金銭トラブルを防ぐための家族・支援者の関わり方

金銭トラブルを防ぐための家族・支援者の関わり方
自立を支え、財産を守るための関わり
障害を持つご家族や支援対象者が、お金に関するトラブルに巻き込まれてしまうのではないかと、常に心配されている方も多いでしょう。金銭トラブルには、衝動買いによる浪費、悪質な訪問販売による詐欺被害、あるいは公共料金の支払い忘れによるライフラインの停止など、様々な形があります。
これらのトラブルは、ご本人の生活基盤を揺るがすだけでなく、ご家族や支援者にとっても大きな負担となります。しかし、過剰な介入は、ご本人の「自分で決めたい」という自立の意欲を損ねてしまう可能性もあります。
この記事では、「自立支援」と「財産保護」という二つの目標を両立させるために、家族や支援者がどのように関わるべきか、具体的なステップと公的な支援制度の活用法を詳しく解説します。適切な距離感を保ちながら、安心できる金銭管理の仕組みを一緒に作り上げていきましょう。
関わりの基本原則:アセスメントと意思尊重
障害特性とお金との関係性を理解する
金銭トラブルを防ぐための第一歩は、トラブルの原因が「だらしなさ」ではなく、ご本人の障害特性に根差していることを深く理解することです。関わり方を決めるために、まずはご本人の金銭管理能力と、苦手とする特性をアセスメント(評価)しましょう。
- 衝動性の理解(ADHD、精神障害):「今すぐ欲しい」という欲求のコントロールが難しい場合、現金やクレジットカードの物理的な制限が必要です。
- 抽象概念の理解(知的障害、発達障害):「貯金」「借金」といった概念や、通帳の数字の意味が理解しにくい場合、具体的な「見える化」が必要です。
- 判断能力の変動(精神障害):病状の波により、判断能力が大きく変化する場合、病状が不安定な時期に財産を保護する仕組みが必要です。
「できること」と「できないこと」を明確にする
ご本人が現在、「できること」と「サポートが必要なこと」を具体的にリストアップしましょう。例えば、「毎月の固定費の金額を覚えるのは苦手だが、袋分けした現金を使うことはできる」など、本人が担える部分を最大限に尊重する関わり方が、自立支援につながります。
本人の意思決定を尊重し、安心感を確保する
金銭管理は、生活の自由度や尊厳に関わる問題です。支援者が良かれと思ってすべてを管理してしまうと、ご本人は「自分は信頼されていない」と感じ、反発や意欲の低下につながることがあります。
- 対話と同意:金銭管理のルールやサポート体制を導入する際は、必ずご本人の同意を得て、なぜそのルールが必要なのか(例:安心した生活を続けるため)を丁寧に説明しましょう。
- 「金銭教育」の視点を持つ:単に支払いを代行するだけでなく、一緒に請求書を確認し、支払いボタンを押す役割を担ってもらうなど、「金銭管理を学ぶ機会」として関わることが重要です。
💡 ポイント
「失敗しても大丈夫」という安心感が、次の挑戦につながります。小さな失敗(例:おこづかいを使いすぎた)を責めるのではなく、その失敗を次に活かすための振り返りの機会として捉えましょう。
金銭トラブルを未然に防ぐ具体的な仕組み
物理的な「制限」と「分離」の仕組み
衝動性や管理の難しさからくるトラブルを防ぐには、ご本人の「使いたい」という意思に頼るのではなく、お金を物理的に使えないようにする仕組みを導入することが最も確実です。
- 口座の役割分担:
- 固定費口座:家賃、公共料金、福祉サービス費の引き落とし専用。手動で触らせない。
- 貯蓄口座:緊急時の予備費や将来のための資金専用。キャッシュカードを作らない。
- おこづかい口座:ご本人が日常の買い物に自由に使える予算分の資金のみを入れる。
- 現金の制限:おこづかい口座に紐づくのは、チャージ式のプリペイドカードやデビットカードとし、クレジットカードや大金を手にしない仕組みを作ります。
家族による「金融機関の代理人手続き」
ご本人の判断能力が十分にある場合でも、病気や入院などで一時的に金銭管理ができなくなる場合に備えて、金融機関で代理人による手続きができるように手続きをしておくと安心です。ただし、これはあくまで緊急時の手続きであり、日常的な管理のサポートではありません。
支払い忘れを防ぐ「自動化」と「チェック体制」
公共料金や家賃の支払い忘れは、生活の維持に直結する大きなトラブルです。これらを防ぐためには、手動での支払いを極力なくし、自動化を徹底します。
- 自動引き落としの徹底:可能な限りの固定費を自動引き落としに設定し、支払い専用口座の残高を支援者が毎月チェックします。
- 通知システムの活用:公共料金の支払い通知や、銀行口座の残高が一定額を下回った際のメール通知を家族・支援者が共有できるように設定します(ご本人の同意必須)。
- 視覚的な支払いリスト:自動引き落としではない支払い(例:福祉サービスの自己負担金の一部)がある場合は、カレンダーやホワイトボードに色分けしたチェックリストを作成し、ご本人と一緒に確認するルーティンを組み込みます。
