起業する前に知っておきたいお金の話

起業する前に知っておきたいお金の話:資金・税金・社会保障の基礎知識
「自分の事業アイデアには自信がある。けれど、資金繰りや税金、保険の手続きなど、お金に関することが複雑で不安…」これは、起業を目指す障害のある方が共通して抱える大きな悩みの一つです。会社員時代と異なり、フリーランスや起業家は、収入を得るだけでなく、お金に関するすべての責任を自分で負わなければなりません。
しかし、ご安心ください。お金に関する知識は、事前にしっかりと学ぶことで、不安を解消し、むしろ事業を安定させるための強力な武器になります。この記事では、起業の準備段階から事業運営、そして社会保障の視点まで、障害のある方が知っておくべきお金に関する知識を、一つひとつ丁寧に解説します。お金の不安を自信に変えて、安心して夢の実現に向けて歩み出すためのロードマップとしてご活用ください。
事業をスタートさせるための資金調達
起業には、設備投資費、運転資金、当面の生活費など、初期費用が必要です。自己資金だけで賄えない場合は、公的な支援制度や融資を活用して、リスクを抑えながら資金を調達しましょう。
返済不要の補助金・助成金を狙う
起業時の資金調達で最も魅力的なのは、採択されれば返済の必要がない補助金や助成金です。これらは国や地方自治体が、特定の政策目標(例:創業支援、IT化推進)を達成するために提供しています。
- 持続化補助金(小規模事業者持続化補助金):販路開拓や生産性向上のための費用を支援します。
- IT導入補助金:会計ソフトやクラウドサービスなどのITツール導入費用を支援します。
- 各自治体の創業支援補助金:地域によって独自の補助金制度が設けられています。
ただし、補助金は後払い(立替払い)が原則であり、まず自分で費用を支払い、実績報告後に支給される点に注意が必要です。また、申請期間が限られており、手続きが複雑なため、地域の商工会議所などで相談しながら進めるのが確実です。
障害のある方に有利な公的融資
補助金だけでは足りない場合、次に検討すべきは「融資」です。特に、国の政策金融機関である日本政策金融公庫は、創業期の事業者を積極的に支援しており、民間の銀行よりも低金利で融資を受けられる可能性があります。
公庫では、女性・若者・シニア起業家向けに加え、障害のある方を対象とした融資の優遇制度が設けられている場合があります。これらの制度を利用することで、担保や保証人なしで融資を受けられる「新創業融資制度」などを活用しやすくなります。
⚠️ 注意
融資は「借金」であり、利子をつけて返済する必要があります。無理のない返済計画を立て、体調の波による収入減も想定した上で、借り入れ額を慎重に決めましょう。
資金計画の基本:生活費と運転資金
資金調達を行う前に、最低限必要な金額を明確に計算しましょう。これは、起業後の数か月間、売上が安定しなくても事業を継続し、生活を維持するための準備です。
| 費用の種類 | 概要 |
|---|---|
| 初期投資費用 | PCやソフト、Webサイト制作費、資格取得費用など |
| 運転資金 | 家賃、通信費、仕入れなど、事業を回すための毎月の費用 |
| 生活予備費 | 売上が安定するまでの最低6ヶ月分の生活費(家賃、食費、医療費など) |
このうち、生活予備費は、特に体調の波がある障害のある方にとって、精神的な安心感を確保し、事業を継続するための重要な資金となります。
毎年の義務:確定申告と節税の知識
個人事業主(フリーランス)になると、毎年、前年の所得(収入から経費を引いたもの)を計算し、税金を納める「確定申告」が義務付けられます。この手続きと、税金を合法的に安くする「節税」の知識は不可欠です。
青色申告のメリットと手続き
個人事業主の確定申告には、「白色申告」と「青色申告」の2種類があり、税制優遇を受けるためには青色申告を選ぶべきです。青色申告を行うためには、事前に税務署に「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
- 青色申告特別控除:複式簿記で記帳することで、最大65万円の所得控除を受けられます。
- 赤字の繰り越し:事業が赤字になった場合、その損失を翌年以降3年間にわたって繰り越して、将来の利益から差し引くことができます。
これらの優遇措置は、特に創業初期で収入が不安定な時期に、経済的な負担を大きく軽減してくれます。記帳が複雑に感じるかもしれませんが、会計ソフトを使えば比較的簡単に処理できます。
経費の正しい計上方法
経費とは、「事業を行うために必要な費用」のことです。収入から経費を差し引いたものが「所得」となり、所得に対して税金がかかるため、経費を正しく計上することは合法的な節税に繋がります。
在宅フリーランスの場合、自宅の家賃や光熱費の一部、通信費、PC・ソフト代なども経費として計上可能です。ただし、事業で使用した分(家事按分)のみが対象となります。
💡 ポイント
経費にできるものの例: 消耗品費(文房具、インク)、通信費(インターネット代)、地代家賃(自宅兼事務所の場合の一部)、研修費(スキルアップのための受講料)
障害者控除とその他の控除
障害者手帳をお持ちの方や、自治体から障害者認定を受けている方は、確定申告で「障害者控除」を受けることができます。これは、通常の控除に加えて所得から一定額を差し引ける制度であり、納める税金を減らすことができます。
その他にも、国民年金保険料や国民健康保険料、生命保険料、医療費控除など、様々な控除制度があります。これらの控除を漏れなく適用することで、手取り収入を増やすことが可能です。
障害年金と所得制限の仕組み
