ホーム/記事一覧/就労・進路サポート/障害者雇用・一般就労/企業はなぜ障害者を採用する?法定雇用率の仕組み

企業はなぜ障害者を採用する?法定雇用率の仕組み

📖 約38✍️ 伊藤 真由美
企業はなぜ障害者を採用する?法定雇用率の仕組み
企業が障害者を採用する主な理由は、「法定雇用率」の遵守義務です。これは、企業に一定割合の障害者雇用を義務付ける法律であり、未達成企業には納付金が、超過達成企業には調整金が課され、経済的なインセンティブとなります。しかし、理由はお金だけではありません。企業の社会的責任(CSR)の遂行、多様な視点を取り入れた組織の創造性向上、そして業務プロセスの効率化・再構築といった経営的なメリットも非常に重要です。企業が採用を成功させるための課題は、採用後の定着であり、ジョブコーチや就労支援センターといった外部機関との連携が鍵を握ります。企業側の動機と仕組みを理解することは、就職活動において適切な企業選びと自己PRに役立ちます。

「企業はなぜ、わざわざ障害者雇用枠を設けて障害のある人を採用するのだろう?」「法定雇用率って具体的にどんな仕組みなの?」といった疑問を持ったことはありませんか?

障害者雇用は、単なる企業のボランティア活動ではなく、法律に基づく義務であり、同時に企業経営上の多くのメリットをもたらす戦略的な採用活動でもあります。

この記事では、障害者雇用の根幹をなす「法定雇用率」の仕組みから、企業がこの制度を通じて得る金銭的なメリット・デメリット、そしてさらに重要な「社会的責任(CSR)と多様性」といった非金銭的なメリットまでを、徹底的に掘り下げて解説します。

この記事を最後まで読んでいただくことで、企業側の視点も理解でき、あなたが自信を持って就職活動に臨むための、より深い洞察が得られるでしょう。


障害者雇用促進法の根幹:法定雇用率の仕組み

法定雇用率とは?その目的

企業が障害者を採用する最大の理由の一つが、「法定雇用率」の遵守義務です。これは「障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」に基づき、事業主が常時雇用する労働者数に対し、障害のある方を雇用しなければならない割合を定めたものです。

この制度の目的は、障害のある方が能力と適性に応じた仕事に就く機会を確保し、職業を通じて自立できる社会の実現を目指すことにあります。単に仕事を与えるだけでなく、社会の一員として活躍できる場を提供するための、国を挙げた取り組みと言えます。

対象となるのは、身体障害者手帳、療育手帳、または精神障害者保健福祉手帳を持つ方であり、企業はこれらの手帳を持つ方を積極的に採用することが求められています。

現在の法定雇用率と企業の対象

法定雇用率は、社会情勢や障害者の状況に応じて見直されており、民間企業における現在の法定雇用率は2.5%です(2024年4月時点)。

この2.5%という割合は、常時雇用する従業員が40人以上の企業に適用されます。例えば、常時雇用する従業員が40人の企業の場合、計算上は「40人 × 2.5% = 1.0人」となり、最低1人の障害のある方を雇用しなければなりません。

法定雇用率は今後も段階的に引き上げられることが決まっており、企業側の障害者採用への取り組みは、今後ますます重要度が増していくと予想されます。

💡 雇用率の今後の見通し

法定雇用率は、2026年7月には民間企業で2.7%に引き上げられる予定です。これは、より多くの企業で、障害のある方の活躍の場が広がっていくことを意味します。

カウントの特例と仕組み

法定雇用率を計算する際、障害のある方の数え方(カウント方法)には特例があります。

  • 重度身体障害者・重度知的障害者:これらの手帳を持つ方は、1人を2人としてカウントされます。これは、企業がより大きな配慮や負担を担う可能性があるためです。
  • 短時間労働者(週の所定労働時間20時間以上30時間未満):これらの労働者は、1人を0.5人としてカウントされます。
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳を持つ方もカウント対象ですが、週の所定労働時間に応じてカウント方法が異なります。

企業は、毎年の6月1日時点の雇用状況をハローワークに報告する義務があり、この報告に基づいて雇用率が計算され、達成状況が評価されます。


法定雇用率の達成・未達成に関わる金銭的仕組み

未達成企業に課せられる「障害者雇用納付金」

法定雇用率を達成できていない企業(従業員100人超)に対しては、その不足している人数に応じて、「障害者雇用納付金」の支払いが義務付けられます。この納付金は、企業にとってコストとなり、採用のインセンティブとなります。

納付金の額は、不足している障害者の人数 × 50,000円/月で計算されます(2024年4月時点)。例えば、法定雇用率に対して5人不足している場合、年間で「5人 × 50,000円 × 12ヶ月 = 300万円」もの納付金を支払うことになります。

