支援者が見た、発達障害の子どもの成長

小さな歩みが未来を創る:支援者の視点から見た発達障害児の「輝き」
「この子の将来はどうなるのだろう」「周りの子と同じように成長できるのだろうか」。日々、発達障害を持つお子さんと向き合うご家族の胸中には、言葉にできないほどの不安や焦燥感があることとお察しします。昨日までできていたことが急にできなくなったり、激しいパニックに親子で涙したりすることもあるでしょう。
私は放課後等デイサービスの支援員として、多くの子どもたちの「成長」を間近で見てきました。私たちの仕事は、単に知識を教えることではなく、子どもたちが持つ本来の輝きを引き出すお手伝いをすることです。この記事では、支援現場でのリアルなエピソードを通じて、発達障害の子どもたちがどのように壁を乗り越え、自分らしく成長していくのか、その感動的な過程をお伝えします。読み終わる頃には、あなたのお子さんの「今」が少し違った景色に見えるはずです。
心を通わせる瞬間の積み重ね:コミュニケーションの変容
支援の現場で最初に直面するのは、言語的なコミュニケーションの壁です。ASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ子どもたちの中には、自分の気持ちを言葉にするのが苦手だったり、相手の意図を汲み取ることが難しかったりする子が少なくありません。しかし、それは「伝えたい気持ちがない」わけではないのです。
私が担当した小学1年生のA君は、入所当初、誰とも目を合わせず、気に入らないことがあると床に突っ伏して泣き叫ぶ毎日でした。私たちは、言葉を無理に強いるのではなく、彼の「好きなもの」を通じて世界を広げるアプローチを続けました。彼が見ている景色、彼が触れている感触に寄り添うことから、すべては始まりました。
「言葉」ではないメッセージを読み解く
A君は、ミニカーを並べることに強いこだわりを持っていました。ある日、私が彼の横で黙って同じようにミニカーを並べていると、彼はチラリとこちらを見て、一番大切にしていた赤いスポーツカーを私の前に差し出しました。それは彼にとって、最大級の「信頼の証」でした。
言葉による会話はありませんでしたが、そこには確かな心の交流がありました。支援者は、こうした微細なサインを見逃さないように努めます。彼らが発する「言葉にならない声」を私たちが翻訳し、受け止めることで、子どもたちは「ここは安全な場所だ」と認識し、少しずつ心を開いてくれるようになります。
成功体験が引き出した「自分からの発信」
それから数ヶ月、A君は視覚支援(イラストカードなど)を使って、自分の要求を伝えられるようになりました。「おやつ」「トイレ」「遊びたい」というカードを指し示すことから始まり、次第に「かして」「ありがとう」という言葉が自然と漏れ出すようになりました。
自分の意思が相手に伝わり、願いが叶うという経験は、彼にとって大きな自信となりました。「伝える楽しさ」を知った子どもは、驚くほど急速に成長します。現在、A君は友達の輪に入り、「僕も混ぜて」と言えるまでになりました。その背中を見るたびに、支援員としての喜びを噛みしめます。
集団の中での「個」の成長
発達障害の子どもにとって、集団生活は刺激が強すぎる場合があります。しかし、適切な環境調整(静かな場所の確保やイヤーマフの活用など)があれば、彼らは集団の中でも自分を保つ方法を学びます。A君も、最初は他の子の騒がしさを嫌がっていましたが、今では「疲れたからあっちで休むね」と自分で判断して申告できるようになりました。
これは立派な「セルフマネジメント(自己管理)」の成長です。相手に合わせるだけでなく、自分の不快感を適切に伝え、環境を調整する。このスキルこそが、将来社会に出たときに自分を守る武器になります。集団の中での葛藤は、彼らを強く、優しく育ててくれる大切なプロセスなのです。
💡 ポイント
コミュニケーションの成長は、言葉の数だけでは測れません。「相手を信頼し、自分を表現しようとする意欲」そのものを大切に見守りましょう。
「こだわり」を「強み」に変える:個性の開花と専門性
