感覚過敏で家事がつらいときの生活改善テクニック

五感のつらさを解消:感覚過敏で家事がつらいときの生活改善テクニック
掃除機の大きな音、洗剤や食べ物の強い匂い、水に触れたときの感覚、蛍光灯のチカチカした光…。日常生活に必要な家事の中には、感覚過敏のある方にとって耐え難いほどの苦痛や疲労を引き起こす要因が溢れています。
家事がつらいのは、あなたが「怠けている」からではなく、脳が受け取る感覚情報が過剰になっているからです。この感覚過敏の特性は、自閉スペクトラム症(ASD)やADHD、精神障害など、さまざまな障害を持つ方に見られます。家事を無理に続けようとすると、二次的な疲労や体調不良につながりかねません。
この記事では、感覚の種類(音、匂い、触覚、視覚など)ごとに家事の困難を乗り越えるための具体的なアイテムや環境改善のテクニック、そして公的な支援サービスを詳しくご紹介します。ご自身の特性に合わせた工夫を取り入れ、家事の負担を減らし、心の平穏を取り戻すためのヒントを見つけていきましょう。
感覚過敏とは?家事の困難との関係性
感覚過敏とは、通常は気にならない程度の刺激に対しても、脳がそれを非常に強く、不快に感じてしまう特性です。これは、感覚の受け取り方と処理の仕方に偏りがあるために起こります。
家事における感覚過敏の具体例
家事の様々な工程で、感覚過敏はストレスやパニックを引き起こします。
- 聴覚過敏: 掃除機の起動音、食器がぶつかる音、換気扇の低い駆動音などが耐え難い騒音に感じ、家事の開始を阻害する。
- 嗅覚過敏: 洗濯洗剤や柔軟剤の香り、漂白剤の化学的な匂い、生ゴミや排水溝の匂いが強烈に感じられ、気分が悪くなる。
- 触覚過敏: 食器洗いの水や洗剤の泡の感触、濡れた洗濯物やゴム手袋の張り付き感が気持ち悪く、触ることを避けてしまう。
- 視覚過敏: 散らかった部屋の情報の多さ(雑然とした視覚情報)が脳を疲弊させる、蛍光灯の点滅や反射光がまぶしい。
感覚過敏がある場合、家事は「刺激に満ちた危険な作業」になってしまいます。そのため、刺激を「遮断」するか、「代替」することが、対策の基本となります。
感覚過敏の悪化を防ぐ「エネルギー管理」
家事に取り組む際は、感覚的な刺激を最小限に抑え、自身の「感覚エネルギー(刺激への耐性)」を意識的に管理することが重要です。刺激が多い環境(例:騒音の中での調理)で家事を頑張りすぎると、その後の活動に必要なエネルギーが枯渇し、体調を崩す原因になります。
家事の困難を解消するアプローチは、以下の2つに大別されます。一つは「環境の調整(刺激の除去)」、もう一つは「感覚の保護(刺激の遮断)」です。
聴覚・嗅覚過敏を緩和する家事テクニック
音と匂いは、家事において最も広く、そして強烈に不快感を引き起こしやすい刺激です。これらをどうコントロールするかが、家事の負担軽減の鍵となります。
聴覚過敏への対策:音の「遮断」と「代替」
掃除機や水回り、電化製品の音への対策は、アイテムと時間の工夫が効果的です。
- ノイズキャンセリング機能の活用: 掃除や皿洗いなど大きな音が出る作業中は、高性能なノイズキャンセリングイヤホンや耳栓を装着し、不快な音を物理的に遮断します。完全に音を消す必要はなく、音の角を取り、音量を下げるだけでも効果があります。
- 静音性の高い家電への切り替え: 掃除機は、可能な限り静音設計のロボット掃除機(または軽量コードレス)へ切り替えます。洗濯機も、インバーターモーターを搭載した静音モデルを選びましょう。
- タイマー設定と時間調整: 掃除機は外出中に作動させる、または、ご自身の聴覚が安定している時間帯(例:朝食前など)に限定して作業を行います。これにより、予測不可能な音への不安を減らすことができます。
「以前は掃除機の音が怖くてパニックになっていましたが、支援者と相談してノイズキャンセリングヘッドホンを導入したら、音量が半分以下になったように感じ、何とか耐えられるようになりました。音をブロックするアイテムは必須です。」
— 30代のASDの当事者の声
嗅覚過敏への対策:無香料化と換気の徹底
洗剤や化学物質の匂い、食品や生ゴミの匂いは、吐き気や頭痛を引き起こすことがあります。
- 洗剤・柔軟剤の「無香料化」: 洗濯洗剤、食器用洗剤、漂白剤、消臭剤など、家庭内で使うすべての化学製品を、成分がシンプルな無香料タイプに切り替えます。特に柔軟剤の強い香りは、ご自身だけでなく同居者にとってもストレスになることがあります。
- 調理時の換気の徹底: 強い匂いの食材(魚、ニンニク、香辛料など)を使う際は、換気扇を最大にし、可能であれば窓を開けて調理します。また、調理時は必ずマスクを着用し、吸い込む匂いの量を減らします。
- 生ゴミ・排水溝対策: 生ゴミは密閉できる容器や防臭袋に入れてすぐに処理します。排水溝の匂いも、重曹やクエン酸を使ってこまめに掃除し、匂いの発生源を物理的に除去することが重要です。
