当事者が教える、周囲に伝えるコツ

ご自身の発達障害について、周囲にどう伝えたらいいか悩んでいませんか?
診断を受けても、職場や学校、友人関係で「どこまで話すべきか」「どう話せば理解してもらえるか」という壁にぶつかる方は少なくありません。特に発達障害は外見からは分かりにくいため、誤解を生みやすい側面もあります。
この記事では、当事者として長年、伝えることに向き合ってきた私の経験をもとに、周囲に自分の特性を理解してもらうための具体的なコツや、コミュニケーションのヒントをご紹介します。
話すことへの不安を少しでも和らげ、より生きやすい社会参加へと繋げるためのきっかけとして、ぜひ最後までお読みください。
伝えることの第一歩:なぜ「伝える」必要があるのか
誤解から自分を守るための予防線
発達障害、特にADHD(注意欠陥・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった特性は、一般的には「個性」として捉えられにくい部分があります。
例えば、集中力が続かない、予定外のことにパニックになる、人との距離感がつかめないといった行動は、特性を伝えていなければ「やる気がない」「協調性がない」と誤解されてしまいがちです。
私は以前、特性を伝えていなかった職場で、単純なミスが多いことで「仕事への意欲がない」と上司から評価された経験があります。これは特性による困難であって、意欲の問題ではありませんでした。
この誤解を解き、不当な評価から自分を守るために、「伝える」ことは非常に重要な最初のステップとなります。
「特性を隠していた時、自分の行動一つ一つが周りの人に悪く解釈されている気がして、常に緊張していました。伝えることは、私にとっての『誤解防止のヘルメット』のようなものです。」
— ASD当事者 Aさん(30代)
合理的配慮とサポートを引き出すために
自分の特性をオープンにすることは、周囲からの合理的配慮(ごうりてきはいりょ)や、必要なサポートを引き出すことにも繋がります。
合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように社会生活を送るために、過度な負担にならない範囲で、職場の環境や制度を調整してもらうことです。これは「わがまま」ではなく、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahou/index.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">障害者差別解消法に基づく権利です。
具体的な配慮の例としては、光や音に敏感な場合、座席を窓際から離してもらう、口頭指示が苦手な場合、メールや文書でタスクを伝えてもらうなどがあります。
サポートを受けるためには、まず「何に困っていて、どのようなサポートが必要か」を明確に伝えなければなりません。
✅ 成功のコツ
「伝える」目的は、相手を納得させることではなく、「あなたが生きやすい環境を共に作ってもらうこと」に焦点を当てましょう。
伝える範囲とタイミングの見極め
しかし、誰にでも、どこでも全てを伝える必要はありません。伝えることにはメリットだけでなく、偏見や差別といったリスクも少なからず伴うのが現状です。
そのため、特性を伝える範囲(職場の上司だけ、親しい友人だけなど)とタイミング(入社時、困りごとが発生した時など)は慎重に考える必要があります。
特に職場では、人事・総務部門などの情報を管理する部署にのみ伝えてもらい、現場の同僚には伝えない「クローズド」な働き方を選ぶ方もいます。ご自身の安全と、生活への影響を最優先に考え、柔軟に判断しましょう。
具体的な「伝え方」の技術:特性を理解につなげる3つのステップ
Step 1: 診断名ではなく「困りごと」から入る
「私、発達障害なんです」と唐突に伝えても、「そうなんだ、大変だね」という表面的な反応で終わってしまうことが多いです。なぜなら、多くの人は診断名から具体的なイメージができないからです。
大切なのは、まず「私はこういう行動をします」という事実ベースの困りごとから入ることです。
例えば、ASDの特性で急な予定変更が苦手な場合、「自閉スペクトラム症で、変化が苦手なんです」ではなく、「私は急な予定変更があると、頭が真っ白になって次の行動に移るのに時間がかかってしまう傾向があります」と伝えます。
これにより、相手はあなたの行動と、その背後にある理由を結びつけやすくなります。
- NG例: ADHDなので、ミスが多いかもしれません。
- OK例: 複数のタスクを同時に抱えると、期限や手順の把握でミスをしやすくなります。
- OK例: 重要な指示は、口頭だけでなくメールでいただけると、見返しができるのでミスが減ります。
