気持ちを切り替えられない時の具体的な方法

気持ちを切り替えられない時の具体的な方法
失敗を引きずってしまう、ネガティブな考えが頭から離れない、次の行動に移れない—「気持ちの切り替えが苦手だ」と感じていませんか。
特に障害特性を持つ方にとって、思考の切り替え(シフトチェンジ)や感情の調整が難しいことは、脳の機能的な特性や過去の経験から来るものであり、決して「怠け」ではありません。
この記事では、なぜ気持ちの切り替えが難しくなるのかを科学的な観点から解説し、その「思考のループ」から抜け出すための具体的なテクニックを豊富にご紹介します。
気持ちの切り替えは訓練で身につけられるスキルです。自分を責めることなく、一つずつ、心に優しい切り替え方を身につけていきましょう。
気持ちを切り替えられない根本的な原因
気持ちを切り替えられない状態は、心理的な要因だけでなく、脳の機能的な特性や自律神経の働きが大きく関わっています。
まずは、ご自身の切り替えの難しさがどこから来ているのかを理解しましょう。
実行機能の困難さと固執性
発達障害(特にASDやADHD)を持つ方の中には、脳の実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)に困難を抱えている方が多くいます。
実行機能とは、計画を立てる、行動を修正する、そして「気持ちや思考を切り替える」といった、高次の認知機能のことです。
この実行機能の働きが弱いと、一つの思考や行動パターンに固執しやすく、ネガティブな感情のループから抜け出すことが物理的に困難になります。これは「固執性(ペルセヴェレーション)」とも呼ばれます。
ネガティブな感情の「反芻」
過去の失敗や嫌な出来事を、何度も頭の中で繰り返し考えてしまうことを「反芻(はんすう)」といいます。
この反芻が続くと、脳は常にストレス状態に置かれ、抑うつ症状や不安が強まります。特に、几帳面で完璧主義の傾向がある方や、過去の出来事に強くこだわる傾向がある方に多く見られます。
反芻は、一見「問題を解決しようとしている」ように見えますが、実際にはネガティブな感情を強化しているだけであり、新しい行動や思考への切り替えを阻害します。
「一度嫌なことがあると、そのシーンが頭の中で再生され続けて、他のことを考える余地がなくなります。自分では止められないんです。」
— 当事者の声(20代・ADHD)
自律神経のアンバランスと緊張状態
強い感情のループに囚われている時、体は戦闘態勢の交感神経が優位な状態になっています。
体が緊張していると、心もリラックスできず、気持ちを切り替えて休息モードに入るのが難しくなります。
気持ちを切り替えるためには、まず体をリラックスモード(副交感神経優位)にすることが必要であり、この自律神経のアンバランスが、切り替えの難しさに繋がっている場合があります。
思考のループから抜け出すための「物理的な介入」
思考のループに囚われている時、頭の中で解決しようとしても、かえって深みにはまりがちです。
ここでは、思考を物理的に中断し、別の行動に移るための具体的な「物理的な介入」テクニックをご紹介します。
「パターン破壊」による強制リセット
気持ちが切り替えられない状態は、脳が特定の思考パターンにはまり込んでいる状態です。このパターンを「破壊」することで、強制的に思考をリセットしましょう。
- 移動:座っている場所から立ち上がり、別の部屋に移動する、または家の周りを数分歩く。
- 姿勢の変化:思い切り伸びをする、数回ジャンプするなど、体勢を大きく変える。
- 環境の変化:部屋の照明を消す、カーテンを開ける、窓を開けて新鮮な空気を吸う。
環境や体の状態を物理的に変えることは、脳に「今、状況が変わった」と認識させ、新しい行動への切り替えを促します。
「タイムストップ」とタイマーの利用
ネガティブな感情を「考える時間」を意図的に制限するために、タイマーを活用する「タイムストップ」を実践しましょう。
