ホーム/記事一覧/困りごとガイド/日常生活の困りごと/バス・電車が怖いと感じるときの対策と練習法

バス・電車が怖いと感じるときの対策と練習法

📖 約36✍️ 酒井 勝利
バス・電車が怖いと感じるときの対策と練習法
バスや電車への恐怖や不安を抱える障害のある方のために対策と練習法を解説します。恐怖の原因を感覚過敏、予測不可能性、対人不安の3つに分類。不安を減らすための事前準備として、ルートの視覚化、ノイズキャンセリングアイテム、ヘルプカードの準備を推奨します。また、移動中に不安が高まった際の呼吸法やグラウンディングなどのセルフケアを紹介。さらに、移動支援や自立訓練といった公的サービスを活用し、ヘルパーや支援員と共に安全に段階的な乗車練習を行う方法を具体的に提示し、移動の自由を取り戻すための道筋を示します。

バスや電車が怖いと感じるときの対策と安心できる段階的練習法

「満員電車に乗ると息苦しくなる」「バスの急ブレーキでパニックになる」「駅の雑踏の音で頭が真っ白になる」など、日常の移動手段であるはずのバスや電車が、特定の障害や特性を持つ方にとって「怖い場所」になってしまうことがあります。

公共交通機関に対する不安は、広場恐怖(agoraphobia)やパニック障害、自閉スペクトラム症(ASD)に伴う感覚過敏など、様々な要因から生じます。この困難を放置すると、外出や社会参加が制限され、生活の質(QOL)が大きく低下してしまいます。

この記事では、バスや電車への恐怖の原因を深掘りし、不安を最小限に抑えるための具体的な事前対策、移動中のセルフケア、そして福祉サービスを活用した段階的かつ安全な練習法を詳しくご紹介します。専門家の支援を受けながら、一歩ずつ「移動の自由」を取り戻すための道筋を一緒に探していきましょう。


公共交通機関の恐怖を生む3つの主な要因

バスや電車が怖いと感じる背景には、単なる「人混みが苦手」という以上の、複雑な特性が関わっています。主な要因を理解することが、適切な対策の第一歩です。

1.感覚過敏による過剰な刺激

ASDなどの発達障害を持つ方や、特定の精神障害のある方によく見られるのが、感覚過敏による刺激の過負荷です。

  • 聴覚過敏: 電車の走行音、ブレーキ音、車内アナウンス、他の乗客の話し声、すべてが耐え難い騒音となって脳を疲弊させる。
  • 視覚過敏: 車内やホームの蛍光灯のチカチカした光、窓から流れる風景の速い動き、多くの乗客の視覚情報(雑踏)が情報過多となり、混乱を引き起こす。
  • 嗅覚過敏: 他の乗客の香水や体臭、車内の機械的な油の匂いなどが強烈に感じられ、吐き気を催す。

これらの感覚刺激は、脳が処理しきれないほどの情報量となり、強い不快感やパニック状態を引き起こします。

2.予測不可能性とコントロール感の欠如

公共交通機関の移動は、自分で運転するのとは異なり、すべてが他者にコントロールされています。この「予測不可能性」が不安を増幅させます。

  • 時間の不確実性: 電車の遅延、急な運休、乗車時間の予測が難しいことへの不安(特にADHD特性やASD特性で時間の見通しが重要視される場合)。
  • 動きの不確実性: 急ブレーキ、急発進、揺れなど、身体的な動きが予期せず生じることへの恐怖。
  • 逃げ場のなさ: 満員電車や地下鉄など、すぐに降りて安全な場所に移動できない状況に対する「閉じ込められ感」や恐怖。

3.対人不安と視線恐怖

社会不安障害や精神障害のある方にとって、公共交通機関は「多くの他者の視線にさらされる場所」となります。

  • 注目されることへの不安: 他の乗客にじっと見られているのではないか、自分の行動を観察されているのではないかという強い被害的な感覚
  • 体調不良への恐れ: 車内で体調が悪くなった際、迷惑をかけるのではないか、助けを求められないのではないかという強い不安。

これらの要因はしばしば複合的に絡み合い、バスや電車に乗ること自体を回避する「交通機関恐怖症」や「広場恐怖」につながることがあります。


乗車前の不安を最小限に抑える事前対策

不安を和らげるためには、不安の原因となる「予測不可能性」をできる限り排除し、安全を確保できる計画を立てることが重要です。

詳細な計画と「構造化」の徹底

移動の計画を細部にわたって構造化することで、不測の事態への不安を軽減します。

  • ルートの視覚化: 乗る電車・バスの時刻、プラットフォーム番号、乗車位置、乗り換え手順、到着までの時間などを紙やスマートフォンに全て書き出し、視覚的に確認できるようにします。駅構内の地図やストリートビューを活用し、事前にルートを確認することも有効です。
  • 乗車位置の固定: 扉の近く、車両の端、女性専用車両など、刺激が少ない、またはすぐに降りられる場所といった「安全な場所」を事前に決めておきます。バスの場合は、運転席に近い席や、窓際などを固定します。
  • 時間帯の選択: 可能な限り、通勤・通学ラッシュの時間帯を避け、乗客が最も少ない時間帯(例:平日の午前10時〜午後3時)を選んで移動します。