Step 2: 苦手なことと「できること」をセットで伝える
苦手なことや困っていることばかりを伝えると、相手は「この人は何にもできないのでは?」というネガティブな印象を持ちがちです。ここで重要なのが、「トレードオフ」の関係にある得意なことや、これまでの実績をセットで伝えることです。
これは、あなたの能力全体を正しく評価してもらうために不可欠な作業です。
例えば、ADHDの特性で会議中の集中力が続かない一方、好きなことや興味のあることへの集中力(過集中)は非常に高いというケースもあります。
伝え方としては、「私は〇〇が苦手ですが、その分、〇〇といった強い集中力を活かした作業なら得意です」といったポジティブな切り口を意識しましょう。
| 苦手な特性(困りごと) | 得意なこと・強み |
|---|---|
| 口頭での複雑な指示を理解しにくい | 文書化されたマニュアルの作成や校正 |
| 音や光に敏感で、集中が途切れやすい | データを分析したり、特定の作業に没頭する過集中力 |
| マルチタスクが苦手でミスが増える | 単一タスクの正確性や、徹底した計画性 |
Step 3: 具体的な「支援策」を提案する
「困っています」で終わらず、「こうしてくれると助かります」という具体的な解決策を提案することが、支援を引き出す最も重要なポイントです。
相手に「何をすればいいのか」を明確に示せば、相手も戸惑うことなく行動に移せます。
例えば、聴覚過敏(ちょうかくかびん)で騒音が苦手な場合は、「集中したい時は、ノイズキャンセリングヘッドホンを装着させていただきたいです」と提案します。また、指示の記憶が苦手な場合は、「業務の指示は、チャットツールで送っていただくルールにしていただけると助かります」と具体的に依頼しましょう。
💡 ポイント
提案する支援策は、相手にとって「過度な負担」にならない範囲を意識することが、長期的な良好な関係を築く鍵となります。
伝えるためのツールと準備:言葉を補う方法
自己紹介ツールとしての「特性説明シート」
言葉で説明するのが苦手な方や、緊張して伝えたいことが飛んでしまう方には、自分の特性をまとめた「特性説明シート」(または「マイ・トリセツ」)を作成し、活用することをおすすめします。
これは、自分の困りごと、必要な配慮、得意なことなどを分かりやすく整理した文書やカードのことです。シートにしておけば、何度でも同じ内容を正確に伝えることができます。
作成する際には、診断名だけでなく、具体的な行動と、それに対する対処法を簡潔に書くことが重要です。例えば、「突然話しかけられるとフリーズしやすい → 事前にチャットで一言連絡してもらえると落ち着いて対応できます」のように記載します。
⚠️ 注意
シートの配布範囲は、信頼できる上司や支援者など、本当に必要な人だけに限定しましょう。情報漏洩のリスクを避けるため、慎重に管理することが大切です。
第三者の意見を引用する「診断書」や「専門家の言葉」
言葉だけでは相手に信憑性(しんぴょうせい)が伝わりにくいと感じる場合は、医師の診断書や、公的な支援機関の担当者の言葉を引用することが有効です。
特に職場での合理的配慮を求める場面では、第三者による客観的な根拠が、相手の理解を大きく深めます。
私は職場に特性を伝える際、主治医に書いてもらった「特定の環境下で注意機能に偏りが見られるため、文書による指示とタスクの優先順位付けのサポートが望ましい」という一文を添えました。これにより、ただの「要望」ではなく、「専門家が推奨する支援策」として受け入れられやすくなりました。
もちろん、診断書の提出は義務ではありませんが、重要な交渉の場においては、説得力を高めるための強力なツールとなり得ます。
家族や支援者のサポートを得る
一人で伝えることに不安を感じる場合は、家族や支援者(相談支援専門員など)に同席してもらうことも考えてみましょう。
特に、初めて職場の上司や学校の先生に伝えるような、緊張する場面では、第三者がいることで精神的な安定が得られます。また、第三者がいることで、相手も真剣に話を聞いてくれやすくなる効果もあります。
家族や支援者は、あなたの特性や困りごとを客観的に把握しているため、あなたが言葉に詰まったり、感情的になったりした場合に、冷静な言葉で補足してくれるという大きなメリットがあります。
長期的な関係構築のためのコミュニケーションの心得
変化球ではなく「直球」で表現する
発達障害の特性を持つ人の中には、比喩や皮肉といった曖昧な表現(あいまいなひょうげん)を理解するのが苦手な方がいます。これは、同時に自分自身も遠回しな表現を使ってしまい、相手に真意が伝わらない原因にもなります。
周囲の人に自分の特性を伝えた後も、コミュニケーションでは引き続き「直球で、分かりやすく」表現することを心がけましょう。