✅ 成功のコツ
自動引き落とし口座には、常に1ヶ月分の固定費プラスαの「安全バッファ(ゆとり資金)」を残しておきましょう。これにより、予期せぬ引き落とし額の増加や、入金遅れによるエラーを未然に防げます。
重大なトラブルを防ぐ公的サポートの活用
日常生活自立支援事業の役割
「判断能力は不十分だが、支援を受ければ日常生活は送れる」という方を対象に、社会福祉協議会が提供するのが「日常生活自立支援事業」です。
この事業の支援員は、ご本人との契約に基づき、以下のような金銭管理のサポートを行います。
- 金銭管理の補助:公共料金の支払いや、年金・手当の受取、預金の引き出しなどの手続きを代行・補助します。
- 書類管理:通帳、印鑑、契約書類などの大切な書類を預かり、安全に保管します。
- 契約の支援:福祉サービス利用契約など、生活に必要な契約を締結する際の支援を行います。
この制度は、ご本人の意思を尊重しつつ、プロの支援員による継続的な金銭管理サポートを受けられるため、家族の負担軽減にもつながります。(有償サービス)
成年後見制度:最終的な財産保護
知的障害や精神障害などにより、判断能力が常に不十分であり、悪質な詐欺や浪費により財産を失う危険性が高い場合は、「成年後見制度」の利用を検討する必要があります。これは、家庭裁判所に申し立てて後見人(親族、弁護士、司法書士など)を選任してもらう公的な制度です。
後見人は、ご本人の財産を保護し、生活に必要な契約を代行・同意することで、法的にご本人を守ります。特に、双極性障害の躁状態での多額の借金など、ご本人の自由な意思決定が財産を危機に晒す場合に、財産保全の最後の砦となります。
⚠️ 注意
成年後見制度は、ご本人の意思決定の自由を制限するため、ご本人の残存能力を最大限に活用する他の支援(福祉サービス、日常生活自立支援事業など)を試みた上で、慎重に検討すべきです。
よくある質問とより良い関わりのためのヒント
Q1. 支払い忘れを注意する際、感情的になってしまいます。どうしたら良いですか?
A. 支払い忘れへの対応で感情的になるのは、ご家族や支援者が責任感からくる強いストレスを感じているためです。以下の対策を試みましょう。
- 役割の明確化:感情的な注意を避けるため、「支払いのチェック」を支援者だけの役割にするのではなく、「チェックリストを見て、ご本人がチェックする」というルーティンに変えましょう。
- 第三者の介入:金銭管理がストレスの原因になっている場合は、日常生活自立支援事業や相談支援専門員といった第三者に支払い管理の役割の一部を移行することを検討してください。
Q2. 隠れて借金をしていることが発覚しました。どう対応すべきですか?
A. 借金が発覚した場合、まずは「責めるのではなく、一緒に解決策を探す」姿勢で臨むことが大切です。浪費や隠し事は、孤独感やストレスから生じていることもあります。
- 借金総額の把握:すべての借入先と金額を正直に申告してもらい、正確な総額を把握します。
- 専門家への相談:すぐに自立相談支援機関(家計改善支援事業)や弁護士(法テラス)に相談し、債務整理が必要かを判断してもらいます。
- 再発防止策:借金が病状によるものであれば、主治医と相談し、病状安定のための治療と、成年後見制度などによる物理的な制限を検討します。
Q3. お金の話をする頻度はどれくらいが良いですか?
A. 理想は、「給与/年金が入った直後」と「月末」の月2回、定期的に行うことです。
- 月初(入金直後):今月の予算を一緒に確認し、固定費を移動させる作業を行います。
- 月末(消費後):今月何に使ったか、予算内に収まったかを一緒に振り返ります。
日常の買い物はご本人の裁量に任せ、定期的なチェックと振り返りの時間を設けることで、監視ではなく「学びと共同作業」というポジティブな関わりに変えられます。
まとめ
金銭トラブルを防ぐための家族・支援者の関わり方は、「自立の尊重」と「財産の保護」のバランスを取ることが鍵です。ご本人の障害特性を理解し、できることを最大限に活かしながら、物理的な制限と自動化によってトラブルの可能性を最小限に抑える仕組みを作りましょう。
もし、ご家族だけで対応が困難な場合は、日常生活自立支援事業や成年後見制度といった公的なサポートを積極的に活用してください。適切なサポート体制を構築することで、ご家族もご本人も安心して生活を送り続けることができます。
まとめ
- 金銭管理の困難さは障害特性と理解し、ご本人の意思を尊重して関わる。
- 自動引き落としと口座の分離を徹底し、お金を物理的に使えない仕組みを作る。
- 衝動買いや浪費のリスクが高い場合、クレジットカードや大金の管理を制限する。
- 日常生活自立支援事業や成年後見制度など、第三者の公的サポートを積極的に利用する。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