💡 ポイント
嗅覚過敏の対策では、匂いを「別の匂いでごまかす(芳香剤を使う)」のは逆効果になることがほとんどです。基本は、匂いの発生源をなくす(除去)か、無香料の製品に切り替えることです。
触覚・視覚過敏を軽減する環境整備と工夫
触覚と視覚の過敏さも、家事の効率を著しく低下させ、疲労を蓄積させる原因となります。環境の物理的な調整と、ツールの選定が重要です。
触覚過敏への対策:接触の「緩和」と「回避」
水、洗剤、ゴミ、特定の素材に触れるのが苦手な場合の対策です。
- 最適な手袋の選択: 食器洗いや掃除の際、ゴム手袋のキュッとした圧迫感や内部の蒸れが苦手な方は多いです。サイズを大きめにする、内側に綿素材の手袋を着用する、または感触が柔らかいシリコン製やニトリル製の使い捨て手袋を試してみましょう。
- 水を使わない掃除方法: 濡れた雑巾や水に触れるのが苦手な場合は、フロアワイパー(ウェットシートタイプ)や、除菌ペーパーなどの使い捨ての乾式・湿式クリーナーに切り替えます。これにより、汚れた雑巾を洗う手間と触覚刺激を回避できます。
- 洗濯の工夫: 濡れた洗濯物を触るのが苦手な場合は、全自動のドラム式洗濯乾燥機を導入し、干す工程を丸ごとカットします。また、洗濯物を畳む際の素材の感触が苦手な場合は、全てハンガー収納にし、畳む作業をなくします。
視覚過敏への対策:情報の「削減」と「保護」
視覚過敏は、光の刺激だけでなく、部屋の「情報の多さ(散らかり)」によっても引き起こされます。
- 整理整頓の徹底: 散らかっている状態は、脳にとって大量の情報処理を強いる刺激となります。片付けられない原因が別にある場合は、片付け支援サービスを利用し、物理的に物の量を減らすことが、視覚過敏への最も根本的な対策になります。
- 照明の調整: 蛍光灯の点滅や青白い光が苦手な場合は、光量が調整できるLED照明や、暖色系の光に切り替えます。また、窓からの直射日光が強い場合は、遮光カーテンやブラインドで光を柔らかく調整します。
- 視覚フィルターの使用: まぶしさ対策として、色付きのサングラスや、特定の波長の光をカットする遮光眼鏡(遮光レンズ)を作業中に装着することを検討します。これにより、光による疲労を軽減できます。
家事の負担を専門的に軽減する支援サービス
感覚過敏による苦痛を無理に耐える必要はありません。公的な福祉サービスや専門家の知見を活用し、家事そのものを代行してもらう、または訓練を通じて対応策を学ぶことも可能です。
居宅介護サービス:家事代行の活用
障害福祉サービスの一つである居宅介護(生活援助)を利用すれば、ホームヘルパーが自宅を訪問し、日常生活に必要な家事を代行してくれます。感覚過敏の当事者にとって、これは非常に重要な支援です。
- 匂いや音の発生を回避: 掃除機の音が苦手な場合は、ヘルパーが不在時にロボット掃除機をかける、またはヘルパーがごく短時間で掃除機をかけ終える、といった工夫を計画に組み込めます。
- 嫌な作業の代行: 生ゴミを触る、水回りや排水溝を掃除するといった、感覚的に特に苦痛な作業をヘルパーに全て代行してもらうことが可能です。
- 環境整備のサポート: ヘルパーは、ご本人の感覚特性に配慮した洗剤(無香料)や掃除道具を使うよう、事業所から指導を受けます。
自立訓練(生活訓練):感覚への対処法を学ぶ
感覚過敏に起因する家事の困難は、自立訓練(生活訓練)を通じて、対処法を習得したり、感覚への慣れを促したりする訓練を行うことができます。
- 作業療法士による評価と訓練: 作業療法士(OT)がいる事業所では、ご本人の感覚特性を詳細に評価(アセスメント)し、その特性に合わせた「感覚統合療法」の要素を取り入れた訓練や、最適な対処ツール(耳栓、手袋など)の選定指導を行います。
- 「マイルール」の作成: 支援員と共同で、家事を行う際の「マイルール」を作成します。「掃除は月曜日の朝10時から15分だけ」「洗剤は必ず無香料のものを使う」といったルールを明確にすることで、予測可能性が高まり、不安が軽減されます。
✅ 成功のコツ
支援者に家事を依頼する際、単に「掃除が苦手」と伝えるだけでなく、「掃除機の排気の風と、金属の摩擦音が特に苦手で、パニックになります」といった具体的な感覚の情報を伝えることが重要です。これにより、支援者はより適切な配慮を行うことができます。
感覚過敏対策の具体的なアイテムリストと連携
家事の場面で役立つ、感覚過敏の苦痛を和らげるための具体的なアイテムと、支援のための相談窓口を整理します。
感覚過敏対策に役立つアイテム一覧
これらは一例であり、ご自身の特性に合わせてOTや相談員と相談して選定してください。
| 感覚の種類 | 具体的なアイテム例 | 家事における効果 |
