就労移行支援×地域イベントの取り組み事例

「就職活動に必要な実践的なスキルを、どうやって身につければいいだろう?」
「施設の中での訓練だけでなく、実際の社会や地域の人々との関わりを通じて、自信をつけたい」
就労移行支援を利用されている当事者の方や、その支援者の皆様にとって、「働く」という目標の達成には、施設内での訓練を超えた「リアルな社会体験」が不可欠です。しかし、一般企業での職場実習の機会は限られており、多くの方が「実践経験の不足」という課題に直面します。
この記事では、就労移行支援事業所が、地域のイベントや祭りといった活動と積極的に連携し、利用者の方に実践的な就労スキルと地域との繋がりを提供するユニークな取り組み事例をご紹介します。地域イベントを「実践的な職場」として活用し、就職に向けた確かな自信と実績を積み上げるためのヒントを探っていきましょう。
就労移行支援×地域イベント連携の3つのメリット
1.「疑似職場」での実践的なスキル習得
地域イベントは、期間限定ながらも、実際の業務の流れや人間関係を体験できる「疑似職場」として機能します。施設内の訓練では習得が難しい、応用力や臨機応変な対応力を身につける絶好の機会です。
- 接客・コミュニケーションスキル: 模擬店での商品販売、来場者への道案内、イベント内容の説明など、多様な年齢・属性の地域住民との対話経験。
- チームワーク・協調性: 設営・撤収作業、ブース運営など、他の利用者や地域ボランティアと協力して一つの目標を達成する経験。
- 時間管理・自己管理: 決められた時間内に作業を完了させる、休憩や体調を自己管理しながら働く、といった基本的な職業マナーの習得。
「訓練室でのロールプレイングでは、失敗を恐れて消極的だった利用者さんが、イベントの場で地域の方から『ありがとう』と言われた瞬間、見違えるように自信を持って接客できるようになりました。この成功体験が何よりも重要です。」
— 就労移行支援事業所 職員 I氏(千葉県船橋市)
イベントの「非日常性」が、利用者の潜在能力を引き出す起爆剤となるのです。
2.「福祉の壁」を越えた地域社会への貢献と繋がり
就労移行支援と地域イベントの連携は、利用者の方が「支援される側」から「地域社会に貢献する側」へと役割を転換する機会を提供します。
イベントを通じて、地域住民は障害者支援の現場に触れる機会を得られ、障害のある方の「働く力」や「真剣さ」を目の当たりにします。これにより、「障害者=働けない」という誤解が解消され、地域社会全体の障害理解が深まり、雇用への意識も変化します。
また、イベント運営に関わる地域企業や団体との非公式なネットワーキングが生まれ、実習先の開拓や、潜在的な求人情報に繋がる可能性も高まります。
3.職務経歴書に書ける「実績」の獲得
就職活動において、障害のある方はしばしば「ブランク」や「職務経験の不足」に直面します。地域イベントでの活動は、具体的な実績として職務経歴書に記載できる貴重な材料となります。
例えば、「地域防災イベントにて、受付・資料作成業務を合計20時間担当」「模擬店にて、売上目標達成に貢献」といった具体的な表現は、企業に対し、「この利用者は、実社会で働く意欲と能力を持っている」という強力なアピールポイントとなります。
【活動内容別】就労移行支援連携の成功事例
1.地域のフードフェスティバルへの出店・運営サポート
地域事例: 大阪府大阪市淀川区の商店街主催「フードマルシェ」
就労移行支援事業所の利用者が、カフェや飲食業での就職を目指す訓練の一環として、地域のフードフェスティバルに模擬店を出店し、商品の企画から販売、会計までを一貫して担当します。
実践的な訓練内容:
- 原価計算と売上予測: 商品の仕入れ、調理、販売価格の設定といった、ビジネスの基礎を学ぶ。
- 接客とクレーム対応: 迅速な接客、金銭の授受、混雑時の対応、食品衛生管理など、飲食業に必要な実践スキル。
- 広報・マーケティング: ポスター作成、SNSでの広報など、集客に向けた作業も担当。
この活動は、目標達成に向けたチーム連携を最も必要とし、利用者間のコミュニケーション能力を大きく高めます。