感覚への防御アイテムの準備

外部からの刺激を物理的に遮断するためのアイテムを携帯することは、感覚過敏を持つ方にとって必須の対策です。

  • 聴覚対策: ノイズキャンセリングイヤホンや高性能耳栓(イヤーマフ)を必ず持参し、騒音をカットします。好きな音楽を小さな音で流すことも、雑音をマスキングするのに有効です。
  • 視覚対策: 蛍光灯や窓の外の速い動きによる疲労を軽減するため、遮光眼鏡(遮光レンズ)やサングラスを着用します。帽子のつばで視野を狭くするのも効果的です。
  • 嗅覚対策: 不快な匂いを避けるため、アロマオイルを染み込ませたハンカチやマスクを持参し、それを嗅ぐことで一時的に嗅覚刺激をブロックします。

💡 ポイント

乗車する駅やバス停のスタッフに、事前にサポートを依頼できる場合があります。車椅子利用者だけでなく、内部障害や精神障害の方でも、駅の構内移動のサポートや、エレベーターの場所の案内などを依頼できるか、問い合わせてみましょう。


移動中のセルフケア:不安を乗り切るための方法

予期せぬ揺れや混雑など、移動中に不安が高まったときのための、具体的なセルフケア技術を身につけておきましょう。

呼吸法とグラウンディング

不安やパニック発作が起きそうになったときは、体の反応を落ち着かせる「呼吸法」と、現実世界に意識を繋ぎ止める「グラウンディング」が有効です。

  • 腹式呼吸: 意識的に「長く息を吐く」ことに集中します。4秒かけて鼻から吸い、7秒間息を止め、8秒かけて口からゆっくり吐く「4-7-8呼吸法」などは、自律神経を整えるのに役立ちます。
  • グラウンディング(5-4-3-2-1法): 視覚、触覚、聴覚に意識を集中させ、不安から意識をそらします。「今、目に見えるもの5つ」「触れているもの4つ」「聞こえる音3つ」「匂い2つ」「味わえるもの1つ」を順に探します。これにより、意識を「今、ここ」に集中させることができます。

ヘルプカードと周囲へのSOS

体調が急変した場合や、支援が必要な状態になった場合に備え、周囲に助けを求められる準備をしておきましょう。

  • ヘルプカードの提示: 助けが必要な状況になったら、すぐにヘルプマークやヘルプカードを周囲の人に見せます。カードには、「パニックになりやすいので、静かな場所へ誘導してください」など、具体的な支援内容を記載しておきます。
  • 特定の対象への集中: 不安が高まってきたら、携帯している特定のアイテム(例:お気に入りのキーホルダー、マスコット、手触りの良い布)を握ったり、それに意識を集中させたりすることで、自己刺激(Stimming)を利用し、感覚的な安定を取り戻します。

不安を乗り切る最も重要なことは、「助けを求めてもいい」と自分に許可を与えることです。無理せず、支援を求める勇気を持ちましょう。


公的支援:段階的な練習を可能にする制度

公共交通機関への不安を克服するためには、いきなり一人で挑戦するのではなく、専門家のサポートを受けながら、安全に段階を踏んで練習することが最も効果的です。

移動支援(地域生活支援事業):ヘルパーと行う練習

障害福祉サービスの一つである移動支援は、社会生活上必要な外出をサポートするサービスですが、この枠組みの中で公共交通機関の利用練習を行うことができます。

  • 同行による安心感: 支援者(ヘルパー)が付き添うことで、不安が高まった際の対応や、道に迷うことへの不安が軽減され、安心して乗車体験を積むことができます。
  • 段階的慣れ: 最初の練習では「バス停まで行って帰る」から始め、次に「一駅だけ乗る」、そして「混雑していない時間帯に二駅乗る」といったように、スモールステップで難易度を上げていきます。
  • 切符の購入練習: 支援者と一緒に券売機での切符の購入や、ICカードへのチャージ方法を練習し、手続きに関する不安も解消します。

自立訓練(生活訓練):計画立案とスキル習得

バスや電車への乗車に必要な「計画力」や「問題解決スキル」を集中的に身につけるには、自立訓練(生活訓練)が有効です。

  • シミュレーションと座学: 支援事業所内で、地図や時刻表を使ったルート計画のシミュレーション、パニック時の対処法、駅員への声かけのロールプレイングなど、安全な環境で練習を行います。
  • 作業療法士(OT)による支援: 作業療法士のいる事業所では、感覚過敏の程度を評価し、個々の特性に合った最適な遮断アイテム(耳栓など)の選定や、感覚への慣れを促す訓練(感覚統合療法の要素)を行うことがあります。

