「波はあるけど前に進める」私のペースでの回復

良い日と悪い日の繰り返し——それが回復
「もう良くなったと思ったのに、また落ちてしまった」——治療を始めて数ヶ月、私は何度もこの絶望を味わいました。昨日は調子が良かったのに、今日は起き上がれない。先週はできたことが、今週はできない。この「波」に、私は何度も心が折れそうになりました。
でも今なら言えます。この波は、回復の自然なプロセスだったのだと。「一直線に良くなる」のではなく、「波を描きながら前進する」——それが、精神疾患からの回復なのだと理解できました。
この記事では、双極性障害Ⅱ型と診断された私が、3年間かけて「波」と向き合いながら、自分のペースで回復してきた道のりをお話しします。同じように波に苦しんでいる方の参考になれば幸いです。
診断された頃——「波」の意味がわからなかった
激しい気分の変動
双極性障害Ⅱ型と診断されたのは、3年前のことでした。それまで私は、自分の激しい気分の変動を「性格」だと思っていました。
数週間は異常に元気で、睡眠時間が短くても活動的。でもその後、突然深い落ち込みに襲われ、何もできなくなる——この繰り返しでした。
主治医から「双極性障害」と告げられた時、私は戸惑いました。「うつ病」なら知っていたけれど、「双極性障害」は聞いたことがありませんでした。
主治医は説明してくれました——「気分が高揚する軽躁状態と、落ち込むうつ状態を繰り返す病気です。波があるのが特徴で、治療しながらこの波と付き合っていくことになります」。
⚠️ 注意
双極性障害は、躁状態(またはその軽い状態である軽躁状態)とうつ状態を繰り返す気分障害です。気分の波は病気の特徴であり、適切な治療と生活管理で、波を小さくコントロールすることが可能です。
「治らない」という絶望
主治医は続けて言いました——「双極性障害は、完全に治すのは難しい病気です。でも、適切な治療で症状をコントロールし、充実した生活を送ることは十分可能です」。
この言葉を聞いた時、私は絶望しました。「治らない」——その言葉が、重くのしかかりました。
「一生、この波と付き合わなければならないのか」「一生、薬を飲み続けるのか」「普通の人生は送れないのか」——そんな思いで、涙が止まりませんでした。
最初の治療——気分安定薬
治療は、気分安定薬の服用から始まりました。躁状態とうつ状態の両方を抑える薬です。
服薬を始めて数週間、確かに激しい波は小さくなりました。異常な高揚もなくなったし、深い落ち込みも以前ほどではなくなりました。
でも、波は完全にはなくなりませんでした。良い日と悪い日が、まだ繰り返されました。
私はまた絶望しました——「薬を飲んでいるのに、なぜ良くならないのか」と。
「双極性障害の治療の目標は、『波をゼロにすること』ではありません。『波を小さくし、コントロール可能にすること』です。ある程度の波は残りますが、それと上手く付き合えるようになることが大切なんです」
— 後に主治医が教えてくれた言葉
波との闘い——「なぜ戻るのか」
調子が良い日の罠
治療を続けるうちに、私は「調子が良い日」の罠にハマりました。
調子が良い日が続くと、「もう治ったかもしれない」と思ってしまうのです。そして、薬を飲むのを忘れたり、無理なスケジュールを入れたり、夜更かししたり——自己管理が緩くなりました。
その結果、数日後には必ず調子が崩れました。深い落ち込みに襲われ、何もできなくなる——この繰り返しでした。
| パターン | 行動 | 結果 |
|---|---|---|
| 調子が良い日が続く | 「治った」と思い込む | 自己管理が緩む |
| 服薬が不規則になる | 生活リズムが乱れる | 波が大きくなる |
| 無理なスケジュール | 疲労が蓄積 | うつ状態に転じる |
| 深い落ち込み | 何もできなくなる | 「また失敗した」と絶望 |
このパターンを、私は何度も繰り返しました。
「また戻った」という絶望
調子が崩れるたびに、私は深く絶望しました。
「せっかく良くなったのに、また戻ってしまった」「やっぱり治らないんだ」「もう希望はないのかもしれない」——そんな思いに支配されました。
カウンセラーに相談すると、こう言われました——「それは『戻った』のではなく、『揺らいだ』だけです。長い目で見れば、確実に前進しています」。
でも当時の私には、その言葉の意味が理解できませんでした。
💡 ポイント
回復は一直線ではなく、波を描きながら進みます。調子が悪い日があっても、それは「後退」ではなく「揺らぎ」です。トータルで見れば前進しているという視点を持つことが大切です。
周囲の無理解
波があることは、周囲にも理解されませんでした。
「この前は元気だったじゃない」「気分次第で変わるの?」「甘えているんじゃない?」——こうした言葉に、何度も傷つきました。
特に辛かったのは、家族からの言葉でした。「いつになったら治るの?」「薬を飲んでいるのに、なぜ良くならないの?」——心配からの言葉だとわかっていても、責められているように感じました。
転機——「波」を受け入れる
記録をつけ始めた
