PTA活動・学校行事で感じたつらさと温かさ

学校という社会の中で揺れ動く親の心
お子さんが小学校に入学すると、避けて通れないのがPTA活動や運動会、発表会といった学校行事です。障害や難病を抱えるお子さんの保護者にとって、こうした行事は「わが子の成長を感じられる喜び」であると同時に、「周囲との違いを突きつけられる辛さ」を感じる場でもあります。
私自身、知的障害と進行性の難病がある息子を育てながら、地域の小学校の個別支援学級に通わせています。PTAの役員決めでの緊張感や、運動会で一人だけ違う動きをする息子を見たときの複雑な感情は、今でも鮮明に覚えています。
この記事では、学校という小さな社会の中で、私が経験した孤独や葛藤、そしてその先で見つけた周囲の温かさについて詳しくお話しします。今、学校行事に足が向かないほど悩んでいるあなたの心が、少しでも軽くなるヒントを共有できれば幸いです。
PTA活動で見えた「見えない壁」と葛藤
役員決めという名の重圧
新年度が始まると、多くの保護者が最も憂鬱に感じるのがPTAの役員決めではないでしょうか。私も息子が1年生のとき、最初の保護者会で「できる人がやる」という空気の中、下を向いて固まっていました。息子の通院や急な体調不良、療育(りょういく)への送迎を考えると、責任ある役職を引き受ける勇気が出なかったのです。
周囲のお母さんたちが「仕事が忙しいけれど、協力し合ってやりましょう」と前向きに話し合う中、私は「障害児の親だから配慮してほしい」と言い出せない自分に自己嫌悪を感じていました。障害があることを言い訳にしているのではないか、ずるいと思われているのではないかという被害妄想に近い不安が、私を支配していました。
結局、その年はじゃんけんで負けてしまい、ベルマーク委員を引き受けることになりました。自宅での作業が中心とはいえ、集まりがあるたびに「息子をどこに預けるか」「パニックが起きたらどうしよう」と、活動そのものよりも付随する調整にエネルギーを使い果たしていました。
「普通」の会話に入れない疎外感
PTAの作業中、保護者同士の雑談は避けられません。「最近、塾はどこに行ってる?」「スイミングの進級テストが大変で」といった話題が飛び交います。知的障害があり、学習面での積み上げが難しい息子を持つ私にとって、その輪はあまりにも遠い場所にあるように感じられました。
質問を振られても、「うちはまだそこまでいっていなくて」と濁すしかありません。悪気のない周囲の言葉が、私の心にある劣等感という傷口に塩を塗るような感覚でした。作業の手は動かしていても、心は常に「ここではないどこか」へ逃げ出したいと叫んでいたのです。
この時期の私は、自分から壁を作っていたのかもしれません。「どうせ理解してもらえない」という諦めが、表情を硬くさせ、さらに周囲との距離を広げていました。活動が終わって校門を出るたびに、深い溜め息が漏れる。そんな孤独な活動の始まりでした。
勇気を出して伝えた「わが家の事情」
そんな私に転機が訪れたのは、2学期の委員会のときでした。息子の難病による入院が重なり、どうしても作業に参加できなくなったのです。私は意を決して、委員長さんに電話をかけ、息子の障害と難病のこと、そして通院で余裕がない現状を正直に話しました。
「今まで黙っていてごめんなさい。実は息子に障害があって、今は病気の治療で手いっぱいで、これ以上活動に参加するのが難しいんです」
— 委員長への電話で
委員長さんは驚いていましたが、すぐに「そんな大変な状況だったなんて知らなかったわ。無理しないで、できる時だけでいいから。みんなにも私からうまく伝えておくね」と言ってくれました。その一言で、私の心に張り付いていた氷のような塊が、すーっと溶けていくのを感じました。
運動会で味わった孤独と、予想外の感動
一人だけ違う列に並ぶわが子
