片付けられない理由と障害特性ごとの対処法

「片付けられない」のはなぜ?障害特性ごとの理由と具体的な対処法
「どうして自分だけ片付けができないんだろう」「やる気はあるのに部屋が散らかってしまう」と、片付けに関する悩みを抱えていませんか?片付けられないことで、探し物に時間がかかったり、生活空間が狭くなったり、精神的な負担を感じたりすることは少なくありません。
片付けの困難は、個人の努力不足ではなく、障害の特性や認知機能に深く関わっていることが多くあります。この記事では、特に発達障害や精神障害のある方に焦点を当て、片付けが難しい具体的な理由と、それぞれの特性に合わせた効果的な対処法、そして利用できる公的な支援サービスを詳しく解説します。
あなたらしいペースで、快適な生活空間を取り戻すための、具体的なヒントと一歩を踏み出す勇気を、ここから見つけていきましょう。
片付けの困難を生む「実行機能」の課題
片付けとは、単に物をしまう動作だけではありません。それは、高度な認知機能である「実行機能(Executive Function)」が関わる複雑な作業です。特に、発達障害や精神障害のある方は、この実行機能に特性があるため、片付けに困難を感じることが多くなります。
実行機能の3つの課題:片付けを阻む壁
片付けを困難にしている実行機能の課題は、主に以下の3点に分類されます。
- 計画・開始の困難(着手): 「どこから始めればいいかわからない」「何から手をつけていいか決められない」といった理由で、片付けを始めること自体が難しい。
- 維持・管理の困難(持続): 途中で別の作業に気が散ってしまう、疲れてしまい最後まで完了できない、といった理由で、作業を継続することが難しい。
- 整理・判断の困難(分類・決定): 「これはいるものかいらないものか」「どこにしまえばいいのか」といった判断や、分類、優先順位付けが難しく、作業がフリーズしてしまう。
これらの課題は、「散らかっている」という抽象的な情報を、「特定の場所にある特定の物を、特定の場所にしまう」という具体的な行動に変換することを妨げます。
ADHD特性:「衝動性」と「時間管理の困難」
注意欠如・多動症(ADHD)の特性を持つ方にとって、片付けの困難は特に顕著です。
- 衝動的な収集: 衝動的に新しい物を購入しやすく、物の量が増えすぎる傾向があります。
- 物を元の場所に戻せない: 「後でやろう」と思っても、すぐに忘れてしまうか、目の前のことに集中してしまい、物を一時的な場所に置きっぱなしにしてしまいます。
- 時間の見通しが立たない: 片付けにかかる時間が予測できないため、始めるのが億劫になり、「たった5分の作業」であっても手をつけられなくなります。
ADHDへの対処法は、「仕組み」で衝動と忘れやすさをカバーすること、そして「タイマー」を使って時間を区切ることです。
障害特性別:片付けられない理由と具体的な対処法
ここでは、障害特性ごとに「なぜ片付けられないのか」を深掘りし、それぞれの特性に合わせた具体的な対処法を提案します。
発達障害(ADHD・ASD):仕組み化と視覚的な補助
発達障害(自閉スペクトラム症/ASDとADHD)のある方への片付け支援では、抽象的な指示を排し、誰でも理解できる具体的な「仕組み」を作ることが成功の鍵です。
ADHD(衝動性と不注意が強い場合)の対処法
- ゴールデンゾーンの活用: 最も散らかりやすい「行動範囲内」に、物の定位置をわかりやすく作る(ゴールデンゾーン)。定位置に戻す動作を最小限にすることが、忘れやすさへの対策になります。
- 「とりあえずボックス」の導入: すぐに判断できない物や、散らかっている物を、一旦すべて放り込む「とりあえずボックス」を設置します。判断を保留することで、作業のフリーズを防げます。ただし、ボックスの中身を定期的にチェックする日(例:週に一度)をルーティン化する必要があります。
- タイマー管理: 「完璧を目指さない」ことを目標に、タイマーを10分だけセットし、その時間だけ片付けを行う習慣をつけます。短時間で集中することで、途中で飽きたり疲れたりするのを防ぎます。
ASD(自閉スペクトラム症・こだわりが強い場合)の対処法
- 徹底的な「分類」と「見える化」: 収納場所に、写真やイラスト、文字で「何がどこに入るか」を明確に示します。定位置のルールを視覚的に提示することで、混乱や不安を減らします。
- 扉のない収納: 扉や引き出しがあると、開けて中身を確認する手間が増え、収納すること自体が億劫になります。棚やオープンボックスを活用し、ワンアクションで収納を完了できるようにします。
- 段階的な「捨てる」訓練: 強いこだわりや収集癖がある場合、物を捨てる判断が非常に困難です。支援者や家族と一緒に、段階的に「使用頻度」や「必要性」を客観的に評価する訓練を行います。
精神障害:気分の波への対応とアウトソーシング
気分障害(うつ病、双極性障害など)や統合失調症などの精神障害のある方の場合、片付けの困難は、意欲の低下や疲労感、認知機能の変動に強く影響されます。
- 意欲低下への配慮: 気分が落ち込んでいる時期は、片付けそのものを支援サービス(居宅介護など)にアウトソーシング(外部委託)することを最優先します。無理に片付けようとすることは、病状の悪化につながる可能性があります。
