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調理が難しいときに役立つキッチンの工夫と支援

📖 約42✍️ 金子 匠
調理が難しいときに役立つキッチンの工夫と支援
調理に困難を抱える障害のある方向けに、キッチンでの工夫と具体的な支援策を解説します。身体機能の制約や発達障害による実行機能の課題に応じたアプローチを紹介。IHヒーター導入や滑り止め対策などの環境整備、固定式まな板やロッカーナイフといった自助具の活用法を詳述します。さらに、居宅介護(生活援助)による調理代行や、自立訓練(生活訓練)による段階的なスキル習得支援、ミールキット利用などの外部サービスも紹介。安全で負担の少ない調理を実現するための行動計画を提示します。

調理の「難しい」を「できた!」に変える:キッチンの工夫と支援ガイド

毎日欠かせない食事の準備。しかし、身体の不自由さ、集中力の維持、手順の複雑さなど、さまざまな理由で「調理が難しい」と感じている障害のある方やご家族は少なくありません。料理は単なる家事ではなく、生活の楽しみや健康を支える大切な活動です。

「自分一人で安全に料理したい」「家族のために料理を続けたい」という願いを叶えるために、この記事では、キッチン環境を整える具体的な工夫、便利な調理器具(自助具)、そして公的な支援サービスについて詳しく解説します。あなたに合った方法を見つけ、調理の負担を減らし、食卓を豊かにするためのヒントを見つけていきましょう。


調理が困難になる理由とアプローチの基本

調理の難しさは、障害の特性によって多様です。困難の原因を正確に理解することが、最も効果的な工夫と支援策を見つけるための出発点になります。

身体機能の制約:負担を減らす「代償動作」と「環境整備」

肢体不自由や慢性疾患などにより身体機能に制約がある場合、調理の動作そのものに困難が生じます。

  • 動作の不安定さ: 食材を切る、鍋を振る、お皿を運ぶといった動作が不安定で、怪我や事故のリスクが高まります。
  • 持続的な疲労: 長時間の立ち仕事や、重い調理器具の持ち運びが困難で、調理を継続することができません。
  • 片手での操作: 片麻痺などにより、片手で食材を押さえたり、両手で行う動作(例:絞る、混ぜる)が難しくなります。

この場合、支援の中心は「動作の代償(補う)」です。具体的には、調理動作を最小限の力と安全で行えるよう、自助具や福祉用具を活用し、キッチン環境を身体に合わせる工夫が重要になります。

実行機能の課題:手順の「見える化」と「集中管理」

発達障害(ASD、ADHDなど)や精神障害のある方の場合、身体的な問題よりも、調理の計画や実行といった認知機能に課題があることが多いです。

  • 段取りの困難: 複数の工程(切る、煮る、焼くなど)を同時進行することや、調理に必要な時間を予測することが苦手です。
  • 注意散漫とミス: 火をつけたまま放置する、計量間違いをするなど、集中力の維持や確認作業の漏れが、安全面でのリスクにつながります。
  • 感覚過敏: 油が跳ねる音、食材の匂い、手の汚れなどがストレスとなり、調理自体を避けたくなることがあります。

💡 ポイント

実行機能の課題に対するアプローチは、外部化(見える化)と構造化が基本です。頭の中で行っている複雑な工程を、チェックリストやタイマーといった外部ツールを使って管理し、調理環境を整然と構造化することが効果的です。


安全と効率を高めるキッチンの環境整備

調理を楽にするための工夫は、高額なリフォームだけではありません。配置の変更や、ちょっとしたアイテムの追加だけでも、安全性と効率は大きく向上します。専門家の視点を取り入れた環境整備の基本を学びましょう。

キッチンの配置と収納の工夫

動線(動作のルート)を短く、そして安全にすることは、疲労を軽減し、事故を防ぐ上で最も効果的な工夫の一つです。

  • 作業台の高さ調整: 車いす利用者や立位が不安定な方にとって、作業台(カウンター)の高さは非常に重要です。可能な場合は昇降式のキッチンを導入するか、車いすの膝が当たらないようシンク下のキャビネットを撤去するなどの住宅改修を検討します。
  • 頻繁に使う物の「ゾーン分け」: 包丁、まな板、よく使う調味料、食器など、使用頻度の高いものを手の届きやすい場所(ゴールデンゾーン)に配置します。重いものは低い位置、軽いものは高い位置に収納するなど、力に合わせて配置を変えます。
  • 整理整頓の徹底: 物の定位置を決め、透明なケースやラベルを使って収納を「見える化」します。特に発達障害のある方は、物が雑然としていると集中力が途切れたり、必要なものを見つけられなかったりするため、整理整頓は重要な支援の一部です。

