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同僚・上司とのコミュニケーションがうまくいかない理由

📖 約28✍️ 酒井 勝利
同僚・上司とのコミュニケーションがうまくいかない理由
職場でのコミュニケーション不調は、特性による曖昧な指示の解釈困難(ASD)や、指示の聞き逃し・衝動的な応答(ADHD)といった認知特性と職場のミスマッチが原因です。上司との壁を壊すには、指示を「5W1H」で確認・文書化し、「報連相」のタイミングをルール化する「構造化戦略」が必要です。同僚とは雑談を時間で限定し、定型文や「タイムアウト」で感情的対立を防ぎます。トラブル後は、謝罪と原因・対策をセットで伝え、ジョブコーチの介入で再発防止策を立案し、環境調整を進めるよう促します。

「上司の指示が曖昧で、何をすればいいのかわからない」「同僚との雑談で、会話のキャッチボールが続かない」「報告の仕方が悪いと、いつも注意されてしまう」

就労している障害当事者の方にとって、業務そのものよりも「人とのコミュニケーション」が最大の壁となることは少なくありません。コミュニケーションがうまくいかないと、仕事のミスが増えるだけでなく、職場で孤立し、やがて働くこと自体が困難になってしまいます。特に、発達障害(ASD・ADHD)や精神障害の特性を持つ場合、健常者との間に生じる認知特性や情報処理の違いが、摩擦の原因となっていることがほとんどです。

この記事では、同僚や上司との間でコミュニケーションがうまくいかない構造的な理由を、特性別に深く掘り下げて解説します。そして、あなたの特性を理解しつつ、誤解を減らし、建設的な対話を行うための具体的なスキルや環境調整の戦略を詳しく紹介します。コミュニケーションの困難さをあなたのせいにせず、原因を明確にし、働きやすさを手に入れるためのヒントを見つけましょう。


1.うまくいかない原因分析:特性から見るコミュニケーションのズレ

コミュニケーションのトラブルは、個々の特性と、職場が求めるコミュニケーション様式との間に生じる「ズレ」が原因です。主な特性別に、どのようなズレが生じやすいかを見ていきましょう。

ズレ1:指示・情報伝達のミスマッチ(ASD/ADHD)

上司が発する「指示」の段階で、すでに当事者と上司の間で情報伝達のミスマッチが起こっていることがよくあります。

  • 曖昧な指示の解釈困難(ASD): 上司の「なるべく早く」「適当にやっておいて」「常識で考えて」といった抽象的・曖昧な表現を、ASDの特性を持つ方は具体的にどう行動すべきか理解できません。結果、動けない、または見当違いな行動をしてしまいます。
  • 指示の聞き逃し・処理落ち(ADHD): 口頭で複数の指示を一度に受けた際、ADHDの特性を持つ方は注意機能の特性から、途中の指示を聞き逃したり、優先順位をつけられずに情報が処理落ちしたりします。
  • 非言語情報の欠落: 上司が表情や身振りで伝えた「補足情報」(例:急いでほしい、これは重要ではない)を当事者が認識できず、認識に大きな差が生じます。

この初期段階でのズレが、その後の報告・相談時のトラブルの種となります。

ズレ2:対人関係と雑談の目的の違い(ASD)

多くの職場では、業務を円滑に進めるために、「雑談」や「プライベートな交流」が人間関係の土台として機能しています。しかし、ASDの特性を持つ方は、この雑談の目的に対してズレが生じます。

  • 雑談の目的: 健常者は「場を和ませる」「親睦を深める」ことが目的ですが、ASD当事者は「情報交換」「知識の獲得」といった論理的な目的を重視しがちです。
  • 会話の独占: 興味のある話題になると、周囲の反応を気にせず一方的に話し続けてしまう(会話のキャッチボールの困難)。これにより、同僚から「自分の話ばかりする人」「協調性がない」と誤解されます。
  • 皮肉や冗談の誤解: 同僚からの軽い冗談や皮肉を文字通りに受け取ってしまい、真剣に反論したり、傷ついたりして、関係が悪化します。

ズレ3:感情コントロールと衝動的な応答(ADHD/精神障害)

特にADHDや精神障害の特性(例:感情調節の困難さ)を持つ場合、対立やストレスが生じた際の「感情的な応答」がトラブルを激化させます。

  • 衝動的な反論: 注意や指摘を受けた際、感情的になってしまい、事実を冷静に受け止めずにすぐに言い訳や反論をしてしまう。
  • 場の空気の無視: 怒りや不満が高まると、TPO(時・場所・場合)を無視して感情を露わにしてしまう(例:大声で反論する、物に当たる)。
  • 疲労による感情の爆発: 精神疾患の特性を持つ方は、疲労が溜まると感情のコントロールが困難になり、小さなきっかけで人間関係の爆発を引き起こしやすくなります。

