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相手の気持ちが分からないときのヒントとサポート方法

📖 約51✍️ 谷口 理恵
相手の気持ちが分からないときのヒントとサポート方法
相手の気持ちが分からない問題は、ASD特性などによる「心の理論」の困難さ、すなわち非言語サインの読み取りや他者の視点取得の困難に起因します。対処法として、曖昧な感情を「表情チャート」や「感情の強度スケール」で視覚化・数値化します。また、遠回しな言葉は「具体的にどの部分を?」といった質問で意図を「翻訳」し、自分の特性を伝える「メタコミュニケーション」で誤解を防ぎます。他者の視点に立つため、ドラマや漫画の「セリフ予測」トレーニングを行います。家族や支援者は、非言語サインの「通訳」やSSTでのロールプレイングを通じてスキル獲得をサポートし、失敗を恐れないレジリエンスを育むことが重要です。

「友だちが急に不機嫌になった理由が全くわからない」「同僚の遠回しな批判に気づかず、後で大変なことになった」「なぜ相手が笑っているのか、怒っているのか、その感情の理由が推測できない」

人間関係において、私たちは言葉だけでなく、表情、声のトーン、ジェスチャー、文脈といった非言語的な情報から、相手の心の中の状態(思考、感情、意図)を推測しています。この能力は**「心の理論(Theory of Mind: ToM)」**と呼ばれます。しかし、発達障害(特にASD:自閉スペクトラム症)の特性を持つ方々は、この心の理論の獲得と実践に困難を抱えることが少なくありません。その結果、他者の感情や意図が「予測不可能」なものとなり、誤解、対立、不安といった人間関係の大きなストレスにつながります。このストレスは、対人交流への強い回避行動や、二次的な精神的な課題を引き起こす原因となります。

この記事では、「相手の気持ちが分からない」という問題の背景にある心の理論の困難さを理解します。そして、曖昧な感情や意図を「明確な情報」として捉え直すための具体的な4つのヒントと、家族や支援者が実践できる効果的なサポート方法を詳細に解説します。相手の心を「翻訳」する具体的な技術を身につけ、予測可能で安心できる人間関係を築くためのロードマップを見つけましょう。


1.「相手の気持ちが分からない」背景にある心の理論の困難さ

「相手の気持ちが分からない」という課題は、感情の欠如ではなく、情報処理の特性に起因します。心の理論の困難さが、どのように人付き合いを難しくしているかを理解しましょう。

困難さ1:非言語的なサインの読み取り困難

心の理論を実践するための情報源の約7割を占めるとされる**非言語的なサイン(表情、視線、ジェスチャー、声のトーン)**の解釈が苦手です。

  • 表情の解釈: 複雑な感情(例:皮肉、戸惑い、悲しみを隠した笑顔)を表現した表情を、**特定の感情(例:喜び、怒り)**として一対一で結びつけることができず、ニュアンスの読み取りが困難。
  • 文脈との統合: 言葉の内容(例:「大丈夫だよ」)と、非言語サイン(例:腕を組み、視線を合わせない)が矛盾している場合、言葉(論理的な情報)を優先してしまい、相手の真の意図(例:本当は大丈夫ではない)を見落とす。
  • 結果: 相手がすでに怒っている、不満を感じているといった状態に気づかず、対応が遅れてしまうことで、トラブルを深刻化させる。

困難さ2:他者の視点に立つ「視点取得能力」の課題

自分とは違う他者の知識や信念が存在するということを理解し、「もし自分が相手の立場だったら」と考える「視点取得」が困難です。これが、誤解を生み出す最大の原因となります。

  • 知識の共有: 自分が知っている情報や興味のある話題は、相手も知っているはずだと思い込み、会話の前提(背景情報)を省略してしまう。結果、相手は話についていけず、「話が分かりにくい」と評価される。
  • 意図の推測: 相手が遠回しに言っていることや、皮肉(例:「こんな簡単なこともできないの?」)を、そのまま額面通りの情報として受け取り、その裏に隠された意図(例:批判、不満)を推測できない。

