働きづらさの正体は?職場の困りごとチェックリスト

働きづらさの正体は?職場の困りごとチェックリスト:見えないミスマッチを特定し、適切な支援を求めるために
「自分だけ仕事の覚えが悪い気がする……」
「なぜかミスばかり繰り返してしまうけれど、何が原因か自分でもよく分からない……」
仕事で感じる「働きづらさ」は、多くの場合、ご自身の能力や努力不足ではなく、障害特性と職場の環境やルールの間に生じている「ミスマッチ」が正体です。この「ミスマッチ」の正体を特定できれば、それはすぐに具体的な「合理的配慮」の要望へと変換することが可能になります。
しかし、「何が困っているのか」を明確に言語化することは、特性を持つ方にとって非常に難しい作業です。曖昧な「しんどい」という感覚のままでは、企業側も適切な支援を行うことができません。
この記事では、職場でよくある「働きづらさの正体」を4つの領域に分類し、それぞれに詳細なチェックリストをご用意しました。このチェックリストを活用することで、ご自身の困りごとを客観的に特定し、「困りごとの正体」「特性との関連」「取るべき具体的な対策」を明確にするためのロードマップを手に入れましょう。
チェックリスト1:【業務遂行】指示・計画・ミスの傾向
原因分析:指示の理解とタスク管理の困難
仕事のミスや納期遅延が続く場合、原因は「集中力のなさ」ではなく、指示の出し方や、タスクを計画的に管理する過程に困難がある可能性が高いです。
チェックリスト:指示とタスク管理
- 口頭で一度に複数の指示を受けると、途中で忘れたり混乱したりする。(指示の記憶・処理困難)
- 「適当に」「急いで」など、曖昧な言葉で指示されると、何をすべきか分からなくなる。(抽象的な指示の理解困難)
- 自分なりに作業手順を決めてしまうと、途中でやり方を変えることが難しい。(手順変更の困難)
- 複数の業務を同時に頼まれると、どれから手をつけていいか、優先順位が判断できない。(マルチタスクの困難)
- 作業に集中しすぎると(過集中)、休憩や次のタスクへの切り替えが遅れてしまう。(注意の切り替え困難)
💡 ポイント
もしチェックがついた項目が多い場合、特性として「実行機能(計画、優先順位付け、切り替え)」に関する困難がある可能性が高いです。対策は、外部ツールや他者の支援を活用して、この実行機能を補うことです。
取るべき具体的な対策(合理的配慮の提案例)
この分野の働きづらさを解消するためには、「指示の構造化」と「業務の可視化」が中心となります。
- 指示の構造化: 指示は必ず「5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)」に基づき、口頭ではなくメールやメモで文書化してもらう。
- タスクの可視化: 業務全体を、ToDoリストやガントチャート、または「付箋」などを使って見える化し、完了したタスクが明確に消える仕組みを作る。
- チェック機能の導入: 重要な業務については、本人によるセルフチェック後、上司や先輩社員によるダブルチェックをルーティンとして組み込んでもらう。
「指示を文書化してほしい」という要望は、後のトラブル防止にも繋がり、企業側にとってもメリットが大きい配慮です。
チェックリスト2:【コミュニケーション】対人関係と報連相の傾向
原因分析:暗黙のルールの理解と非言語情報の処理困難
職場での人間関係の摩擦や、報連相(報告・連絡・相談)の不足は、「性格の問題」ではなく、コミュニケーションにおける情報処理の特性に起因している場合があります。
チェックリスト:対人関係と報連相
- 上司や同僚の表情や声のトーンから、相手が怒っているのか、冗談を言っているのか判断が難しい。(非言語コミュニケーションの読み取り困難)
- 休憩中の雑談や、業務外の飲み会など、「空気を読む」ことが求められる場面が苦手である。(暗黙のルール・文化の理解困難)
- 業務がうまくいかない時に、「いつ」「何を」報告すればいいかのタイミングが分からず、報告が遅れがちになる。(報連相のタイミング判断困難)
- 自分の考えや困りごとを伝える際、話が長くなったり、結論から話せなかったりする。(情報の整理・伝達困難)
- 職場の人間関係の距離感が分からず、馴れ馴れしくなりすぎたり、逆に避けてしまったりする。(対人距離感の調整困難)
💡 ポイント
対人関係の困難は、特性が最も表れやすく、二次障害(うつ病など)に繋がりやすい領域です。具体的な対策として、コミュニケーションの「ルール化」を目指しましょう。
取るべき具体的な対策(合理的配慮の提案例)
コミュニケーションのしんどさを和らげるためには、「相談の仕組み化」と「情報の文字化」が効果的です。
- メンター制度の導入: 業務指導者とは別に、職場のルールや文化を解説してくれる「相談役」(メンター)を明確に指定してもらう。
- 相談時間の確保: 毎日または週に一度、10分程度の「定期面談」の時間を上司と設け、報連相や困りごとをアウトプットする場を義務化する。