2.上司とのコミュニケーションの壁を壊す「構造化戦略」

上司とのコミュニケーションの壁は、主に「指示の不明確さ」と「報告・相談のタイミングや内容」にあります。これを解消するためには、曖昧な部分を徹底的に構造化し、言語化する戦略が必要です。

戦略1:指示は「5W1H」と「マニュアル化」を徹底する

曖昧な指示をそのままにせず、必ずその場で「5W1H」で具体的に確認する習慣をつけましょう。

  • What(何を): 最終的な成果物(書類、データなど)の形は何か?
  • Why(なぜ): この業務の目的は何か?(目的が分かると優先順位がつけやすい)
  • When(いつまでに): 納期はいつか?緊急度は?
  • How(どうやって): どの手順で、どのようなツールを使って行うか?

確認した内容は、必ず「メモ」や「メール」で上司に確認の返信を入れましょう(例:「先ほどの指示について、〇〇という理解で進めます。納期は本日15時ですね」)。これにより、口頭の指示の聞き間違いを防ぎ、記録を残すことができます。

戦略2:「報・連・相」のタイミングと形式のルール化

報告・連絡・相談(報連相)がうまくいかない原因は、タイミングのズレや、報告内容の過不足にあります。これをルール化しましょう。

  • 報告のタイミング:
    • 進捗報告は「毎日定時(例:15時)に必ず行う」とルール化する。
    • 問題が発生したら「発生後5分以内に報告する」と決める。
  • 相談の形式: 相談は感情を交えず、必ず「現状」「問題点」「提案(または希望)」の3段構成で行う。

    例:「【現状】A作業の手順書が古く、【問題点】このまま進めるとミスが生じる可能性があり、【提案】新しい手順書作成を手伝ってほしい。」

このルール化は、特にASDの特性を持つ方が苦手な「臨機応変な判断」を減らし、上司も対応しやすくなります。

戦略3:「特性を前提とした配慮」の要求(合理的配慮)

上記のような構造化戦略は、本来、障害特性を持つ方にとって必要な「合理的配慮」です。上司や人事に対し、この構造化が「ミスやトラブルを防ぎ、業務の質を高めるために必要」であることを建設的に伝えましょう。

  • 伝え方: 「私は口頭での多重指示の処理が難しいため、業務効率向上のためにも、指示書はメールでお願いできますでしょうか。」
  • 専門家の活用: ジョブコーチ地域障害者職業センターの支援を入れ、第三者から客観的に必要な配慮を職場に伝えてもらうことで、要求が通りやすくなります。

配慮を求めることは、あなたの権利であり、安定した就労を継続させるための必須戦略です。


3.同僚との人間関係を円滑にする「境界線」戦略

同僚とのコミュニケーションは、業務外の雑談や、非公式な情報共有が中心となるため、特性を持つ方にとっては特に困難です。ここでは、無理に対人エネルギーを使わず、「業務限定」で人間関係を円滑にする戦略を解説します。

戦略1:対人交流を「時間」と「目的」で限定する

雑談や休憩を「必須の業務」と考え、交流のエネルギー消費を最小限に抑えるために限定します。

  • 雑談の時間限定: 始業時の挨拶後や休憩開始時など、「1日5分だけ」と決めて雑談にエネルギーを使う。
  • 定型文(スクリプト)の活用: 前の記事で紹介したように、「そうですね、面白いですね。ところで、〇〇さんのあの仕事はどうなりましたか?(業務に誘導)」といった会話の定型文を用意し、雑談が長引きそうになったら使用する。
  • 心の距離: 同僚は「協力して業務を進めるパートナー」と割り切り、友人関係に発展させようと無理をしない

これにより、対人エネルギーを業務のために温存できます。

戦略2:感情的な対立を防ぐ「タイムアウト」の活用

同僚と意見が食い違ったり、相手の言葉にカチンときたりした際、ADHDや精神障害の特性を持つ方は衝動的に反論してしまう危険性があります。感情的な対立を防ぐため、「タイムアウト」のルールを自己適用しましょう。

  • 物理的離脱: 感情が高ぶりそうになったら、「ちょっとお手洗いに」「お茶を入れます」と伝えて、その場から物理的に離れる
  • 「冷却期間」の設定: 離脱後、すぐに結論を出そうとせず、「10分後に冷静になってから話します」と自分自身に言い聞かせる。
  • 視覚支援の活用: 机に「一旦深呼吸」や「感情的になるな」といった小さなメモを貼り、視覚的にブレーキをかける。

