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障害者雇用の場面で手帳がどう役立つ?企業側の視点も解説

📖 約32✍️ 阿部 菜摘
障害者雇用の場面で手帳がどう役立つ?企業側の視点も解説
障害者手帳は、就職活動において「障害者雇用枠」への応募を可能にする重要なツールです。求職者側は、手帳により法定雇用率制度に基づく求人に応募でき、職場で法的な合理的配慮を受ける権利や、就労移行支援などの福祉サービスとの連携メリットを得られます。一方、企業側は、法定雇用率の達成や納付金・調整金の仕組みを活用でき、助成金制度を利用して雇用リスクを軽減できます。手帳の提示(オープン)か非提示(クローズ)かは戦略的な選択であり、自身の特性とキャリアプランに応じて慎重に判断することが、安定就労の鍵となります。

障害者雇用の場面で手帳がどう役立つ?企業側の視点も解説

働く意欲がありながらも、障害の特性上、一般の求人ではなかなか採用に至らないという悩みを抱えている方は少なくありません。そうした方々にとって、障害者手帳は、「障害者雇用枠」という新たな働き方の扉を開く鍵となります。

しかし、「手帳を取得すると就職に有利になるのはなぜ?」「企業は手帳を持つ人をどのように見ているのだろう?」といった疑問や不安もあるでしょう。この記事では、障害者手帳が就職活動や職場でどのように役立つのかを、求職者側と企業側の両方の視点から徹底的に解説します。

手帳を最大限に活用し、あなたらしく長く働き続けるための知識と戦略を身につけていきましょう。


求職者側:手帳が切り開く「障害者雇用枠」

障害者手帳を持つことの最大のメリットは、国が定めている「障害者雇用促進法」に基づく障害者雇用枠の求人に応募できるようになることです。この枠で働くことは、働く上での安心感と長期的な安定に直結します。

ここでは、障害者雇用枠が一般枠とどう異なり、手帳がどのように就職活動を助けるのかを見ていきます。

就職の選択肢を広げる「法定雇用率制度」

「障害者雇用促進法」に基づき、一定規模以上の民間企業や国、地方公共団体には、常用労働者数に対して一定の割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用することが義務付けられています。この制度により、企業は積極的に障害者雇用枠の求人を出しています。

この雇用率の対象となるのは、原則として身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、または療育手帳を持つ方です。手帳を持つことで、これらの法的な枠組みで守られた求人に応募する資格を得られるのです。

手帳がない場合、障害の事実を伝えても企業側に雇用率算定のメリットがなく、合理的配慮を求めにくい「一般枠」で働くことになります。手帳の存在は、法的な裏付けのもとで働く上での基盤となります。

職場で得られる「合理的配慮」の権利

障害者雇用促進法は、事業主に対して、障害を持つ労働者が職場で働く上で生じる困難を取り除くための「合理的配慮」を提供するよう義務付けています。手帳を持って障害者雇用枠で採用されるということは、この合理的配慮を法的に要求しやすくなることを意味します。

合理的配慮の具体例は多岐にわたります。

  • 勤務時間の調整:通院が必要な日の時間調整や、体調の波に合わせたフレックスタイム制度の導入。
  • 業務内容の調整:障害特性に合わせた業務量の調整や、苦手な業務の代替。
  • 物理的な環境整備:車いす利用者のためのスロープ設置、デスク配置の調整、光や音への配慮。

これらの配慮を受けることで、ご自身の体調や特性を理解してもらいながら、能力を最大限に発揮し、長期的に安定して働くことが可能になります。

福祉サービスとの「連携」が可能に

手帳を持っていることで、就職活動から職場定着までを一貫してサポートしてくれる障害福祉サービスを利用できます。主なサービスには、「就労移行支援」「就労継続支援」などがあり、これらは手帳を持つことが利用の前提となります。

💡 ポイント

就職が決まった後も、「就労定着支援」というサービスを利用できます。これは、職場に定着できるよう、企業とご本人の間に立って、配慮の調整や悩み相談などを行うサービスです。手帳があることで、このような専門的なサポートを継続的に受けられるのです。