企業は、この多額の納付金を支払うよりも、障害者を雇用して給与を支払う方が、社会的な意義もコスト面でも合理的であると判断します。これが、企業が採用活動を強化する大きな動機付けとなります。

超過達成企業に支払われる「障害者雇用調整金」

逆に、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業(従業員100人超)に対しては、その超過している人数に応じて、「障害者雇用調整金」が支給されます。この調整金は、企業にとって重要な収入源となります。

調整金の額は、超過している障害者の人数 × 27,000円/月で計算されます(2024年4月時点)。この調整金は、障害のある方を積極的に雇用し、そのための環境整備や配慮にコストをかけている企業への経済的な支援を目的としています。

この納付金と調整金は、「障害者雇用納付金制度」という仕組みの中で運用されており、法定雇用率未達成企業から徴収した納付金が、超過達成企業への調整金、そして障害者雇用に関する様々な助成金の財源となっています。

企業への助成金制度も充実

上記の納付金・調整金の制度とは別に、障害者雇用を支援するための各種助成金制度も充実しています。これらは、企業が障害者を受け入れやすくするための経済的な後押しとなります。

代表的な助成金は以下の通りです。

  • 特定求職者雇用開発助成金:障害者を継続して雇用する労働者として雇い入れる場合に支給されます。
  • 障害者作業施設設置等助成金:障害者が働きやすいように作業施設や附帯施設(エレベーター、スロープなど)を整備する場合に支給されます。
  • 職場適応援助者(ジョブコーチ)助成金:入社後に職場定着支援を行うジョブコーチの配置に必要な費用を助成します。

これらの助成金を活用することで、企業は初期投資の負担を軽減できるため、障害者雇用に対するハードルが下がり、採用を促進する効果があります。


金銭以外にもある企業が採用する社会的・経営的理由

理由1:企業の社会的責任(CSR)とブランドイメージ向上

法定雇用率の遵守は法的な義務ですが、企業が障害者雇用に取り組むのは、それだけが理由ではありません。現代の企業経営において、「企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)」を果たすことは、企業価値そのものを高める上で不可欠です。

障害者雇用に積極的に取り組むことは、「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と受容)」を尊重する企業として、社会から高い評価を得ることにつながります。これは、顧客や取引先、そして株主といったステークホルダーからの信頼獲得に直結します。

良い企業イメージは、優秀な人材の確保にも影響します。特に社会貢献への意識が高い若い世代にとって、企業のCSR活動は就職先を選ぶ重要な要素の一つとなっています。

理由2:職場の多様性(ダイバーシティ)の実現

障害者を採用し、多様な人材が共に働く職場を実現することは、企業そのものの創造性と生産性を高める効果があります。多様な視点や価値観が持ち込まれることで、従来のやり方にとらわれない新しい発想が生まれやすくなります。

障害のある方は、自身の特性を理解し、工夫しながら仕事を進める能力に長けていることが多く、その問題解決能力や独自の視点は、企業にとって大きな財産となり得ます。

「障害者雇用を通じて、私たちは『物事を分かりやすく伝える力』が職場全体で向上したと感じています。誰もが理解できるマニュアルやコミュニケーションの工夫が、最終的には一般社員の生産性向上にもつながりました。」

— あるIT企業の人事担当者

職場の多様性は、顧客の多様なニーズへの対応力を高めることにもつながり、経営戦略上も重要な要素となっています。

理由3:業務の効率化と再構築

障害のある方に合わせた業務をお願いする際、企業はまず、既存の業務プロセスを徹底的に見直すことになります。この業務の切り出しやマニュアル化のプロセスが、結果的に業務全体の効率化やムダの削減につながることが多々あります。

例えば、「この業務はフルタイムでなくても切り分けてできる」「この作業は定型的なので、マニュアル化すれば誰でもミスなくできる」といった発見があり、一般社員がより創造的で付加価値の高い業務に集中できる環境が生まれます。

障害者雇用は、単に人手を増やすだけでなく、「組織の働き方そのものを改善する」ための良いきっかけとなるのです。


企業が直面する課題と成功のためのポイント

課題1:採用後の定着と受け入れ体制の整備

企業にとって最も大きな課題の一つは、採用した障害のある社員が、長く安定して働き続けるための受け入れ体制の整備です。採用はゴールではなく、入社後に適切な合理的配慮を提供し続け、職場に定着させることが重要になります。

これには、配属先の部署の社員に対する障害理解の促進、上司やOJT担当者への研修、そして体調変化があった際の連絡・相談ルールの明確化など、ソフト・ハード両面での継続的な投資が必要です。

特に、精神障害や発達障害のある方の雇用においては、目に見えない特性への配慮が求められるため、定期的な面談や支援機関(ジョブコーチなど)との連携が不可欠となります。