学校行事の中でも、運動会は最も「視覚的に差が出る」場所です。全校生徒が整列する中、個別支援学級の息子は先生に付き添われ、みんなとは少し離れた場所で座っていました。ダンスの練習では、周囲の子が軽やかにステップを踏む傍らで、息子はただ立ち尽くしたり、自分の指を眺めたりしていました。
観覧席からその姿を見ていると、「どうしてみんなと同じことができないんだろう」という悲しみがこみ上げてきました。周囲の保護者が「頑張れー!」と大きな声で応援する中、私はカメラのファインダー越しに涙をこらえるのが精一杯でした。息子を誇りに思いたいのに、恥ずかしいと感じてしまう自分。その事実にまた、激しく落ち込みました。
特に難病の影響で、息子は長時間の立位が難しく、途中で車椅子に座ることになりました。砂埃が舞う校庭で、一台だけ置かれた車椅子。それが「あなたは特別なんです」という宣告のように思えて、私は会場にいることが苦痛でなりませんでした。
拍手が教えてくれた「地域の温かさ」
運動会の後半、支援学級の児童による徒競走がありました。足元がおぼつかない息子が、先生に手を持たれながら、一生懸命にゴールを目指して歩いていました。他のレースは数秒で終わるのに、息子のレースは1分以上かかりました。会場が静まり返るのを感じ、私は「みんなを待たせて申し訳ない」と身を縮めていました。
ところが、息子がゴールテープを切った瞬間、会場全体から割れんばかりの大きな拍手が沸き起こったのです。それは、速い子に送られる称賛の拍手とは違う、「よく頑張ったね」という温かい激励の音でした。ふと隣を見ると、他のお母さんたちが「〇〇くん、すごい!歩けたね!」と涙ぐみながら拍手してくれていました。
私は衝撃を受けました。息子を「異質な存在」として見ていたのは、周囲ではなく、私自身だったのです。地域の保護者や子供たちは、息子の個性をそのまま受け入れ、彼の精一杯の挑戦を心から応援してくれていました。孤独だと思い込んでいた世界に、こんなにも優しい光が満ちていることを、私は初めて知りました。
行事の後の「ありがとう」が繋ぐ縁
運動会が終わった後、片付けをしている私に、同じクラスの保護者の方が声をかけてくれました。「いつも息子が〇〇くんに遊んでもらってるみたいで、ありがとうございます。〇〇くんの笑顔、素敵ですね」。その言葉は、何物にも代えがたい救いとなりました。
それまでは、行事が終わればすぐに帰っていた私ですが、少しずつ他の方と会話をするようになりました。こちらから障害についてオープンにすることで、「何か手伝えることがあったら言ってね」と言ってもらえる機会も増えました。「助けを求めること」が、実は周囲との絆を作る第一歩だったのです。
💡 ポイント
周囲は「どう接していいか分からない」だけで、悪意があるわけではないことが多いものです。親が少しだけ心を開き、具体的に「こういう配慮があると助かる」と伝えることで、学校生活の居心地は劇的に変わります。
学校行事を楽しむためのマインドセット
「できないこと」ではなく「挑戦」を見る
かつての私は、わが子が「みんなと同じレベルでできているか」を評価基準にしていました。しかし、今の私は「彼にとっての新しい挑戦ができているか」を基準にしています。発表会でセリフが言えなくても、舞台に5分間立っていられたなら、それは彼にとっての金メダル級の成果です。
知的障害のある子供にとって、大勢の人がいる場所で予定通りの行動をすることは、大人が外国の会議でスピーチをするのと同じくらい緊張するプロジェクトです。そう考えれば、舞台上でニコニコ笑っているだけで、なんて逞しい子なんだろうと思えるようになりました。
親の目線が変わると、カメラのシャッターを切る瞬間も変わります。他人の子と比較してため息をつくのではなく、息子の小さな指の動きや、真剣な眼差しを記録に残す。その「個」を見つめる姿勢が、私を行事のストレスから解放してくれました。