治療を始めて1年ほど経った頃、カウンセラーから「気分の記録」をつけることを勧められました。
毎日、気分を10段階で評価する。睡眠時間、活動内容、出来事なども記録する——最初は面倒に思いましたが、続けてみました。
3ヶ月ほど記録を続け、それを見返した時、私は重要なことに気づきました——確実に、波は小さくなっているということに。
治療前は気分が「10(最高)」と「1(最低)」を行き来していました。でも今は「7」と「4」くらいの間で揺れている。波の幅が、明らかに小さくなっていたのです。
「揺らぎ」と「後退」の違い
記録を見ながら、カウンセラーは説明してくれました。
「今週は調子が悪かったですね。でも3ヶ月前の悪い時と比べてどうですか? 当時ほど悪くはないでしょう? これは『後退』ではなく、『揺らぎ』なんです」
確かにそうでした。今週は辛かったけれど、3ヶ月前ほどではない。起き上がれない日もあったけれど、以前のように1週間続くことはなかった。
この気づきが、私の見方を変えました。
✅ 成功のコツ
気分や体調を記録することで、客観的に回復を確認できます。悪い日があっても、過去と比較することで「確実に前進している」ことを実感できます。スマホアプリや手帳など、自分に合った方法で記録を続けましょう。
「波があるのが普通」という受容
さらにカウンセラーは言いました——「波があるのが、この病気の特徴です。波をゼロにしようとするのではなく、波があることを前提に生活を組み立てることが大切なんです」。
この言葉が、私の心に深く響きました。
私はずっと、「波をなくそう」としていました。でもそれは、この病気と闘うことでした。そうではなく、「波があることを受け入れて、その中で生活する」——その発想の転換が必要だったのです。
自分のペースを見つける
波のパターンを知る
記録を続けるうちに、私は自分の波のパターンを理解できるようになりました。
私の場合、以下のようなパターンがありました。
- 季節の変わり目(特に春と秋)に調子を崩しやすい
- 睡眠時間が6時間以下になると、翌日調子が悪い
- 連続して予定を入れると、3日目頃から疲れが出る
- 生理前に気分が落ち込みやすい
- 天気が悪い日は気分も沈みがち
- 週末に夜更かしすると、月曜に響く
こうした自分のパターンを知ることで、予防策を取れるようになりました。
「予防的休息」という考え方
パターンがわかったら、次は「予防的休息」を取り入れました。
以前の私は、「調子が悪くなってから休む」でした。でも今は、「調子が悪くなる前に休む」ようにしています。
例えば:
- 連続して予定がある週は、合間に必ず休息日を入れる
- 季節の変わり目は、無理なスケジュールを避ける
- 睡眠時間は最低7時間確保する
- 疲れのサインが出たら、早めに休む
- 「頑張りすぎない」を意識する
この「予防的休息」が、波を小さく保つ鍵になりました。
「8割の力」で生きる
もう一つ大切にしているのは、「8割の力」で生きるということです。
以前の私は、常に100%の力を出そうとしていました。でもそれでは、すぐに疲弊してしまいます。
今は、意識的に80%の力で過ごすようにしています。完璧を目指さず、「十分良い」を目指す。この20%の余裕が、波を乗り切るバッファーになっています。
波の中での生活——具体的な工夫
調子が良い日にすること
調子が良い日は、準備の日として活用するようにしました。
以前は調子が良い日に予定を詰め込んでいましたが、今は違います。調子が良い日には、調子が悪い日に備えた準備をします。
- 作り置きの料理を準備する
- 部屋を片付けておく
- 必要な買い物を済ませる
- 書類関係を処理しておく
- リラックスできる環境を整える
こうすることで、調子が悪い日も困らないようにしています。
調子が悪い日の過ごし方
調子が悪い日は、「何もしない日」として受け入れるようにしました。
以前は、調子が悪くても「何かしなければ」と焦っていました。でも今は、「今日は休む日」と割り切ります。
調子が悪い日の私のルール:
- 無理に起きなくていい(寝たい時に寝る)
- 最低限のこと(服薬、水分補給)だけする
- 自分を責めない
- 「これも回復の一部」と受け入れる
- 好きなことだけする(できれば)
この「何もしない許可」を自分に出すことで、罪悪感が減りました。
家族との約束事
家族とも、波についての約束事を作りました。
調子が良い時に、家族と話し合って決めたことです。
- 調子が悪い日は、何も言わないでそっとしておく
- 「頑張れ」「気合いで」などの言葉は使わない
- 必要な時は助けを求めていいし、求められたら手伝う
- 調子が悪い日が続いても、必ず良くなる日が来ると信じる
この約束事があることで、家族も私も、波に振り回されなくなりました。
3年経った今——波はあるけど前に進める
波は小さくなった
診断から3年が経った今、波は確実に小さくなりました。
以前のような激しい高揚や深い落ち込みは、ほとんどありません。あっても、短期間で収まります。
記録を見返すと、この変化は明らかです。波の幅が狭くなり、頻度も減り、持続期間も短くなっています。