✅ 成功のコツ

練習の際は、「成功の定義」を低く設定しましょう。例:「目的地にたどり着くこと」ではなく、「不安を感じたけど、ヘルパーに助けを求められたこと」や、「一駅だけ、途中で降りずに乗っていられたこと」を成功と捉えることが、次のステップへのモチベーションにつながります。


よくある質問(FAQ):交通機関の恐怖克服

バス・電車への不安に関する、当事者やご家族からよく寄せられる質問にお答えします。

Q1: 精神障害者保健福祉手帳で、運賃の割引はありますか?

A1: 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方は、JR線や私鉄、バスなどでの運賃割引は原則としてありません。ただし、自治体によっては、地域内のバスや地下鉄の運賃が割引になる制度を設けている場合があります。また、タクシーや、航空運賃については割引制度があります。お住まいの自治体の福祉担当課に確認してください。

Q2: パニック障害で電車に乗れない場合、病院への通院はどうすればいいですか?

A2: 病院への通院が困難な場合は、まず福祉サービスの「通院等乗降介助」の利用を検討してください。これは、ヘルパーが運転する車両(介護タクシー)による送迎と、乗降時の介助を行うサービスです。また、病状によっては、訪問看護や在宅医療サービスの利用を主治医に相談することも有効です。

Q3: 練習を始めたいのですが、家族に付き添ってもらうのと、ヘルパーに付き添ってもらうのはどちらが良いですか?

A3: 理想的には、まずヘルパー(移動支援従事者)に付き添ってもらうことを推奨します。ヘルパーは、客観的かつ訓練的な視点で支援を行い、感情的にならずにパニック時の対応マニュアルに従って動くことができます。ご家族は、日々の生活のサポートで疲弊しやすいため、訓練のような負荷のかかる活動は、専門職に任せることが、より良い関係性を保つためにも重要です。

Q4: 満員電車でなければ乗れるのですが、混雑を事前に知る方法はありますか?

A4: 最近は、鉄道会社が運行情報アプリなどで、リアルタイムの混雑状況や、各車両の混雑具合をデータで提供している場合があります。また、国土交通省などが公開しているデータに基づき、混雑率が高い時間帯を避けることも基本です。事前の構造化として、これらの情報源を計画に組み込むことが非常に有効です。


次の一歩:移動の不安を減らし、自由を取り戻すために

バスや電車への恐怖を克服することは、社会との接点を広げ、生活の可能性を大きく広げることにつながります。ご自身のペースで、必ずできることから始めていきましょう。

行動チェックリスト

  1. 困難の言語化: 恐怖の主な原因が、「感覚的な刺激」なのか、「予期せぬ動き・時間の不安」なのかを特定しましたか?
  2. 相談窓口への連絡: 特定相談支援事業所に連絡し、移動支援や自立訓練の利用について相談しましたか?
  3. アイテムの準備: ノイズキャンセリングイヤホンやヘルプカードなど、不安を軽減するアイテムを揃えましたか?
  4. 最初の練習計画: 「誰もいない時間に、家の前で止まっているバスに5分間座る」など、不安度が極めて低いスモールステップを一つ設定しましたか?

参考相談先とリンク

  • 特定相談支援事業所: 移動支援や自立訓練のサービス等利用計画作成
  • 精神科・心療内科: パニック障害や広場恐怖の診断と治療、必要に応じて服薬治療の検討
  • 作業療法士(OT)のいるリハビリテーション施設: 感覚統合の視点からの個別評価と訓練
  • 地域の鉄道・バス事業者: バリアフリー情報、優先席に関する配慮


まとめ

  • 原因の特定と防御: 恐怖の原因が感覚過敏にある場合は、ノイズキャンセリングイヤホンや遮光眼鏡で刺激を物理的に遮断することが不可欠です。
  • 段階的練習の実行: 不安の克服には、移動支援のヘルパーの同行や、自立訓練での計画練習を通じて、不安度の低いスモールステップから安全に慣れることが最も重要です。
  • 緊急時の備え: 不測の事態に備え、ヘルプカードの携帯と、腹式呼吸やグラウンディングといったセルフケア技術を身につけ、不安が高まった際の対処法を事前に決めておきましょう。

酒井 勝利

酒井 勝利

さかい かつとし38
担当📚 実務経験 12
🎯 生活サポート🎯 福祉用具

📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター

作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。

リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。

🎨 趣味・特技

DIY、キャンプ

🔍 最近気になっているテーマ

スマート家電と福祉の融合、IoT活用

📢 この記事をシェア

関連記事