「どう支えていいかわからない」から始まった私の試行錯誤

正解のない問いと向き合う——「どう支えていいかわからない」から始まった私の10年
大切な家族や目の前の利用者に障害があると分かった時、私たちは真っ先に「力になりたい」と願います。しかし、その願いとは裏腹に、現実は「何を言っても怒らせてしまう」「良かれと思ったことが裏目に出る」といった困難の連続ではないでしょうか。私もかつて、支援の正解を探し求めて迷走し、疲れ果てていた一人でした。
当時は自分の不甲斐なさを責めてばかりいましたが、数えきれないほどの試行錯誤を経て気づいたことがあります。それは、「わからない」と認めることこそが、真の支援の第一歩であるということです。この記事では、私が暗闇の中で見つけた具体的な関わり方のヒントや、専門機関との連携、そして何より大切な「心の持ち方」を詳しくお伝えします。今の戸惑いが、いつか確かな信頼関係に変わることを信じて、私たちの歩みを共有させてください。
初期の葛藤:良かれと思った「正論」の失敗
知識で武装しようとした焦り
障害や難病の診断を受けた直後、私はとにかく「正解」を知りたくて、専門書やインターネットの情報を読み漁りました。「知的障害には視覚支援が必要」「パニックにはこう対処すべき」といった理論を頭に詰め込み、それをそのまま当てはめようとしたのです。しかし、目の前の本人は、教科書通りの反応を見せてはくれませんでした。
知識を持つことは大切ですが、当時の私は知識を「相手をコントロールするための武器」にしていました。「こうすれば良くなるはずだ」という私の期待が、本人にとっては無言の圧力になっていたのです。知識が先行しすぎて、本人の表情や声のトーンといった「今、ここにある真実」を見落としていたことが、最初の大きな失敗でした。
「よかれ」という名の押し付け
「この子の将来のために、今これをさせなければならない」という思い込みは、私をどんどん頑なにさせました。食事の仕方を無理に矯正しようとしたり、嫌がるリハビリを無理強いしたり。本人が泣いて拒絶しても、「これが愛だ」と自分に言い聞かせていたのです。しかし、その結果、私たちの間には深い溝ができてしまいました。
本人は私の顔を見るだけで怯えるようになり、私は私で「こんなに尽くしているのに、なぜ伝わらないのか」と被害妄想に陥りました。愛しているはずなのに、関係性が壊れていく。この時期は本当に辛い毎日でした。支援において最も危険なのは、支援者側の自己満足が、本人の意思を塗りつぶしてしまうことなのだと痛感しました。
⚠️ 注意
「本人のため」という言葉が、自分の不安を解消するための口実になっていないか、常に自問自答する必要があります。支援の主体はあくまで本人であり、私たちは脇役なのです。
挫折から見えた「沈黙」の意味
万策尽きて、私が何も言わずにただ隣に座るようになった時、変化が訪れました。何時間も無言で過ごす中で、本人がふと私の方を見て、小さく笑ったのです。それまでの私は、沈黙を「無駄な時間」や「気まずいもの」として恐れ、常に何かを教えよう、動かそうと必死でした。
しかし、本人にとって必要だったのは、指導者ではなく「ありのままの自分を許してくれる同伴者」だったのです。「どう支えていいかわからない」という絶望が、余計な力を抜かせ、結果として本人の安心感を生むことになりました。正解を探すのをやめた時、ようやく本当のコミュニケーションが始まったような気がします。
視点を変える:課題ではなく「ストレングス」を見る
できないこと探しをやめる決意
初期の私は、個別支援計画や診断書に書かれた「できないことリスト」ばかりに注目していました。「言葉が出ない」「じっと座っていられない」といった欠損を埋めることが、支援の目的だと思っていたのです。しかし、マイナスをゼロにする作業は、本人にとっても支援者にとっても苦痛でしかありません。
そこで私は、あえて「できていること」「好きなこと」だけを数えるようにしました。どんなに些細なことでも構いません。「美味しそうに食べる」「特定の音に反応する」「窓の外を眺める」。これらを「ストレングス(強み)」として捉え直した時、目の前の景色がセピア色から鮮やかな色彩へと変わっていきました。