| 時期 | 気分の振れ幅 | 悪い期間の長さ | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 診断時 | 1-10(非常に大きい) | 1-2週間 | 月2-3回 |
| 1年後 | 3-8(やや大きい) | 3-5日 | 月1-2回 |
| 2年後 | 4-7(中程度) | 1-3日 | 月0-1回 |
| 3年後(現在) | 5-7(小さい) | 1日程度 | 2-3ヶ月に1回 |
働けるようになった
2年前から、パートタイムで働き始めました。週3日、1日5時間から。
最初は不安でした。「波があるのに、働けるだろうか」と。でも職場に状況を説明し、理解してもらえました。
調子が悪い日は休ませてもらう。予定は柔軟に調整してもらう——こうした配慮のおかげで、無理なく働き続けられています。
今では週4日、1日6時間まで増やせました。自分のペースで、少しずつステップアップしています。
人生を楽しめるようになった
何より大きな変化は、人生を楽しめるようになったことです。
以前は、波に振り回されて何も楽しめませんでした。でも今は、調子が良い日を大切に楽しめます。
友人と会う、好きな本を読む、散歩をする、美味しいものを食べる——こうした小さな幸せを、味わえるようになりました。
波はまだあります。でも、波があっても人生は楽しめる——そう実感しています。
波と向き合っている人へ
「一直線」を期待しないで
もし今、調子の波に苦しんでいるなら、まず知ってほしいことがあります——回復は一直線ではないということです。
良くなったり、また悪くなったり——それは「失敗」ではなく、回復の自然なプロセスです。
大切なのは、長い目で見ること。1日1日ではなく、1ヶ月、3ヶ月、1年単位で見れば、確実に前進しているはずです。
記録をつけてみて
ぜひ、気分や体調の記録をつけてみてください。
その日は辛くても、記録を見返すことで「前進している」ことを確認できます。この客観的な証拠が、希望を与えてくれます。
記録方法は何でもいいです。アプリでも、手帳でも、カレンダーでも。自分が続けやすい方法で、始めてみてください。
「波がある自分」を受け入れる
最後に、これだけは伝えたいです——「波がある自分」を受け入れてください。
波をなくそうと闘うのではなく、波があることを前提に生活を組み立てる。その発想の転換が、楽に生きる鍵です。
波はあるけど、前に進めます。波はあるけど、幸せになれます。波はあるけど、人生を楽しめます。
あなたのペースで、焦らず、一歩ずつ進んでください。
「回復は、山登りに似ています。一歩進んで半歩下がる。でもトータルでは確実に登っている。頂上を目指すより、今いる場所から景色を楽しむ余裕を持ちましょう」
— カウンセラーの言葉
よくある質問
Q1: 波は完全になくなりますか?
多くの場合、波を完全にゼロにすることは難しいです。しかし、適切な治療と生活管理で、波を小さくコントロール可能にすることはできます。「波がないこと」ではなく、「波があっても生活できること」を目標にすることが現実的です。
Q2: 調子が良い日に薬をやめてもいいですか?
絶対にやめないでください。調子が良いのは、薬が効いているからです。自己判断で中止すると、症状が悪化したり、離脱症状が出たりする危険があります。減薬や中止は、必ず主治医と相談しながら段階的に行ってください。
Q3: 家族として、波がある人をどう支えればいいですか?
まず、波は病気の特徴であり、本人のせいではないと理解してください。調子が悪い日は無理強いせず、見守ってください。「頑張れ」より「大変だね」「何か手伝えることある?」という言葉が助けになります。また、家族自身も休息を取ることが大切です。
Q4: 波があっても働けますか?
はい、多くの人が働いています。ただし、自分のペースで働ける環境を見つけることが大切です。パートタイムから始める、フレックス制度を活用する、在宅勤務を選ぶなど、柔軟な働き方を検討しましょう。職場に状況を説明し、理解を得ることも重要です。
Q5: 波のパターンはどうやって見つけますか?
毎日の気分、睡眠時間、活動内容、出来事などを記録してください。3ヶ月ほど続けると、パターンが見えてきます。季節、天気、生理周期、睡眠時間、ストレス度などと気分の関係を観察しましょう。主治医やカウンセラーと一緒に記録を分析することも有効です。
まとめ
この記事では、双極性障害の「波」と向き合いながら、自分のペースで回復してきた3年間の道のりをお話ししました。
- 回復は一直線ではなく、波を描きながら進みます
- 波を記録することで、客観的に前進を確認できます
- 「波をなくす」のではなく、「波と共に生きる」発想が大切です
- 予防的休息と8割の力で、波を小さく保てます
もし今、波に苦しんでいるなら、焦らないでください。波はあるけど、前に進めます。長い目で見れば、確実に良くなっています。あなたのペースで、一歩ずつ進んでください。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





