初めて参加した地域イベントで得られた小さな自信

「地域イベント」と聞くと、賑やかで楽しい反面、「自分が行っても大丈夫だろうか」「知らない人に話しかけられたらどうしよう」といった不安を感じる方もいるかもしれません。特に、障害のある方や、社会的な交流からしばらく遠ざかっていた方にとって、一歩踏み出して地域活動に参加することは、大きな勇気が必要なことです。
しかし、地域イベントは、特別な支援サービスとは異なり、誰もが「一人の住民」として、自然な形で社会と繋がれる貴重な機会を提供してくれます。その経験は、単なる楽しみで終わるのではなく、小さな成功体験となって、自己肯定感や、地域で暮らす自信へと繋がっていきます。
この記事では、長年ひきこもり状態にあった方が、地域のバザーに「販売員」として参加した体験談を中心に、地域イベントへの参加が、いかに個人の「小さな自信」を育むかについて、そのプロセスを詳しく解説します。
このストーリーが、地域との繋がりを求めている方々にとって、最初の一歩を踏み出すための背中を押す力となること、そして、支援者や地域住民の方々にとって、イベントが持つ「福祉的な価値」を再認識するきっかけとなることを願っています。
地域イベント参加への道のり:ひきこもりからの第一歩
主人公の佐藤さん(仮名・30代・精神障害)は、対人恐怖症と診断され、高校卒業後から約10年間、ほとんど自宅から出ない生活を送っていました。病院の通院と、地域の基幹相談支援センターへの相談が、唯一の社会との接点でした。
「作業所」から「地域イベント」へ
佐藤さんは、就労移行支援事業所や地域活動支援センターなどの福祉サービスを利用することも検討しましたが、「知らない人と毎日会うのは怖い」という強い抵抗感がありました。そこで、担当の相談支援専門員は、「週に一度、地域のバザーで、自分の趣味で制作した手芸品を売ってみませんか」と提案しました。
この提案が、佐藤さんの心を動かした理由は、以下の2点でした。
- 自分のペース:常設の作業所とは違い、イベントは年に数回。事前に体調を整える時間があり、「だめだったら休んでもいい」という選択肢があったこと。
- 「利用者」ではない立場:お客さんと対面する「販売員」という役割は、福祉サービスの「利用者」ではなく、「地域社会の一員」としての立場を与えてくれると感じたこと。
準備期間として3ヶ月間、佐藤さんは自宅でひたすら、小さなビーズアクセサリーやフェルトのマスコットを作り続けました。この作業は、目標達成に向けた集中的な訓練となり、生活リズムの安定にも繋がりました。
支援センターの「裏側」のサポート
イベント当日、佐藤さんは、相談支援専門員と、地域のボランティア団体のスタッフに付き添われて会場へ向かいました。佐藤さんの不安を和らげるために、支援センターは、以下の「裏側のサポート」を徹底しました。
- 環境の調整:人通りが多すぎない、会場の隅のブースを事前に確保。
- 役割の明確化:佐藤さんは「接客と商品の陳列」のみを担当し、金銭のやり取りはボランティアスタッフが行うことを決定。
- 逃げ道の確保:ブースのすぐ裏に、いつでも休憩できる静かなスペースを用意。
これらの合理的配慮により、佐藤さんは「もしもの時は助けてもらえる」という安心感を持って、販売ブースに立つことができました。
イベントで生まれた3つの「小さな自信」
イベントの当日は、佐藤さんにとって、不安と緊張の連続でしたが、そこから得られたものは、長年自宅に引きこもっていた佐藤さんの心を大きく揺り動かしました。
自信1:初めて対価を得た「承認欲求の充足」
イベント開始から30分後、小学生の女の子が、佐藤さんが作ったウサギのフェルトマスコットを見て、「これ、可愛い!」と手に取りました。女の子の母親が代金を支払い、マスコットを買ってくれました。
「その瞬間、頭が真っ白になりました。100円という金額以上の、自分の存在を社会に認めてもらえたような感覚でした。今まで、誰にも必要とされていないと思っていたものが、初めて誰かの手元に渡り、喜んでもらえた。あの時の喜びは、何物にも代えがたいです。」
— 佐藤さんの体験談
「誰かの役に立てた」「自分の作ったものにお金を出してもらえた」という体験は、ひきこもり状態にあった佐藤さんの承認欲求を深く満たし、自己肯定感の回復に決定的な影響を与えました。これは、福祉サービスにおける訓練ではなかなか得られない、地域社会ならではのリアリティのある経験でした。
自信2:「ありがとう」と「笑顔」の交換
イベントの終了までに、佐藤さんのブースでは合計15個のアクセサリーが売れました。商品が売れるたびに、お客さんから「可愛いね、ありがとう」「頑張ってね」という温かい言葉をかけられました。
佐藤さんは、緊張でうまく話せませんでしたが、商品を手渡す際には、精一杯の笑顔で「ありがとうございました」と伝えることができました。この「笑顔と感謝の交換」が、佐藤さんの対人恐怖症を少しずつ和らげていきました。