2.自治体主催の防災訓練・イベントの受付業務
地域事例: 東京都八王子市役所と連携した「市民防災フェスタ」サポート
事務職や一般企業での就職を目指す利用者向けに、行政が主催する大規模イベントの「事務的なサポート」を担います。これは、公的な場でのマナーや正確性を学ぶ良い機会です。
実践的な訓練内容:
- 受付・来場者名簿管理: 正確なデータ入力、個人情報保護の意識を持ちながらの対応。
- 資料作成・配布物準備: イベント資料の印刷、封入、仕分けなど、事務職で必須の細かな作業。
- 電話・内線対応: 緊張感のある公的な場での、適切な言葉遣いと応対スキル。
行政機関という緊張感のある環境での業務経験は、責任感と職業意識を養います。
3.地域の文化施設と連携したインクルーシブイベント運営
地域事例: 宮城県仙台市青葉区の市民図書館と連携した「ユニバーサル・読み聞かせ会」
サービス業や福祉分野での就職を目指す利用者向けに、イベントの企画・運営を通じて「他者への配慮」や「問題解決」を学ぶ活動です。これは、目に見えない「心のスキル」を育みます。
実践的な訓練内容:
- イベント企画・立案: 利用者のニーズ調査、ターゲット設定など、企画から実行までのPDCAサイクルを体験。
- 環境調整: 聴覚過敏の子ども向けに音量を調整したり、車いす利用者のために通路を確保したりといった、インクルーシブな視点に基づいた環境整備。
- アンケート・評価: 参加者からのフィードバックを収集し、改善点を分析する。
この活動は、ホスピタリティ精神と、障害理解を深める上で非常に有効です。
地域イベント連携を成功させるための支援ポイント
4.「失敗の許容」と「フィードバック」の仕組み化
地域イベントは、訓練の場であると同時に「失敗しても許容される環境」でなければなりません。支援者は、失敗を恐れずに挑戦できる雰囲気作りを徹底する必要があります。
- 事前準備の徹底: 業務手順を視覚的に分かりやすいマニュアル(ソーシャルストーリー)にし、予期せぬトラブルへの対処法を訓練しておく。
- 段階的な関わり: 最初は支援員がマンツーマンで補助し、徐々に補助の頻度を減らしていくスキャフォールディング(足場かけ)の原則を適用する。
- ポジティブ・フィードバック: イベント終了後、良かった点(ポジティブな行動)を具体的に伝え、改善点は「次はどうするか」という建設的な視点で話し合う。
イベントを「成功」させることよりも、「学び」を得ることに重点を置く姿勢が、利用者の成長を促します。
5.地域イベント主催者への丁寧な連携と説明
地域イベントへの参加を円滑に進めるためには、主催者(町内会、商店街、行政など)に対する丁寧な説明と信頼構築が欠かせません。
- 目的の明確化: 「慈善活動ではなく、就職に向けた実践的な訓練である」という目的を明確に伝え、活動をボランティアと区別する。
- 支援体制の提示: 支援員の配置人数、緊急時の連絡体制、トラブル時の対応策などを具体的に提示し、主催者の不安を取り除く。
- 事前の顔合わせ: 利用者と主催者、ボランティアリーダーとの顔合わせの場を設け、人間関係の基盤を作っておく。
主催者側の安心感を得ることで、事業所と地域との継続的な連携が可能になります。
6.訓練記録とポートフォリオの作成
地域イベントでの活動を、単なる思い出で終わらせず、就職活動に繋げるための資料として体系的に残すことが重要です。
- 客観的な評価記録: 主催者や地域ボランティアからの「利用者への業務評価コメント」を依頼し、客観的な実績として記録に残す。
- 活動ポートフォリオ: イベントでの写真、作成した資料、業務マニュアル、売上データなどを整理し、就職面接で提示できる「活動ポートフォリオ」を作成する。
このポートフォリオは、企業の採用担当者に対し、訓練内容を具体的に理解してもらうための強力なツールとなります。
よくある質問(FAQ)と情報入手先
就労移行支援×地域イベントに関するQ&A
Q1:地域イベントへの参加は、工賃が発生しますか?