|---|---|---|
| 聴覚 | ノイズキャンセリングイヤホン、高性能耳栓(イヤーマフ) | 掃除機や水回り、換気扇の騒音を遮断し、聴覚疲労を軽減 |
| 嗅覚 | 無香料の洗剤・柔軟剤、活性炭入りマスク | 洗剤や化学物質、生ゴミの強い匂いを物理的に遮断・回避 |
| 触覚 | 綿付きゴム手袋、シリコン製クリーニングブラシ | 水や洗剤の感触、ゴム製品の張り付き感といった不快な触覚刺激を緩和 |
| 視覚 | 遮光眼鏡(遮光レンズ)、調光機能付きLED照明 | 蛍光灯のチラつき、光のまぶしさ、反射光による目の疲労を軽減 |
家族・支援者向けの心得
感覚過敏は外から見えにくいため、周囲の理解を得ることが困難な場合があります。支援者やご家族は、以下の点に留意して関わりましょう。
- 客観的な情報収集: 当事者の訴えを否定せず、感覚過敏のメカニズムについて客観的な情報を学び、「つらいのは本当だ」と認める姿勢を持つこと。
- 事前の情報提示: 新しい洗剤を使うとき、掃除機をかけるときなど、刺激が発生する行動の前には必ず「これから○○をします」と事前に伝え、心の準備を促します。
- 回避のためのサポート: 刺激の強い作業(例:調理)の間は、当事者が他の安全な部屋で過ごせるように環境を整えるなど、意図的な回避をサポートします。
相談窓口と次の一歩
感覚過敏への具体的な対処法や支援サービス利用について迷ったら、専門機関に相談しましょう。
- 特定相談支援事業所: 居宅介護や自立訓練など、障害福祉サービスの利用計画を立ててくれます。家事の困りごとを全て伝えましょう。
- 地域の基幹相談支援センター: 複合的な困りごとの相談や、作業療法士などの専門家への連携窓口となります。
- 地域の病院・リハビリテーション科(作業療法士): 感覚統合の視点から、個別の感覚特性評価と環境調整のアドバイスを得られます。
よくある質問(FAQ):感覚過敏と家事支援
感覚過敏を持つ方や、そのご家族・支援者からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1: 感覚過敏対策のアイテムは、日常生活用具の給付対象になりますか?
A1: 原則として、一般的に販売されているノイズキャンセリングイヤホンや市販の遮光眼鏡は、日常生活用具の給付対象外となることが多いです。ただし、遮光眼鏡については、視覚障害の程度や医療的な必要性が認められた場合に、独自の助成制度を設けている自治体があります。必ず、眼科医の診断書を持参の上、市町村の障害福祉担当課に相談してください。
Q2: 居宅介護のヘルパーに、無香料の洗剤を用意してもらうことはできますか?
A2: ヘルパーが使用する掃除道具や洗剤については、原則として利用者側が用意することになっています。しかし、ご本人の嗅覚過敏の特性を伝え、無香料の洗剤を指定することは可能です。この情報は、サービス等利用計画や、居宅介護事業所との契約書に明確に記載しておくことが、トラブル防止につながります。
Q3: 聴覚過敏で耳栓をしていますが、インターホンや電話の音を聞き逃すのが心配です。
A3: 音を遮断すると、生活に必要な音まで聞こえなくなるのは大きな不安点です。対策としては、視覚的な補助装置を導入しましょう。具体的には、インターホンが鳴った際に光で知らせるランプ、電話の着信を振動や光で知らせる装置などが販売されています。これらは、聴覚障害者向けの日常生活用具給付の対象となる場合もあるため、ご自身の障害特性や手帳の有無も含めて相談してみましょう。
Q4: 散らかりによる視覚過敏がひどいのですが、片付けをどこから始めたら良いですか?
A4: 散らかりによる情報の多さで脳がフリーズしている状態なので、いきなり全体を片付けるのは困難です。まずは、「一番目に入るエリア」(例:リビングのテーブルの上、玄関)を、タイマーを使って5分だけ片付けます。そして、並行して特定相談支援事業所に相談し、居宅介護の生活援助や、自立訓練による片付けスキルの習得を計画することが、根本的な解決につながります。
まとめ
- 基本は「遮断」と「代替」: 感覚過敏への対策は、刺激を「ノイズキャンセリング」で遮断したり、ドラム式洗濯乾燥機や使い捨てクリーナーで「嫌な作業」を代替したりすることが基本です。
- 特性別対策の徹底: 嗅覚過敏には無香料化と換気、触覚過敏には適切な手袋の着用と水を使わない掃除、視覚過敏には情報の削減(整理整頓)と遮光眼鏡の活用が効果的です。
- 専門家の活用: 作業療法士(OT)による個別の感覚評価と、居宅介護(生活援助)による嫌な作業の代行を組み合わせることで、家事の苦痛を最小限に抑え、生活の安定を図りましょう。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





