お金の貸し借りで起きやすいトラブルと回避策

お金の貸し借りで起きやすいトラブルと回避策
「貸して」「借りて」が引き起こす問題を防ぐ
友人や知人、福祉サービスの関係者との間で、お金の貸し借り(金銭の融通)が発生することは、誰にでも起こり得ます。しかし、障害を持つ方にとっては、金銭の貸し借りは特に複雑なトラブルに発展しやすく、人間関係の破綻や、生活費の困窮を招く大きなリスクとなります。
これは、障害特性からくる「断りにくさ」や「お金の概念の難しさ」、あるいは「相手との対等な関係を築きたい」という気持ちにつけ込まれてしまう可能性があるためです。また、支援者側も、安易な貸し借りが倫理規定に反する行為となることがあります。
本記事では、お金の貸し借りで特に起きやすい具体的なトラブル事例を挙げ、トラブルを未然に防ぐための明確なルールと、借りる必要がある場合に利用すべき公的な代替手段を詳しく解説します。大切な財産と人間関係を守り、安心して生活を送るための知識を身につけましょう。
金銭の貸し借りがもたらすトラブル事例
友人・知人との間で発生するトラブル
生活の中で最も身近に起こりやすいのが、友人や知人との間の貸し借りです。少額であっても、積み重なると大きな問題に発展することがあります。
- 返済を巡るトラブル:「いつまでに返す」という約束が曖昧なため、返済が滞り、催促することで友人関係が壊れてしまう。特に、障害特性により日時や金額の記憶が困難な場合、トラブル化しやすいです。
- 依存関係の発生:お金を貸す側になってしまうと、「頼りにされている」という感情から、断れなくなり、最終的に多額の持ち出しが発生する。
- 悪用されるリスク:ご本人の「断りにくい」という特性を利用され、借りたお金が返されないだけでなく、さらに借金を求められるなど、金銭的な搾取につながる可能性があります。
「グループホームの他の利用者から『財布を忘れたから』と何度か現金を貸しました。最初は少額でしたが、徐々に要求がエスカレートし、最終的に10万円近く貸したまま連絡が取れなくなりました。友人だと思っていたので、とてもショックでした。」
— 精神障害を持つAさん(30代)
支援者・事業所との間のトラブル
福祉サービスの支援者(ヘルパー、相談員など)と利用者との間の金銭の貸し借りは、絶対にあってはならない行為です。これは、支援関係における信頼と公平性を損なう重大な倫理規定違反です。
- 倫理規定違反:支援者は、利用者との間で私的な金銭の貸し借りをすることが禁じられています。これは、支援者と利用者の間に上下関係や依存関係を生み出し、公正な支援提供を妨げるためです。
- 報告義務:支援者が私的な金銭の貸し借りを行った場合、事業所は指導・処分を受ける可能性があります。
もし支援者からお金を借りることを求められたり、支援者にお金を貸してほしいと頼まれたりした場合は、すぐに事業所の管理者や相談支援専門員に報告すべきです。
⚠️ 注意
支援者による金銭の貸し借りは、「支援の質の低下」や「不正行為」につながる可能性があります。ご本人やご家族は、このルールを理解し、不適切な要求には毅然と断るか、第三者に相談することが重要です。
金銭の貸し借りを回避するためのルール
個人間での貸し借りを「禁止」するルール
トラブルを避けるための最も確実な方法は、家族や支援者、ご本人が共通認識として「金銭の個人間での貸し借りは一切行わない」という明確なルールを設定することです。特に障害特性により断ることが苦手な方には、このルールが「断るための盾」となります。
- 「ルールだから」と伝える:友人や知人から貸し借りを求められた際、「私は(親/支援者/グループホームと)お金の貸し借りをしないというルールになっている」と伝えましょう。
- 現金の持ち歩き制限:貸し借りの機会を減らすために、日々の予算以上の現金は持ち歩かないように支援者や家族が管理します。デビットカードやチャージ式電子マネーを活用し、物理的な制限を設けましょう。
トラブル回避のための相談窓口の確保
貸し借りの要求に直面し、断れずに困った場合に、すぐに相談できる窓口(支援者、家族、信頼できる友人)を決めておくことも重要です。「困ったら、まず〇〇さんに電話する」という代替行動をご本人と確認しておきましょう。
金銭管理の「見える化」と「安心の仕組み」
ご本人が一時的に金銭的に困窮している状況を家族や支援者が把握できていれば、個人間の貸し借りに頼る必要がなくなります。金銭管理の仕組みを見直しましょう。
- 予備費の確保:急な出費(冠婚葬祭費、医療費など)に備えて、緊急予備費を貯蓄専用口座に確保するサポートを行います。
- 用途別袋分け:「遊びに使えるお金」を明確に分け、その範囲内で使うルールを徹底することで、衝動的な出費による金欠を防ぎます。
- 定期的振り返り:毎月、支援者や家族と収支を一緒にチェックし、お金が足りなくなる前に原因を突き止め、改善策を講じます。
✅ 成功のコツ