「この嫌なことを5分間だけ考える時間にする」と決め、タイマーをセットします。タイマーが鳴ったら、どんなに中途半端でも思考を中断し、次の行動に移ります。
このテクニックは、完璧主義や固執性を持つ方に対し、「完全に解決しなくてもいい」という許可を脳に与える効果があります。
💡 ポイント
思考を中断した後は、次の行動をあらかじめ決めておきましょう。例:「タイマーが鳴ったら、水を飲む」→「次に洗濯機を回す」など、小さなタスクを続けて行うと、切り替えがスムーズになります。
五感を使う「アンカー(碇)」の設定
感情を切り替えたい時に、五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)に働きかける特定の刺激を「アンカー(碇)」として事前に設定しておきましょう。
- 触覚アンカー:お気に入りの肌触りの良いタオルや、手にフィットする石を握る。
- 嗅覚アンカー:リラックスできるアロマオイル(例:ラベンダー)を嗅ぐ。
- 聴覚アンカー:気分が上がる特定の曲を1曲だけ聴く。
これらの刺激は、過去に経験した「心地よい状態」と脳内で結びついており、即座にポジティブな感情やリラックス状態に切り替えるのを助けてくれます。
感情を切り離すための「認知的な介入」
気持ちを切り替えられない原因が、ネガティブな思考の反芻にある場合、認知行動療法に基づいた「認知的な介入」で、思考の癖を修正しましょう。
「感情のラベリング」と距離化
ネガティブな感情に圧倒されている時、私たちは感情と自分自身を同一視してしまいがちです。
自分の感情を客観的に言葉にする「感情のラベリング」を行うことで、感情から自分を切り離します。
| 自己同一化(✕) | ラベリングと距離化(◯) |
|---|---|
| 私は怒っている。 | 今、怒りという感情が湧いている。 |
| 私は失敗者だ。 | 失敗したという思考が頭に浮かんでいる。 |
「感情は自分の一部ではなく、一時的に湧いてきたものだ」と認識することで、その感情に囚われ続けるのを防ぎ、次の思考へ移るためのスペースを作ります。
「最悪のシナリオ」を論破する
反芻しているネガティブな思考の多くは、実際には起こる可能性の低い「最悪のシナリオ」に基づいています。
その最悪のシナリオを紙に書き出し、「その思考が真実である証拠」と「真実ではない証拠」を客観的に検証します。
- 「真実ではない証拠」(反証)を探す作業を通じて、思考の偏りや、根拠のない不安が明らかになり、思考のエネルギーが抜けていくのを感じられます。
この作業は、ネガティブな感情を「解決すべき問題」から「検証すべき仮説」へと切り替える役割を果たします。
「セルフ・コンパッション」で自己批判を止める
気持ちの切り替えができない原因として、失敗した自分に対する過度な自己批判がある場合が多いです。
この自己批判を止めるために、セルフ・コンパッション(自分への思いやり)を実践しましょう。
✅ 成功のコツ
ネガティブな考えが浮かんだ時、「もし親友が同じことで悩んでいたら、私は何と声をかけるだろうか?」と自問し、その温かい言葉をそのまま自分自身にかける練習をします。
切り替えのための環境設定と専門的な支援
気持ちを切り替えるスキルを向上させるには、日々の生活環境を整え、必要に応じて外部の専門的な支援を活用することが不可欠です。
トランジション・ルーティンの設定
気持ちの切り替えが苦手な方は、行動や場所が変わる際の「トランジション(移行)」が大きなストレスとなります。
切り替えが必要な場面(例:仕事から休憩、帰宅後から家事、朝の起床時)に、必ず行う決まった行動(ルーティン)を設定しましょう。
- 帰宅後から家事への切り替え:ドアを開ける前に深呼吸を3回し、帰宅したらまず手を洗い、決まった音楽を1曲流す。
- 仕事から休息への切り替え:デスクの上を5分間片付け、休憩用の椅子に移動し、温かい飲み物を一口飲む。
