移動が苦手な人のための地域サポートまとめ

移動が苦手な人のための地域サポート総まとめ:外出のハードルを下げる工夫と制度
病院への通院、役所での手続き、趣味の活動や友人との交流など、地域での生活には外出が欠かせません。しかし、「車椅子での移動が困難」「公共交通機関の利用が不安」「道に迷いやすい」「人混みでパニックになる」といった理由で、移動に大きな困難を感じている方も多くいらっしゃいます。
移動の困難は、単なる利便性の問題ではなく、社会との繋がりや生活の質(QOL)に直結する重要な課題です。ご自身の努力だけでは解決できない移動の困難は、福祉制度や地域のサポートを賢く活用することで、確実に軽減できます。
この記事では、身体的な移動の困難から認知機能による迷子の不安まで、障害特性別の課題を分析し、それらを解消するための公的制度、福祉サービス、地域資源を具体的にご紹介します。安心して外出できるようになるための、具体的な一歩を見つけていきましょう。
移動の困難を生む原因別アプローチ
移動の困難は、大きく「身体的な要因」と「心理的・認知的な要因」に分けられます。原因を理解することで、最も適した支援方法を選択できます。
身体的困難:歩行と運搬の制約
肢体不自由や難病、内部障害などにより、身体的な移動に制約がある場合、以下のような困難が生じます。
- 長距離移動の困難: バス停や駅から目的地までの長距離の歩行が困難で、疲労や痛みにつながる。
- 段差・階段の困難: エレベーターやスロープのない場所、駅の乗り換えなどで、移動が完全に遮断されてしまう。
- 姿勢の維持: 長時間の乗り物移動や、混雑した場所で立つ姿勢を維持することが難しい。
このタイプの困難に対しては、移動支援サービスの活用、福祉用具の選定、そしてバリアフリー情報の活用が中心となります。
心理的・認知的困難:不安と迷子のリスク
発達障害(ASDなど)や精神障害、知的障害のある方の場合、移動は以下のような課題を伴います。
- パニック・過剰な刺激: 電車内の混雑、駅の喧騒、不規則なアナウンスなどの感覚的な刺激により、強い不安やパニック発作を引き起こす(感覚過敏)。
- 道順の理解・地図の読解: 複雑な道順や地図を理解するのが難しく、目的地にたどり着くまでの計画(実行機能)を立てられない。
- 対人コミュニケーションの不安: 迷ったときに駅員や人に助けを求めることができず、孤立してしまう。
この場合、支援は「同行支援による安心感の確保」「事前の情報提供」「ツールの活用」が有効です。
💡 ポイント
移動の困難は、単に「手段がない」ことだけでなく、「不安が強すぎて動けない」ことにも起因します。特に精神・発達障害の方への支援では、移動中の「安心感」を確保することが、困難を軽減する第一歩となります。
公的福祉サービス:移動の「代行」と「同行」支援
移動の困難を解消するために、障害者総合支援法に基づく公的な移動支援サービスを積極的に活用しましょう。これらは、単なる送迎ではなく、社会参加を目的とした重要な支援です。
移動支援(地域生活支援事業):社会参加のための外出支援
市町村が行う地域生活支援事業のサービスの一つで、障害のある方が社会生活上必要不可欠な外出や余暇活動に参加するための支援です。移動支援従事者(ヘルパー)が付き添い、外出をサポートします。
- 支援内容: 公共交通機関(バス、電車など)を利用して、社会活動(趣味、サークル、買い物、行政手続きなど)への参加を支援します。
- 安心の確保: 精神・発達障害のある方の場合、人混みや乗り換え時の不安を緩和するために、声かけや見守りを行い、安全を確保します。
- 訓練要素を含む場合: 支援者との同行を通じて、将来自力で移動するための練習(道順の確認、切符の購入方法など)を行うことも可能です。
ただし、移動支援の対象となる活動は自治体によって異なるため、お住まいの市町村の担当課や相談支援専門員に確認が必要です。
居宅介護:通院等乗降介助(通院時の送迎)
居宅介護サービスの一つである通院等乗降介助は、ご本人の代わりにヘルパーが運転する車両(介護タクシー)に乗り降りする際の介助と、通院先での移動介助を行うサービスです。
- 対象: 車椅子利用者など、自力で公共交通機関の利用が困難な方。
- 目的: 病院や診療所への通院、公的機関(役所など)への訪問に限定されます。日常の買い物やレジャーには利用できません。
- サービス内容: 自宅から車両への乗降介助、運転、病院の受付・待合室・診察室までの移動介助を行います。
このサービスは、定期的な通院が必要な方にとって、移動の大きな負担とコストを軽減する重要な制度です。利用には、身体介護と同様に、特定相談支援事業所によるサービス等利用計画が必要です。
移動を支えるツールとインフラの活用
福祉サービスだけでなく、日常生活で利用できるツールや、地域に整備されているインフラを最大限に活用することも、移動の困難を乗り越える鍵となります。
ICT(情報通信技術)と視覚的なツールの活用
道に迷いやすい、または不意の状況変化に対応するのが苦手な方には、デジタルツールとアナログツールの組み合わせが有効です。
- 視覚的なナビゲーション: スマートフォンやタブレットの地図アプリを活用し、ルートを事前にシミュレーションします。ASDの特性がある方など、地図の抽象的な理解が苦手な場合は、ストリートビューなどでルート上の目印を事前に確認する「見える化」が効果的です。
- ヘルプカード・意思表示ツール: 予期せぬトラブル(体調不良、パニックなど)が発生した際に、自分の状況や必要な支援内容を周囲に伝えるためのヘルプカードや、スマートフォンに登録した支援メッセージを活用します。
- 交通情報アプリ: 電車やバスの遅延、運休などの不測の事態は大きなストレスになります。リアルタイムの運行情報を確認できるアプリを利用し、不確実な要素を減らします。