発達障害、特にアスペルガー症候群や特定のこだわりを持つ子どもたちは、一つのことに対する集中力が凄まじいものがあります。一般的には「こだわりが強くて困る」と思われがちですが、支援の視点では、それは将来の「類まれなる才能」の原石に見えます。私たちは、そのエネルギーを否定せず、肯定的な方向に導くことを重視しています。
文部科学省の調査(2022年)によると、通常学級に在籍する小中学生の約8.8%に発達障害の可能性があるとされています。それだけ多くの子どもたちが、独自の感性を持って学校生活を送っています。彼らの「尖った個性」を社会の型にはめるのではなく、その個性が輝く場所を一緒に探すのが、支援者の役割です。
鉄道博士が教えてくれた「学びの深さ」
中学2年生のB君は、鉄道のことなら時刻表から車両の構造まで完璧に暗記している「鉄道博士」でした。しかし、学校の勉強には全く興味を示さず、成績は芳しくありませんでした。私たちは、彼の鉄道への情熱をきっかけに、地理や物理の学習に繋げるプログラムを組みました。
路線の名前から日本の地形を学び、車両の加速性能から物理の計算を行う。B君は目を輝かせて取り組み、結果として学校のテストでも点数が上がり始めました。「好きなこと」は学びの最強のエンジンです。彼に備わっている「特定の分野を深掘りする力」は、研究職や専門技術職において非常に高い適性を示す可能性を秘めています。
絵画を通じた情緒の安定と自己表現
感情の起伏が激しく、パニックになりやすかったCちゃんは、絵を描いている時だけは驚くほど穏やかでした。彼女が描く色鮮やかな世界は、言葉では表現できない複雑な内面を映し出していました。私たちは彼女の作品をデイサービスの廊下に展示し、多くの人に感想を書いてもらうようにしました。
「綺麗だね」「元気が出るよ」という他者からの称賛は、彼女のボロボロだった自己肯定感を修復していきました。「自分には価値がある」と実感できたことで、日常生活でのパニックも劇的に減少しました。こだわりを表現の手段に変えることで、彼女は自分自身を救う術を手に入れたのです。
デジタルの活用で広がる可能性
最近では、プログラミングや動画編集に夢中になる子どもたちも増えています。ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つD君は、じっとしているのが苦手でしたが、画面の中の世界を作るプログラミングには数時間も集中できました。これは「過集中(かしゅうちゅう)」という特性の良い側面です。
2026年現在、ITスキルは社会で不可欠なものとなっています。D君のような子どもたちが、自分の「好き」を突き詰めた結果、プロ顔負けのスキルを身につける姿を何度も見てきました。「できないこと」を訓練するより、「できること」を爆発させる。この戦略こそが、発達障害の子どもたちが自信を持って未来を切り拓く近道になります。
✅ 成功のコツ
「こだわり」は、その子のアイデンティティの一部です。制限するのではなく、ルールを決めて「存分に楽しめる時間」を保障してあげましょう。
「できない」が「できた!」に変わる瞬間:ADHD児の挑戦
ADHDの特性を持つ子どもたちは、衝動性や不注意から、日常生活で多くの「失敗」を経験しがちです。学校で先生に叱られ、家でも親に怒られ、自信を失ってしまうサイクル。支援現場で私たちが最も注力するのは、この「負のループ」を断ち切り、成功体験を積み重ねることです。小さなハードルを一つずつ越えていく姿には、いつも勇気をもらいます。
彼らの成長は、ある日突然訪れるわけではありません。毎日の失敗の中で、彼らなりに「どうすればうまくいくか」を必死に考えています。その試行錯誤のプロセスに光を当て、共に歩むことが支援の本質です。ここでは、多動で片時も目が離せなかった子どもたちが、落ち着きと計画性を身につけていく過程をご紹介します。
タイマーがもたらした「終わりの見通し」
じっとしていられないE君にとって、宿題の時間は苦行でしかありませんでした。私たちは「30分頑張りなさい」と言うのをやめ、「キッチンタイマーを5分にセットし、その間だけ集中する」というルールを作りました。5分が終われば、1分間の全力ジャンプタイム(エネルギー発散)を挟みます。
