繰り返す対人トラブルを防ぐためのチェックポイント

「なぜかいつも同じようなことで同僚と衝突してしまう」「頑張って気をつけているのに、また人間関係で失敗した」「対人トラブルが原因で仕事が続かない悪循環を断ち切りたい」
障害特性を持つ方が職場で直面する最大の課題の一つが、繰り返される対人トラブルです。特に、コミュニケーション様式、感覚、感情調整の特性が周囲の期待や職場のルールと合致しない場合、無自覚のうちに摩擦が生じ、「あの人は関わりにくい」というレッテルを貼られてしまうことがあります。この繰り返しは、自己肯定感を著しく低下させ、離職や心身の不調につながります。
この記事では、対人トラブルを未然に防ぎ、安定した就労を継続するために、今すぐ確認すべき7つの重要なチェックポイントを詳細に解説します。過去の失敗を責めるのではなく、客観的なデータとして活用し、「失敗パターン」を「成功パターン」に変えるための具体的な戦略を学びましょう。特性を理解し、職場との建設的な関係を築くためのロードマップを見つけてください。
1.対人トラブルの「根本原因」を見抜くための3つの視点
トラブルの解決は、その原因が「誰にあるか」ではなく、「どの特性とどの環境のミスマッチから生じたか」を客観的に分析することから始まります。以下の3つの視点で自己点検を行いましょう。
視点1:自身の障害特性と「トリガー(引き金)」の明確化
繰り返される対人トラブルは、必ず特定の「トリガー(引き金)」によって引き起こされています。まずは、あなたの特性がどのような状況で最も摩擦を生みやすいのかを具体的に特定します。
- コミュニケーション特性(ASD): 曖昧な指示、非言語的な「空気」、雑談、皮肉や冗談などが理解できない。
- 行動・注意特性(ADHD): 衝動的な発言、人の話を遮る、約束やルールをうっかり忘れる。
- 感覚・感情特性: 騒音や光、匂いなどの感覚刺激が原因でイライラし、それが対人態度に現れる、感情の波が大きい。
過去のトラブル記録を参照し、「怒鳴られた」「無視された」といった感情的な結果ではなく、「その直前の自分の行動や周囲の状況」に注目しましょう。
視点2:職場環境が持つ「コミュニケーション・ルール」の分析
日本企業、特に伝統的な職場では、暗黙のコミュニケーションルールが多く存在します。あなたの特性が、これらの非公式なルールと衝突していないか確認が必要です。
- 曖昧さの許容度: 「だいたい」「適当に」といった曖昧な指示が許容される文化か?(論理的な言語化が苦手な職場では、ASD特性がトラブルの元になりやすい)
- 雑談の強制度: ランチや休憩時の雑談、飲み会への参加が「協調性」として強く求められるか?(対人エネルギーを消費しやすい特性を持つ方には高負荷)
- 感情表現の許容度: 感情を露わにすること(怒る、泣く、パニックになる)が、どれだけ厳しくタブー視されるか?
あなたが「おかしい」と感じる職場のルールこそが、実はトラブルの構造的な原因である可能性があります。
視点3:問題解決を妨げる「認知の歪み」の確認
ストレスや過去の失敗経験から、**物事の捉え方(認知)が歪んでしまい、それがトラブルを悪化させていることがあります。これは特性とは別に、心の疲れから生じるものです。
- 全か無か思考: 「一度失敗したら、もう二度と人間関係はうまくいかない」
- 一般化のしすぎ: 「あの人が冷たいのは、きっと誰もが私を嫌っているからだ」
- すべき思考: 「同僚はもっと私の特性を理解すべきだ」
認知の歪みは、現実よりもネガティブに状況を解釈させ、過剰な自己防衛や攻撃的な態度につながり、関係修復を困難にします。
💡 ポイント
トラブルは「特性」×「職場環境」×「認知の歪み」**の掛け算で起こります。すべての要素を点検し、対策を講じましょう。
2.【チェックポイント】トラブルを防ぐための7つの具体的戦略
前述の根本原因分析を踏まえ、繰り返す対人トラブルを未然に防ぐための具体的な7つのアクションプラン(チェックポイント)を紹介します。
チェックポイント1:すべての指示・合意事項の「記録と復唱」は徹底できているか?