これらのサービスを介することで、ご自身の特性を企業に正確に伝えやすくなり、ミスマッチを防ぎ、長く働き続けるための強力な後ろ盾となります。


企業側:手帳による雇用と管理のメリット

企業が障害者手帳を持つ人材を雇用する際、単に法定雇用率を達成するだけでなく、経営や組織運営の面で様々なメリットを享受しています。企業側の視点を理解することは、求職者が企業に何をアピールすべきかを知る上で役立ちます。

ここでは、企業が障害者雇用を積極的に行う理由と、手帳が果たす役割について解説します。

雇用率算定と「納付金・調整金」の仕組み

企業にとって、障害者手帳を持つ方を雇用する最大の動機の一つが、法定雇用率の達成です。雇用率を達成できない企業は、不足している人数に応じて「障害者雇用納付金」を国に納付しなければなりません。

一方で、法定雇用率を超えて雇用している企業には「障害者雇用調整金」が支給されます。つまり、手帳を持つ方を雇用することは、企業にとってコスト(納付金)の回避と収益(調整金)の獲得に直結する重要な経営戦略となります。

手帳は、この納付金・調整金の対象となる労働者であることを示す公的な証明であり、企業が労働者の雇用状況を国に報告する際の根拠となります。

「助成金制度」の活用とリスク軽減

国や自治体は、障害者雇用を促進するために、様々な助成金制度を用意しています。これらの助成金は、手帳を持つ方を雇用し、職場環境の整備や合理的配慮にかかる費用を企業が負担する際に、その一部を補填するものです。

例えば、職場環境の改善に必要な設備の導入費用、障害者を指導する職員への手当、短時間勤務から開始する場合の助成金などがあります。企業はこれらの制度を活用することで、雇用にかかる初期投資やリスクを抑えることができます。

手帳の存在は、企業がこれらの助成金の申請資格を満たしていることの証明となります。企業は、手帳を通じて支援策を活用し、長期的な雇用を安定させるための基盤を築いています。

障害特性の「適切な把握」とミスマッチ防止

採用活動において、企業が最も懸念するのは、採用後のミスマッチです。手帳を持つ方が障害者雇用枠に応募する場合、企業は面接時や採用前に、ご本人の同意のもとで障害の程度や必要な配慮について詳しくヒアリングすることができます。

「手帳を持っている方の場合、必要な配慮や得意・不得意が明確になっていることが多く、それに応じて職務内容を設計しやすいです。特に精神障害の場合、診断書や就労移行支援事業所の意見書があれば、より具体的な配慮のイメージが持てるため、採用のリスクが低減します。」

— 企業人事担当者の声

手帳は、単なる証明書ではなく、ご本人の状態を理解し、長く安定して働いてもらうためのコミュニケーションの土台として機能します。


手帳の「オープン」と「クローズ」の戦略的選択

就職活動において、障害者手帳の存在を企業に伝えるかどうか(オープンにするかクローズにするか)は、非常に重要な戦略的判断となります。手帳の提示は、就職後の働き方やキャリア形成に大きく影響します。

ここでは、オープンとクローズ、それぞれのメリット・デメリットと、判断のポイントを解説します。

「オープン」就労のメリットと留意点

「オープン就労」とは、就職活動の段階で障害者手帳の存在を企業に伝え、障害者雇用枠で働くことを指します。この方法の最大のメリットは、前述の通り、法的な合理的配慮を受けられることと、福祉サービスのサポートを受けながら安定就労を目指せることです。

  • メリット:職場の理解を得やすい、体調不良時に休みを取りやすい、専門的な支援を受けられる、長期的な安定雇用が期待できる。
  • 留意点:一般枠に比べて求人数が少なく、職種や給与水準が限定される場合がある、障害の事実を公にすることになる。

特に、体調の波が大きい方や、継続的な通院・服薬が必要な方は、オープン就労を選択することで心身の負担を大幅に軽減できます。

「クローズ」就労のメリットとリスク

「クローズ就労」とは、障害者手帳の存在や障害の事実を企業に伝えず、一般の求人枠で働くことを指します。主に、障害の程度が軽度で、体力や能力に自信があり、キャリアアップや高収入を目指したい方が選択する場合があります。