- 「ごく一部」のエリアに絞る: 調子が良い日であっても、すべての部屋を片付けようとせず、「テーブルの上だけ」「玄関だけ」など、ごく一部のエリアに限定して作業を行います。
- 物を減らす: 物理的に物の量が少なければ、片付けの難易度は下がります。体調が良い時期に、支援者や家族と一緒に不要な物を処分し、日常的に片付けが必要な物の量を減らす努力をします。
✅ 成功のコツ
片付けの目標は、「部屋をモデルルームのように完璧にすること」ではありません。 目標は、生活に支障のないレベルの清潔さと安全を維持することです。支援者やご家族は、当事者の方の「安全で快適に眠れる空間」を確保することを最優先に考えましょう。
片付けの困難を克服するための支援サービス
自力での片付けが難しい場合、公的な福祉サービスや専門家の力を借りることが最も現実的かつ効果的な解決策となります。一人で抱え込まず、利用できるサービスを積極的に活用しましょう。
居宅介護サービス:生活援助で片付けを代行
障害福祉サービスの「居宅介護」に含まれる生活援助は、ホームヘルパーが自宅を訪問し、日常生活を送るために必要な家事を代行してくれるサービスです。片付けや整理整頓も、このサービスに含まれます。
- 整理整頓の代行: 散らかった物を元の定位置に戻す、床の物を片付けて掃除機をかけられるようにするといった作業を、ヘルパーが実施します。
- 環境の維持: 定期的にヘルパーが訪問することで、部屋が極端に散らかることを防ぎ、清潔で安全な生活環境の維持を可能にします。
⚠️ 注意
生活援助は、ご本人の日常生活に必要な範囲を超えた「大掃除」や「不用品の処分」といった作業は原則として対象外です。ゴミ屋敷のような状態からの脱却を目指す場合は、まず相談支援専門員に相談し、他の専門業者との連携を検討してもらう必要があります。
自立訓練(生活訓練):片付けスキルの習得
「片付けのスキルを身につけたい」「自分でできるようになりたい」という意欲がある方には、「自立訓練(生活訓練)」が非常に有効です。これは、生活能力の維持・向上のための訓練プログラムを提供するサービスです。
- 片付けの「プロセス」学習: 「出す→分ける(要不要)→捨てる・しまう」といった片付けの基本プロセスを、座学や実習を通じて学びます。
- 個別化された収納指導: 支援員が、利用者の特性(ADHDなら見える収納、ASDならラベリングなど)に合わせた最適な収納方法を具体的に指導し、一緒に環境を整えていきます。
- 反復練習と習慣化: 事業所内や、状況に応じて自宅で、小さなエリアから片付けを実践し、それをルーティン化するための支援を行います。
ある自立訓練の事例では、利用者が「収納ケースの色や形がバラバラなのがストレスで片付けられない」ということに気づき、統一された収納ケースを導入したところ、片付けへの意欲が大幅に向上したという報告があります。このように、特性に応じた具体的な環境調整が成功の鍵を握ります。
専門職によるアプローチ:OTと相談員の連携
片付けの困難を解消するためには、単なる家事代行に留まらず、専門職によるアセスメントと継続的な支援計画が必要です。
作業療法士(OT):認知機能の評価と環境の専門家
作業療法士(OT)は、生活の活動(作業)を通じて、心身の機能回復や維持を目指す専門職です。片付けの困難に対して、OTは非常に専門的なアプローチを提供できます。
- 実行機能のアセスメント: 片付けのどのステップ(計画、着手、判断など)で躓いているのかを客観的に評価し、困難の原因を特定します。
- 環境支援の提案: 物の配置、収納方法、動線など、片付けやすい環境づくりの具体的かつ物理的なアドバイスを行います。例えば、手が不自由な方には、開閉しやすい収納扉や、把手(とって)の工夫などを提案します。
- 認知行動療法的アプローチ: 「完璧にしなければならない」という認知の歪みを修正し、「少しずつで大丈夫」という現実的な目標設定を支援します。
相談支援専門員:総合的な支援計画の調整
特定相談支援事業所の相談支援専門員は、片付けの困りごとを解消するための「司令塔」の役割を果たします。
- サービス連携: 居宅介護(代行)と自立訓練(スキル習得)をバランス良く組み合わせるための計画を作成します。
- 他機関との連携: 地域の片付け専門業者、精神科の訪問看護、デイケアなど、福祉サービス外の専門機関とも連携し、多角的なサポート体制を構築します。
- 家族・支援者への指導: ご家族やヘルパーが、利用者の方の特性を理解した上で、どのように声かけや支援を行えば良いか、具体的な方法を指導します。
💡 ポイント
片付けの問題は、しばしば安全や健康に関わります。物が散乱して転倒リスクがある、食品が腐敗しているなど、生活に重大な支障が出ている場合は、すぐに相談支援専門員に連絡し、緊急性の高い支援を検討してもらいましょう。
よくある質問(FAQ):片付けの困難と支援
片付けの困難と支援サービスに関する、当事者やご家族からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1: 物の量が多くて片付けられない場合、どうすればいいですか?
