障害特性によるコミュニケーションの悩みを理解する

障害特性によるコミュニケーションの悩みを理解する
「相手の言っていることが理解できない」「自分の伝えたいことが上手く言葉にならない」「なぜかいつも会話が噛み合わないと指摘される」
コミュニケーションは、私たちが社会で生活する上で欠かせないツールですが、障害特性を持つ方にとって、それは時に乗り越えがたい大きな壁となって立ちはだかります。家族や支援者の方々も、「どうしてこの人はこんな伝え方をするのだろう」「どうすれば理解し合えるのだろう」と、悩みを抱えていることでしょう。
この記事では、発達障害(ASD、ADHD)や知的障害など、主な障害特性が、コミュニケーションのどのような側面に影響を与えているのかを深く理解します。さらに、特性による悩みを軽減し、よりスムーズで心地よい対話を実現するための具体的な工夫と、周囲ができるサポート方法を詳しく解説します。特性を理解し、対話の質を高めるためのヒントを見つけてください。
1.自閉スペクトラム症(ASD)に見られるコミュニケーション特性
自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ方々は、「社会性・対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「限定された興味や反復行動」を特徴とします。このうち、コミュニケーションの特性は、日常的な対話に大きな影響を与えます。
非言語コミュニケーションの読み取りの困難さ
ASDの特性を持つ方は、表情、ジェスチャー、声のトーンといった非言語的な情報から相手の感情や意図を読み取ることが苦手な傾向があります。健常者が無意識に察する「行間を読む」「空気を読む」といった行為が、極めて難しいのです。
例えば、相手が冗談で怒ったフリをしていても、その表情や声のトーンから「本当に怒っている」と解釈してしまい、パニックになることがあります。そのため、会話の意図や感情を言語化して明確に伝えることが、非常に重要になります。
言葉の「文字通り」の解釈
ASDの特性を持つ方は、言葉を文字通りに解釈する傾向が強いです。比喩表現、皮肉、曖昧な指示、慣用句などが理解しづらく、会話の中で混乱が生じやすい原因となります。
上司:「ちょっと手を貸してくれ。」
本人:「(文字通り)手を貸そうとしたら、『そうじゃなくて、作業を手伝ってくれって意味だよ!』と怒鳴られました。どうすればよかったのでしょうか。」
このような誤解を防ぐためには、抽象的な言葉を避け、具体的で明確な言葉を選ぶ習慣が必要です。「〇〇の作業を、〇分で手伝ってほしい」のように、5W1Hを明確に伝えましょう。
一方的な会話(自分の関心のある話題への集中)
興味の対象が限定的であるという特性から、自分が関心を持つ特定の話題(例:電車、歴史、特定のゲームなど)について、相手の反応を気にせず一方的に話し続けてしまうことがあります。
💡 ポイント
これは悪意があるわけではなく、その話題が本人にとって重要な情報であり、それを共有したいという純粋な欲求によるものです。支援者は、相手が興味を持っているサイン(例:質問をする、相槌を打つ)がない場合、「今、少し話題を変えてもいいかな」と優しく介入する工夫が必要です。
2.ADHDと知的障害に見られるコミュニケーション特性
次に、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と知的障害の特性が、コミュニケーションにどのような影響を与えるかを見ていきましょう。
ADHD:衝動性と言葉の多動性
ADHDの特性を持つ方は、不注意、多動性、衝動性という3つの特性を持ちます。このうち「衝動性」と「不注意」は、対人コミュニケーションにおいて以下のような形で現れやすいです。
- 遮り: 相手の話の途中で、衝動的に自分の言いたいことを話し始めてしまう。
- 聞き間違い・聞き逃し: 不注意により、相手の話の重要な部分を聞き逃し、会話が噛み合わなくなる。
- 発言の多さ: 場の状況を考慮せず、思いついたことを次々と発言し、会話の流れを乱してしまう。
これらの行動は、しばしば「マナーが悪い」「人の話を聞かない」と誤解されがちですが、本人にとっては衝動を抑えることが非常に難しいという脳機能の特性によるものです。対策としては、意識的に話す前に3秒間待つ練習や、メモを取りながら話を聞く習慣が有効です。
知的障害:言語理解と表現力の困難
知的障害のある方は、言葉の理解(受容言語)と言葉の表現(表出言語)の両方に困難を抱えることがあります。これは、抽象的な概念の理解や、複雑な文章の構成が難しいことに起因します。
| 困難な点 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 受容言語 | 長い指示、複数の情報を一度に理解することが難しい |
| 表出言語 | 自分の感情や状況を、具体的な言葉で正確に伝えることが難しい |
特に、自分の不満や困りごとを言葉で表現できない場合、代わりに不適切な行動(例:大声を出す、物を叩く)として表現されてしまうことがあります。支援者は、言葉だけでなく、行動や表情の変化から本人のメッセージを読み取るスキルが求められます。