福祉用具とバリアフリーインフラの利用
身体的な移動の困難に対しては、移動を補助する福祉用具や、インフラの情報を活用します。
- 電動車椅子・電動カート: 長距離の移動や、坂道が多い地域での移動を可能にするために、電動の車椅子やカート(シニアカーなど)の購入費用の助成制度(日常生活用具給付)を検討します。
- バリアフリー情報: 目的地の駅や施設にエレベーターや多目的トイレがあるか、事前にインターネットやバリアフリーマップで確認します。これにより、現地で困るリスクを回避できます。
- 優先乗車証・割引: 身体障害者手帳や療育手帳、精神障害者保健福祉手帳を提示することで、公共交通機関の割引運賃が適用されたり、優先乗車を促す配慮を受けられたりします。
⚠️ 注意
福祉用具の給付制度は、事前の申請が必要です。購入後に申請しても助成対象とならないため、電動車椅子などの高額な用具を検討する際は、必ず事前に市町村の窓口で相談しましょう。
地域社会の移動サポートと相談窓口
公的な制度だけでなく、地域にはボランティア活動やNPOによる独自の移動サポートが存在します。これらを組み合わせることで、より柔軟な支援を受けることができます。
地域の移動支援サービス(NPO・社会福祉協議会)
公的な移動支援の対象外となる活動や、制度ではカバーできない細かなニーズに対応するため、地域独自のサービスを探しましょう。
- 移送サービス(福祉有償運送): NPOや社会福祉協議会などが実施している、障害者や高齢者を対象とした有償の送迎サービスです。通常のタクシー利用が困難な方を対象に、低料金でドア・ツー・ドアの移動を提供している地域があります。
- ボランティアによる外出サポート: 地域のボランティアグループが、買い物や散歩などの日常生活の外出に付き添う活動を行っている場合があります。これは制度利用の枠を超えた柔軟な支援として有効です。
- 地域包括支援センター: 65歳以上の高齢者だけでなく、障害を持つ方でも、生活全般の困りごと(移動、買い物など)について相談できる地域密着型の窓口です。
相談支援専門員:移動ニーズの総合コーディネート
特定相談支援事業所の相談支援専門員は、移動の困難を解消するための「司令塔」の役割を果たします。移動に関するニーズを全て伝え、最適な支援計画を作成してもらいましょう。
- ニーズの整理: 通院は「通院等乗降介助」を、余暇活動は「移動支援」を、というように、移動の目的ごとに最適なサービスを組み合わせます。
- 多職種連携: 福祉サービスだけでなく、リハビリテーション専門職(PT・OT)による歩行訓練や、地域のボランティア団体との連携も視野に入れた包括的な計画を立てます。
- 緊急時の対応策: 移動中に体調不良やパニックになった場合の連絡先や対応手順を計画書に明記し、関係者間で共有します。
移動の困難は、障害特性、住んでいる地域、家族の状況などによって大きく異なります。まずは、相談支援専門員に現状を詳しく伝え、個別のアセスメントを受けることが最も重要です。
よくある質問(FAQ):移動の困難と支援
移動に関する支援や制度について、よくある疑問にお答えします。
Q1: 移動支援サービスは、どんな場所でも利用できますか?
A1: 移動支援は、社会参加や社会生活に必要な外出が主な目的です。通勤や通学、経済活動(仕事や営業)のための移動、または単なる観光目的の旅行などは、原則として対象外となります。ただし、余暇活動やレクリエーション活動は認められることが多いです。自治体によって対象範囲が異なるため、必ず相談支援専門員に確認しましょう。
Q2: 介護タクシーは、障害者割引の対象になりますか?
A2: はい、通常、障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)を提示することで、運賃が1割引となります。また、「通院等乗降介助」としてサービスが支給決定された場合は、運賃ではなくサービス費用が公費負担となります(自己負担は1割)。通常の介護タクシーは介護保険も利用できる場合がありますが、障害福祉サービスとは異なります。
Q3: 公共交通機関の利用が不安で、自力での移動を諦めてしまっています。どうすればいいですか?
A3: 諦める必要はありません。まずは自立訓練(生活訓練)を利用して、支援員とマンツーマンで、不安が少ない場所から公共交通機関の利用練習を始めましょう。また、移動支援をまず利用し、支援者の付き添いの下で「慣れる」ことを目標とします。小さな成功体験を積み重ねることで、不安は必ず軽減されます。
Q4: 車椅子で旅行に行きたいのですが、移動支援で対応してもらえますか?
A4: 移動支援は、主に日帰りまたは近隣での活動を対象としており、宿泊を伴う旅行は原則として対象外となることが多いです。旅行の移動支援や宿泊先での介助が必要な場合は、自費の同行援護サービスや、旅行会社が提供するバリアフリーツアーなどを検討する必要があります。詳細な旅程を相談員に伝え、利用可能なサービスを検討してもらいましょう。
まとめ
- 支援の使い分け: 通院には通院等乗降介助、社会参加・余暇には移動支援と、移動の目的によって公的支援を使い分けましょう。
- 安心の確保: 精神・発達障害のある方は、移動支援によるヘルパーの同行や、ヘルプカード、ノイズキャンセリングアイテムなどのツールを活用し、移動中の不安と刺激を最小限に抑えましょう。
- 地域資源の活用: 公的制度の対象外となる細かな移動ニーズには、NPOや社会福祉協議会による福祉有償運送サービスやボランティア活動など、地域の独自サポートを積極的に組み合わせましょう。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





