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発達障害と“心身の疲れやすさ”の関係をわかりやすく解説

📖 約31✍️ 谷口 理恵
発達障害と“心身の疲れやすさ”の関係をわかりやすく解説
発達障害を持つ方が感じる強い疲労感の原因を解説。疲労の背景には、感覚過敏による「脳のオーバーヒート」や、社会的な適応(カモフラージュ)による多大なエネルギー消耗があります。対策として、活動と休息を計画的に管理する「エネルギー・ペーシング」の技術を紹介。エネルギー残量を可視化し、タスクを細分化してこまめな休憩を徹底します。また、ノイズキャンセリングなどの「感覚バリア」や、安心できる「カームダウン・スペース」の確保が、疲労の回復を早めるために不可欠です。専門家への相談と合理的配慮の活用も促します。

発達障害と“心身の疲れやすさ”の関係をわかりやすく解説

「人と同じことをしているはずなのに、なぜか自分だけがひどく疲れてしまう」「午前中だけでエネルギーが尽きてしまう」「休んでも休んでも、慢性的なダルさが抜けない」—発達障害(ASD、ADHDなど)を持つ方や、そのご家族・支援者の方で、このような心身の疲れやすさに悩んでいませんか。

発達障害の特性と、人一倍の疲れやすさには、深い関係があります。これは、精神論や体力不足ではなく、脳の情報処理方法やエネルギー消費の仕方の違いから生じていることが多いのです。

この記事では、疲れやすさの根本原因である「見えない疲労」の正体を明らかにし、発達特性に基づいた具体的な疲労管理(ペーシング)や、効果的な休息方法を、多角的な視点からご紹介します。

自分の特性を理解し、無理なく活動できるエネルギーマネジメントの技術を身につけて、より安定した毎日を目指しましょう。


発達障害における「見えない疲労」の正体

発達障害を持つ方が感じる疲労は、単なる肉体疲労だけではなく、脳のエネルギーを過剰に消耗する「見えない疲労」がほとんどです。

感覚過敏による「脳のオーバーヒート」

発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)を持つ方には、感覚過敏(音、光、匂い、肌触りなどが苦手)を持つことが多いです。

脳は、これらの刺激を一般の人以上に強く受け取り、常に処理し続けなければなりません。

この感覚情報の過剰な処理は、脳のワーキングメモリ(作業記憶)を急激に消耗させ、知らず知らずのうちに脳をオーバーヒート状態に陥らせます。これが、強い疲労や倦怠感、集中力の低下につながります。

「社会的な情報処理」に必要なエネルギー

日常的なコミュニケーションや集団行動も、発達障害を持つ方にとっては大きなエネルギー消費源です。

  • 空気読み:相手の表情や声のトーンから意図を推測する。
  • カモフラージュ:自分の特性を隠し、周囲に合わせようと努力する。

これらの社会的認知や適応のための努力は、意識的な「頑張り」を必要とし、脳の思考領域(前頭前野)に多大な負荷をかけます。これは「社会的疲労」とも呼ばれ、回復には通常の疲労以上の時間が必要です。

ADHD特性と「注意の制御コスト」

ADHD(注意欠如・多動症)を持つ方の一部には、「注意の制御」に関する困難からくる疲労があります。

特定のことに集中しすぎる(過集中)と、脳のドーパミンなどの神経伝達物質が過剰に消費され、その後の急激な疲労感(燃え尽き)を引き起こします。

逆に、集中を維持しようと努力する際にも、不要な刺激を遮断し続けるために多大なエネルギーが使われ、結果的に疲れやすくなります。


疲労を溜めないための「エネルギー・ペーシング」

発達障害を持つ方が疲れを溜めないためには、自分の特性を考慮に入れた活動量のコントロール、すなわちエネルギー・ペーシングの技術が不可欠です。

「エネルギー残量」を意識的に可視化する

ペーシングの基本は、自分のエネルギーを数値化し、感覚的に把握できるようにすることです。

  1. 朝の残量設定:朝、起きた時の心身の調子を「100%」として設定する。
  2. タスクの消費予測:今日の各タスク(通勤、会議、人との会話など)が何%のエネルギーを消費するか、事前に予測する。
  3. 「ストップライン」の設定:エネルギーが50%を下回ったら、必ず休憩に入ったり、活動を中断したりする「ストップライン」を決めておく。

これにより、エネルギーが完全に尽きる前に休憩に入ることができ、回復に要する時間を大幅に短縮できます。

活動を「細分化」し、こまめな休憩を取る

疲労を悪化させるのは、長時間集中し続けることです。活動を最小単位に細分化し、その間に必ず休憩を挟むようにしましょう。

💡 ポイント

集中が必要な作業は、「ポモドーロ・テクニック」(25分作業+5分休憩)のように、時間を区切って行いましょう。

5分の休憩中には、目を閉じる、深呼吸をする、体を動かすなど、脳と感覚を休ませる活動に切り替えることが重要です。

「安全な活動」と「高負荷な活動」の計画

タスクを、比較的疲労が少ない「安全な活動」(例:単調なデータ入力、一人での散歩)と、疲労が大きい「高負荷な活動」(例:会議、新しい人との会話)に分類しましょう。

週の計画を立てる際は、高負荷な活動の間に必ず安全な活動や回復時間を挟むように配置します。特に高負荷なイベントの後には、翌日を丸一日回復日として空ける柔軟な対応も検討しましょう。