- 会議・打ち合わせの工夫: 会議の前に議題とゴールを文書化して配布してもらう。また、非言語的な情報に頼らなくても済むよう、フィードバックは文字で行ってもらうことを依頼する。
「相談する」ことを個人の努力に任せるのではなく、業務プロセスに組み込むことが、この分野の働きづらさを防ぐ最大の鍵です。
チェックリスト3:【感覚・環境】職場の物理的刺激の傾向
原因分析:感覚過敏と環境のミスマッチ
特定の匂いや音、光に過敏に反応してしまう感覚過敏は、本人の努力では制御できません。職場環境の物理的な刺激が、知らず知らずのうちに集中力と体力を奪っている可能性があります。
チェックリスト:感覚と環境
- オフィス内の蛍光灯のチカチカや、窓からの強い光で目が疲れやすく、頭痛がする。(視覚過敏)
- 電話のベル、キーボードの音、隣の人の話し声など、複数の音が重なると強い不快感を感じる。(聴覚過敏)
- 職場の芳香剤、コーヒー、同僚の香水など、特定の匂いが原因で体調が悪くなる。(嗅覚過敏)
- 制服や、机、椅子の特定の素材の感触が気になって、集中が途切れてしまう。(触覚過敏)
- 机の上が乱雑な状態や、物が多すぎる環境だと、視覚的な情報が過剰になり落ち着かない。(視覚的な情報処理困難)
💡 ポイント
感覚過敏による困難は、特性を知らない人から「わがまま」と誤解されがちです。しかし、これは合理的配慮として環境調整を求めるべき、極めて重要な問題です。
取るべき具体的な対策(合理的配慮の提案例)
感覚過敏によるしんどさへの対策は、「刺激を遮断する」または「刺激を和らげる」物理的な調整が中心となります。
- 遮断ツールの使用許可: 業務中もイヤーマフやノイズキャンセリングイヤホン、サングラスや遮光用サンバイザーの使用を許可してもらう。
- 座席の調整: 騒音源(出入り口、電話の近く)や、強い光の当たる場所から離れた静かで落ち着ける席を固定席としてもらう。
- パーソナルスペースの確保: 高いパーテーションや衝立を設置し、視界に入る情報や人の動きを物理的に遮断する。
- 清掃と匂いの管理: 席の周りの環境をシンプルに保つことを徹底し、匂いの強いものの使用を控えるよう職場全体に啓発してもらう。
これらの配慮は、「集中力を高めるための業務ツール」であると位置づけて、会社と交渉することが、受け入れられやすさのコツです。
チェックリスト4:【体調・自己管理】休息とリズムの傾向
原因分析:疲労の自覚困難と自己調整の困難
仕事の成果には直接関わらないように見えて、実は最も離職の原因となりやすいのが、体調や疲労の自己管理に関する困難です。
チェックリスト:体調と自己管理
- 業務に集中しすぎると、休憩時間や終業時間を守るのを忘れてしまい、疲労が溜まってしまう。(過集中による自己調整の困難)
- 朝、決まった時間に起きることや出勤することが、特性や服薬の影響で難しい日がある。(生活リズムの調整困難)
- 体調が悪くなっても、「この程度で休んでいいのか」と遠慮してしまい、我慢して悪化させてしまう。(体調不良の報告・判断困難)
- ストレスが溜まっても、自分で解消する方法を見つけたり、リラックスしたりすることが苦手である。(ストレスマネジメントの困難)
- 残業や急な予定変更が続くと、翌日の体調や気分に大きく影響し、立て直しに時間がかかる。(変化への対応困難)
✅ 成功のコツ
体調や休息の管理は、「自分でコントロールする」のではなく、「仕組みでコントロールする」という視点が重要です。企業側の「見守り」や「制度化」が不可欠です。
取るべき具体的な対策(合理的配慮の提案例)
体調管理の困難に対する対策は、「休息の義務化」と「柔軟な勤務制度」の活用が鍵となります。
- 休憩の義務化: スケジュールに「10:30〜10:40 休憩(離席必須)」などと組み込み、上司や支援者がその実行を確認する。
- 始業時間の調整: 服薬や特性による朝の負担が大きい場合、フレックスタイム制度や時差出勤を利用し、始業時間を柔軟に設定してもらう。
- 体調記録の活用: 毎日、気分や睡眠時間、集中度などを記録する「体調記録シート」を作成し、上司と共有することで、体調の波を客観的に把握し、早期に休養を提案してもらう。
- 残業・急な変更の制限: 原則残業なしとし、急な業務変更や出張などは、可能な限り事前に予告してもらうルールを設定する。
これらの配慮は、長く安定して働き続けるための「持続可能な働き方」を企業と共に作り上げるための重要な一歩となります。
チェックリストを活用した次のアクションステップ
アクション1:困りごとの正体を「見える化」する
チェックリストでチェックが多くついた項目を、改めてノートやPCに書き出し、具体的なエピソードを添えて整理しましょう。この「見える化」された情報こそが、適切な支援を求めるための根拠となるデータです。
【例】
「聴覚過敏」の項目にチェック。
