精神障害のある私が地域で安心して過ごせる場所

精神障害と共に生きる私たちにとって、地域で「安心して過ごせる場所(居場所)」を見つけることは、治療や社会参加の基盤となります。自宅は最も安心できる場所ですが、そこに閉じこもりがちになると、社会との繋がりを失い、病状の悪化を招くこともあります。
「居場所」と聞くと、地域活動支援センターやデイケアなどの「福祉サービス」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、本当に心穏やかに過ごせる場所は、福祉の枠を超えた、地域に点在するインフォーマルなスポットの中にも存在しています。
私が長年、精神障害と共に地域で暮らす中で学んだのは、「居場所」の価値は、その場所の機能や設備ではなく、「自分の状態が受け入れられ、無理なく過ごせる」という心理的な安全性にあるということです。
この記事では、私自身が実際に利用・体験してきた場所の中から、特に精神障害のある方が地域で「生きづらさ」を感じることなく、安心して過ごせると実感した「やさしい居場所」について、具体的な体験談を交えてご紹介します。
この情報が、現在居場所探しに悩んでいる方々、そして、地域で誰もが安心して過ごせる環境づくりを目指す支援者の方々にとって、新たな視点とヒントを与えることができれば幸いです。
私の居場所探しの道のり:「居場所=訓練の場」ではない
病状が安定し始めた頃、私は「社会と繋がろう」と決意しました。最初に紹介されたのは、就労に向けたリハビリや訓練を目的とした福祉施設でした。しかし、そこでの経験は、私に大きなストレスを与えました。
- 訓練へのプレッシャー:「毎日、決められた時間に」「就労という目標に向けて」という周囲からの期待や、他の利用者との比較から、大きなプレッシャーを感じました。
- 「利用者」としての意識:支援を受ける「利用者」という立場が、自己肯定感を下げ、社会から隔絶されている感覚を強めました。
この経験から、私は「居場所」に求めるものが、「訓練」ではなく「休息と安心」であることを悟りました。そして、福祉の枠を超えて、本当に安心して過ごせる場所を探し始めました。
【居場所その1】地域の図書館:静けさと社会との「ゆるい」接続
私が最も利用頻度が高いのが、近所にある公立の図書館です。図書館は、精神障害のある方にとって、「静けさと自由」が共存する理想的な居場所となりえます。
メリット:自己管理と社会の音
図書館の最大の魅力は、「誰も自分に干渉してこない」という点です。私は体調に波があるため、気分が良い日は専門書を読み、集中できない日はただ座っているだけで良いという自由さが非常に重要です。
- 匿名性の確保:職員の方も利用者も、私を「図書館に来る一人の人」として扱ってくれます。病名や支援状況を説明する必要がありません。
- 社会との接続:静かな空間にいながらも、周りには学生や高齢者、ビジネスマンなど、様々な立場の「社会の人々」がいます。この「社会の音」を聞いているだけで、「自分も社会から完全に切り離されたわけではない」という安心感を得ることができます。
図書館では、私は常に「利用者」であり、誰かに何かを求められることはありません。このゆるい接続こそが、社会復帰への大きな支えとなっています。
困りごと:急な環境変化への脆弱性
唯一の困りごとは、「急な環境変化」に非常に脆弱であることです。
- 例:突然近くの席で大声で会話を始める人がいる。
- 例:急な館内放送や警告音が鳴り響く。
これらの予期せぬ刺激は、私の集中力を一瞬で奪い、パニックを引き起こすことがあります。図書館が、「静かに過ごすための場所」というルールを、利用者全員に対して徹底することが、精神障害のある方にとっての安全性を高める上で非常に重要だと感じています。
【居場所その2】地域の交流カフェ:小さな「貢献」と温かい眼差し