困難さ3:予測と「見立て」の困難

過去の経験や一般的な社会的なルールに基づいて、次に何が起こるか、相手が何を期待しているかを予測する「見立て」が苦手です。

  • 場の空気: 会議が長引いているときの疲労感、休憩時間が終わったときの切り替えなど、「場の空気」から予測される**「次にすべき行動」**がわからない。
  • 予期せぬ変化への対応: 予定外の出来事(例:待ち合わせの遅延)が発生したとき、相手が感じているであろう苛立ちや不安を推測できないため、自己中心的な反応(例:自分の不満だけを訴える)をしてしまう。

2.ヒント1:曖昧な感情を「視覚化」と「分類」で明確化する

心の理論の困難さを補うためには、曖昧で流動的な感情を、視覚的で構造化された情報に変換することが有効です。

戦略1:感情の「言語化辞書」と「表情チャート」の活用

感情を具体的な言葉や視覚情報と結びつけるためのツールを常時活用します。

  • 感情辞書の作成: 「不安」「戸惑い」「苛立ち」「落胆」といった複雑な感情について、その定義、トリガー(原因)、対応する表情を辞書として書き出し、「この表情=この感情」と論理的に結びつける練習を行う。
  • 表情チャートの携帯: 基本的な感情(喜怒哀楽)だけでなく、「困惑」「うんざり」「皮肉」といった複雑な表情を表現したイラストや写真のチャートを携帯し、会話中に参照する。

戦略2:「感情の強度スケール」で波を測る

相手の感情がどの程度強いかを、客観的な指標で把握することで、適切な対応を選択しやすくします。

  • 強度の数値化: 相手が不満を訴えている場合、「怒りレベルを10段階で表すと、今どのくらいですか?」と、直接相手に質問して数値を教えてもらう。これが難しい場合は、自分の体感で「声のトーンが2段階上がった=苛立ちレベル5」といったルールを設定する。
  • 行動のルール化: 怒りレベルが7点以上の場合、「その場から離脱する(タイムアウト)」という行動ルールを事前に決めておく。

3.ヒント2:会話の「論理的確認」と「メタコミュニケーション」

誤解を未然に防ぎ、会話を前に進めるためには、推測を避け、意図を言葉で確認し合うという「論理的確認」の戦略が必要です。

戦略1:質問による「意図の翻訳」

相手の曖昧な表現や遠回しな言い方を、具体的な質問で確認し、相手の意図を明確な言葉に「翻訳」します。

  • 遠回しな批判への対応:
    • 相手:「この資料、もうちょっと頑張ってほしかったな。」
    • 自分:「(翻訳の質問)具体的に、どの部分を、どのように改善すれば良いか教えていただけますか?」と具体的な行動を尋ねる。
  • 皮肉・冗談への対応:
    • 相手:「君の仕事ぶりは、驚くほど丁寧だね。(皮肉)」
    • 自分:「(翻訳の質問)それは、本当に丁寧だということですか?それとも、何か不満がありますか?」と真意を尋ねる

戦略2:会話の「メタコミュニケーション」導入

「今、コミュニケーションがうまくいっていない」という状況自体を、会話の主題として持ち出し、ルールを調整します。

  • ルールの提案: 「私は非言語的なサインを読むのが苦手です。もし私の話に不満があったり、急いでいたりしたら、言葉でハッキリと伝えてくれると助かります」と、自分の特性と相手への依頼を明確に伝える。
  • 状態の開示: 自分が混乱しているとき、「すみません、今、情報が多すぎて頭がフリーズしています。少し時間をください」と、自分の認知の状態を正直に開示する。

4.ヒント3:他者の視点に立つ「シミュレーション」の練習

視点取得能力の困難さを補うためには、意図的に他者の視点を取り込むためのシミュレーション(仮想練習)が必要です。

戦略1:「マンガのセリフ予測」トレーニング

日常生活で、他者の状況や感情を推測するための簡単なトレーニングを行います。

  • トレーニングの実施: ドラマや漫画の吹き出し(セリフ)がない場面を見て、登場人物の表情、状況、前のセリフから、「この後、この人は何を考え、何を言うか?」を予測してセリフを書き出す。
  • フィードバック: 実際にセリフを確認し、自分の予測とのズレを分析し、**「なぜズレたのか(情報不足、表情の読み間違い)」**を支援者と共に考える。

