当事者が語る、困った時の周囲との関わり方

助けが必要なのに、うまく伝えられない
「困っているのに、どう助けを求めたらいいかわからない」「周りに迷惑をかけたくない」「理解してもらえないかもしれない」——発達障害のある私は、長い間こうした葛藤を抱えてきました。助けを求めることは弱さではないとわかっていても、実際に声を上げるのは本当に難しいものです。
この記事では、発達障害の当事者である私が、困ったときに周囲とどう関わってきたか、その経験と学びをお伝えします。失敗も含めて正直に語ることで、同じように悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
助けを求められなかった日々
「迷惑をかけたくない」という思い込み
私は20代の頃、職場で毎日のように失敗を重ねていました。約束を忘れる、書類の提出期限を守れない、会議の内容を覚えていない——同僚から何度も注意されましたが、どうしても改善できませんでした。
当時の私は「これ以上迷惑をかけられない」という思いから、困っていることを誰にも相談できませんでした。「もっと頑張れば何とかなる」と自分を追い込み、結果的に体調を崩してしまいました。後から振り返ると、もっと早く誰かに相談していれば、違う結果になったかもしれません。
発達障害の診断を受けたのは、その後のことです。診断を受けて初めて、自分の困難は努力不足ではなく、脳の特性によるものだったと理解できました。でも、その理解を得るまでに、多くの時間と苦しみがありました。
「わかってもらえない」という恐れ
診断を受けた後も、すぐには周囲に打ち明けられませんでした。「発達障害と言っても理解されないのでは」「かえって偏見を持たれるのでは」という不安が強かったからです。
実際、発達障害について誤解している人は少なくありません。「見た目は普通なのに」「甘えているだけ」「努力が足りない」——こうした言葉を聞くたびに、心が折れそうになりました。理解されない経験を重ねるうちに、「どうせわかってもらえない」と諦めてしまうこともありました。
⚠️ 注意
残念ながら、すべての人が発達障害を理解してくれるわけではありません。心ない言葉を投げかけられることもあります。そんなときは、自分を守ることを最優先にしてください。無理に理解してもらおうとせず、距離を置くことも必要な選択です。
関わり方を変えたきっかけ
信頼できる人との出会い
転機となったのは、職場の上司との出会いでした。ある日、また失敗をして落ち込んでいた私に、その上司は「何か困っていることはない?」と優しく声をかけてくれました。その言葉に、思わず涙が出てしまいました。
勇気を出して発達障害のことを打ち明けると、上司は「そうだったんだね。じゃあ、どうしたら働きやすくなるか一緒に考えよう」と言ってくれました。問題視するのではなく、解決策を一緒に探してくれる姿勢に、私は救われました。
この経験から、「伝え方と相手選びが大切なんだ」と気づきました。全員に理解してもらう必要はない。でも、信頼できる人には、きちんと伝えることで関係が良くなることもある——そう思えるようになりました。
当事者会での学び
同じ頃、発達障害の当事者会に参加し始めました。そこで出会った仲間たちも、それぞれに困難を抱えながら生活していました。でも、みんな助けを求めることを恐れていませんでした。
ある参加者がこう言いました。「助けを求めるのは、相手を信頼しているってこと。逆に、助けられる側も必要とされていると感じられる。お互い様なんだよ」。この言葉は、私の「迷惑をかけてはいけない」という思い込みを変えてくれました。
当事者会では、具体的な対処法も教えてもらいました。「こういうときはこう伝えるといい」「この場面ではこのツールが役立つ」——同じ経験をした人たちの知恵は、どんな教科書よりも実践的でした。
効果的な伝え方を見つける
具体的に、わかりやすく伝える
周囲に助けを求めるとき、具体的でわかりやすい伝え方を心がけるようになりました。抽象的な表現では、相手も何をすればいいかわからないからです。
以前の私はこう言っていました:「仕事がうまくできなくて困っています」。でも今は、こう伝えます:「口頭での指示を忘れてしまうことが多いので、重要な内容はメールやメモでいただけると助かります」。
具体的な伝え方の例をいくつか挙げてみます:
| 抽象的な表現 | 具体的な表現 |
|---|---|
| 「時間管理が苦手です」 | 「締切の3日前にリマインドしていただけますか」 |
| 「人混みが苦手です」 | 「可能であれば、空いている時間帯に打ち合わせを設定していただけますか」 |
| 「集中できません」 | 「静かな環境で作業できる席を用意していただけますか」 |
このように、困りごとと具体的な解決策をセットで伝えることで、相手も対応しやすくなります。
感謝の気持ちを忘れずに
助けてもらったときは、必ず感謝の気持ちを伝えるようにしています。「ありがとうございます」「おかげで助かりました」——シンプルな言葉でも、相手に伝わります。
私は以前、助けてもらうのが当たり前のように感じてしまっていた時期がありました。でもそれは間違いでした。配慮してもらえるのは、相手の善意があってこそです。その善意に感謝し、言葉で伝えることで、関係性がより良いものになっていくと実感しています。
また、自分ができることで相手に貢献することも大切です。完全にできないことでも、「ここまでならできます」と伝えたり、自分の得意なことで役に立ったりすることで、お互いに支え合う関係が築けます。
✅ 成功のコツ
助けを求めるときは、事前に「お時間を少しいただけますか」と相手の都合を確認しましょう。忙しいときに頼まれると、相手も困ってしまいます。相手の状況に配慮することで、お願いも聞いてもらいやすくなります。