「終わりが見える」ことは、ADHDの子どもにとって最大の安心材料です。E君は「5分ならできる」という実感を持ち始め、徐々に集中時間を伸ばしていくことができました。今では自分でタイマーをセットし、「今日は10分コースでやる」と宣言するようになりました。自分の特性を理解し、道具を使ってコントロールする。これは一生モノのスキルです。
「整理整頓」をゲーム感覚で攻略
忘れ物が多く、カバンの中がいつもプリントの山だったF君。私たちは彼と一緒に「カバン整理ゲーム」を開発しました。必要なものを色分けしたファイルに入れるたびにポイントが貯まり、週末に大好きなゲームの時間が増えるという仕組みです。最初は嫌々でしたが、整理のコツを掴むと彼は驚くほど几帳面になりました。
「仕組み化」と「報酬」を組み合わせることで、苦手な作業もモチベーションを持って取り組めます。彼らは「やりたくない」のではなく「どうすればいいか分からない」だけなのです。具体的な手順を細分化し、クリアする喜びを共有することで、不注意によるミスを自分の工夫でカバーできるようになっていきました。
感情のブレーキを育てる練習
順番を待てずに割り込んでしまったり、カッとなって手が出てしまったり。衝動性のコントロールは非常に難しい課題です。支援現場では「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」を通じて、具体的な場面での振る舞いを練習します。「今はストップだよ」「ゆっくり深呼吸してみよう」と、声をかけ続けます。
ある日、E君が列に並んでいるときに後ろから押されました。以前の彼ならすぐに殴り返していましたが、その時はぐっと拳を握り、私の方を向いて「今、すごく怒ってる。深呼吸していい?」と言ったのです。彼の中で「感情のブレーキ」が作動した瞬間でした。私たちはその場で彼を抱きしめ、その素晴らしい成長を称えました。
⚠️ 注意
ADHDの子どもにとって「静かにしなさい」は非常に高いハードルです。動いても良い時間や場所をあらかじめ用意し、エネルギーの出口を作ってあげることが大切です。
家族と支援者の「二人三脚」:信頼関係の構築
子どもの成長を語る上で欠かせないのが、ご家族との連携です。支援施設での様子と家庭での様子は、時に驚くほど異なります。私たちは、ご家族が抱える「孤独感」や「疲弊」を分かち合い、共に子どもを支えるチームでありたいと考えています。支援者が親御さんの努力を認め、親御さんが支援者の専門性を信頼する。この良好な関係が子どもの成長を加速させます。
厚生労働省の統計によれば、放課後等デイサービスの利用者数は年々増加しており、2021年度には約27万人に達しています。多くのご家族が、プロの支援を必要としています。私たちは単なる「預かり場所」ではなく、家族のライフラインとして、情報共有と心のサポートを徹底しています。親御さんの笑顔が増えることが、子どもの一番の薬になるからです。
「連絡帳」が繋ぐ希望の架け橋
毎日の連絡帳には、できるだけポジティブな変化を書くようにしています。「今日は友達に自分から挨拶できました」「嫌いな野菜を一口だけ頑張って食べました」。ご家族にとっては当たり前に見えることでも、支援者の目から見た「小さな奇跡」を共有することで、親御さんの視点も前向きに変わっていきます。
あるお母様は、「先生が書いてくれる良いニュースが、私の明日の活力になります」と言ってくださいました。家では叱ってばかりで落ち込んでいた親御さんが、連絡帳を通じてわが子の良さを再発見する。家庭内の空気が明るくなることで、子どもはさらにリラックスし、成長の芽を伸ばす。この好循環を作ることが、私たちの隠れた使命です。
レスパイト(休息)支援の重要性
障害児育児は24時間365日の緊張を伴います。支援施設に預けている時間、親御さんには「自分のための時間」を過ごしてほしいと伝えています。美容院に行ったり、ゆっくりコーヒーを飲んだり。親が心身ともに健康でなければ、子どもに優しく接することはできません。「親が休むことは、子どものためでもある」のです。