→ エピソード:「15時頃、隣の席の人の電話の声が原因で、集中力が途切れ、頭痛と吐き気が起こった。その日の午後からの業務は全てミスにつながった。」
— 自身の記録より
この記録を基に、「この問題を防ぐためには、イヤーマフの使用を許可してほしい」という具体的な要望を導き出すことができます。
アクション2:外部の専門家に相談し、第三者の視点を得る
自分の困りごとを「見える化」できたら、すぐに職場に相談する前に、必ず外部の専門機関に相談しましょう。これは、ご自身の要望が「合理的配慮」として適切な範囲かどうか、客観的に判断してもらうためです。
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ): 職場の困りごとについて、無料で相談できます。具体的な配慮提案の方法や、職場との交渉を支援してくれます。
- 就労移行支援事業所: 働きながらでも利用できる職場定着支援サービスを提供しており、ジョブコーチによる企業への直接支援を受けることも可能です。
- 産業医・精神科医: 体調不良が伴う場合は、専門医の診断を受け、「体調不良の原因は特性と環境のミスマッチにある」という診断書を書いてもらうことが、交渉において非常に強力な根拠となります。
⚠️ 注意
専門家の意見を得ることで、あなたの要望は「個人的な訴え」から「専門家の裏付けがある、法に基づいた配慮の要求」へと変わります。これにより、企業側もより真剣に対応せざるを得なくなります。
アクション3:企業と合理的配慮の「合意文書」を作成する
最終的なアクションは、専門家のサポートのもと、企業と「合理的配慮」の内容を合意し、それを文書化することです。
合意文書(合理的配慮確認書)に含めるべき内容:
- 困りごとの具体的な内容と、その根拠となる特性。
- 企業が提供を合意した具体的な合理的配慮(例:イヤーマフの使用、口頭指示の文書化)。
- 配慮の実施期間(例:6ヶ月間試行)。
- 相談窓口と定期的な評価の場(例:月一度の定着面談)。
この文書を作成することで、その配慮は「組織のルール」となり、担当者が変わっても支援が継続される確実性が高まります。これは、長く働き続けるための、最も重要な土台となります。
よくある質問(FAQ)と相談窓口
Q1: チェックリストでチェックが多くつきましたが、これは病気なのでしょうか?
A: チェックが多いことは、「病気」ではなく、「脳の情報処理に偏りがある」ことを示しています。
チェックリストは、診断ツールではなく、あくまで困りごとの傾向を把握するためのツールです。チェックが多くつくということは、あなたが特定の感覚や情報処理において、一般的な人とは異なる特性を持っている可能性が高いことを意味します。
- この特性は、発達障害や精神障害と診断される場合もありますが、診断の有無に関わらず、困りごとがあれば合理的配慮を求める権利があります。
診断が必要な場合は、専門の医療機関へ、支援が必要な場合は、障害者就業・生活支援センターへ相談してください。
Q2: 働きづらいことを上司に伝えると、クビになるのではないかと不安です。
A: 適切な配慮を求めることは、障害者差別解消法で保障された権利です。
日本では、障害者差別解消法により、企業は障害のある方からの合理的配慮の要望に対し、過度な負担にならない範囲で応じることが義務づけられています。適切な手順(専門家の意見書や具体的な要望書)を踏んで相談すれば、それが原因で解雇されることは、不当解雇にあたる可能性が高いです。
- 相談する際は、感情的ではなく、「この配慮があれば、企業の求める成果を出せます」という前向きな姿勢で臨みましょう。
Q3: 相談しても会社が動いてくれない場合はどうすればいいですか?
A: 外部の公的機関を頼りましょう。
企業が合理的配慮の提供を拒否する場合、以下の公的機関に相談しましょう。
- 労働局(総合労働相談コーナー): 職場でのトラブルについて相談でき、行政による指導や助言が行われることがあります。
- 都道府県の障害福祉窓口: 企業の法遵守に関する相談が可能です。
重要なのは、「記録を残すこと」と「外部の力を借りること」です。一人で抱え込まず、外部の専門家を味方につけましょう。
まとめ
- 🎯 働きづらさの正体: 困りごとは業務、対人、環境、自己管理の4つの側面から特定し、その正体が特性と職場のミスマッチであることを理解しましょう。
- 🤝 専門家の活用: 自分の困りごとを「見える化」したら、障害者就業・生活支援センターなどの専門家に相談し、客観的な視点と適切な配慮の提案を得ましょう。
- ✍️ 文書化と仕組み化: 合意した合理的配慮は必ず文書化し、定期的な面談を設けるなど、支援を「組織の仕組み」として定着させることが、長く働くための最大の防御策です。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





