人間関係の悩みが原因で仕事が続かないときの解決策

「仕事内容は好きだけど、人間関係でつまずいて辞めてしまうことを繰り返している」「頑張って努力しても、いつの間にか孤立してしまい、心身が限界になってしまう」「もう新しい職場で働く自信がない」
障害当事者の方にとって、「仕事が続かない」という悩みは、多くの場合、業務スキルや意欲の問題ではなく、職場の人間関係のストレスが根源にあります。特に、コミュニケーションの特性、感覚過敏、体調の波などが原因となり、周囲との間に摩擦が生じ、最終的に離職を選ばざるを得ない状況に追い込まれるケースは少なくありません。
この記事では、人間関係の悩みが原因で仕事が続かない「離職の連鎖」の構造を分析します。そして、この連鎖を断ち切り、自分を守りながら安定して働き続けるための具体的な3つの解決フェーズ(1. 休職・離職後の「自己理解」深化、2. 働き方の「見直しと環境調整」、3. 専門支援機関の「徹底活用」)を詳細に解説します。過去の失敗を責めるのではなく、次の安定就労へと繋げるための戦略を見つけましょう。
1.「離職の連鎖」の構造を理解する:なぜ人間関係でつまずくのか
人間関係が原因で仕事を辞めてしまう経験は、ご本人の努力不足ではなく、障害特性と、配慮のない職場環境が複雑に絡み合った結果として生じます。この構造を理解することが、連鎖を断ち切るための第一歩です。
構造1:特性による「誤解」と「孤立」のスパイラル
多くのトラブルは、あなたの特性からくる行動が、周囲に誤解を生むことから始まります。
- 情報処理のズレ: ASD特性により、指示の曖昧さや非言語情報を読み取れず、ミスを連発。周囲は「やる気がない」「協調性がない」と誤解する。
- 回避行動: ストレスから休憩が増えたり、会話を避けるようになると、周囲は「付き合いが悪い」「暗い」と判断し、情報共有の輪から外され、孤立が始まる。
- 体調悪化: 孤立とストレスで精神疾患が悪化し、欠勤が増えることで、ますます周囲との関係修復が困難になる。
このスパイラルが進行すると、ご本人は「自分はどこに行ってもダメだ」と自己肯定感を失い、離職へと繋がります。
構造2:適切な「合理的配慮」が機能していない
企業が障害者雇用をしていても、多くの場合、人間関係に関する配慮は不十分です。例えば、「雑談の免除」「指示の文書化」といった配慮が口頭での約束に留まり、人事や上司が変わると配慮の内容が曖昧になったり、撤回されたりします。
- 配慮の非構造化: 配慮が属人化し、特定の担当者しか把握していないため、チーム全体での理解が進まない。
- 配慮の不足: 「感覚過敏対策」や「感情調節の難しさ」といった、人間関係に直接関わる特性への配慮が欠けている。
- 配慮の「重荷」化: 配慮を受けることで、かえって周囲に気を使い、「配慮してもらっているから頑張らなくては」というプレッシャーから疲弊してしまう。
構造3:「自己防衛」よりも「適応」を優先してしまう
仕事が続かない方の多くは、「職場の人間関係に合わせなければ」という意識が非常に強く、自己防衛よりも周囲への過剰な適応を優先してしまいます。特性を隠し、無理に「普通」を演じることで、膨大なエネルギーを消費し、結果として燃え尽きてしまうのです。
💡 ポイント
離職の連鎖を断ち切るには、「次は絶対に特性を隠さない」「自己防衛を最優先する」という強い意識転換が必要です。
2.解決フェーズ1:休職・離職後の徹底的な「自己理解」深化
仕事が続かなかった原因は、次の職場での安定就労のための重要なヒントです。休職中や離職後の時間を利用して、過去の経験を客観的に分析し、自己理解を深めましょう。
ステップ1:過去のトラブルを「コミュニケーション・エラー記録」として分析する
感情的な記憶として残っている過去のトラブルを、冷静な「コミュニケーション・エラー記録」として文書化します。
| 項目 | 分析内容 |
|---|---|
| いつ・どこで | 例:3ヶ月目のチーム会議後、休憩室で |
| 何が起こったか | 例:同僚から「いつも愛想がない」と指摘され、口論になった。 |
| 原因分析(特性と行動) | 例:ASD特性による表情の乏しさ(特性)+ 会話への返答が遅れた(行動) |
| 取るべきだった最善の行動 | 例:「愛想がないと言われて傷ついた」と伝え、同時に「特性で無表情になりやすいが、悪意はない」と伝える。 |
この記録により、感情論ではなく「構造的な失敗パターン」を特定し、次の職場で取るべき「具体的な代替行動」を明確にできます。
ステップ2:「特性アセスメント」と「トリガー」の特定
自分自身の障害特性が、「どのような環境」「どのような種類の対人交流」で最もストレスを感じるのかを明確にします。主治医や心理士の協力を得て、詳細な特性アセスメントを行いましょう。
- 対人関係の「トリガー(引き金)」の特定:
- 急な予定変更、曖昧な指示、大勢での雑談、特定の音(例:キーボードの音)など、感情やパニックを引き起こす具体的な原因を洗い出す。
- 特に、「誰からのどのような言葉」が最も傷つくのかを特定し、防御策を考える。
- エネルギー残量の把握: 自分の対人交流におけるエネルギー残量を0~100%で数値化し、どの程度までエネルギーを消費すると体調を崩すのか、限界値を把握する。
ステップ3:「理想の職場コミュニケーション像」の定義
「普通」を目指すのではなく、「特性を持つ自分が安定して働くための理想的なコミュニケーション環境」を定義します。これは、次の職場を探す際の「必須条件」となります。
- 口頭ではなく文書での指示が原則
- 休憩時間やランチは一人で過ごすことが許容される
- 雑談が少なく、業務連絡が中心