  • メリット:幅広い求人に応募できる、能力次第でキャリアアップや高収入のチャンスがある、障害の事実を職場に知られずに済む。
  • リスク:体調が悪化した場合でも合理的配慮を求めにくい、休職や離職に繋がりやすい、福祉サービス(就労定着支援など)を利用できない。

⚠️ 注意

クローズ就労の場合、採用後に病状が悪化し、企業に配慮を求めても、企業側には法的な配慮義務が発生しにくくなります。このリスクを十分に理解した上で、慎重に判断する必要があります。

判断のポイント:障害の「特性」と「重度」

オープンかクローズかを選択する際の重要な判断基準は、「その障害特性が、どれだけ職務遂行に影響するか」です。特に以下の要素を考慮しましょう。

  • 通院・服薬の頻度:頻繁な通院が必要な場合、クローズだと仕事との両立が難しくなります。
  • 体調の波の大きさ:精神障害などで、急な体調不良や欠勤が発生しやすい場合は、オープンが望ましいです。
  • 必要な物理的配慮:車いす利用などで物理的な環境整備が必須の場合は、オープンにせざるを得ません。

迷った場合は、就労移行支援事業所やハローワークの専門家と相談し、ご自身の特性と将来のキャリアプランを照らし合わせて決定しましょう。


手帳を活用した「支援機関」との連携の重要性

障害者手帳は、求職者と企業の間をつなぐ架け橋となるだけでなく、様々な支援機関と連携するためのパスポートとしての役割も担います。これらの機関を積極的に活用することが、就職の成功と職場定着の鍵となります。

ここでは、手帳を活用して利用できる主要な支援機関とその役割を紹介します。

就労移行支援事業所と「アセスメント」

就労移行支援事業所は、手帳を持つ方が一般就労を目指すための訓練やサポートを提供する専門機関です。ここでは、職業訓練だけでなく、ご自身の障害特性の理解を深めるためのアセスメント(評価)が徹底的に行われます。

事業所のスタッフは、ご本人の得意なこと、苦手なこと、必要な配慮を客観的に把握し、企業に対して適切な情報提供を行います。このアセスメント結果は、企業が合理的配慮を提供する際の重要な資料となり、手帳を持つことの価値を最大化してくれます。

ハローワークの「専門窓口」の活用

公共職業安定所(ハローワーク)には、障害のある方向けの専門窓口が設けられています。手帳を提示することで、この専門窓口を利用でき、障害者雇用枠の求人情報の提供や、職業相談、職業紹介といったサービスを受けることができます。

専門窓口の職員は、障害者雇用促進法や関連制度に精通しており、履歴書の書き方や面接対策など、障害者雇用特有の就職活動をサポートしてくれます。また、必要に応じて企業との間に立ち、配慮事項の調整を行うこともあります。

地域障害者職業センターによる「ジョブコーチ支援」

就職後、職場に慣れるまでの期間に、地域障害者職業センターが提供する「ジョブコーチ支援」は非常に有効です。ジョブコーチは、職場を訪問し、ご本人と企業双方に対して、具体的な指導や調整を行う専門家です。

手帳を通じてサービスを利用できることで、以下のような支援を受けることができます。

  • 業務の手順を分かりやすく指導する
  • 同僚や上司とのコミュニケーションの方法をアドバイスする
  • 企業に対して、より効果的な合理的配慮の方法を提案する

この支援は、特に就職直後の不安が大きい時期に、職場定着率を大きく向上させる効果が報告されています。


よくある質問(FAQ)と次のアクション

障害者雇用と手帳に関する疑問は、働くことに直結するため、非常に具体的なものが多いです。ここでは、よくある質問に答え、就職活動を進めるための次のアクションを提案します。

Q1:手帳の「等級」は就職に影響するか?