ご本人の金欠の原因が「無駄遣い」ではなく、本当に必要な福祉サービスの自己負担増などである場合は、家計を見直し、利用できる助成制度がないかを福祉事務所や相談支援専門員に相談しましょう。個人間の貸し借りでは、根本的な解決になりません。
一時的な金欠への公的な代替手段
生活福祉資金貸付制度の活用
急な病気や災害、あるいは一時的な生活費の不足により、どうしても資金が必要になった場合は、個人間の貸し借りに頼るのではなく、公的な支援制度を利用しましょう。その代表が、社会福祉協議会が窓口となる「生活福祉資金貸付制度」です。
- 緊急小口資金:緊急かつ一時的に生活費が必要となった際に、少額(原則10万円以内)を無利子で貸し付けます。急な医療費や、生活維持のための緊急を要する場合に利用できます。
- 総合支援資金:失業や病気などで生活が困窮し、生活再建までの間の生活費を貸し付けます。
公的貸付のメリット
この制度の最大のメリットは、低利子または無利子であり、返済計画や相談体制が整備されている点です。審査はありますが、福祉的な視点から行われるため、闇雲に友人や消費者金融に頼るよりも、はるかに安全で健全な方法です。
まずは、お住まいの地域の社会福祉協議会または自立相談支援機関に相談し、利用資格や手続きについて確認しましょう。
自立相談支援事業による家計改善サポート
お金を借りなければならない状況が頻繁に発生する場合、それは一時的な金欠ではなく、根本的な家計の構造に問題がある可能性が高いです。地域の「自立相談支援機関」に相談し、家計改善サポートを受けましょう。
- 家計診断:支援員が収入と支出を徹底的に洗い出し、どこに無駄があるのか、どの公的制度を利用できていないのかを診断してくれます。
- 計画策定:無理のない返済計画や貯蓄計画を一緒に策定し、お金を借りずに済む生活を目指すためのサポートを行います。
この支援を受けることで、個人間の貸し借りを必要とする「金欠スパイラル」から抜け出すことができます。
「友人にお金を借りる前に、まず社協や自立相談支援機関に相談してください。個人間の貸し借りはトラブルの元ですが、公的支援は生活再建のためのものです。恥ずかしがらずに、一歩踏み出して専門家に頼ることが大切です。」
— 自立相談支援員 K氏
金銭トラブルに巻き込まれた場合の対処法
貸したお金が返ってこない場合
もし、ご本人が友人や知人にお金を貸してしまい、それが返済されない場合は、以下の手順で対処しましょう。
- 証拠の確認:貸した日時、金額、返済の約束(あれば)、メールやLINEなどのやり取りなど、貸し借りの事実が分かる証拠を整理します。
- 内容証明郵便:相手に返済を求める意思を明確に伝えるため、家族や支援者のサポートのもと、内容証明郵便で請求書を送付します。
- 専門家への相談:少額訴訟などの法的手段を検討するため、法テラス(日本司法支援センター)や弁護士・司法書士に相談します。
特に、ご本人の判断能力が不十分な状況で多額の金銭を貸し付けている場合、悪意のある搾取の可能性もあるため、早期に専門家への相談が必要です。
詐欺・悪質な融資トラブルへの対応
「簡単にお金を貸します」という甘い言葉につけ込まれ、違法な高金利の融資を受けてしまったり、詐欺に遭ってしまったりするリスクもあります。
- 即座に停止:違法な業者との連絡はすぐに絶ち、返済もいったん停止します。
- 警察への相談:脅迫や強要があった場合は、すぐに警察に相談します。
- 弁護士への相談:違法な高金利の借金は、過払い金請求や債務整理で解決できる可能性があります。家族や支援者が同行し、法テラスなどに相談しましょう。
💡 ポイント
借金や金銭トラブルの問題は、専門家でなければ解決できません。ご本人やご家族が抱え込まず、すぐに法テラスや自立相談支援機関といった専門窓口に助けを求めることが、被害の拡大を防ぐ唯一の方法です。
まとめ
お金の貸し借りは、障害を持つ方にとって、人間関係や生活を脅かす大きなトラブルの原因となり得ます。トラブルを回避するための鍵は、「個人間での金銭の貸し借りを一切禁止する」という明確なルールを設定し、それを守るための物理的な仕組み(現金制限、自動積立)を整えることです。
もし、どうしても資金が必要な状況に陥った場合は、友人・知人ではなく、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度や、自立相談支援機関の家計改善サポートといった公的な支援制度を必ず利用しましょう。適切な支援を受けることが、トラブルを防ぎ、安心した生活を送るための確実な道です。
まとめ
- 友人・知人、支援者との間で金銭の貸し借りを一切行わないルールを徹底する。
- 貸し借りの要求を断るための「盾」として、支援者や家族とのルールを活用する。
- 緊急時の資金は、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度で借りる。
- 借金トラブルに巻き込まれた場合は、すぐに法テラスなどの専門機関に相談する。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





