移動がつらい・外の刺激が強いと感じるときの対策

移動がつらい・外の刺激が強いと感じるときの対策
「電車やバスのガタガタ揺れる動きが気持ち悪い」「人混みの騒音や匂いでパニックになりそう」「目的地に着く前に、もう疲れ切ってしまう」—日常的な移動や外出の際に、心身の過度な負担を感じていませんか。
特に感覚過敏や不安障害、身体的な特性を持つ方にとって、外の世界は予測不能で、耐え難いほどの刺激に溢れた環境となりがちです。これにより、移動や外出自体が「つらいこと」「避けたいこと」になってしまい、社会参加が制限されてしまうことがあります。
この記事では、移動のつらさが生じる心と体のメカニズムを解説し、感覚の負荷を減らすための具体的な「装備」や「環境調整」の工夫をご紹介します。
また、長距離移動や公共交通機関を利用する際の不安を軽減するための具体的なセーフティプランや、公的な支援の活用方法についても詳しく見ていきます。移動の負担を減らし、より安心で快適な外出ができるためのヒントを見つけていきましょう。
移動のつらさ・刺激の強さの根本原因
移動時や外出時に心身が疲弊してしまう原因は、主に「感覚処理の特性」「身体機能の困難」「心理的な不安」の三つに分けられます。
前庭覚・固有受容覚の処理の困難
移動のつらさの大きな原因の一つが、体の平衡感覚や位置感覚を司る前庭覚と固有受容覚の処理の特性です。
- 前庭覚の過敏:電車やバスの揺れ、エレベーターの昇降など、わずかな動きも過剰に感じ取り、強い乗り物酔いや平衡感覚の不安定さを引き起こす。
- 固有受容覚の鈍麻:自分の体の位置や姿勢を把握しにくく、人混みでバランスを崩しやすかったり、無意識に体を固くしてしまい、疲労する。
これらの特性により、移動中は常に無意識に体に力を入れ、揺れに耐えようとして、すぐに体力を消耗してしまいます。
「感覚過敏」による情報オーバーロード
外出先は、自宅とは比べ物にならないほど、五感に対する刺激が過剰です。
⚠️ 注意
人混みの騒音(聴覚)、複数の人々の香水や食べ物の匂い(嗅覚)、街中の看板や車のライト(視覚)など、脳が処理しきれない量の情報が一気に流れ込んできます(オーバーロード)。
これにより、集中力の低下、頭痛、イライラ、そしてパニック発作へとつながる場合があります。
予期不安と広場恐怖による回避行動
過去に移動中や外出先でパニック発作や強い不安を経験した場合、「またあの発作が起こるのではないか」という予期不安が生じます。
特に電車やエレベーターなど「逃げ場のない空間」や、人混みなど「助けを求めにくい広場」に対する強い恐怖(広場恐怖)を伴うと、外出そのものを避けようとする回避行動につながります。
移動中の負荷を減らす「感覚バリア」装備
外からの刺激を物理的に遮断し、脳への情報量を減らすための「感覚バリア」を装備することは、移動のつらさを大幅に軽減します。
聴覚・視覚を保護する「パーソナルシールド」
騒音や光の刺激を遮断するためのアイテムを、外出時の必須装備としましょう。
- ノイズキャンセリングイヤホン:特に低音域の雑踏の音をカットし、脳の処理負担を軽減します。好きな音楽やホワイトノイズを流すことも有効です。
- サングラス・調光眼鏡:屋内でも、商業施設などの強い照明や蛍光灯のちらつきを軽減するために着用します。光を浴びすぎると疲れる方は、濃い色のレンズを選ぶのも良いでしょう。
- つばの広い帽子:視界に入る情報量を物理的に減らし、周囲の動きに気を取られにくくします。
触覚と圧覚で「安心感」を確保
体の感覚が不安定な時や、強い不安を感じる時は、体に安定した圧を与えることで安心感が得られます。
💡 ポイント
外出時には、体にぴったりフィットする加圧Tシャツや、重みのあるバッグを持つなど、意識的に深い圧覚刺激(ディープ・プレッシャー)を与えましょう。
また、ポケットに握りやすいストーンや、感覚を刺激するフィジェット・ツールなどを忍ばせておくのも、不安を逸らすのに役立ちます。
嗅覚への「回避・代償」対策
公共交通機関や飲食店など、予期せぬ強い匂いに遭遇しやすい場所への対策も重要です。
- マスクの着用:物理的に匂いの流入を減らします。
- 好きな香りの持ち運び:苦手な匂いに遭遇した際、すぐに好きなアロマオイルやバームを鼻の下に塗るなど、良い香りで嗅覚の刺激を上書きしましょう。
移動の不安を乗り切るための「計画と戦略」
移動の困難を克服するためには、場当たり的な行動ではなく、リスクを最小限に抑えるための綿密な計画と戦略が必要です。
「移動プロファイル」の作成と時間調整
自分が最も苦手とする移動状況を事前に把握し、可能な限りそれを回避する計画を立てましょう。
| 苦手な状況 | 対策(時間調整・回避) |
|---|---|
| 人混み(視覚・聴覚) | ラッシュアワーを避け、平日の昼間など、移動時間を調整する。 |