次に、私が勇気を出して関わり始めたのが、地域のNPOが運営する交流カフェです。このカフェは、障害のある方がボランティアやアルバイトとして働くことを受け入れていますが、「訓練」というよりも「地域貢献」の場として機能しています。
メリット:役割と自己肯定感
私は、週に一度、このカフェで食器洗いとテーブル拭きのボランティアをさせてもらっています。この「小さな役割」を持つことが、私の生活に大きな変化をもたらしました。
「洗い物をしていると、カフェの店長さんが『いつも助かるよ、〇〇さんがいてくれると本当に回転がいい』と声をかけてくれます。お客さんからも『ありがとう』と言われます。誰かに『必要とされている』という感覚は、抗うつ薬よりも効くと私は思っています。」
— 精神障害のある利用者Dさんの体験談
このカフェの素晴らしい点は、私の体調不良を隠さなくてよいことです。体調が悪い日は「今日は立ち仕事は厳しいので、座ってできる作業はありませんか?」と正直に伝えられます。店長は快く受け入れ、すぐに別の作業を提案してくれます。
これは、合理的配慮が、福祉サービスの外、すなわち地域社会のインフォーマルな場で機能している理想的な形だと思います。
困りごと:定着率と持続可能性の課題
交流カフェのようなインフォーマルな居場所は、運営するNPOやボランティアスタッフの熱意に大きく依存しています。
- スタッフの定着率:主要なボランティアや店長が交代すると、障害への理解度や、合理的配慮の内容が変化してしまうリスクがあります。
- 経済的な持続可能性:運営が厳しくなり、突然閉鎖されてしまうと、そこで築いた人間関係や生活リズムが全て崩れてしまうことになります。
これらのインフォーマルな居場所が、持続可能な形で運営されるよう、自治体からの安定した財政支援や、運営ノウハウの提供が必要だと強く感じています。
【居場所その3】ピアサポートグループ:共感と安心の「セーフティネット」
地域の居場所の中でも、最も心理的な安心感を得られるのが、同じ精神障害を持つ仲間が集まる「ピアサポートグループ」です。これは、福祉サービス事業所が開催する場合もありますが、当事者自身が運営しているケースもあります。
メリット:共感による自己肯定感の回復
ピアサポートグループでは、自分の病気の経験や、日常生活での失敗談、困りごとを、何のフィルターもかけずに話すことができます。ここで得られる「共感」の力は、計り知れません。
「会社で失敗したことを誰にも言えずに苦しんでいた時、ピアサポートグループで『私も同じことがあったよ』と言ってもらえただけで、涙が出ました。『自分だけがおかしいのではない』『理解してくれる人がいる』と感じられることは、病気と向き合うためのエネルギーになります。」
— ピアサポートグループ参加者Eさん(30代)
専門職からのアドバイスとは異なり、「生き延びた先輩」からの等身大の言葉は、私たちの自己肯定感を回復させ、「自分もこの困難を乗り越えられる」という希望を与えてくれます。
困りごと:グループ間の質のばらつき
ピアサポートグループの活動は、運営者や参加者によって「活動の質」が大きく異なります。
- 対話の偏り:特定の参加者のネガティブな発言に終始し、グループ全体が沈滞ムードになってしまう場合。
- 運営の不安定さ:当事者運営の場合、運営者の体調や都合で、活動が突然中止になってしまう場合。
質の高いピアサポートを提供するためには、ファシリテーション(進行役)の技術が必要不可欠です。この技術を身につけるための研修やサポートを、自治体や基幹相談支援センターが積極的に行うべきだと考えます。
地域で安心して過ごせる居場所を見つけるための3つのヒント
私の体験から、精神障害のある方が地域で最適な居場所を見つけるためのヒントをまとめます。
ヒント1:「目的」ではなく「状態」を優先する
居場所を選ぶ際は、「就労」「リハビリ」といった明確な目的(To Do)ではなく、「自分の今の状態(Being)」を優先して選びましょう。
- 気分が落ち込んでいる時:誰にも会わず、静かに過ごせる「図書館」や「公園」を選ぶ。