衝動的な発言を防ぐことは、人間関係の長期的な安定に不可欠です。

戦略3:「貢献」を通じて信頼を築く

コミュニケーションスキルが苦手な場合でも、「業務への貢献」を通じて信頼を築くことは可能です。同僚は、コミュニケーション能力よりも、「一緒に働く上で、自分の役に立ってくれるか」を見ています。

  • 特性を活かす: 細かいミスに気づく、マニュアル通りに正確に作業できる、特定の専門知識に詳しいなど、自分の特性が活かせる業務で徹底的に貢献する。
  • 「ありがとう」の明確化: 助けられたときは、曖昧な態度ではなく、「〇〇さんのあのサポートのおかげで、私の業務がスムーズに終わりました。本当に助かりました、ありがとう」と具体的に感謝を伝え、ギブアンドテイクの姿勢を示す。

コミュニケーションの苦手さを、確実な仕事ぶりでカバーするという戦略です。


4.トラブル後の対処法:リカバリーと再発防止

コミュニケーションのトラブルは、どんなに注意しても起こり得ます。トラブルが発生した後の「リカバリー(修復)」を適切に行うことで、人間関係の傷を最小限に抑えることができます。

対処1:速やかに「謝罪」と「原因」をセットで伝える

トラブルが発生したら、まず速やかに謝罪しましょう。重要なのは、感情的に謝るのではなく、「何が悪かったのか」という原因をセットで伝えることです。

  • 謝罪の言葉: 「〇〇という発言(行動)で、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
  • 原因と対策: 「あの時、衝動的に発言を遮ってしまいましたが、これはADHDの特性による衝動性の問題だと自己分析しています。今後は、発言前に必ず3秒待つという対策を講じます。」

謝罪と共に特性と対策を明確に伝えることで、相手は「悪意ではないこと」「改善の意思があること」を理解し、あなたへの信頼を再構築しやすくなります。

対処2:第三者(ジョブコーチ)の介入を依頼する

トラブルが深刻化し、自分たちだけでは修復が難しいと感じたら、第三者(ジョブコーチ、産業医、カウンセラー)に介入を依頼しましょう。

  • 仲介役: ジョブコーチに、トラブルの状況を客観的に職場に説明してもらう。これにより、感情的な対立ではなく、「特性と環境のミスマッチ」という論理的な問題として処理されます。
  • 再発防止策の立案: トラブルの原因となったコミュニケーション行動を分析してもらい、今後の具体的な再発防止のための新しい職場ルールを共に立案してもらう。

専門家を交えた対応は、職場全体に「適切な支援体制を構築している」という意識を促します。

対処3:「コミュニケーションの棚卸し」と自己理解の深化

大きなトラブルの後こそ、コミュニケーションのやり方を「棚卸し」するチャンスです。

  • トラブル記録: 「いつ」「誰と」「どのような内容で」「なぜうまくいかなかったか」を詳細に記録する。
  • 特性の再分析: そのトラブルが、ASD、ADHD、または精神疾患のどの特性に起因するのかを主治医や支援者と共に再分析する。
  • 新たな回避策の考案: 「この種のトラブルは、次に〇〇という行動をすれば避けられる」という回避策を具体的に言語化し、マニュアルに追加する。

トラブルを「自己理解を深めるための教材」として活かすことが、長期的な安定につながります。


まとめ

同僚や上司とのコミュニケーションの困難さは、あなたの人間性の問題ではなく、障害特性と職場文化の間に生じる構造的なミスマッチです。このミスマッチを解消するためには、曖昧なコミュニケーションを具体的な「ルール」と「構造」に置き換える戦略が不可欠です。

  • 上司の指示は、「5W1H」で必ず確認し、文書化してミスマッチを防ぎましょう。
  • 同僚との対話は、「時間」と「目的」を限定し、定型文を活用して対人エネルギーを節約しましょう。
  • 感情的な対立を防ぐために、「タイムアウト」を自己適用する訓練をしましょう。
  • トラブルが発生したら、速やかな謝罪と具体的な再発防止策をセットで伝え、ジョブコーチの支援を積極的に活用しましょう。

コミュニケーションの困難を一人で抱え込まず、専門の支援機関と共に、あなたらしく安定して働き続けられる環境を築いていきましょう。

酒井 勝利

酒井 勝利

さかい かつとし38
担当📚 実務経験 12
🎯 生活サポート🎯 福祉用具

📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター

作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。

リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。

🎨 趣味・特技

DIY、キャンプ

🔍 最近気になっているテーマ

スマート家電と福祉の融合、IoT活用

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