興味の対象を支援の入り口にする
例えば、電車が大好きで、駅のポスターをずっと眺めている特性があるとします。かつての私は「いつまでも見ていないで次に行くよ」と手を引いていました。しかし、試行錯誤の結果、そのポスターの色使いや配置に本人が惹かれていることに気づきました。それを機に、家でも色鮮やかなカードを使ったコミュニケーションを取り入れることにしたのです。
本人のこだわりや興味は、決して「困った行動」ではありません。それは、本人が世界と繋がろうとしている大切なチャンネルなのです。そのチャンネルに私たち支援者がお邪魔させてもらう、という姿勢。本人の世界を壊すのではなく、本人の世界の中に支援の種をまいていく。この発想の転換が、私たちの関係を劇的に改善させました。
💡 ポイント
ストレングス・モデルという考え方では、障害があることよりも、その人が持つ能力や周囲の資源(助けてくれる人や環境)に焦点を当てます。欠点克服よりも、得意なことを伸ばす方が、圧倒的に自己肯定感が高まります。
小さな「できた」を共有する喜び
大きな目標(例えば「一人で着替える」)を達成するのは時間がかかりますが、それを100のステップに分ければ、毎日何かが「できた」と言えます。「袖に手を通そうとした」「ボタンに触れた」。この小さな成功を、支援者が大げさなくらいに喜び、本人に伝えることが大切です。
この積み重ねは、本人の自信になるだけでなく、支援者自身の心の健康にも繋がります。「今日も何も変わらなかった」と思うのと、「今日はこれができた」と思うのでは、明日へのエネルギーが全く違います。支援の成果を細分化すること。これは、終わりのない試行錯誤を続けるための、必須のスキルだと言えるでしょう。
チーム支援:一人で抱え込まない仕組み作り
専門機関との「対等な」連携
私は長い間、「家族なのだから、自分が一番理解していなければならない」と一人で背負い込んでいました。しかし、煮詰まった時に相談した相談支援専門員やケアマネジャーの方々は、私とは全く異なる視点を持っていました。自分一人で抱えるのは、本人の可能性を狭めることでもあると気づかされたのです。
医療、教育、福祉。それぞれの専門家と情報を共有する際、私が心がけたのは「お任せします」ではなく、「一緒に考えましょう」という姿勢です。家庭での様子、施設での様子。それぞれのピースを持ち寄ることで、本人の立体的な姿が浮かび上がります。支援は、孤独な闘いではなく、多職種による「チーム戦」なのです。
| 連携先 | 役割・得られるサポート | 活用のタイミング |
|---|---|---|
| 相談支援事業所 | 個別支援計画の作成、サービスの調整 | 生活全体を見直したいとき |
| 放課後等デイサービス | 集団の中での社会性、個別の療育 | 放課後の居場所やスキルアップが必要なとき |
| 訪問看護・訪問介護 | 医療的ケア、日常生活の直接的介助 | 自宅でのケアが限界に近付いたとき |
| 地域基幹支援センター | 総合的な権利擁護、複雑な悩み相談 | どこに相談すればいいか迷ったとき |
ピアサポート(仲間)の存在に救われる
専門家のアドバイスも貴重ですが、同じ障害や難病を持つ家族の言葉には、何物にも代えがたい重みがありました。「親の会」やSNSのコミュニティで、「うちもそうだったよ」「そんなに頑張らなくていいよ」と言ってもらえた時、どれほど肩の荷が下りたかわかりません。
孤独は、支援者の視野を狭くし、判断を鈍らせます。同じ境遇の仲間と「弱音」を吐き出せる場所を持つこと。これは単なる気休めではなく、良質な支援を続けるための「リスク管理」でもあります。自分の苦しみを言語化し、誰かに共感してもらうことで、再び本人の前に立つための心の余裕が生まれるのです。
レスパイト(休息)を罪悪感なく利用する