例えば、「この仕事はちょっと私には難しいです」と曖昧に伝えるより、「この仕事は、締め切りがタイトすぎて、私の集中力の特性上、納期に間に合わせるのが困難です」と理由まで含めて具体的に伝えた方が、相手も納得しやすくなります。
「私は、いつも『はい』と言ってしまう癖がありましたが、ある時『できないことはできないと、具体的な理由を添えて伝えてくれていいよ』と言われて、とても気が楽になりました。曖昧に濁す方が、結局はお互いにとって不利益だと知りました。」
— ADHD当事者 Bさん(20代)
感謝とフィードバックのサイクルを作る
合理的配慮やサポートをしてもらったら、必ず感謝の気持ちを具体的に伝えましょう。
「指示をメールで送ってくださったおかげで、内容を何度も確認できて、ミスなく完了できました。ありがとうございます」といった具体的な感謝の言葉は、相手の「助けてよかった」という気持ちを強め、継続的な支援につながります。
また、配慮を受けた結果として「どのように改善したか」というフィードバックを伝えることも大切です。
配慮の効果が明確になれば、相手も「この配慮は役に立っている」と実感でき、今後もサポートを続けるモチベーションになります。この感謝とフィードバックのサイクルを回すことが、長期的な信頼関係の土台となります。
理解してもらえなくても「自己肯定感」は保つ
残念ながら、世の中には発達障害に対する理解が追いついていない人もいます。どんなに分かりやすく伝えても、偏見や知識不足から、心ない言葉や態度を取られてしまうこともあるかもしれません。
もし相手に理解してもらえなかったとしても、それはあなたの伝え方が悪かったわけでも、あなたの価値が低いわけでもありません。それは、相手の知識や想像力の限界によるものです。
大切なのは、「自分は伝えるべきことを伝えた」と割り切り、それ以上、自分を責めたり、傷つけたりしないことです。理解できない人には時間と距離を置き、あなたの特性を理解し、尊重してくれる「味方」を探すことにエネルギーを使いましょう。
よくある質問(FAQ):伝えることへの疑問を解消する
伝えるのは「義務」ですか?
Q. 特性を伝えることは、法的な義務ですか?
A. いいえ、特性を伝えることに法的な義務はありません。
伝えるかどうかは、ご自身の判断と選択に委ねられています。ただし、合理的配慮を求める場合や、支援サービスを利用したい場合は、特性や困りごとを伝える必要があります。クローズ(非公開)で働くか、オープン(公開)で働くかを選ぶ自由は、あなたにあります。
「障害者手帳」は必要ですか?
Q. 職場で特性を伝える時、「精神障害者保健福祉手帳」は必要ですか?
A. 必須ではありません。
手帳は、障害者雇用枠での就職や、特定の福祉サービスを利用する際に必要となりますが、特性を説明し、合理的配慮を求めること自体は、手帳の有無に関わらず、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahou/index.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">障害者差別解消法の範囲内で行うことができます。
ただし、手帳がある方が、配慮の必要性を客観的に示しやすいという側面はあります。
どの部署に伝えれば良いですか?
Q. 会社の場合、上司と人事、どちらに伝えるのが良いでしょうか?
A. 理想は、「上司」と「人事」の両方です。
現場での具体的な業務の配慮(タスクの依頼方法など)は上司と、会社としての制度的な配慮や、個人情報の取り扱いについては人事と話をするのが一般的です。会社によっては「産業医」や「保健師」が窓口となっている場合もあります。
伝える前に、社内の相談窓口がどこにあるかを事前に確認しておくとスムーズです。
まとめ
この記事では、発達障害の当事者として、周囲に自分の特性を理解してもらうための「伝えるコツ」をご紹介しました。
「伝える」ことは、あなたの「困り」を解消し、「生きやすさ」を確保するための権利であり、予防線です。
もう一度、大切なポイントを整理しましょう。
- 特性を伝える目的は、誤解から自分を守り、必要な合理的配慮を受けるためです。
- 伝える際は、診断名ではなく「具体的な困りごと」から説明し、できること(強み)とセットで伝えましょう。
- 具体的な「支援策」を提案することで、相手はすぐに行動に移しやすくなります。
- 緊張する場合は、「特性説明シート」を作成したり、家族や支援者に同席してもらうことで不安を軽減できます。
特性を伝える過程は、自分自身のことを深く見つめ直す「自己理解」のプロセスでもあります。焦らず、あなたのペースで、理解してくれる味方を増やしていきましょう。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





