障害者手帳のデメリットは?誤解されがちなポイントを整理

障害者手帳のデメリットは?誤解されがちなポイントを整理
「障害者手帳を取得したいけど、デメリットがあるんじゃないか」「一度取得したら、取り消せないのでは」といった不安や疑問を抱えているご本人やご家族、支援者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。手帳がもたらすメリットはよく知られていますが、実はデメリットや誤解されがちなポイントも存在します。
この記事では、障害者手帳の取得にまつわる不安を解消するため、誤解されやすいデメリットや、知っておくべき注意点を詳しく解説します。正しい知識を得ることで、前向きに手帳の申請を検討できるようになることを目指します。
手帳取得で生じる誤解されがちな「3つのデメリット」
障害者手帳は、障害の種類や程度に応じて交付されるもので、様々な福祉サービスや優遇措置を受けるために必要不可欠なものです。しかし、その「手帳を持つこと」自体が、心理的な側面や将来的な選択肢において、不安につながる場合があります。
ここでは、多くの方が誤解したり、心配したりする手帳に関する「デメリット」について、その実態と正しい情報を整理してご紹介します。
手帳を持つことによる「精神的な葛藤」
手帳の申請を検討する際、多くの方が直面するのが、自身の障害を改めて認識し、受容することへの精神的な葛藤です。手帳を持つことは、公的に「障害者」として定義されることを意味し、「自分は障害者なのだ」というラベリングへの抵抗を感じる方も少なくありません。
特に、発達障害や精神障害をお持ちの方の中には、周囲に知られることへの不安や、「弱者として見られてしまうのではないか」という恐れから、申請をためらうケースが見受けられます。これは、手帳を取得することによる実利的なデメリットというよりも、個人の内面的な感情に関わる大きな壁と言えます。
就職活動における「不利になるのでは」という懸念
「障害者手帳を持っていると、一般の企業に就職する際に不利になるのではないか」という懸念も、よく聞かれる不安の一つです。この不安は、企業側が手帳の有無によって採用を判断するのではないかという憶測に基づいています。
しかし、企業には、採用選考において応募者の障害の有無を理由に差別することを禁じる法律(障害者差別解消法など)が存在します。むしろ、手帳を保持していることで障害者雇用枠という選択肢も広がり、ご自身の障害特性に配慮された環境で働く道が開けます。手帳の有無をオープンにするかどうかは、ご本人が選べることです。
手帳取得後の「生活への影響」の誤解
手帳を取得すると、生活のあらゆる面で制約を受けるのではないか、といった誤解もあります。例えば、「車の運転ができなくなるのではないか」「旅行に行けなくなるのではないか」といった極端な不安です。
💡 ポイント
障害者手帳は、あくまで福祉サービスや優遇措置を受けるための「証明書」であり、日常生活を制限するものではありません。運転免許の有無や旅行の可否は、手帳の有無ではなく、ご自身の障害の状況と法令に基づいて判断されます。
手帳の取得は、むしろ生活を豊かにし、社会参加を促進するためのサポートを得るための前向きな選択肢であると捉えることが大切です。
申請前に知っておくべき手帳運用の「リアルな注意点」
手帳を取得する際の「デメリット」は誤解に基づいていることが多い一方で、運用面で注意すべき「リアルなポイント」はいくつか存在します。これらは、手帳を取得した後に「思っていたのと違った」とならないために、事前に理解しておくべき事項です。
手帳の利用方法、申請・更新手続き、そしてプライバシーに関わる側面について、具体的な注意点を見ていきましょう。
「更新・再認定手続き」に伴う負担
障害者手帳は、一度取得したら永久に有効というわけではありません。特に精神障害者保健福祉手帳や、一部の身体障害者手帳では、有効期間が設けられており、定期的な更新手続きや再認定が必要になります。
この更新手続きには、再び医師の診断書を取得したり、役所へ足を運んだりする手間や時間、そして診断書料などの費用が発生します。障害の状態によっては、手続きがご本人にとって大きな負担となる場合があるため、事前に有効期間と更新の手順を把握しておくことが重要です。
利用時に伴う「プライバシー公開」の瞬間
手帳を活用して割引やサービスを受ける際、窓口で手帳を提示する必要があります。この瞬間、ご自身の障害情報が他者に知られることになります。例えば、交通機関の割引を利用する際、映画館で割引を受ける際などです。
もちろん、提示を受けた側には守秘義務がありますが、不特定多数の人の目に触れる可能性があることは、プライバシーの観点から一つの懸念点となり得ます。手帳の提示が必要なサービスと、提示が不要なサービスを事前に確認し、ご自身の許容範囲内で利用することが大切です。
サービス内容の「地域差・バラつき」
障害者手帳によって受けられるサービスや優遇措置は、国が定める基本的なものもありますが、自治体独自のサービスや民間のサービスは、地域によって大きな差があります。ある自治体では無料になる公共施設の利用料が、隣の自治体では割引にとどまるといったケースも珍しくありません。
事前に、居住地や利用を検討している地域の行政サービスを、市町村のホームページや窓口で具体的に確認することが必要です。「手帳さえあれば何でも受けられる」と過信せず、個別のサービス内容をチェックする手間は避けられません。
手帳の真実:誤解を生まないためのQ&Aとデータ
障害者手帳に関する不安や懸念の多くは、正しい情報が不足しているために生じます。ここでは、特に誤解されやすいポイントについて、データや具体的な制度に基づき、Q&A形式で明確な情報を提供します。
手帳制度の正確な理解は、ご本人やご家族が安心してサービスを利用するための第一歩となります。
手帳を持つと「税金が増える」は本当か?