「自分が休むために子供を預けるなんて」という罪悪感が、私を長く苦しめました。しかし、ある時看護師さんに言われました。「お母さんは24時間365日の稼働を前提に作られていないんですよ。あなたが倒れることが、お子さんにとって最大のリスクです」。この言葉で、考えが変わりました。
ショートステイや日中一時支援などのレスパイト(息抜き)サービスを利用することは、本人のためでもあります。本人にとっても、親以外の他者と関わり、家庭以外の場所を経験することは、大切な社会参加の一歩です。「親の笑顔が、子供にとって最大の療育」という言葉を信じ、私たちは計画的に「離れる時間」を持つようにしました。
✅ 成功のコツ
レスパイトサービスを利用する際は、本人の好きな食べ物やおもちゃ、安心するタオルのような「移行対象」を持たせると、場所が変わることへの不安を和らげることができます。
環境調整:本人を変えるのではなく環境を変える
物理的な環境を整える工夫
「どうしてパニックになるのか」と本人を責める前に、周りの環境を疑ってみることにしました。例えば、特定の蛍光灯のチカチカした光が苦手ではないか、外から聞こえるバイクの音が苦痛ではないか。知的障害や発達障害がある場合、感覚過敏が行動の背景にあることが非常に多いのです。
耳栓やイヤーマフを導入する、パーテーションで視界を遮る、刺激の強いポスターを剥がす。本人の努力に頼るのではなく、こちら側が環境を整える。この「合理的配慮」の視点を持ったことで、本人のパニックは劇的に減りました。「本人の問題」だと思っていたことが、実は「環境の不適合」だったという気づきは、私の最大の試行錯誤の成果です。
コミュニケーションの道具をカスタマイズする
言葉での指示が難しいなら、写真やイラストを使った「絵カード」を多用しました。手順を一つずつカードで見せることで、本人は「次に何が起こるか」を予測できるようになり、安心感が生まれました。スケジュール管理も、アナログのホワイトボードを使い、終わった項目を本人が「剥がす」という動作を加えました。
この「見える化」は、支援者である私にとっても大きな助けとなりました。いちいち声を荒らげて説明する必要がなくなり、お互いに落ち着いてコミュニケーションができるようになったのです。本人の特性に合わせた「翻訳機」を一緒に作る作業。それは、言葉を超えた信頼の証でもありました。現在の2026年においても、こうしたアナログとデジタルの融合による支援は、最も効果的な手法の一つとして推奨されています。
ルーチン(習慣)を味方につける
障害のある方にとって、変化は大きなストレスになります。私たちは毎日の生活を可能な限りパターン化しました。「朝起きたらこれをやる」「火曜日はここに行く」。この予測可能性が、本人の心の安定に直結します。試行錯誤の結果、ルーチンが確立されると、驚くほど平穏な日々が続くようになりました。
もちろん、どうしても避けられない急な変更もあります。その場合は、「今日はこれがお休みになって、代わりにこれをするよ」と事前に予告カードを使って丁寧に伝えるようにしました。「変化への予行演習」を繰り返すことで、本人の適応能力も少しずつ育っていきました。ルーチンは縛るものではなく、本人が自由に動き回るための「安全な土俵」なのです。
本人の意思決定を支える:自己決定の尊厳
「どっちがいい?」という小さな選択
重度の障害や知的障害があっても、本人の中に「好み」や「願い」は必ず存在します。私は初期の頃、何でも良かれと思って決めていましたが、それは本人の「選ぶ権利」を奪っていたことに他なりませんでした。今は、どんな些細なことでも、二つの選択肢を提示して選んでもらうようにしています。
「赤い服と青い服、どっち?」「リンゴとバナナ、どっち?」。たとえ指差しであっても、自分の意志で何かを決定したとき、本人の表情は誇らしげに見えます。この「選べた」という経験が積み重なることで、本人の意思表示はどんどん明確になっていきました。支援とは、答えを教えることではなく、選択の場を用意することなのだと感じています。
「待つ」という究極の忍耐