対人トラブルの多くは、「言った」「言わない」の水掛け論や、指示の誤解から生じます。これを防ぐためには、視覚的な記録を徹底することが必須です。
- 口頭指示の文書化: 上司や同僚からの指示は、必ずその場でメモを取り、「〇〇という理解で合っていますか?」と復唱し、可能であればチャットやメールで再確認のメッセージを送っているか。
- 合意事項の記録: 会議や打ち合わせで決まったことは、必ず「誰が、いつまでに、何をするか」を議事録または共有ファイルに残しているか。
この習慣は、あなたの「記憶特性」を補い、客観的な証拠を残すことで、後の誤解や責任問題を防ぎます。
チェックポイント2:感情的になる前に「タイムアウト」を発動できているか?
衝動的な発言や感情的な爆発は、人間関係を一瞬で破壊します。感情の波を理性で抑え込むために、物理的・時間的な距離を取る「タイムアウト」の技術を習得しましょう。
- 自己認識: 感情のトリガーが引かれた瞬間(心臓がドキドキする、声が大きくなるなど)に気づくための「警告サイン」を把握しているか。
- 離脱行動: 感情的になる前に、「すみません、少し気分が優れないので席を外します」「〇分後に落ち着いてからお話させてください」など、冷静にその場を離脱する定型文を用意できているか。
- 冷却期間: 離脱後、すぐに結論を出そうとせず、深呼吸や場所移動などで感情を冷却する時間を確保できているか。
チェックポイント3:「雑談の目的」を業務限定に絞れているか?
過度な雑談参加は疲弊の原因となり、場違いな発言は誤解を生みます。対人交流の目的を業務に限定し、境界線を明確にしましょう。
- 雑談の免除: 業務外の交流は基本的に控え、誘いを断る際も「疲労回復を優先したいので」と、体調管理を理由に、丁寧に断るスキルを適用できているか。
- 交流の最小限化: 挨拶や業務連絡以外の接触は、必要最低限に抑え、休憩時間は「心のシェルター」で単独で過ごせているか。
- 情報提供の限定: プライベートな情報や、誰かの噂話など、業務に無関係な情報交換に加わらないよう意識できているか。
チェックポイント4:自分の特性と必要な配慮を「建設的」に伝えられているか?
特性を隠したり、感情的に訴えたりするのではなく、「業務効率を上げるための条件」として必要な配慮を伝えましょう。
- 「困りごと」と「配慮」のセット提示: 「私は同時に複数のことを言われると処理ができません(困りごと)」だから「指示は一つずつ、書面でお願いします(配慮)」と、常にセットで伝えられているか。
- 専門家の意見の活用: 主治医やジョブコーチに作成してもらった意見書や診断書を、人事や産業医との交渉の場で提示し、配慮要求の客観的な根拠にできているか。
適切に配慮を要求することは、あなたの権利であり、トラブルを未然に防ぐための予防接種です。
チェックポイント5:信頼できる「サポーター」を職場内外に確保できているか?
トラブルの予兆を自力で察知できない場合、周囲の支援が不可欠です。客観的な視点であなたを支援してくれる存在を確保しましょう。
- 職場内のサポーター: 人事、産業医、上司の中で、あなたの特性を理解し、中立的にフィードバックをくれる人(メンター)を設定できているか。
- サポーターへの依頼内容の具体化: 「〇〇のサイン(例:話が長くなる、不機嫌そうな態度)が見えたら、私に『少し休憩しましょう』と声をかけてください」など、具体的な介入方法を依頼できているか。
- 職場外の安全基地: 家族、友人、カウンセラー、就労支援員など、職場の愚痴を吐き出し、自己肯定感を回復させる場所を確保できているか。
チェックポイント6:相手の「非言語情報」を言語化して確認できているか?