戦略2:「〇〇の視点チェックリスト」の活用

ある行動を取る前に、その行動が他者にどう影響するかをチェックリストで確認する習慣をつけます。

  • 行動前のチェック: 自分が何か発言したり、行動を起こしたりする前に、以下の3つの質問を自問します。
    1. この行動は、相手の今日の予定や体調に影響するか?
    2. この言葉は、過去の相手の言動と矛盾しないか?(皮肉ではないか)
    3. 相手は、私のこの行動に対して、ポジティブな感情を持つか?
  • チェックの外部委託: 重要な場面では、支援者に事前にチェックリストを確認してもらうなど、**「セカンドオピニオン」**を求める。

5.サポート方法:家族・支援者にできる具体的な支援

心の理論の困難さを抱える方にとって、**最も強力なサポートは、周囲の適切な理解と「通訳」**です。家族や支援者は、以下の点に注力してサポートしましょう。

支援1:コミュニケーションの「通訳」と「言語化の支援」

曖昧な情報や非言語サインを、具体的な言葉に翻訳して伝え、情報処理の負担を軽減します。

  • 非言語の言語化: 当事者が非言語サインを読み取れていないと感じたとき、**「〇〇さんは今、眉間にシワを寄せています。これは『不満』のサインですよ」**と、観察した事実と感情の結びつきを即座に言語化して伝える。
  • 意図の明確化: 相手の遠回しな言い方(例:「もう少し早めに来た方がいいよ」)を、「つまり、相手はあなたに10分前行動を求めているということです」と、具体的な行動レベルの要求に翻訳して伝える。
  • 会話の前提補完: 会話の前提(例:その話題になった背景、関係者の知識)が抜けている場合、「これは先日の会議で決まった〇〇の件ですよ」と、会話の文脈を補足する。

支援2:SSTと感情リテラシー教育の実施

心の理論を補うための具体的なスキルを、安全な環境で体系的に教えます。

  • ロールプレイング: 過去に誤解を生んだ場面を想定し、支援者が感情豊かな表情や曖昧な言葉遣いを演じ、当事者に**「今、私は何を考えていますか?」**と質問させ、推測の練習を繰り返す。
  • 感情リテラシー教育: 喜び、怒りといった感情が、なぜ生じるのか(原因)、**どのような行動につながるのか(結果)**を、論理的な図やマニュアルを用いて教え込む。

支援3:「失敗の許容」とレジリエンスの強化

誤解が生じることは避けられません。重要なのは、失敗から立ち直る力(レジリエンス)をサポートすることです。

  • 非難しない環境: 誤解が生じたとき、「あなたが悪い」と責めるのではなく、「あのとき、相手はこういう表情だったから、こういうふうに解釈されたようだね」と、客観的な分析に徹する。
  • 自己肯定感の維持: 対人関係で成功した小さな体験(例:質問で誤解を防げた、相手の笑顔に気づけた)を具体的に褒め「あなたはコミュニケーションを改善できる」という自信を育む。

まとめ

相手の気持ちが分からないという課題は、非言語サインの読み取り困難、視点取得の課題といった「心の理論」の困難さに起因します。この課題を乗り越えるためには、曖昧さを排除し、感情や意図を「明確な情報」として捉え直す戦略が必要です。

  • 曖昧な感情は「表情チャート」や「感情の強度スケール」視覚化・数値化しましょう。
  • 相手の遠回しな表現は、「具体的に、どの部分を?」といった質問による「意図の翻訳」で明確化し、「私はサインを読むのが苦手」といったメタコミュニケーションでルールの調整を行いましょう。
  • ドラマや漫画を活用した「セリフ予測」トレーニングや、行動前のチェックリストで他者の視点を取り込むシミュレーションを行いましょう。
  • 家族や支援者は、非言語サインの「通訳」を行い、SSTでのロールプレイングを通じて、実践的なスキルの定着と心のレジリエンスの強化をサポートしましょう。

相手の気持ちを理解する能力は、訓練によって補うことができます。

谷口 理恵

谷口 理恵

たにぐち りえ45
副編集長📚 実務経験 20
🎯 生活サポート🎯 地域情報

📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者

介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。

介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。

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💭 福祉の道を選んだ理由

大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。

🎨 趣味・特技

料理、ガーデニング

🔍 最近気になっているテーマ

一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生

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