疲労回復を早める「感覚と環境」の調整

発達特性からくる疲労の回復には、一般的な休息法に加え、感覚刺激をコントロールする「環境調整」が欠かせません。

「感覚バリア」による刺激の最小化

脳疲労の最大の原因である感覚刺激を、物理的に遮断するための「感覚バリア」を導入しましょう。

  • 聴覚バリア:ノイズキャンセリング機能付きヘッドホンや耳栓を積極的に活用し、不要な音を遮断する。
  • 視覚バリア:ブルーライトカット眼鏡、サングラス、強い光を避けるためのパーテーションなどを使用する。
  • 触覚バリア:肌触りの良い天然素材の服を選び、不快な締め付けを避ける。

これらのツールは、特に人混みや職場の休憩時間など、脳が休みにくい環境で非常に有効です。

「カームダウン・スペース」の確保

疲労やストレスが限界に達しそうになった時に、すぐに避難できる「カームダウン・スペース(鎮静空間)」を自宅や職場に確保しましょう。

⚠️ 注意

カームダウン・スペースは、外部の刺激(光、音、人の視線)が極力遮断される場所であることが重要です。

そのスペースでは、スマートフォンなどのデジタル機器の使用は避け、五感を休ませる活動(深呼吸、加重ブランケットの使用など)に専念しましょう。

「感覚ディエット」による脳の休息

感覚ディエットとは、脳への刺激を意図的に減らしたり、逆に満たしたりすることで、感覚系のバランスを整えることです。

例えば、疲れている時(オーバーロード状態)は、強い匂いや、速い動きの動画を避けるなど、感覚を制限します。一方で、体がだるい時(アンダーロード状態)は、リズム運動や冷たい刺激などで、適度な感覚を補給します。


睡眠・栄養・支援体制による疲労の根本対策

疲労回復の土台は、質の高い睡眠と適切な栄養、そして周囲の理解と支援体制の構築です。

「睡眠の質」を高めるための習慣

発達障害を持つ方の中には、睡眠トラブル(不眠、睡眠相後退など)を抱える方が多く、これが慢性疲労を悪化させます。

  1. 規則性の徹底:週末も含め、毎日同じ時間に起床し、朝の光を浴びることを最優先する。
  2. 入浴:寝る90分前にぬるめのお湯に浸かり、深部体温を上げて睡眠に備える。
  3. デジタル機器の遮断:就寝1〜2時間前からは、ブルーライトを発するデジタル機器の使用を完全に止める。

質の高い睡眠は、脳疲労を解消する最も効果的な方法です。

「脳の燃料」となる栄養素の確保

疲労回復に必要な「脳の燃料」となる栄養素を意識的に摂取しましょう。

栄養素 効果 多く含まれる食品
ビタミンB群 エネルギー代謝の促進、疲労物質の分解 豚肉、レバー、大豆製品
タンパク質 神経伝達物質の材料、体の修復 魚、卵、肉、乳製品
鉄分 酸素運搬、倦怠感の予防 赤身の肉、ほうれん草

偏食がある場合は、専門の管理栄養士に相談し、サプリメントや栄養補助食品で不足しがちな栄養を補うことも検討しましょう。

支援機関を活用した「合理的配慮」の依頼

職場や学校での環境調整は、個人の努力だけでは限界があります。

就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターを通じて、合理的配慮の依頼を行いましょう。例えば、「休憩室でのヘッドホン使用許可」「高負荷な会議後の休憩時間の確保」などが考えられます。


よくある質問(FAQ)と次の一歩

発達障害と疲労に関する、当事者の方やご家族からの疑問にお答えします。

Q. パニックと疲労の関連はありますか?

A. 密接に関連しています。パニックやメルトダウン(感情爆発)は、脳のエネルギーが限界を超え、感覚刺激がオーバーロードした結果として生じることが非常に多いです。

パニックの発生は、「疲労が溜まりすぎている」という明確なサインと捉え、発生後は徹底的に休息を取ることが重要です。

Q. 頑張りすぎてしまうのをどう止められますか?

A. 頑張りすぎてしまうのは、特性の一つである「過集中」や「完璧主義」によるものです。

自分を責めるのではなく、タスクを始める前に、タイマーを設定し、「タイマーが鳴ったら、キリが悪くても必ずやめる」というルールを機械的に守る練習をしましょう。物理的な道具(タイマー、チェックリスト)を頼ることが成功のコツです。

Q. 疲労回復が遅いのは病気ですか?

A. 発達障害の特性による疲労は疾患ではありませんが、もし強い疲労感が6ヶ月以上続き、日常生活に大きな支障をきたしている場合は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)などの疾患を合併している可能性も考えられます。その場合は、専門医による診断と治療が必要です。


まとめ

  • 発達障害の疲れやすさは、感覚刺激の過剰処理と、社会的な適応努力による「脳疲労」が主な原因です。
  • 対策の鍵は、活動と休息を計画的に管理するエネルギー・ペーシングと、こまめな休憩の徹底です。
  • 感覚バリアの使用、カームダウン・スペースの確保、規則正しい睡眠と栄養管理が、疲労の根本的な回復に繋がります。

ご自身の「見えない疲労」の正体を知ることは、セルフケアの大きな一歩です。自分のエネルギーを大切に扱い、「頑張りすぎないこと」を目標にしましょう。

まずは、今日から「高負荷な活動の前後に必ず15分の休憩(目を閉じる)を入れる」というルールを試してみることから始めてみてください。

主な相談窓口・参考情報

  1. 発達障害者支援センター: 特性に応じた生活上のアドバイス。
  2. 就労移行支援事業所: 職場での疲労管理や合理的配慮の依頼サポート。
  3. 心療内科・精神科: 睡眠障害や二次障害の治療。

谷口 理恵

谷口 理恵

たにぐち りえ45
副編集長📚 実務経験 20
🎯 生活サポート🎯 地域情報

📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者

介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。

介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。

🎨 趣味・特技

料理、ガーデニング

🔍 最近気になっているテーマ

一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生

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