「空気」とは、非言語的な情報(表情、声のトーン、沈黙)の集積です。特性上、これらを察知できない場合は、言語化して確認する勇気を持ちましょう。
- 表情・態度の確認: 相手の表情が硬いと感じたら、「〇〇さんの顔が少し曇っているように見えますが、私の話で何か問題がありましたか?」と事実(曇った表情)を指摘し、意図(問題)を確認できているか。
- 意図の確認: 曖昧な言葉を使われたら、「『なるべく早く』というのは、今日中でしょうか、それとも来週の月曜まででしょうか?」と具体化を求めているか。
確認を怠ってミスをするよりも、確認を求める方が信頼につながります。
チェックポイント7:トラブル後の「リカバリー計画」をマニュアル化できているか?
トラブルは避けられません。重要なのは、**トラブル後の対応(リカバリー)**です。事後対応をマニュアル化し、感情に流されず実行しましょう。
- 冷静な謝罪と説明: 謝罪は「感情的な弁解」ではなく、「迷惑をかけた行動と、その特性上の理由、今後の対策」をセットで伝えられているか。
- 介入の判断基準: 「連続して2回、同じ人から強い指摘を受けた」など、第三者(ジョブコーチ、人事)の介入を依頼する具体的な基準を決めているか。
- トラブルの記録と分析: トラブルを「失敗」ではなく「次の職場で避けるべきパターンのデータ」として、即座に記録し、支援者と分析できているか。
リカバリーを迅速に行うことで、人間関係の傷は浅く済みます。
3.長期的な安定に向けた「自己防衛」と「環境整備」
これらのチェックポイントを実践すると同時に、長期的な安定就労を目指すために、**「自己防衛」と「根本的な環境整備」**を並行して進めましょう。
自己防衛:心のエネルギー管理を最優先する
対人トラブルが続く最大の原因は、心のエネルギー切れです。適切なエネルギー管理を最優先しましょう。
- 週末リセットの徹底: 平日の対人交流で消費したエネルギーを、週末に完全に回復させるための静かで刺激の少ない過ごし方(例:単独での休息、興味のある作業)をルーティン化する。
- 「過剰適応」の意識的な停止: 相手の期待に答えようと、無理に愛想笑いをしたり、苦手な雑談に加わったりする行動を意識的にやめる。エネルギーをセーブする勇気を持ちましょう。
- 体調悪化時の行動計画: 「不眠が3日続いたら産業医に相談する」「週末に涙が出たら主治医に連絡する」など、体調悪化のサインと、その際の具体的な行動をマニュアル化する。
環境整備:就労移行支援事業所を「継続利用」する
安定就労を確実にするため、就労移行支援事業所のサービスを「就職前」だけでなく、「就職後」も継続的に利用しましょう。
- 職場定着支援: 就職後も支援員が職場を訪問し、配慮の継続性や人間関係の小さな火種がないかをモニタリングしてくれます。
- リカバリー・トレーニング: 職場でトラブルがあった際、事業所で迅速にロールプレイングを行い、次の出勤までに適切な対応方法を習得できます。
支援機関と常に連携することで、トラブルが大きな問題に発展する前に、外部の力で解決を図ることができます。
まとめ
繰り返す対人トラブルは、決してあなたの人間性や能力の問題ではありません。あなたの特性と職場のルールとの間に生じた「ズレ」が原因です。このズレを解消し、安定就労を継続するために、客観的な分析と具体的な行動戦略を実行しましょう。
- 「特性」×「職場環境」×「認知の歪み」の3つの視点から、トラブルの根本原因を特定しましょう。
- 指示の「記録と復唱」、感情的な「タイムアウト」、雑談の「目的限定」の7つのチェックポイントを実践し、予防策を講じましょう。
- トラブル後の「リカバリー計画」をマニュアル化し、ジョブコーチや支援機関のサポートを継続的に活用しましょう。
自己防衛を最優先し、特性を活かせる環境であなたらしく働き続けることが大切です。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