支援者とのチームワークを強固にする
行事を成功させるためには、学校の先生や介助員さんとの事前の打ち合わせが不可欠です。私たちは、行事の1ヶ月前には、息子がパニックになりそうな場面や、休憩が必要なタイミングをまとめた「行事用サポートシート」を作成して提出するようにしています。
✅ 成功のコツ
「こうしてください」と要求するだけでなく、「家ではこういう工夫をして成功しました」という成功例を共有しましょう。先生にとっても、具体的な解決策があることは大きな安心材料になります。
学校側も、親の具体的な不安を知ることで、よりきめ細やかな配慮をしてくれるようになりました。運動会での車椅子の配置や、発表会での立ち位置など、チームで話し合って決めることで、「学校全体でわが子を見守ってくれている」という安心感が生まれました。行事はもはや「試練の場」ではなく、「チームの成果発表会」になったのです。
無理に参加しない「勇気」も大切に
一方で、どうしても本人の体調や情緒が不安定なときは、行事を「欠席する」あるいは「一部だけ参加する」という選択も尊重するようにしています。難病を抱える息子にとって、季節の変わり目の大きな行事は、身体に過度な負担をかけることがあるからです。
以前は「みんなが行くのに休ませたら、ますます置いていかれる」と必死でしたが、今は「本人のQOL(生活の質)が最優先」だと割り切っています。午前中の開会式だけ参加して、疲れる前に帰宅する。そんな「わが家流の参加方法」を学校も認めてくれています。
「みんなと同じ」という呪縛を捨てると、選択肢は無限に広がります。無理をして行事嫌いになるよりも、楽しい思い出の範囲で切り上げる。その柔軟な判断こそが、障害児育児を長く続けるための秘訣だと実感しています。
PTA・学校行事の悩みに対する支援制度
保護者の負担を軽減する合理的配慮
2024年4月から、事業者だけでなく行政機関等(公立学校を含む)において「合理的配慮(ごうりてきはいりょ)の提供」が義務化されました。これは、障害のある子供が教育を受ける際に、障壁となるものを取り除くための調整を行うことです。実は、この考え方は保護者のPTA活動への参加においても応用できる場合があります。
例えば、「身体的な介助が必要な子供の保護者は、役員を免除する」「夜間の会議にはオンライン参加を認める」といった配慮です。これらは「特権」ではなく、障害のある家族を支える保護者が公平に活動に参加するための「調整」です。役員決めなどで困ったときは、一人で悩まずに学校の教頭先生やスクールカウンセラーに相談してみることをお勧めします。
相談支援事業所の活用
学校での人間関係やPTA活動の進め方について、客観的なアドバイスがほしいときは、契約している相談支援事業所の担当者に話を聴いてもらうのも一つの手です。彼らは多くの事例を知っているため、「他の学校ではこうしていますよ」「免除の申請にはこういう診断書があるとスムーズですよ」といった具体的な知恵を授けてくれます。
| 相談先 | 相談できる内容 | 期待できるメリット |
|---|---|---|
| 担任・学年主任 | 行事での配慮、個別の支援計画 | 学校生活の直接的な改善 |
| スクールカウンセラー | 保護者の精神的な悩み、孤立感 | 心の安定、専門的なアドバイス |
| 相談支援専門員 | 外部サービスの利用、権利擁護 | 福祉制度との連携、長期的な視点 |
| PTA本部役員 | 活動内容の調整、役員免除の相談 | 保護者コミュニティでの円滑な運営 |
一人で学校という組織に立ち向かう必要はありません。複数の相談先を持つことで、視点が多角化し、「どうにもならない」と思っていた問題に風穴が開くことがあります。頼ることは、責任を果たすための前向きな行動です。
よくある質問(FAQ)
Q1. PTA役員を免除してもらう際、診断書は必要ですか?