「手帳を持つと税金が増える」という誤解がありますが、これは全くの逆です。障害者手帳を持つことで、所得税や住民税の控除(障害者控除)を受けることができ、結果的に税金が軽減されます。また、手帳保持者のいる世帯は、相続税や贈与税についても優遇措置が受けられる場合があります。
| 税の種類 | 控除の主な内容(例:所得税) | 備考 |
|---|---|---|
| 所得税・住民税 | 障害者控除(27万円~75万円) | 特別障害者、同居特別障害者などで控除額が異なる |
| 相続税 | 相続税の障害者控除 | 85歳未満の障害者が対象 |
手帳を持つことによる税制上のメリットは非常に大きく、経済的な負担軽減につながる重要な制度です。詳しくは、お住まいの自治体の税務担当課や税理士にご相談ください。
手帳を「返納・取り消し」することは可能か?
障害者手帳は、ご本人の意思や障害の状態の変化に応じて、返納・取り消しが可能です。「一度取得したら、生涯手放せない」という認識は誤りです。例えば、身体障害が軽減・治癒した場合や、精神障害の状態が回復し、医師の診断で非該当となった場合は、再認定の際に手帳が取り消しになることがあります。
また、ご本人が「もう手帳によるサポートは必要ない」と判断した場合、任意で返納することも可能です。返納手続きは、お住まいの自治体の福祉担当窓口で行います。ただし、返納すると、それまで受けていた全てのサービスが利用できなくなる点に注意が必要です。
障害者雇用枠が「一般雇用より劣る」という神話
一部で「障害者雇用枠は一般雇用枠よりも給与が低い」「簡単な仕事しかさせてもらえない」といったイメージを持つ方がいますが、これは一つの神話です。近年、多くの企業で障害者雇用の質が向上しており、専門性の高い業務や管理職として活躍されている事例も増えています。
「私自身、手帳を使って障害者雇用枠で入社しましたが、給与や昇進の基準は一般雇用と変わらず、特性に合った職務内容で高いパフォーマンスを出せています。大切なのは、手帳の有無ではなく、自分に合った職場と働き方を見つけることです。」
— 40代・精神障害者雇用で働くAさんの声
障害者雇用は、ご自身の能力を最大限に発揮し、長期的に安定して働くための「選択肢」の一つとして捉えるべきです。
利用しないことで生じる「機会損失」の具体例
手帳の取得をためらい続けることで、実はご本人やご家族にとって、経済的・社会的に大きな「機会損失」が生じている可能性があります。メリットを享受しないことは、本来受けられたはずのサポートを自ら放棄していることと同じです。
ここでは、手帳を利用しないことで具体的にどのような機会を失うのか、実例を交えて解説します。手帳の真価は、そのメリットを最大限に活用することにあります。
家計を助ける「経済的メリット」を失う
手帳の最大のメリットの一つは、経済的な優遇措置です。公共交通機関の運賃割引(JR運賃、バス、タクシーなど)、有料道路の通行料金割引、携帯電話料金の割引、公共施設やレジャー施設の入場料割引など、多岐にわたります。
⚠️ 注意
もし、手帳の申請をためらい続けている期間が5年間あったと仮定すると、その間に受けられたはずの交通費の割引だけでも、数万円から数十万円に上る可能性があります。特に移動が多い方や、通院で公共交通機関を利用する方にとって、この割引の累積効果は非常に大きいです。
手帳を持たないことは、毎年確実に発生する生活コストを、本来よりも高い金額で支払い続けることを意味します。
必要な「合理的配慮」を受けられない
企業や学校、行政機関などに、ご自身の障害について理解を求め、適切な「合理的配慮」(障害者が不便なく社会生活を送るための調整や変更)を提供してもらう際、障害者手帳は公式な証明書として大きな役割を果たします。
手帳がない場合でも合理的配慮を求めることは可能ですが、手帳があることで、配慮の必要性や程度について、スムーズに理解を得られやすくなります。手帳がないために、職場での環境調整(例:時短勤務、業務量の調整)や、公共サービス利用時のサポート(例:優先席の利用、筆談対応)を十分に受けられず、結果的に日常生活や社会参加が困難になることがあります。
福祉サービス利用の「選択肢」が狭まる
障害者総合支援法に基づく多くの福祉サービス(例:居宅介護、短期入所、就労移行支援など)の利用には、原則として、身体障害者手帳、療育手帳、または精神障害者保健福祉手帳のいずれかが必要となります。手帳がなければ、これらの障害福祉サービスの利用申請そのものができません。
特に、専門的な就労支援を受けたい場合や、家族の介護負担を軽減するためのサービスを利用したい場合、手帳の有無がサービスの利用可否を分けることになります。手帳を持たないことは、いざという時に、公的な支援のセーフティネットから外れてしまうリスクを伴います。
よくある質問(FAQ)と正しい手帳の捉え方
手帳に関する疑問や不安は尽きません。ここでは、手帳取得を検討されている方が抱きやすい具体的な質問と、障害者手帳をどのように捉えるべきかについて、建設的な考え方を提示します。
制度を正しく理解し、手帳を「未来の生活をサポートするツール」として活用するためのヒントを提供します。
Q1:手帳を持つと「生命保険」の加入が難しくなるか?