3.特性に応じた「伝わる」コミュニケーションの工夫
コミュニケーションの悩みを減らすためには、それぞれの特性に合わせた、具体的な工夫を取り入れることが不可欠です。それは特別な技術ではなく、誰もが心地よくなるための配慮です。
工夫1:五感をフル活用した「マルチモーダル伝達」
口頭での伝達だけでなく、視覚や触覚など、五感を複合的に使う「マルチモーダル伝達」は、多くの特性に有効です。
- 視覚化: 指示は口頭だけでなく、メモ、イラスト、図を使って見せる。会話のテーマを紙に書き出す。
- 構造化: 作業手順や一日のスケジュールをチェックリストや写真で示し、「今、どこまで進んでいるか」を明確にする。
- 触覚(ジェスチャー): 大切な指示は、言葉と同時にジェスチャーや指差しを添える。
特にASDや知的障害のある方には、「目に見える」情報は安心感と理解の確実性をもたらします。
工夫2:「質問の仕方」と「沈黙の活用」
相手の理解度を確認するための「質問の仕方」を工夫しましょう。「わかりましたか?」という質問は、相手がわからない場合でも「はい」と答えてしまうリスクがあります。
代わりに、オープンクエスチョンを使って、理解度を具体的な言葉で表現してもらうように促しましょう。「〇〇の作業、最初は何から始めますか?」と聞くことで、理解しているかどうかが明確になります。
✅ 成功のコツ
ASDや知的障害のある方は、質問の後に答えを考えるための「沈黙」が必要です。数秒間、沈黙を恐れずに待つ習慣を持ちましょう。急かさず待つことで、正確な答えを引き出しやすくなります。
工夫3:感情ではなく「事実」と「提案」で伝える
特性のある方が感情的に混乱している場合や、相手の感情的なメッセージを理解するのが難しい場合に備え、感情的な言葉を避ける工夫をします。
感情的な伝え方: 「いつも遅刻して、私はすごく困っているわ!」
事実と提案で伝える: 「先週、あなたは3回、10分以上遅刻しました(事実)。今後、毎日5分早く家を出てみるのはどうですか(提案)。」
感情ではなく、客観的な事実と、次にとるべき具体的な行動に焦点を当てることで、多くの特性を持つ方が理解しやすく、建設的な対話につながります。
4.周囲ができる「理解者」としてのサポート
ご家族や支援者は、特性を持つ方のコミュニケーションを支える最も重要な「理解者」です。適切なサポートを通じて、本人が安心して社会と関われる環境を作りましょう。
サポート1:安心できる「通訳・仲介役」になる
特に、職場の同僚や学校の先生など、特性への理解がまだ十分でない人とのコミュニケーションにおいて、支援者が通訳や仲介役となる習慣が大切です。
- 本人への通訳: 曖昧な指示を、本人にとって理解しやすい具体的な言葉に置き換えて伝える。
- 相手への仲介: 本人の特性(例:聴覚過敏なので、静かな場所で話す必要がある)を、角を立てずに説明し、配慮を引き出す。
すべての場面で仲介する必要はありませんが、ストレスや誤解が生じやすい重要な場面では、積極的に介入し、本人の負担を軽減しましょう。
サポート2:失敗を「学びの機会」と捉える習慣
コミュニケーションで失敗があったとき、ご本人やご家族を「責める」のではなく、それを「次に活かすための学びの機会」と捉える習慣を持ちましょう。
失敗が起こった際、「なぜ失敗したか」を感情論ではなく、構造的に分析します。「あの時、AではなくBのように言えば、相手はもっと理解したかもしれない」というように、具体的な行動の改善点に焦点を当てます。
この「学びの習慣」は、ソーシャルスキルトレーニング(SST)の基本的な考え方です。失敗を恐れずに、安全な環境で練習を重ねることが、最終的にコミュニケーション能力の向上につながります。
サポート3:特性を尊重した「コミュニケーション・スタイル」の発見
すべての特性を持つ方が、健常者と同じように対話する必要はありません。その人の特性を尊重し、その人独自の「伝わるコミュニケーション・スタイル」を見つけるサポートをしましょう。
例:
- 口頭での表現が苦手な人には、メールや筆談を主とする。
- 感情表現が苦手な人には、定型文や絵文字を使うことを試してみる。
大切なのは、相手にメッセージが届くことです。形式にこだわらず、最も負担が少なく効果的な方法を、ご本人と一緒に探していく習慣を持ちましょう。
まとめ
障害特性によるコミュニケーションの悩みは、理解と適切な工夫によって必ず軽減できます。特性を知ることは、その人を否定することではなく、その人らしさを活かすための第一歩です。すべての人に完璧なコミュニケーションを求めるのではなく、お互いが心地よく対話できる「共通言語」を見つけることが目標です。
- ASD特性による非言語情報の困難さや、ADHD特性による衝動性など、特性とコミュニケーションの関連性を理解しましょう。
- 情報は視覚化し、抽象的な言葉を避ける工夫を取り入れましょう。
- 質問の後は沈黙を恐れず待ち、相手の理解度を確認する習慣をつけましょう。
- 支援者は、通訳・仲介役となり、失敗を学びの機会と捉えるサポートをしましょう。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





