家事ができない・生活が回らないときのサポート方法

家事ができない・生活が回らないときのサポート方法
「部屋が散らかりすぎてどこから手を付けていいかわからない」「食事の準備がおっくうで、ついレトルトや外食に頼ってしまう」「ゴミ出しや支払いの期日をいつも忘れてしまい、生活が破綻しそうだ」—発達障害や精神障害を持つ方、あるいはそのご家族で、このような「家事や生活管理がうまくいかない」という悩みを抱えていませんか。
家事ができないのは、決して怠けているわけでも、能力がないわけでもありません。多くの場合、障害の特性(実行機能の困難、感覚過敏など)や、心身の疲労が原因で、家事を遂行するための脳の機能がうまく働いていない状態です。
この記事では、家事や生活管理が困難になる具体的な原因を解明し、当事者の方が無理なく生活を維持するための具体的な仕組みづくりと、利用できる公的なサポート(障害福祉サービス)を徹底的にご紹介します。
「完璧な家事」を目指すのではなく、「生活が破綻しない最低限のライン」を維持するための、具体的で温かいサポート方法を見つけていきましょう。
家事や生活管理が困難になる心と体の理由
家事とは、複数のタスクを計画し、実行し、維持し続ける、非常に複雑なプロセスです。そのため、心身の様々な特性や不調が、家事の遂行を阻害します。
実行機能障害による「着手困難」と「維持困難」
家事の最も大きな困難の一つが、実行機能(目標設定、計画、優先順位付け)の障害です。これはADHDや精神障害の回復期に多く見られます。
- 着手困難:「掃除をする」というタスクを、どこから、どう始めれば良いか分からず、行動が停止してしまう。
- 優先順位付け困難:「洗濯」「皿洗い」「ゴミ出し」など、複数のタスクがある中で、どれを優先すべきか決められず、全てが中途半端になる。
「やる気がない」のではなく、脳の機能的に「始める」という最初のステップが最も難しい状態なのです。
感覚過敏による「環境ストレス」の蓄積
ASDなどの感覚過敏を持つ方にとって、家事は強い感覚ストレスの源となります。
⚠️ 注意
洗剤や漂白剤の強い匂い(嗅覚過敏)、掃除機や食器洗浄機の大きな音(聴覚過敏)、水や洗剤のべたつき(触覚過敏)などが、不快感を通り越して強い苦痛となり、家事自体を回避する原因となります。
心身の疲労と「活動量の波」
精神障害や慢性的な疲労を抱える方は、日によって心身のエネルギーレベルが大きく変動します。
調子が良い日に頑張りすぎてエネルギーを使い果たし、翌日以降は完全に動けなくなるという「波」が起こりやすいです。家事を「まとめてやろう」とすることで、かえって慢性的な生活の破綻につながってしまいます。
家事を「見える化」して実行を助ける仕組みづくり
家事の着手困難や手順の混乱を防ぐためには、家事のプロセスを「見える化」し、脳の実行機能を外部からサポートする仕組みが必要です。
タスクの「超細分化」とチェックリスト
大きなタスクは、実行機能の負担を極度に高めます。タスクを「5分以内に終わる最小単位」まで分解し、必ずチェックリストにしましょう。
| 大きなタスク | 超細分化されたタスク(チェックリスト) |
|---|---|
| 「部屋の掃除」 | ①引き出しの上にあるチラシを捨てる ②ゴミ箱のゴミをまとめる ③床の目立つホコリを5分だけ拭く |
| 「食事の準備」 | ①冷蔵庫から冷凍ご飯を取り出す ②レンジで温める ③納豆を混ぜる |
「時間の見える化」とタイマー活用
家事にどれくらいの時間がかかるか見通しが立たないと、不安で着手できません。
💡 ポイント
家事を行う際は、必ず「5分間だけ掃除をする」など、時間制限を設け、キッチンタイマーや砂時計など、残り時間が見えるツールを使いましょう。時間制限を設けることで、集中力の維持を助け、エネルギーの過剰な消耗を防ぎます。
「定位置」と「見える収納」の徹底
どこに何を片付けたか忘れたり、必要なものがすぐに見つからないと、家事の効率は極度に低下します。
全てのモノの「定位置」を決め、そこにラベルを貼るなどして見える化しましょう。収納は、引き出しに詰め込む「隠す収納」よりも、中身が見える透明なボックスを使う「見える収納」の方が、管理しやすくなります。
特性に応じた「負担軽減」と代替え手段
苦手な家事を無理に克服しようとせず、負担の少ない代替え手段やツールの導入によって、生活の維持を優先しましょう。
「完璧主義」から「最低限主義」への転換
家事ができない要因として、「完璧でなければならない」という強迫的な思い込み(完璧主義)がある場合があります。
「毎日掃除機をかけなければならない」「手作りで栄養満点の食事を作らなければならない」といった理想を捨て、「生活が健康的に維持できればOK」という最低限主義に切り替えましょう。
例えば、洗濯物はたたまず、カゴに入れたまま使う「カゴ収納」を導入するなど、家事の工程を大胆にカットすることも重要です。
「感覚負荷」を下げるアイテムの活用
感覚過敏によって特定の家事ができない場合は、その負荷を下げるためのアイテムや方法を徹底的に活用しましょう。
- 食器洗い:ゴム手袋を着用し、水や洗剤の触覚刺激を遮断する。