場面別の関わり方
職場での関わり方
職場では、まず直属の上司に相談することから始めました。いきなり全員に伝えるのではなく、信頼できる人から段階的にというアプローチです。
上司との面談では、以下のような内容を伝えました:
- 発達障害(ADHD)の診断を受けていること
- 具体的に困っている場面(口頭指示の記憶、マルチタスク、時間管理など)
- これまで試してみて効果があった対処法
- 職場で配慮してもらえると助かること
- 自分でできる努力と工夫
大切なのは、「配慮してほしい」だけでなく、「自分もこう努力する」という姿勢を見せることです。一方的にお願いするのではなく、お互いに歩み寄る姿勢が信頼関係を築きます。
結果的に、職場では以下のような配慮をしてもらえるようになりました:指示は口頭だけでなくメールでも共有する、重要な締切は事前にリマインドする、静かな環境で作業できる席を用意する。これらの配慮のおかげで、仕事の質が大きく向上しました。
家族や友人との関わり方
家族には、診断を受けてすぐに伝えました。最初は戸惑いもあったようですが、発達障害について一緒に学んでくれました。今では、私の特性を理解した上でサポートしてくれる心強い存在です。
友人には、信頼度に応じて伝え方を変えています。親しい友人には詳しく話しますが、知り合い程度の関係であれば「約束を忘れやすいので、前日に連絡してもらえると助かる」といった具体的なお願いに留めることもあります。
友人との付き合いで心がけているのは、自分の状態を正直に伝えることです。「今日は疲れていて、人混みは避けたい」「静かな場所で会いたい」——こうした希望を素直に伝えることで、お互いに無理のない関係が続けられています。
初対面の人や支援者との関わり方
医療機関や福祉サービスを利用するときは、最初から発達障害のことを伝えるようにしています。専門家だからこそ理解してくれますし、適切な支援につながるからです。
初診の際には、事前に以下の情報をメモにまとめて持参します:
- 診断名と診断を受けた時期
- 現在服用している薬(あれば)
- 日常生活で困っていること
- これまでに試した対処法と効果
- 今回相談したいこと
緊張すると言いたいことを忘れてしまうので、メモを見ながら話すことで、必要な情報を漏れなく伝えられます。医師や支援者も、準備してきたことを評価してくれます。
💡 ポイント
支援者との関係では、「合わない」と感じたら変更することも選択肢の一つです。相性は大切です。我慢して続けるより、自分に合った支援者を探す方が、結果的に良い支援につながります。
よくある質問と私の経験
Q1. 助けを求めたら、関係が悪くなりませんか?
正直に言うと、理解してくれない人もいました。でも、そういう人との関係は、遅かれ早かれ難しくなっていたと思います。逆に、理解してくれる人とは、助けを求めたことで関係がより深まりました。
大切なのは、自分を偽って関係を続けるより、本当の自分を受け入れてくれる人との関係を大切にすることだと学びました。
Q2. どこまで伝えればいいですか?
相手との関係性や状況によります。職場では必要な配慮に関することだけ、親しい友人にはもっと詳しく——というように、伝える範囲を調整しています。
すべてを話す必要はありません。自分が安心できる範囲で、必要な情報を選んで伝えることが大切です。
Q3. 断られたらどうすればいいですか?
配慮をお願いして断られたこともあります。そんなときは、別の方法を考えたり、他の人に相談したりします。一つの方法がダメでも、必ず他の道があります。
また、断られたことで自分を責めないことも大切です。配慮できる余裕がないだけかもしれませんし、理解が足りないだけかもしれません。自分の価値とは関係ないと切り離して考えるようにしています。
今、困っているあなたへ
一人で抱え込まないで
困っているのに助けを求められないでいる方に伝えたいのは、あなたは一人ではないということです。同じように悩んでいる人はたくさんいますし、助けてくれる人も必ずいます。
私も最初は怖かったですし、今でも新しい環境で助けを求めるのは緊張します。でも、勇気を出して声を上げたことで、人生は確実に良い方向に変わりました。完璧に伝えられなくてもいい。まずは一歩、踏み出してみてください。
相談できる場所を知っておく
困ったときに相談できる場所を、いくつか知っておくことをおすすめします。発達障害者支援センター、相談支援事業所、医療機関、当事者会——複数の選択肢があると、状況に応じて相談先を選べます。
私は月に一度、カウンセリングを受けていますし、当事者会にも参加しています。定期的に話を聞いてもらえる場所があることで、日常の困りごとを溜め込まずに済んでいます。
まとめ
この記事では、発達障害の当事者として困ったときの周囲との関わり方について、私の経験をお話ししました。
- 助けを求めることは弱さではなく、信頼の証であり、お互いに支え合うこと
- 具体的でわかりやすく伝えること、困りごとと解決策をセットで提案すること
- 職場、家族、友人、支援者など、相手との関係性に応じて伝え方を調整する
- 感謝の気持ちを忘れず、自分にできることで貢献する姿勢も大切
- 理解されないこともあるが、自分を理解してくれる人との関係を大切にする
- 一人で抱え込まず、複数の相談先を持つことで心の余裕ができる
関わり方を変えるのは簡単ではありません。失敗もあるでしょう。でも、小さな一歩の積み重ねが、必ず生きやすさにつながっていきます。あなたらしい関わり方を、少しずつ見つけていってください。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