作業の安全性を高める工夫

火、熱湯、刃物など、危険が伴う調理作業だからこそ、安全対策は徹底する必要があります。

  • IHクッキングヒーターの導入: 火を使わないIHクッキングヒーターは、服に引火する危険がなく、表面温度の上昇も比較的緩やかで、火傷のリスクを大幅に軽減できます。特に認知機能に不安がある方や、身体の動きが不安定な方には推奨されます。
  • 滑り止め対策: 包丁を使う作業台や、食器を置く場所には、濡れても滑りにくいシリコン製のマットや、食器の下に敷く滑り止めシートを活用します。片手での作業が多い場合、食材が動かないように固定する工夫は必須です。
  • 自動消火機能の活用: ガスコンロを使う場合でも、煮こぼれなどで火が消えた際に自動でガスを止める安全機能付きのコンロを選びます。また、調理中のタイマーは必ず目立つ場所に設置し、火元から離れる際は必ずアラームをセットする習慣をつけましょう。


調理をサポートする便利な自助具と福祉用具

調理の難しい工程を「代償」するための自助具や福祉用具は多岐にわたります。これらは、作業療法士(OT)が最も得意とする分野であり、個別のアドバイスを受けることで、最適なツールを見つけることができます。

「切る」「向く」を安全にする自助具

刃物を使う作業は特に危険が伴います。安全かつ少ない力で作業を行うための工夫を見ていきましょう。

  • 固定式まな板・ピーラー: 片手しか使えない場合、食材を固定するための釘や吸盤が付いたまな板(ネイルボード)を使用します。ピーラーも台に固定できるタイプや、グリップが太く滑りにくいタイプを選ぶことで、安定して皮むきができます。
  • ロッカーナイフ(振り子包丁): 包丁を上から押さえつけるようにして使うため、テコの原理で少ない力で切ることができます。握力の弱い方や、通常の包丁を握るのが困難な方に適しています。
  • 電動調理器具の活用: フードプロセッサー、電動缶切り、電動ペッパーミルなどは、手の力や細かな動作が不要になるため、積極的に導入を検討しましょう。

「以前はジャガイモの皮むきが怖くて諦めていましたが、OTさんに教えてもらった固定式のピーラーを使うようになって、自分の手で野菜の下ごしらえができるようになりました。この小さな成功が、料理への意欲に繋がっています。」

— 40代の片麻痺のある当事者の声

「運ぶ」「混ぜる」を楽にする工夫

調理器具の重さや、作業中の安定性を確保するための工夫も重要です。

  • 軽量・滑り止め付きの食器・調理器具: 重い鍋や食器は運搬時の事故につながります。樹脂製やシリコン製の軽量な調理器具を選びましょう。また、底に滑り止め加工が施されたボウルや食器は、混ぜる・かき回す作業を安定させます。
  • ユニバーサルデザインの取っ手: 鍋やフライパンの取っ手が太く握りやすいもの、または補助的な取っ手が付いているものを選ぶことで、持ち上げたり、運んだりする際の安定性が増します。
  • ワゴン・配膳車の活用: 出来上がった料理や重い材料を、キッチンから食卓まで安全に運ぶために、キャスター付きのワゴンや配膳車を活用します。これにより、運搬時の転倒リスクを大幅に減らすことができます。

⚠️ 注意

自助具や福祉用具を選ぶ際は、必ず実際に試用しましょう。カタログ上の情報だけでなく、ご自身の握力、可動域、認知機能に合っているかを、OTや福祉用具専門相談員立ち会いのもとで確認することが大切です。


調理スキルを習得するための専門的な支援

環境を整えるだけでなく、「調理のやり方」自体を訓練し、スキルを身につけるための支援も非常に重要です。特に発達障害のある方にとっては、反復練習と手順の明確化が自立への鍵となります。