- 掃除機:ノイズキャンセリングイヤホンを装着するか、代わりに静音のロボット掃除機を導入する。
- 料理:食材を切る作業が苦手なら、カット野菜や冷凍食品、ミールキットを最大限に活用する。
苦手な家事を代行してくれる家電製品やサービスは、自分への「合理的配慮」と捉えましょう。
「ワンオペ」を避ける協力体制
家族や同居人がいる場合、家事の負担を一人で抱え込まず、それぞれの特性や得意・不得意に応じて役割分担を見直しましょう。
例えば、ADHDで片付けは苦手でも、体を動かすのは得意なら「ゴミ出し」や「重いものの運搬」を担当し、ASDで手順書通りに進めるのが得意なら「支払い・事務手続き」を担当するなど、得意な分野を活かした役割分担を再構築します。
公的サポートと福祉サービスの活用
自力での生活維持が困難な場合や、家族のサポートだけでは限界がある場合は、躊躇せず公的な障害福祉サービスを活用しましょう。
「地域生活支援」による家事援助
地域生活支援事業(市町村実施)の中に、家事などの日常生活を支援するサービスが含まれている場合があります。
特に、障害支援区分(旧:介護度のようなもの)がなくても利用できるサービスがあるため、お住まいの自治体の窓口(福祉課など)に確認してみましょう。
ヘルパーが訪問し、掃除、調理、買い物、洗濯などの家事援助を行ってくれます。
「自立訓練(生活訓練)」でのスキル習得
家事のスキル自体を学びたい場合、自立訓練(生活訓練)事業所が非常に有効です。
✅ 成功のコツ
自立訓練では、個別の特性に合わせた家事の「手順書」作りや、整理整頓のルール作りなど、生活スキルをマンツーマンで学ぶことができます。
苦手な部分を「訓練」として捉え、客観的なサポートを受けることで、自信を持って家事に取り組めるようになります。
「相談支援専門員」を通じたサポート設計
どのような福祉サービスが必要かわからない場合は、相談支援事業所にいる相談支援専門員に相談しましょう。
相談支援専門員は、心身の状態、生活の困りごと、利用可能な制度を総合的に判断し、最適なサービス利用計画(サービス等利用計画)を作成してくれます。
福祉サービスへの「窓口」となる重要な役割を担っています。
よくある質問(FAQ)と次のアクション
家事や生活管理の困難に関する、当事者の方やご家族からの疑問にお答えします。
Q. 家事代行サービスは障害福祉サービスと併用できますか?
A. はい、併用は可能です。
障害福祉サービスは主に「生活に必要な最低限の支援」を提供しますが、それ以上の質の高いサービスや、福祉サービスでは対応できない特定のニーズ(例:徹底的な大掃除、専門的な料理)がある場合は、一般的な家事代行サービスを利用することができます。
Q. 散らかった部屋の「片付け」をどこから始めるべきですか?
A. 散らかった部屋全体を見ずに、「今、一番ストレスになっている場所」から始めましょう。
例えば、床の物が気になって歩きにくいなら「床だけを片付ける」、食卓の上が物で溢れているなら「食卓の上だけを片付ける」など、目標を限定します。片付けは「捨てる」ことが最優先ではなく、「物を定位置に戻す」ことから始めるのが基本です。
Q. 家族として、どのように声かけすれば良いですか?
A. 「なんでやらないの?」といった批判的な言葉ではなく、「どこで困っているの?」「どのタスクが一番大変?」と、具体的な困りごとを尋ねる質問に切り替えましょう。
そして、「一緒にやろう」と声をかけ、隣に座ってタスクの超細分化を手伝うなど、「実行のきっかけ」づくりをサポートする姿勢が大切です。
まとめ
- 家事ができないのは、実行機能の困難や感覚ストレスによる「脳のオーバーロード」が原因であり、怠惰ではありません。
- 家事の実行を助けるには、タスクを「5分以内の最小単位」に細分化し、タイマーで時間を「見える化」する仕組みが有効です。
- 生活維持を優先し、苦手な家事はロボット掃除機などで代替するか、自立訓練や地域生活支援などの公的サポートを活用しましょう。
家事が回らないことは、あなたの生活全体に影響を与えます。一人で抱え込まず、外部の力を借りて「生活の仕組み」を再構築することが、心身の安定につながる大切な一歩です。
まずは、今日、「お住まいの自治体の福祉課または相談支援事業所に連絡し、利用できる家事援助サービスについて尋ねる」ことから始めてみましょう。
主な相談窓口・参考情報
- 相談支援事業所: サービス等利用計画の作成、福祉サービスへの橋渡し。
- 自立訓練(生活訓練)事業所: 生活スキル、家事の具体的な訓練。
- 地域包括支援センター/自治体福祉課: 地域生活支援事業に関する情報提供。

酒井 勝利
(さかい かつとし)38歳📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター
作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。
リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。
🎨 趣味・特技
DIY、キャンプ
🔍 最近気になっているテーマ
スマート家電と福祉の融合、IoT活用