| 乗り物酔い(前庭覚) | できるだけ窓際の席、揺れの少ない車両の中心部を選ぶ。 |
| 暑さ・湿気(温覚) | クールタオルや冷感スプレーなど、体温調節グッズを必ず携帯する。 |
「セーフティスポット」を事前に確認する
外出中、刺激が強すぎたり、体調が悪化したりした場合に、一時的に避難できるセーフティスポット(安全地帯)を、移動ルート上に事前に確認しておきましょう。
具体的には、商業施設の静かな休憩室、多目的トイレ、地域の図書館、公園のベンチなどです。「いつでも逃げられる場所がある」という知識だけで、外出時の不安レベルは大きく軽減されます。
「エマージェンシーカード」の携帯
パニックやメルトダウン(感情の爆発)が起こり、言葉で状況を伝えられなくなった場合に備え、「助けを求めるためのカード」を常に携帯しましょう。
記載すべき内容:
- 私は〇〇障害があり、今強い刺激でパニック状態です。
- 私にしてほしいこと(例:静かな場所へ誘導してください、話しかけないでください)。
- 緊急連絡先(家族や支援者)。
公的サポートと移動・外出支援の制度活用
身体的な困難や重度の不安から、自力での移動や外出が困難な場合は、遠慮なく公的な支援制度を活用しましょう。
「移動支援事業」によるヘルパーの同行
移動支援事業(ガイドヘルプ)は、屋外での移動が困難な障害を持つ方が、外出する際にヘルパーが同行し、移動のサポートや安全確保を行うサービスです。
移動支援は、社会生活上必要な外出(通院、役所手続きなど)や、余暇活動のための外出にも利用できるため、外出の機会を増やす大きな助けとなります。お住まいの自治体の福祉課に相談し、利用申請を行いましょう。
身体的な移動の困難に対する支援
車椅子や杖などの使用が必須で、公共交通機関の利用に介助が必要な場合は、居宅介護(ホームヘルプ)の「重度訪問介護」や「同行援護」などのサービスが適用される場合があります。
特に、身体障害を持つ方は、障害者手帳の等級に応じて、福祉タクシー券の交付や、公共交通機関の運賃割引などの優遇措置も利用できます。
「相談支援専門員」を通じた計画作成
どの移動支援サービスが自分に合っているかわからない場合は、相談支援事業所の相談支援専門員に相談しましょう。
相談支援専門員は、あなたの移動の困難さや生活のニーズを聞き取り、最適な福祉サービスの利用計画(サービス等利用計画)を立ててくれます。これが福祉サービス利用の第一歩となります。
よくある質問(FAQ)と次のアクション
移動のつらさや外出時の刺激に関する、当事者の方やご家族からの疑問にお答えします。
Q. 乗り物酔いがひどいのですが、対策はありますか?
A. 乗り物酔いは、視覚情報と前庭覚(揺れ)の情報の不一致で起こります。
対策としては、揺れを軽減するため「車の前方に乗る」「進行方向を見る」ことや、視覚情報を遮断するために「目を閉じる」「遠くの景色に集中する」ことが有効です。酔い止め薬の利用も検討しましょう。
Q. 外出の「リハビリ」はどこでできますか?
A. 自宅外での活動に慣れるためのリハビリは、自立訓練(生活訓練)事業所で行えます。
ここでは、支援員と一緒に「近所のコンビニまで行く」「電車に一駅だけ乗ってみる」など、不安階層(不安レベル)に合わせた段階的な外出の練習(暴露療法)を、安全な環境で実施できます。
Q. 家族として、移動中につらそうな人にどう接すればいいですか?
A. 最優先は、「静かで安全な場所に移動させる」ことです。
次に、「何か言ってほしいことはある?」と尋ね、本人の希望を確認しましょう。何も話せない状態であれば、静かに隣に座り、背中をさするなど、深い圧覚刺激(ディープ・プレッシャー)を与えることで落ち着きを促します。
まとめ
- 移動のつらさは、前庭覚の過敏、感覚情報のオーバーロード、予期不安が複合的に絡み合って生じます。
- 対策は、ノイズキャンセリングイヤホン、サングラス、加圧衣類などの「感覚バリア」装備を徹底することです。
- 外出の不安軽減のため、移動ルート上のセーフティスポットを事前に確認し、エマージェンシーカードを携帯しましょう。
移動の困難は、あなたの可能性を制限してはいけません。適切なツールと支援を味方につけて、心身の負担が少ない、あなたらしい外出を実現していきましょう。
まずは、今日、「ノイズキャンセリングイヤホンを装着して、5分だけ玄関の外に出てみる」という、小さな一歩から始めてみませんか。
主な相談窓口・参考情報
- 相談支援事業所: 移動支援、居宅介護などの福祉サービス利用計画作成。
- 自立訓練(生活訓練)事業所: 外出リハビリ、不安への対処法トレーニング。
- 精神保健福祉センター: 広場恐怖や不安障害に関する専門的な相談。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