自立訓練(生活訓練)での調理実習

障害福祉サービスの一つである自立訓練(生活訓練)では、安全かつ段階的に調理スキルを習得するためのプログラムが提供されています。これは、地域で自立した生活を送るために必要な能力を養うことが目的です。

  1. 基礎知識の習得: 食材の栄養、賞味期限の管理、衛生管理など、調理の安全に関わる基礎知識を学びます。
  2. 手順の練習: 複雑な料理を、一つ一つの小さなステップに分け、チェックリストやタイマーを使って、手順通りに進める練習を反復して行います。
  3. 応用力の育成: 献立の立て方、予算に合わせた買い物計画、残った食材の活用方法など、実生活で役立つ応用力を身につけます。

自立訓練の最大のメリットは、失敗しても安全な環境で、専門の支援員から個別のアドバイスを受けながら練習できる点です。これにより、自己流で事故を起こすリスクを避け、確実なスキルアップを目指せます。

「料理の手順」を構造化する支援

発達障害などにより段取りが苦手な方には、調理手順を「構造化」する具体的な支援が効果的です。

  • レシピのカスタマイズ: 市販のレシピ本は工程が省略されていることが多いため、それを「誰でもわかるレベル」まで細かく分解し、支援員が一緒にカスタマイズしたレシピノートを作成します。写真やイラストを多用し、感覚的に理解できるようにします。
  • 作業スペースの構造化: 調理台を「切るエリア」「調味料エリア」「加熱エリア」のように明確に区切り、一度に扱う情報量を減らします。これにより、混乱やミスの発生を防ぎます。
  • マルチタスクの回避: 同時進行で複数の調理を行うのではなく、一つの作業が終わってから次の作業に移る「シングルタスク」を基本とすることで、集中力を維持しやすくなります。

✅ 成功のコツ

調理スキル習得の訓練では、完璧を目指す必要はありません。まずは「包丁を使わない一品」や「電子レンジでできる簡単な料理」から始め、成功体験を積み重ねることが重要です。成功体験は、次のステップへの大きなモチベーションになります。


調理の負担を軽減する外部サービスと資源

全てを自力で行うのではなく、外部のサービスや便利な資源を組み合わせることも、調理の負担を軽減するための重要な戦略です。特に体調や体力の変動が大きい方は、これらのサービスを生活のベースに組み込むことを推奨します。

居宅介護サービス:生活援助の活用

障害福祉サービスの居宅介護に含まれる「生活援助」は、ホームヘルパーが自宅を訪問し、ご本人に代わって調理を行ってくれるサービスです。

  • 調理代行: 献立の相談から、食材の準備、調理、配膳までをヘルパーが担当します。ご本人の健康状態や嗜好に合わせた食事を提供してもらえます。
  • 買い物代行: 調理に必要な食材や日用品の買い物も代行してもらえるため、重い荷物を運ぶ負担や、店舗内での移動の困難さが解消されます。

このサービスは、ご本人の体調が優れない日や、リハビリなどで疲れている日など、体力的な負担を軽減したいときに非常に有効です。サービス利用の可否や頻度は、市町村の支給決定とサービス等利用計画に基づいて決まります。

ミールキット・配食サービスの積極的な利用

福祉サービスではない、一般の民間サービスも強力な味方になります。

  • ミールキット: カット済みの食材と調味料、レシピがセットになったキットです。調理の「切る」「計る」という面倒で危険な工程が省略されているため、加熱調理するだけで済み、手間と時間を大幅に短縮できます。
  • 配食サービス・宅配弁当: 栄養バランスが考慮されたお弁当や冷凍食品を定期的に自宅まで届けてくれるサービスです。特に、体力の消耗が激しい方や、調理が全く困難な方にとって、健康的な食生活を維持するための生命線となります。

多くの配食サービスでは、塩分やカロリーを調整した「療養食」も提供されています。ご自身の健康状態に合わせて、これらの民間サービスを生活援助と並行して活用することを検討しましょう。

支援の種類 目的 メリット
居宅介護(生活援助) 家事の代行 費用負担が少なく、プロのヘルパーが実施
自立訓練(生活訓練) スキル習得 専門員のもとで安全に反復練習ができる
ミールキット/配食 調理の簡略化 手軽に栄養のある食事が摂れ、民間サービスのため手軽に利用開始できる


よくある質問(FAQ):キッチンの工夫と支援

調理に関する工夫や支援について、皆様からよくいただく質問とその回答をまとめました。

Q1: 住宅改修は、どのような制度で費用を助成してもらえますか?