A:手帳の等級(例:身体1級、精神3級、療育Aなど)は、企業が合理的配慮を判断する際の重要な参考情報となりますが、等級が高い(重度)からといって、必ずしも不利になるわけではありません。

企業は、等級そのものよりも、「その等級で、どのような能力があり、どのような配慮が必要か」を重視します。等級が重くても、職務遂行に必要な能力があり、適切な配慮で解決できる問題であれば、採用される可能性は十分にあります。等級は、配慮を求める上での根拠として活用しましょう。

Q2:障害者雇用枠で働くと「給与」は低くなるか?

A:残念ながら、現在の日本の障害者雇用枠の平均賃金は、一般雇用枠の平均賃金よりも低い傾向にあります。これは、業務内容が限定的であったり、短時間勤務を選択する方が多いためです。

しかし、近年は専門性の高い職種や、一般枠と同じ業務を担う「プロフェッショナル枠」を設ける企業も増えており、能力に応じて一般枠に近い給与水準を得られるケースも増加しています。ご自身のキャリアプランとスキルに見合った求人を探すことが大切です。

Q3:内定後に「手帳を取得」しても間に合うか?

A:内定後に手帳を取得した場合でも、雇用率の算定対象とするためには、入社日までに手帳を保有していることが原則です。内定が出た企業に、手帳申請中であることを速やかに伝え、入社までに交付される見込みがあるかを確認しましょう。

内定後に手帳が交付された場合、企業側は合理的配慮を提供しやすくなるメリットもあるため、遅れても必ず報告することが大切です。申請に時間がかかる場合は、主治医と相談し、診断書などの発行を急いでもらう必要も出てきます。

次のアクション:就労移行支援事業所の活用を検討

障害者手帳の真価は、単なる割引サービスだけでなく、就職活動と職場定着を支える一連の支援サービスを利用できるようになる点にあります。特に就職を考えている方は、手帳を活用して「就労移行支援事業所」の利用を検討してください。

事業所では、適切な求人の紹介、応募書類の作成指導、模擬面接、そして企業実習を通じたアセスメントなど、就職に必要な全てをサポートしてくれます。専門家の伴走を得て、自信を持って次のキャリアに踏み出しましょう。


まとめ

  • 障害者手帳は、企業が義務付けられている「法定雇用率」の算定対象となるための証明であり、求職者は「障害者雇用枠」への応募資格と合理的配慮を受ける権利を得られます。
  • 企業側は、手帳を持つ方を雇用することで納付金を回避・調整金を受け取れるメリットや、助成金を活用しつつ障害特性を正確に把握できるというメリットがあります。
  • 就職活動では、手帳を提示する「オープン就労」か、隠す「クローズ就労」かを選択することが重要です。判断に迷う場合は、就労移行支援事業所などの専門機関に必ず相談しましょう。

阿部 菜摘

阿部 菜摘

あべ なつみ36
担当📚 実務経験 12
🎯 制度・法律🎯 医療・福祉制度

📜 保有資格:
社会保険労務士、精神保健福祉士

社会保険労務士として障害年金の申請支援を専門に12年。「難しい」と言われる障害年金を、分かりやすく解説します。医療費助成、各種手当など、お金に関する制度情報をお届けします。

大学卒業後、社会保険労務士事務所に就職し、障害年金の申請支援を専門に担当してきました。これまで500件以上の申請をサポートし、多くの方の生活を支えるお手伝いをしてきました。障害年金は「難しい」「通らない」と諦めている方が多いですが、適切な書類準備と申請を行えば、受給できる可能性は十分あります。実際、初診日の証明が難しいケースでも工夫して認定を受けた例もあります。特に心に残っているのは、精神障害で長年苦しんでいた方が障害年金を受給できたことで、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。制度を知ることの大切さを実感しました。記事では、障害年金の申請方法、特別障害者手当、医療費助成など、「知らないと損する」お金の制度を、専門家として正確かつ分かりやすく解説します。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

社会保険労務士として、障害年金の申請支援を通じて多くの方の生活を支えたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

精神障害のある方が障害年金を受給でき、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

「知らないと損する」お金の制度を、専門家として正確かつ分かりやすく解説します。

🎨 趣味・特技

資格勉強、温泉巡り

🔍 最近気になっているテーマ

障害年金のオンライン申請、制度の周知不足問題

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