「今日は預けて申し訳ない」という罪悪感を持たないでください。私たちはプロとして、お子さんと向き合う時間を楽しんでいます。親御さんがリフレッシュして笑顔でお迎えに来る。その瞬間、お子さんは最大の安心感を得ます。支援者は、ご家族の肩の荷を一緒に背負うパートナーであることを忘れないでください。
将来の自立に向けた「共通のゴール」
年に数回行われる個別支援計画の会議では、5年後、10年後の姿を見据えた話し合いをします。「身の回りのことができるようになる」「自分の強みを活かして働く」。具体的なゴールを共有することで、今やるべきことが明確になります。ご家族と支援者が同じ方向を向いていると、子どもも迷わずに進めます。
ある高校生の卒業式で、お父様が「最初は絶望しかありませんでしたが、皆さんと一緒に歩んだ10年で、息子はこんなに立派になりました」と涙ながらに仰いました。その言葉は、私たち支援員にとっても最高の勲章です。「独りではない」という感覚が、困難を乗り越える原動力になります。これからも、ご家族と二人三脚で歩み続けます。
よくある質問(FAQ):支援の現場からお答えします
発達障害のお子さんを持つご家族から、支援現場によく寄せられる質問をまとめました。
| 質問内容 | 支援員からのアドバイス |
|---|---|
| 療育に通えば、いつか「普通」になれますか? | 「普通」を目指すのではなく、その子の「強み」を活かして、社会の中で幸せに暮らせる方法を探しましょう。療育は、そのための道具や技術を身につける場所です。 |
| 薬物療法(投薬)についてどう思われますか? | お薬は「性格を変えるもの」ではなく、脳内の不快感や衝動性を和らげる「眼鏡」のようなものです。生活に支障がある場合は、医師と相談し、選択肢の一つとして検討する価値があります。 |
| 家ではパニックになるのに、デイでは良い子なのはなぜ? | 外で気を張って頑張っている証拠です。家は一番安心できる場所だからこそ、本音(不満や疲れ)が出せるのです。頑張りを褒めてあげてください。 |
| 二次障害が心配です。何に気をつければ良いですか? | 「叱る回数を減らし、褒める回数を増やす」ことに尽きます。失敗を叱るより、小さな成功を見つけて「見ているよ」と伝えることが、心の防波堤になります。 |
まとめ:凸凹な道でも、その先には光がある
支援者として多くの子どもたちを見てきて確信していることがあります。それは、「どの子も、その子なりのペースで必ず成長する」ということです。定型発達の子どもたちが登る階段とは違う、スロープだったり、時には寄り道だらけの道だったりするかもしれません。しかし、その過程で彼らが獲得する「優しさ」や「独自の視点」は、社会にとってかけがえのない宝物になります。
今、目の前のお子さんの行動に悩み、未来が見えなくなっているかもしれません。でも、忘れないでください。あなたの愛と、支援者の専門的なサポートがあれば、お子さんは必ず自分の足で立つ力を身につけます。私たちは、その歩みを決して見捨てません。不器用で、まっすぐで、一生懸命な子どもたちの「輝き」を、これからも一緒に信じ続けていきましょう。
次にとるべきアクション
お子さんの成長をサポートするために、今日からできる一歩をご紹介します。
- 「できたこと」を一つだけ、メモに残す: どんなに些細なことでも構いません。1週間後、それは素晴らしい「成長の記録」になっています。
- 支援員や先生に、家での「困りごと」を正直に話す: 悩みを外に出すことで、新しい解決策やサポートの輪が広がります。
- 今夜、お子さんの寝顔を見ながら「生まれてきてくれてありがとう」と心で唱える: その無条件の肯定が、あなたの心のバリアを溶かしてくれます。
一歩一歩、ゆっくりで大丈夫です。私たち支援者は、いつもあなたのそばにいます。
まとめ
- 子どもの「言葉にならないサイン」を読み解き、信頼関係を築くことが、コミュニケーション能力向上の土台となる。
- 「こだわり」を排除するのではなく、興味を学習や自己表現に繋げることで、個性が唯一無二の「強み」へと変わる。
- ご家族と支援者が情報を共有し、チームとして歩むことが、親の休息と子どもの健やかな成長の両立を可能にする。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