障害のある方が起業を検討する際、最も不安に感じるのが「仕事をして収入を得ると、障害年金が止まってしまうのではないか」という点です。障害年金と所得制限の関係について正しく理解しましょう。
年金支給停止の基本的な考え方
原則として、障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)は、働くこと自体を理由として支給停止されることはありません。あくまで、病気やケガによる障害の状態が年金受給要件を満たしているかどうかが判断基準となります。
しかし、一部の年金については、前年の所得額によって支給が調整される「所得制限」が設けられています。特に注意が必要なのは、「20歳前傷病による障害基礎年金」を受給している方です。
| 年金の種類 | 所得制限の有無 |
|---|---|
| 障害基礎年金(20歳前傷病以外) | 原則なし |
| 障害基礎年金(20歳前傷病) | あり(前年所得に応じて一部または全額支給停止) |
| 障害厚生年金 | 原則なし(老齢年金を受給している場合などは例外あり) |
所得が増えた場合のシミュレーション
20歳前傷病による障害基礎年金を受給している方が、起業によって所得が増加した場合、所得制限の基準額を超えると年金が調整されます。所得とは「収入」ではなく、確定申告で計算した「所得額」です。
つまり、売上が多くても、経費や控除を最大限に活用して「所得」を圧縮できれば、年金への影響を最小限に抑えることが可能です。事業計画を立てる段階で、社会保険労務士などの専門家に相談し、所得制限のボーダーラインを意識した収入目標を設定することが重要です。
✅ 成功のコツ
起業直後の所得がまだ低い段階で、年金事務所や社会保険労務士に相談し、事前に所得と年金調整の関係を把握しておきましょう。
会社員から変わる社会保険と保障
起業して個人事業主になると、会社員時代に加入していた厚生年金や健康保険組合から脱退し、自分で社会保障を管理しなければなりません。この変化を理解し、将来に備えることが重要です。
国民健康保険と国民年金への移行
会社を退職し、個人事業主になると、原則として以下の公的保険に加入することになります。
- 健康保険:国民健康保険(お住まいの自治体の窓口で手続き)または、業種ごとの国民健康保険組合へ加入します。
- 年金:国民年金(市区町村役場の窓口で手続き)へ加入します。
国民年金は、厚生年金よりも将来受け取れる年金額が少なくなるため、老後に備えて「付加年金」や「iDeCo(イデコ)」などの私的年金制度を併用して加入することも検討しましょう。
傷病手当金・失業保険の注意点
会社員は、病気やケガで休業した場合に「傷病手当金」を受け取れたり、失業した場合に「失業保険」を受け取れたりします。しかし、個人事業主は、原則としてこれらの制度の対象外となります。
特に、体調の波がある障害のある方にとって、休業中の収入保障がないのは大きなリスクです。このリスクを補うため、民間の就業不能保険や、所得保障保険などに加入することも、検討すべき重要な自己防衛策となります。事業の利益から、これらの保険料を支払う費用を計画的に確保しましょう。
「会社員時代の福利厚生のありがたさが身に染みました。今は休業時のリスクに備えて、事業資金とは別に、必ず半年分の生活費を貯蓄しています。」
— 独立したフリーランス Lさんの声
よくある質問(Q&A)と相談の窓口
お金に関する不安を解消し、次の具体的なアクションに繋げるための情報をご紹介します。
記帳は専門家でなくてもできますか?
はい、できます。現在の会計ソフトは非常に使いやすく設計されており、銀行口座やクレジットカードと連携させることで、取引の記録(記帳)をほぼ自動で処理できます。
特に、就労移行支援事業所などでは、これらの会計ソフトの使い方も学ぶことができます。ただし、所得制限の計算や複雑な税務相談が必要な場合は、費用を払ってでも税理士などの専門家に依頼することが、間違いのない安心な方法です。
資金調達の相談はどこにすれば良いですか?
資金調達に関する相談は、以下の窓口を活用しましょう。
- 就労移行支援事業所:事業計画の作成サポート、資金計画の基礎知識。
- 日本政策金融公庫の窓口:優遇融資制度に関する具体的な相談と申し込み。
- 地域の商工会議所・商工会:創業補助金・助成金に関する情報提供と申請サポート。
- 税理士・行政書士:税務や法的な手続きを含めた総合的な資金アドバイス。
一人で悩まず、まず一歩踏み出して専門家の知恵を借りることが、起業の成功率を飛躍的に高めます。
まとめ
- 起業の初期資金は、返済不要の補助金・助成金や、日本政策金融公庫の優遇融資制度を積極的に活用して調達しましょう。
- 税金対策として、必ず「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出し、経費と控除(障害者控除含む)を最大限に活用しましょう。
- 障害年金の所得制限(特に20歳前傷病)について正しく理解し、所得を意識した事業計画を立てることが、安定した生活基盤を築く鍵です。

伊藤 真由美
(いとう まゆみ)33歳📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士
特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。
大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ハンドメイド、音楽鑑賞
🔍 最近気になっているテーマ
発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み