A1: 地域イベントでの活動は、多くの場合、「就労移行支援の訓練の一環」として行われるため、工賃や賃金は発生しません。ただし、イベント運営側がボランティアとして交通費や食費を支給してくれる場合があります。就労継続支援B型がイベントに出店し、製品を販売する場合は、売上に応じた工賃が発生します。
Q2:イベントでパニックになったり、体調を崩したりしたらどうなりますか?
A2: イベント中は、必ず支援員が帯同し、体調や精神状態を常にチェックしています。体調不良やパニックの兆候が見られた場合は、すぐに静かな休憩エリアや事業所へ戻るための体制が取られています。また、主催者にも緊急時の連絡体制を事前に共有していますので、安心してご参加ください。
Q3:どのようにして地域イベントの情報を見つければ良いですか?
A3: 市町村の観光課や商工会、社会福祉協議会(社協)に問い合わせるのが最も確実です。地域の商店街のウェブサイトや、公民館の掲示板も重要な情報源です。事業所職員が、これらの窓口に日頃から顔を出して連携しておくことが重要です。
困った時の相談窓口と参考リンク
就労移行支援と地域イベント連携に関する相談は、以下の窓口をご利用ください。
- お住まいの地域の就労移行支援事業所: 具体的な訓練内容や地域連携の有無を確認。
- 各市町村の商工会・観光協会: 地域イベントの年間スケジュールや、主催者団体を紹介。
- 地域のハローワークの専門援助部門: 実習や訓練の経験を、就職活動でどのように活かすかのアドバイス。
全国の就労移行支援の地域連携事例は、当ポータルサイトの地域就労支援特集ページでも随時更新しています。
まとめ
この記事では、就労移行支援と地域イベントを連携させた、実践的な就労訓練の取り組み事例をご紹介しました。
大阪のフードフェスティバル、東京の防災フェスタ、仙台のユニバーサル・読み聞かせ会など、地域イベントは、施設内では得られない「実践的なスキル」「地域との繋がり」「職務経歴書に書ける実績」を提供する貴重な機会です。これらの活動は、働く意欲のある利用者の方の自信を大きく高め、就職の成功率を向上させます。
支援者・ご家族は、失敗を許容する温かいフィードバックと、イベント主催者への丁寧な説明を徹底し、この地域資源を最大限に活用しましょう。地域イベントへの参加を通じて、就職という目標の実現を確かなものにしてください。
- 地域イベントは、実践的なスキル習得と自信に繋がる疑似職場です。
- 職務経歴書に書ける客観的な実績を獲得できます。
- 支援者は、失敗を許容し、ポジティブなフィードバックを重視しましょう。
- 市町村の商工会や観光協会が、情報収集の鍵となります。

原田 彩
(はらだ あや)35歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として10年、地域の福祉資源の発掘と繋ぎに力を入れています。「この街で暮らす」を支えるために、施設情報だけでなく、バリアフリースポットや割引施設など、生活を豊かにする地域情報をお届けします。
大学で福祉を学び、卒業後は地域の相談支援事業所に就職。当初は「障害福祉サービス」だけが支援だと思っていましたが、地域の中には使える資源がたくさんあることに気づきました。例えば、障害者割引が使える映画館、バリアフリー対応のカフェ、当事者の方が集まれるコミュニティスペースなど。こういった情報を知っているかどうかで、生活の質が大きく変わります。特に印象的だったのは、引きこもりがちだった方が、近所のバリアフリー図書館を知り、そこで読書会に参加するようになったこと。「外に出るのが楽しくなった」と言ってくださいました。記事では、すぐサポの26万件の施設データベースを活用しながら、地域ごとの福祉サービスの特徴や、知って得する地域情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で福祉を学び、地域の中に使える資源がたくさんあることに気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
引きこもりがちだった方が、バリアフリー図書館を知り、読書会に参加するようになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
すぐサポの施設データベースを活用し、地域ごとの特徴や知って得する情報を発信します。
🎨 趣味・特技
街歩き、写真撮影
🔍 最近気になっているテーマ
インクルーシブな街づくり、ユニバーサルデザイン