- 質問に対する論理的な回答が歓迎される
この理想像こそが、次の職場に求めるべき「合理的配慮の核」となります。
3.解決フェーズ2:働き方の「見直しと環境調整」戦略
自己理解を深めたら、いよいよ具体的な働き方を見直す段階です。人間関係のストレス自体を根本的に排除できる環境を探しましょう。
戦略1:職務内容を「対人負荷」で選択する
次の仕事を探す際、給与や知名度よりも「対人負荷の低さ」を最優先事項とします。
- 高負荷職種(避けるべき): 営業、接客、チームマネジメント、コールセンターなど(常に場の空気を読み、臨機応変な対応が求められる)
- 低負荷職種(推奨): データ入力、プログラミング、研究開発、マニュアル作成、ウェブコンテンツ管理など(個人で集中して作業する時間が長い、論理的思考や正確性が求められる)
対人関係が苦手なのであれば、人間関係の密度が低い職種を選ぶことが、安定就労への最短ルートです。
戦略2:「コミュニケーション・バウンダリー(境界線)」の設定
人間関係の悩みを再発させないために、新しい職場で働く際には、最初から「心の境界線(バウンダリー)」を明確に設定します。
- プライベートの制限: 自分のプライベートな情報(持病、家族構成、休日の過ごし方)は、業務上必要最低限に留め、雑談のネタにしない。
- 断る権利の行使: 飲み会や業務外の誘いは、アサーティブに(相手を尊重しつつ)断ることを躊躇しない(例:「お誘いありがとうございます。今日は疲労回復を優先させてください」)。
- 物理的なバウンダリー: デスクにパーティションを設置したり、ノイズキャンセリングイヤホンの使用を申請したりして、物理的な刺激から自分を守る。
この境界線を守ることは、自己防衛であり、あなたの仕事の質を保つための必須条件です。
戦略3:障害者雇用(クローズ)と一般雇用(オープン)の再検討
人間関係のトラブルが続いた場合、「障害を開示する働き方(オープン)」のメリット・デメリットを再検討しましょう。
- オープン雇用のメリット: 人事・上司に特性を理解してもらいやすく、正式な合理的配慮(コミュニケーション方法の調整を含む)を受けやすい。人間関係のトラブルが特性に起因するものとして処理されやすい。
- デメリット: 周囲からの偏見や過剰な気遣いが生じる可能性。
もしこれまで一般雇用(クローズ)で人間関係に苦しんでいたなら、障害者雇用に切り替えて、コミュニケーションに関する配慮を徹底的に要求することで、状況は大きく改善する可能性があります。
4.解決フェーズ3:専門支援機関の「徹底活用」
人間関係の困難は、個人や家族だけで解決しようとすると、必ず限界が来ます。公的・専門的な支援機関のサービスをフル活用することが、安定就労への最も確実な道です。
活用1:就労移行支援事業所での「SST」と「職場定着支援」
就労移行支援事業所は、コミュニケーションの悩みを解決するための「訓練の場」と「橋渡し役」を提供してくれます。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング): 職場の挨拶、報連相、断り方など、人間関係の具体的な場面での最適な行動をロールプレイングで徹底的に練習する。
- 職場定着支援: 就職後も、支援員が定期的に職場を訪問し、人間関係の小さなトラブルがないか、配慮が機能しているかをチェックしてくれる。
- 企業選び: 事業所が、あなたのコミュニケーション特性に合った、人間関係のトラブルが少ない企業文化を持つ企業を探してくれる。
活用2:ジョブコーチと「トライアル雇用」
ジョブコーチは、職場と当事者の間に入って人間関係を調整してくれるプロの支援者です。
- トラブルの仲介: 人間関係でトラブルが生じた際、中立的な立場から両者の誤解を解消し、行動修正を促す。
- トライアル雇用の活用: 実際に働きながら(トライアル雇用)、ジョブコーチの支援を受け、人間関係の課題を事前に洗い出すことで、本採用後の失敗を防ぐ。
ジョブコーチは、特性と職場のルールを調整する「人間関係の通訳者」として機能してくれます。
活用3:産業医・主治医による「体調管理」と「意見書」
人間関係のストレスは、心身の健康を直接的に脅かします。産業医や主治医の役割は、体調管理だけに留まりません。
- 体調と特性の客観的証明: 主治医に、人間関係のストレスが心身に与える影響を診断書に明記してもらい、配慮が必要な根拠とする。
- 意見書の活用: 職場への配慮交渉の際、産業医や主治医に「コミュニケーション方法に関する配慮は、就労継続のために必須である」という意見書を作成してもらう。
専門家の意見書は、あなたの訴えを企業が対応すべき客観的な事実へと昇華させてくれます。
まとめ
人間関係の悩みが原因で仕事が続かない「離職の連鎖」は、適切な自己理解と環境調整、そして専門的な支援によって必ず断ち切れます。過去の経験を自己否定の材料にするのではなく、次の安定就労のための貴重なデータとして活用しましょう。
- 休職・離職後に、過去のトラブルを「コミュニケーション・エラー記録」として分析し、失敗パターンと代替行動を特定しましょう。
- 次の職場を探す際は、「対人負荷の低い職種」を最優先し、「境界線」を設定して自己防衛を徹底しましょう。
- 就労移行支援事業所でのSSTや、ジョブコーチ、産業医の意見書といった専門支援をフル活用し、客観的なサポート体制を築きましょう。
あなたの真の目標は、無理をして「普通」を演じることではなく、特性を理解した上で安定して働き、自分らしく生活を続けることです。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