A:生命保険の加入は、手帳の有無ではなく、個別の健康状態や病状に基づいて審査されます。確かに、病気や障害によっては、加入が難しくなったり、保険料が割増しになったり、特定の保障に制限がついたりする場合があります。
しかし、最近では、持病や障害がある方向けの引受基準緩和型保険や、特定の条件を満たせば加入できる保険商品も増えています。手帳を取得したからといって、全ての商品に加入できなくなるわけではありません。複数の保険会社に相談し、ご自身の状況に合った商品を探すことをお勧めします。
Q2:手帳の有無は「家族の就職」に影響するか?
A:ご家族(配偶者や子ども)が障害者手帳を所持していることが、他のご家族の就職活動において不利に働くことはありません。企業が採用活動でそのようなプライバシー情報を利用することは、職業差別につながる行為であり、法律上も適切ではありません。
ただし、ご家族が公務員や特定の職種を希望する場合、健康診断書などの提出を求められることがありますが、手帳の有無は原則として関係ありません。不要な心配をせず、ご家族の必要なサポートを優先して考えてください。
Q3:「精神障害者」と知られたくない場合の対策は?
A:手帳には、障害種別(身体・知的・精神)の記載がありますが、利用するサービスによっては、種別まで詳細に見られないこともあります。一番の対策は、手帳の利用範囲をご自身でコントロールすることです。
- 割引サービスが必要な場合のみ提示し、不要な場面では提示しない。
- 障害者雇用枠を利用しない(一般雇用枠で就職する)という選択をする。
- 手帳のコピーを職場などに提出する際は、必要な情報のみをマスキング(黒塗り)して提出することを相談する。
手帳を持つことのメリットを享受しつつ、ご自身のプライバシーを守るための工夫は可能です。
次の一歩:手帳取得に向けた具体的なアクション
障害者手帳のデメリットとして語られることの多くは、誤解や不確かな情報に基づいていることがご理解いただけたかと思います。手帳は、不安の種ではなく、より良い生活を送るための強力なサポーターです。
もし、手帳の取得に迷いや不安が残る場合は、専門家や支援機関に相談し、個別の状況に応じた具体的な情報を得ることが重要です。
不安解消のための「相談窓口」を活用する
手帳の申請に関する疑問や、取得後の生活への不安については、以下の窓口で専門的なアドバイスを受けることができます。一人で悩まず、積極的に相談してください。
- 市町村の障害福祉担当窓口:手帳の申請手続き、地域のサービスに関する最も正確な情報を提供してくれます。
- 相談支援事業所:障害福祉サービスの利用計画作成の専門家が、手帳取得からサービス利用までを一貫してサポートしてくれます。
- かかりつけの医師・医療ソーシャルワーカー:手帳申請に必要な診断書の相談や、病状に応じた生活のアドバイスが受けられます。
これらの専門家は、手帳のメリット・デメリットを客観的に説明し、ご本人の意思を尊重した上で、最適な選択を支援してくれます。
手帳を「道具」として捉え、能動的に活用する
障害者手帳を、ご自身の生活を制限する「レッテル」としてではなく、「生活の質(QOL)を向上させるための道具」として捉え直すことが大切です。手帳を能動的に活用することで、以下のような前向きな変化が期待できます。
- 経済的な余裕が生まれ、趣味や自己投資に使える資金が増える。
- 公的な支援を受けることで、ご家族の介護や精神的な負担が軽減される。
- 合理的配慮を得ることで、仕事や学習において自分の能力を発揮しやすくなる。
手帳は、ご自身の可能性を広げ、より自立した生活を送るためのパスポートだと考えてください。
まとめ
- 障害者手帳の「デメリット」の多くは、精神的な葛藤や就職に関する誤解に基づいています。手帳は税制優遇や合理的配慮など、生活をサポートするツールです。
- リアルな注意点として、定期的な更新手続きの負担や、サービス利用時のプライバシー公開のリスクがあります。利用範囲をご自身でコントロールすることが重要です。
- 手帳を持たないことによる経済的な損失や、必要な福祉サービスを受けられない機会損失は非常に大きく、将来的な生活の質に影響を与えます。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