このルーティンは、脳にとって「今から次の行動に切り替わるよ」という合図となり、スムーズな移行を促します。
外部支援者による「切り替えのサポート」
一人で気持ちを切り替えるのが難しい場合、信頼できる支援者(相談支援専門員、ジョブコーチなど)に、切り替えのサポートを依頼しましょう。
支援者に、あなたが気持ちを切り替えられない時のサイン(例:腕組み、貧乏ゆすり、黙り込む)を共有し、「サインが出たら声をかけてもらう」というサポート体制を構築します。
| サイン | 支援者からの声かけ例 |
|---|---|
| 思考の反芻 | 「タイマーをセットして5分間だけ考えてみようか?」 |
| 固執性 | 「ここは一旦置いておいて、休憩してみない?」 |
二次障害の治療としての心理療法
気持ちの切り替えの困難さが、うつ病、双極性障害、または不安障害といった二次障害の症状として現れている場合、薬物療法と併せて専門的な心理療法が有効です。
特に、認知行動療法やマインドフルネス認知療法は、感情や思考の「固執性」を緩和し、感情を観察して受け流すスキルを身につけるのに役立ちます。
よくある質問(FAQ)と相談窓口
気持ちの切り替えに関する、当事者の方やご家族からの疑問にお答えします。
Q. 気持ちの切り替えができない自分はダメでしょうか?
A. 気持ちの切り替えが苦手なのは、あなたの意志の弱さではなく、脳の特性や、過去の経験から身についた思考の癖によるものです。決して自分を責める必要はありません。
これは、練習によって改善できるスキルです。まずは「切り替えが苦手な自分もOK」と受け入れるセルフ・コンパッションから始めてみましょう。
Q. 家族が切り替えられず、イライラしてしまいます。
A. 家族の切り替えの困難さに付き合うことは、支援者やご家族にとって大きなストレスになります。
感情的に接するのではなく、まずは「本人の切り替えの難しさは特性によるものだ」と理解しましょう。そして、本人の感情に飲まれないよう、一定の距離(物理的、心理的)を保ち、サポートを外部の支援者にも頼るようにしてください。
Q. 成功したことでも、切り替えられずにこだわってしまいます。
A. 成功体験への固執も、ネガティブな反芻と同様に、実行機能の困難さからくることがあります。
その成功を十分に喜び、記録した上で、次は意識的に「その成功はもう終わった」と区切りをつけるための儀式(例:日記を閉じる、成功に関する物を棚にしまう)を行い、次の目標に注意を向ける練習をしましょう。
まとめ
- 気持ちの切り替えができないのは、実行機能の困難さ、ネガティブな感情の反芻、自律神経の緊張が主な原因です。
- 思考のループから抜け出すためには、「パターン破壊」による強制リセットや、タイマーを使った「タイムストップ」など、物理的な介入が有効です。
- 気持ちを切り替えるスキルは、「感情のラベリング」による客観視や、「トランジション・ルーティン」の設定、そして専門的な支援によって訓練可能です。
気持ちの切り替えは、小さな「儀式」や「行動の合図」の積み重ねから生まれます。
完璧を目指すのではなく、まずは「ネガティブな思考を1分でも短くする」という、小さな目標から始めてみましょう。
もし、一人で切り替えの練習を続けるのが難しいと感じたら、次は就労移行支援や自立訓練などの事業所で「切り替えルーティン」の練習プログラムがあるか相談してみるという、次のアクションに進んでみましょう。
主な相談窓口・参考情報
- 精神科・心療内科: 二次障害の診断と、認知行動療法などの心理療法。
- 就労移行支援事業所・自立訓練事業所: 日常生活や職業訓練の中で、行動の切り替えスキルを練習する場。
- 公認心理師・カウンセラー: 感情の反芻や固執性に対する専門的なカウンセリング。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





