は非言語的なサインを読み取るのが苦手です。もし不快なことをしていたら、遠慮なく言葉で指摘してください」と伝えることで、相手に「指導役」を担ってもらい、誤解の発生を防ぐ。
  • カミングアウトは、あなたの防御策であり、相手への協力依頼です。

対人関係の改善は、一夜にして成し遂げられるものではありません。焦らず、自己理解とスキル向上に励み、あなたらしく安心できる居場所を一つずつ築いていきましょう。


まとめ

発達障害のある方が対人関係でつまずく原因は、雑談・指示受け・感情調整・距離感といった場面での非言語サインの読み取り困難や衝動性にあります。安定した関係を築くためには、まず自己理解を深め、行動を構造化することが不可欠です。

  • 自身の特性と対処法を記載した「人間関係の取扱説明書」を作成し、信頼できる相手に共有しましょう。
  • 曖昧な距離感を「関係性カテゴリ」に分けて言語化し、情報開示のルールを徹底しましょう。
  • 感情的な爆発を防ぐために、「タイムアウト戦略」I(アイ)メッセージによる**非攻撃的な自己主張(アサーション)**を習得しましょう。
  • トラブル発生時には、迅速かつ簡潔な謝罪と再発防止策を提示し、SSTやジョブコーチによる客観的なフィードバックを受けながら、スキルを定着させましょう。

対人関係の苦手さは、あなた一人の責任ではありません。

谷口 理恵

谷口 理恵

たにぐち りえ45
副編集長📚 実務経験 20
🎯 生活サポート🎯 地域情報

📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者

介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。

介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。

🎨 趣味・特技

料理、ガーデニング

🔍 最近気になっているテーマ

一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生

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