本人が何かを選ぼうとしている時、私はつい「こっちでしょ?」と誘導したり、待ちきれずに決めてしまったりしていました。しかし、それでは本人の思考を止めてしまいます。時計の針が一周回っても、じっと待つ。本人の脳内で情報の整理が行われ、決断が下されるまで、呼吸を整えて待つ。
この「待つ」という行為は、支援者にとって最もエネルギーを必要とする仕事です。しかし、本人がようやく自分で決めた時の輝きを目にすれば、その忍耐がどれほど価値のあるものか分かります。「待ってもらえる安心感」が、本人の可能性を最大限に引き出します。私たちの焦りは、本人の成長を阻害する最大の要因になりかねないのです。
「支援者は、本人の前を歩いて引っ張るのではなく、本人の後ろを歩いて背中を押すのでもなく、本人の隣を、本人の歩幅で歩く者であるべきだ。」
— 著名な障害福祉研究者の言葉
失敗する権利も尊重する
安全を確保した上でですが、あえて本人の選択による「失敗」を見守ることも、試行錯誤の結果たどり着いた境地です。危ないから、失敗するからと全てを先回りして防いでしまうと、本人は「失敗から学ぶ機会」を失ってしまいます。「あ、これはうまくいかないんだな」と本人が体感すること。それも立派な学習です。
失敗した時に、「だから言ったじゃない」と責めるのではなく、「残念だったね。次はどうしようか」と一緒に考える。失敗を共有できる関係性こそが、真の信頼関係を築きます。完璧な成功ルートを歩ませることよりも、失敗しても大丈夫だと思える安心感を育てること。それが、自立への近道でした。
よくある質問(FAQ)
Q. 「わからない」と認めてしまったら、支援者としての権威や信頼がなくなる気がします。
むしろ逆です。支援者が「私は全知全能ではない」という謙虚な姿勢を見せることで、本人はリラックスし、専門家や仲間も力を貸しやすくなります。障害の特性は千差万別で、当事者本人にしかわからないことがたくさんあります。「わからないから教えてほしい」という姿勢こそが、本人の尊厳を守り、深い信頼関係を築く鍵となります。
Q. 具体的に何をしても怒り出す時期があり、もう限界です。どうすれば?
それは、支援の手法が間違っているのではなく、単に「今はそういう時期」なのかもしれません。成長ホルモンのバランスや、季節の変わり目の気圧変化、あるいは本人の中で処理しきれない感情がある場合など、理由は様々です。そんな時は、改善しようと躍起になるのをやめ、「安全確保」と「現状維持」だけに集中しましょう。嵐が過ぎ去るのを待つ勇気も、大切な支援技術の一つです。
Q. 兄弟児への影響が心配で、どうしても障害のある子を優先してしまいます。
これは多くの家族が抱える悩みです。試行錯誤の中で私たちが始めたのは、「1日15分だけ、兄弟児と二人きりの時間を作る」という工夫です。短い時間でも、スマホを置いて、完全にその子だけに向き合う時間。それがあれば、子供は自分が愛されていると実感でき、障害のある兄弟への理解も深まりやすくなります。「平等」ではなく「それぞれの必要に応じる」という考え方が、家族のバランスを保つコツです。
まとめ
「どう支えていいかわからない」という戸惑いは、あなたが誠実に目の前の本人と向き合っている証拠です。正解を求めて迷走した日々も、涙を流した夜も、そのすべてが今のあなたを、そして本人を支える血肉となっています。
- 本人のペースを尊重する:知識で縛らず、沈黙や待ち時間を大切にしましょう。
- 強み(ストレングス)に光を当てる:できないことを数えるより、好きなことを支援の入り口にしましょう。
- 一人で背負わないチーム作り:専門家や仲間と繋がり、レスパイトを有効に活用しましょう。
今日、この瞬間にできる小さなアクションとして、まずは深呼吸をして、本人の「良いところ」を一つだけメモしてみませんか。その小さな発見が、次の試行錯誤の羅針盤になります。あなたは決して一人ではありません。これからも、ゆっくりと、しかし確かに、共に歩んでいきましょう。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