A1: 障害のある方の場合、日常生活用具の給付等事業の一環として、住宅改修費の助成が受けられる可能性があります。また、介護保険の要介護・要支援認定を受けている方(65歳以上、または特定疾病のある40歳〜64歳の方)は、介護保険の住宅改修費支給制度(上限20万円、自己負担1割〜3割)を利用できます。どちらの制度も、事前に市町村への申請と、専門職(OT、ケアマネジャー等)の意見書が必要です。

Q2: 自助具や便利な調理器具は、どこで相談・購入できますか?

A2: まずは、リハビリテーションを行っている病院の作業療法士や、地域の福祉用具専門相談員に相談してください。彼らは、個人の身体状況に合った最適な用具を選定してくれます。購入は、福祉用具取扱店、または近年はオンラインショップでも多様な自助具が手に入ります。一部の福祉用具は、日常生活用具給付の対象になる可能性があります。

Q3: 認知症の進行により、火の消し忘れが心配です。どのような工夫ができますか?

A3: 火の消し忘れ対策としては、IHクッキングヒーターへの切り替えが最も安全性が高い対策です。また、コンロを使わざるを得ない場合は、調理中のタイマー使用を徹底する、キッチンに火災報知器を設置し警報が鳴るようにする、そして可能であれば、ヘルパーによる見守り(居宅介護の身体介護や見守り支援)を利用するなどの多重的な対策を講じることが重要です。認知症専門の相談員にも相談することをおすすめします。

Q4: 料理の訓練は、どのくらいの期間で効果が出ますか?

A4: 効果には個人差がありますが、自立訓練(生活訓練)の場合、週に1〜2回の実習を3ヶ月から6ヶ月継続することで、簡単な料理の手順を覚えたり、安全に包丁を使えるようになったりといった具体的な成果が見え始めることが多いです。訓練の期間は、個別の目標と進捗によって、相談支援専門員と相談しながら設定されます。


次の一歩:安全で楽しい調理を実現するために

調理の困難は、工夫と支援によって必ず軽減できます。「食べる」ことは、生きる喜びそのものです。一歩踏み出し、あなたらしい方法で、キッチンでの活動を再開、あるいは継続していきましょう。

行動チェックリスト

  1. 相談窓口への連絡: 特定相談支援事業所に連絡し、調理に関する具体的な困りごとを伝え、サービス利用計画の作成を依頼しましたか?
  2. 専門家のアセスメント: 作業療法士(OT)に、自宅のキッチンでの調理動作や、使えそうな自助具についてアセスメント(評価)を依頼しましたか?
  3. 安全対策の実行: IH導入や滑り止めマットの設置など、すぐにできる安全対策を最低一つ実行しましたか?
  4. サービス・資源の比較: 居宅介護(生活援助)とミールキット/配食サービスを比較し、最も負担の少ない方法を一つ試す計画を立てましたか?

参考相談先とリンク

  • 特定相談支援事業所: 障害福祉サービス利用のコーディネート全般
  • 福祉用具専門相談員(福祉用具店): 自助具や福祉用具の選定、レンタル、購入の相談
  • 地域の基幹相談支援センター: 複合的な課題の相談、専門機関への連携
  • お住まいの市町村役場 障害福祉担当課: 制度全般、申請手続き


まとめ

  • 困難の背景理解: 調理の困難は、身体的な制約だけでなく、実行機能の課題(手順、集中力)にも起因し、それぞれに適した工夫が必要です。
  • 環境と自助具の活用: IHへの切り替え、滑り止めマット、固定式まな板、ロッカーナイフなどの自助具を導入し、作業の安全性と効率を大幅に高めましょう。OTの専門的な視点が不可欠です。
  • 訓練と代行の組み合わせ: 自立訓練(生活訓練)で調理スキルを習得し、居宅介護(生活援助)や民間配食サービスで体力の負担を軽減するなど、複数の支援を組み合わせて活用することが成功の鍵です。

金子 匠

金子 匠

かねこ たくみ55
編集長📚 実務経験 30
🎯 生活サポート🎯 制度・法律

📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士

障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。

大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

読書、散歩

🔍 最近気になっているテーマ

障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形

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