課題2:合理的配慮の「過重な負担」ライン

企業は合理的配慮を提供する義務がありますが、その配慮が「過重な負担」となる場合は、提供しなくても良いとされています。この「過重な負担」の線引きが、企業にとって常に難しい課題となります。

過重な負担となるかどうかの判断は、企業の規模、財務状況、代替措置の有無、業務への影響度など、様々な要素を考慮して総合的に行われます。例えば、中小企業にとって、数千万円する特殊な機器の購入は「過重な負担」と判断される可能性が高いでしょう。

企業が円滑に雇用を進めるためには、助成金制度を積極的に活用し、金銭的な負担を軽減しながら、可能な範囲で配慮を提供していく姿勢が求められます。

成功のためのポイント:支援機関との連携

企業が障害者雇用を成功させるための最大のポイントは、外部の専門支援機関との連携を強化することです。自社だけで全ての問題を解決しようとするのではなく、専門家の知見を借りることが、最も効率的で確実な方法です。

企業が積極的に連携すべき機関は以下の通りです。

  • ハローワーク:求人募集、雇用の相談、各種助成金の情報提供。
  • 地域障害者職業センター:職業評価、ジョブコーチ支援の提供。
  • 障害者就業・生活支援センター:入社後の定着支援、生活面を含めた総合的なサポート。

これらの機関と連携することで、採用前のマッチング精度を高め、入社後のトラブル発生時も、専門家による客観的な視点と調整能力を活用できます。


【よくある質問】企業側の疑問と本音

Q1:障害者雇用で採用しても、すぐに辞めてしまうことはありませんか?

A:早期離職のリスクはありますが、適切な支援で定着率は高まります。

確かに、障害者雇用枠で入社した方の早期離職率は、一般社員よりも高い傾向にあるというデータもあります。しかし、これは多くの場合、事前のミスマッチや、入社後の配慮・サポート不足が原因です。

企業が、採用前の情報交換(特に必要な配慮事項の明確化)を徹底し、入社後にジョブコーチなどの定着支援を積極的に活用することで、安定した就労を維持できる可能性は格段に高まります。企業側の受け入れ体制の充実が、定着率向上の鍵を握ります。

Q2:雇用率を満たすためだけに採用している企業はありますか?

A:金銭的な動機(納付金回避)が強い企業も存在しますが、それだけではありません。

法定雇用率の仕組み上、納付金を避けるという金銭的な動機が採用の一因となっている企業は確かに存在します。しかし、前述したように、多くの企業はCSR、多様性の確保、業務効率化といった、経営戦略上のメリットも重視しています。

求職者の方が企業を見極める際は、障害者雇用を「専任部署」として設置しているか、入社後のキャリアプランや研修制度が整備されているかなど、単なる「数合わせ」ではない、長期的な取り組みを行っているかを確認することが重要です。

Q3:短時間勤務の求人が多いのはなぜですか?

A:短時間勤務は、体調の安定と業務の切り分けに有効だからです。

企業が短時間勤務の求人を多く出す背景には、障害のある方の体調管理を最優先にしたいという意図があります。まずは短い時間からスタートし、無理なく職場に慣れてもらうことで、長期的な定着率を高める目的があります。

また、企業側も、短時間で完結する定型業務を切り出しやすいため、業務再構築の観点からもメリットがあります。多くの企業で、短時間勤務からスタートし、勤務実績や体調の安定を見て、フルタイムへ移行できる制度が設けられています。


まとめ

企業が障害者を採用する理由は、法的な義務である「法定雇用率」の遵守が根幹にありますが、それだけでなく、納付金の回避・調整金の獲得という金銭的メリット、そしてCSR・多様性確保・業務効率化という経営的なメリットが複合的に絡み合っています。

企業は、障害者雇用を「コスト」ではなく、「人材戦略」として捉え始めています。これは、障害のある方が正当な能力評価を受け、活躍できる場が、今後ますます広がっていくことを意味します。

企業側の動機や仕組みを理解することは、あなたが自信を持って企業を選び、自己PRをする上で大きな強みになります。ぜひこの知識を活かして、あなたの就職活動を一歩前進させてください。

  • 企業が障害者を採用する根幹は、法定雇用率の遵守義務と納付金制度による経済的インセンティブである。
  • 金銭的理由だけでなく、CSR、多様性の確保、業務効率化といった経営戦略上のメリットも重要視されている。
  • 企業側の最大の課題は採用後の定着であり、ジョブコーチなどの外部支援機関との連携が成功の鍵となる。

伊藤 真由美

伊藤 真由美

いとう まゆみ33
担当📚 実務経験 10
🎯 就労支援🎯 進路支援

📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士

特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。

大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。

🎨 趣味・特技

ハンドメイド、音楽鑑賞

🔍 最近気になっているテーマ

発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み

📢 この記事をシェア

関連記事