A1: 物の量が多すぎる(いわゆる「溜め込み」)場合は、まず「捨てる」判断が大きな壁となります。いきなり全てを片付けようとせず、以下のスモールステップを踏みましょう。
- 安全確保のエリアを作る: まずは、寝室のベッド周りや通路など、安全に生活するために必要な最小限のエリアから手をつけます。
- 「捨てる」を外部化: 支援者や専門業者に立ち会ってもらい、客観的な基準で要・不要を判断してもらいます。ご本人だけで判断しないことが重要です。
- 居宅介護や自立訓練の利用を相談: 定期的な片付けのサポート体制を構築します。
Q2: 障害者手帳がないと、片付けの支援サービスは受けられませんか?
A2: 障害者手帳の有無は、障害福祉サービス(居宅介護、自立訓練など)の利用の必須条件ではありません。医師の診断書や意見書など、障害や支援の必要性を証明する書類があれば、サービスの申請が可能です。まずは、特定相談支援事業所にご自身の状況を伝えて相談してください。
Q3: 家族が勝手に物を捨てると、かえって関係が悪くなりますか?
A3: はい、その可能性は非常に高いです。特にASDや強迫的な特性を持つ方にとって、許可なく物を捨てられることは強い不安や怒りにつながり、信頼関係が崩れてしまう原因となります。必ずご本人の同意を得て、一緒に判断しながら進めることが原則です。時間と労力がかかっても、ご本人の意思を尊重したプロセスを踏むことが、長期的な改善に繋がります。
Q4: 片付けの訓練は、どのくらいの期間継続するものですか?
A4: 自立訓練の利用期間は、原則として2年間ですが、個別のニーズによって延長が可能な場合があります。片付けは習慣化が重要であるため、短期間で劇的な変化を期待するよりも、数ヶ月〜1年程度かけてじっくりと「片付けられる仕組み」と「習慣」を身につけていくことを目標とします。訓練終了後も、居宅介護サービスなどで維持のサポートを継続することも可能です。
次の一歩:快適な空間を取り戻すための行動計画
片付けの困難は、あなたの生活の質(QOL)に深く関わる問題です。「できない」ことに焦点を当てるのではなく、「どうすればできるか」という前向きな視点で、今日から具体的な一歩を踏み出しましょう。
行動チェックリスト
- 困難の言語化: 片付けのどのステップ(始める、続ける、判断するなど)が一番難しいかを書き出しましたか?
- 相談窓口への連絡: 特定相談支援事業所または市町村の障害福祉窓口に連絡を取り、居宅介護や自立訓練の利用について相談しましたか?
- スモールステップの実行: 「タイマーを5分セットして、テーブルの上にある10個の物を所定の位置に戻す」など、小さな目標を一つだけ決めて実行しましたか?
- 支援者の指導: 支援者や家族に、この困難が「特性によるもの」であることを共有し、適切な声かけや支援方法について一緒に学びましたか?
参考相談先とリンク
- 特定相談支援事業所: 障害福祉サービス利用計画の作成、支援のコーディネート全般
- 地域の精神保健福祉センター: 精神的な健康相談、ピアサポートグループの紹介
- 作業療法士(OT)のいるリハビリテーション施設: 認知機能評価と環境整備の個別アドバイス
- 自治体の障害福祉担当課: 制度全般、申請手続き
まとめ
- 困難の根源: 片付けの困難は、発達障害や精神障害による実行機能の課題(計画、着手、判断など)が深く関わっています。「やる気」の問題ではないと認識しましょう。
- 特性別対処法: ADHD特性には、タイマー管理と「とりあえずボックス」、ASD特性には、写真やラベルを使った視覚的な構造化が特に有効です。
- サービスの活用: 居宅介護(生活援助)で日常的な片付けを代行してもらい、自立訓練(生活訓練)で片付けのスキルと習慣を習得するという、複合的な支援体制を構築しましょう。

酒井 勝利
(さかい かつとし)38歳📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター
作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。
リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。
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