多くの学校では、口頭での説明や「個別の教育支援計画」の提示で理解が得られることが多いですが、組織の規約によっては診断書の提出を求められる場合もあります。まずは「息子のケアで活動時間が限られるため、貢献できる範囲を相談したい」と、本部の役員や先生に伝えてみてください。診断書を用意する手間よりも、まずは事情を丁寧に説明し、歩み寄る姿勢を見せることがスムーズな解決への近道です。
Q3. 周りの保護者から「特別扱いされている」と陰口を言われないか不安です。
残念ながら、すべての人が障害や難病の事情を深く理解してくれるわけではありません。しかし、批判を恐れて無理を重ね、あなたが倒れてしまっては本末転倒です。大抵の場合、誠実に事情を話し、できる範囲で(例えば「集まりには行けないけれど、資料の作成だけなら家でやります」など)貢献する姿勢を見せていれば、周囲は認めてくれます。ごく一部の否定的な声よりも、あなたを助けたいと思っている大多数の静かな理解者に目を向けましょう。
Q3. 難病でいつ体調を崩すか分からず、行事の練習に参加できません。
息子も同じ状況でした。学校には「練習に参加できなくても、当日参加できる部分だけでいい」と伝えてあります。練習なしで舞台に立つのはハードルが高いですが、先生が横で誘導してくれたり、椅子に座ったままで参加できるように工夫してくれたりしています。完璧を求めず、「その場の空気を味わうこと」を目的にすると、欠席への罪悪感も薄れますよ。
⚠️ 注意
学校行事やPTA活動が原因で、不眠や動悸、食欲不振などの体調不良が現れた場合は、すぐに活動から距離を置いてください。親御さんのメンタルヘルスを守ることは、お子さんの命を守ることと同義です。
Q4. 他のお子さんに、わが子の障害をどう説明すればいいですか?
子供たちは非常に純粋で、説明すれば素直に受け入れてくれます。「〇〇くんは、脳の特性で言葉を覚えるのがゆっくりなんだよ」「筋肉の病気で疲れやすいから車椅子に乗っているんだよ」と、具体的で分かりやすい言葉で伝えましょう。学校側にお願いして、クラス全体に障害理解の授業を行ってもらうのも有効です。子供たちが理解すると、今度はその保護者たちの理解も深まるという良い循環が生まれます。
まとめ:孤独の先にある「共に生きる」場所
「理解してもらう」という種まき
学校という場所は、時に残酷で、時にこの上なく温かい場所です。その違いを分けるのは、私たち親が「どれだけ自分たちの事情をオープンにできるか」にかかっているのかもしれません。隠そうとすれば孤独になりますが、勇気を出して伝えてみれば、そこには驚くほど多くの「助けたい人たち」がいることに気づきます。
PTA活動で感じたつらさも、運動会で流した涙も、すべては息子がこの地域社会で生きていくための「種まき」だったのだと、今なら思えます。私たちの事情を知った他のお母さんたちが、スーパーで会った時に息子に優しく声をかけてくれる。そんな小さな変化の積み重ねが、障害や難病のある子にとっての「優しい世界」を作っていくのです。
あなたは一人ではありません。今、行事の予定表を見てため息をついているなら、まずは深く息を吐き出して、自分に「よく頑張っているね」と言ってあげてください。そして、ほんの少しだけ、隣の保護者や先生に本音を漏らしてみてください。そこから新しい景色が見え始めるはずです。
次の一歩へのアクション提案
まずは次の参観日や保護者会で、隣に座った方に「いつもお世話になっています」と挨拶するところから始めてみませんか。余裕があれば、「実はうちの子、少し手助けが必要なことがあるんです」と、一言付け加えてみてください。その小さな一言が、あなたを縛っている「見えない壁」を壊す一撃になるかもしれません。
✅ 成功のコツ
感謝の気持ちを、言葉や手紙でこまめに伝えましょう。配慮を受けた際、「当たり前」と思わずに「助かりました、ありがとう」と伝えることで、周囲も「また次も協力しよう」という気持ちになります。良好な人間関係こそが、最大の支援です。
まとめ
- 事情をオープンにする勇気を持つ:PTAの役員決めや活動において、障害や難病の事情を正直に伝えることで、周囲の理解と適切な配慮を得やすくなる。
- 行事の評価軸を自分たちに合わせる:他人との比較ではなく、わが子の「昨日の自分への挑戦」に目を向け、小さな成長を心から祝福するマインドを持つ。
- 周囲を信じて頼る:学校や保護者コミュニティを「敵」や「監視役」ではなく「共に子を育てるチーム」と捉え、感謝を伝えながら良好な関係を築く。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