地域イベントの場は、「機能的な交流(お金のやり取り)」の中に、「情緒的な交流(笑顔と感謝)」が自然に溶け込んでいる場です。この温かい交流を通じて、佐藤さんは「人との関わりは怖いものばかりではない」という、新しい感覚を掴むことができました。
自信3:「休んでも大丈夫」という安心感
イベント開始から2時間が経過した頃、人混みの喧騒と疲れから、佐藤さんは強い不安を感じ始めました。事前に用意されていた休憩スペースに行き、15分ほど休みました。担当の支援員は、そっと見守り、飲み物を渡してくれただけで、何も聞かずにいてくれました。
この休憩を挟んだことで、佐藤さんは落ち着きを取り戻し、その後も最後までブースに立つことができました。
「途中で休めたことが、何よりも大きな自信になりました。『もし疲れても、逃げられる場所がある』という安全基地の存在が、私に最後までやり遂げる力を持たせてくれました。もしこれが企業の面接だったら、途中で体調を崩したら、もう終わりだと感じていたでしょう。」
— 佐藤さんの体験談
この経験は、自分の体調を優先しながらも、目標を達成できたという、現実的な成功体験となりました。これは、今後の就労活動において、「体調の波があっても働ける」という大きな自信へと繋がるでしょう。
⚠️ 支援者へのメッセージ
不安を抱える利用者にとって、「休憩や離脱が許容される安全な場」の確保は、最高の合理的配慮です。支援者は、イベント主催者と連携し、物理的な「逃げ道」を確保することを忘れないでください。
地域イベントを「小さな自信」の場にするための提言
佐藤さんの体験から、地域イベントが、障害のある方の自己肯定感を育むための重要な資源であることがわかります。イベントをさらに有効活用するための提言をまとめます。
提言1:イベントを「福祉」の枠外で位置づける
地域イベントの本来の目的は「祭り」や「交流」であり、「福祉」ではありません。ここに、当事者が参加することの価値があります。
- イベント主催者へ:障害のある参加者を、特別な「支援の対象」としてではなく、「出展者」「ボランティア」「一人の来場者」として受け入れる意識を持つこと。
- 支援者へ:イベントへの参加を、リハビリではなく「地域活動」として位置づけ、当事者の役割や貢献度に焦点を当てて支援すること。
「福祉の枠」から外れることで、当事者は「社会の一員として認められた」という、より大きな自信を得ることができます。
提言2:「貢献する役割」を意図的に創出する
ただ参加するだけでなく、何らかの役割(貢献)を持つことが、自己肯定感を高める鍵です。イベント主催者や支援センターは、当事者ができる「小さな役割」を意図的に創出しましょう。
- 簡単な役割の例:ゴミの分別指示、椅子の並べ替え、ポスター貼り、参加者への簡単な案内役など。
佐藤さんが「販売員」として活躍したように、「自分の活動が誰かの役に立っている」という実感が、当事者の自信を揺るぎないものにします。
提言3:地域の支援者ネットワークを強化する
イベント主催者(自治会、NPOなど)と、福祉の専門家(相談支援専門員、作業所職員など)が、緊密に連携することが不可欠です。
- イベント開催前に、主催者が支援センターに対し、「参加希望者がいる場合の必要な配慮」について相談できる体制を構築する。
- イベント後、支援センターが主催者に対し、当事者の活動の成果や貢献度をフィードバックし、主催者の理解を深める。
この連携が、佐藤さんの事例で成功したような、「安全な逃げ道の確保」といった具体的な合理的配慮の実現を可能にします。
まとめ
この記事では、地域イベントへの参加が、長年ひきこもり状態にあった方の「小さな自信」に繋がったストーリーをご紹介しました。
- 地域イベントは、自分のペースで参加できること、そして「利用者」ではなく「貢献する役割」を持てるという点で、福祉サービスにはない大きな価値を持ちます。
- 佐藤さんは、初めて対価を得た承認欲求の充足、笑顔と感謝の交換、そして「休んでも大丈夫」という安全基地の確保から、揺るぎない自信を獲得しました。
- イベントを「自信の場」にするためには、支援者が裏側で合理的配慮を徹底し、当事者の「貢献する役割」を創出することが重要です。
大きな目標に向けて焦るのではなく、まずは地域のイベントという「小さな一歩」から踏み出してみましょう。そこで得られた「小さな自信」は、あなたの次の人生を切り開く、大きな力となるはずです。
✅ 次のアクション
お住まいの地域の広報誌や自治会のお知らせで、来月開催される小さなイベント(フリーマーケット、バザー、地域の清掃活動など)を探してみましょう。そして、担当の相談支援専門員に「参加してみたい」と相談してみてください。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