- 意欲が少しある時:人に感謝される「交流カフェのボランティア」など、小さな役割がある場所を選ぶ。
- 共感を求める時:ありのままの自分を受け入れてくれる「ピアサポートグループ」を選ぶ。
複数の居場所を持ち、その日の体調に合わせて使い分けることが、地域で安定して過ごすための最大の防御策となります。
ヒント2:福祉サービスを「足場」として活用する
地域の支援センターやデイケアなどの福祉サービスを、「訓練の場」としてだけでなく、「インフォーマルな居場所への足場」として活用しましょう。
- 支援センターの担当者に、「交流カフェやボランティア活動など、福祉の枠外の活動」を紹介してもらう。
- 福祉施設が主催する「地域交流イベント」に参加し、地域の住民と接点を持つ。
福祉サービスは、地域社会へ安全に繋がるための「橋渡し役」としての役割も担っています。
ヒント3:自分の「合理的配慮リスト」を作成する
交流カフェなどで働く際、自分の状態や必要な配慮を相手に伝えることは非常に重要です。事前に「合理的配慮リスト」を作成しておきましょう。
- 記載内容の例:「急な大音量が苦手です」「体調不良の際は、座って作業できる業務への変更を希望します」「週に一度は、休憩のために10分間の離脱が必要です」など。
このリストを提示することで、相手は何を配慮すれば良いかが明確になり、あなた自身も安心して活動に臨めます。これは、円滑な社会参加のための大切なツールです。
✅ 成功の鍵
精神障害のある方が地域で安心を得る鍵は、「ゆるい繋がり」と「自己決定権の尊重」です。過度な介入や期待から離れ、自分のペースで、多様な居場所を使い分けることが、生活の安定につながります。
まとめ
この記事では、精神障害のある私が地域で安心して過ごせる「居場所」の体験談をご紹介しました。
- 私が特に安心できる居場所は、図書館(静けさとゆるい接続)、交流カフェ(役割と温かい眼差し)、そしてピアサポートグループ(共感と安心)でした。
- これらの場所が機能するためには、匿名性の確保、体調に応じた柔軟な役割、そして持続可能な運営が不可欠です。
- 居場所探しのヒントは、「訓練」ではなく「休息と安心」を優先し、福祉サービスを足場として活用すること、そして、自身の「合理的配慮リスト」を準備することです。
地域には、あなたが思っている以上に、あなたの存在を受け入れてくれる優しい居場所があります。焦らず、自分のペースで、安心できる居場所を見つけていきましょう。
✅ 次のアクション
お住まいの地域の「公立図書館」に行き、30分間、ただ静かに座って過ごしてみましょう。それが、あなたにとっての「安心できる居場所」の第一歩になるかもしれません。

藤原 洋平
(ふじわら ようへい)40歳📜 保有資格:
一級建築士、福祉住環境コーディネーター
バリアフリー設計専門の建築士として15年。公共施設や商業施設のユニバーサルデザインに携わってきました。「誰もが使いやすい」施設情報と、バリアフリーの実践的な知識をお届けします。
大学で建築を学び、卒業後は設計事務所に就職。当初は一般的な建築設計をしていましたが、車椅子を使う友人から「段差一つで行けない場所がたくさんある」と聞き、バリアフリー設計の重要性に目覚めました。その後、ユニバーサルデザインを専門とする設計事務所に転職し、学校、図書館、商業施設など、様々な公共建築のバリアフリー化に携わってきました。特に印象深いのは、地域の古い商店街のバリアフリー改修プロジェクト。車椅子の方も、ベビーカーの方も、高齢者も、みんなが安心して買い物できる街になり、「誰にとっても便利」なデザインの素晴らしさを実感しました。記事では、すぐサポの施設データベースを活用しながら、バリアフリー施設の見つけ方、チェックポイント、外出時の工夫など、実際に役立つ情報を建築の専門家の視点で発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
車椅子を使う友人から「段差一つで行けない場所がたくさんある」と聞き、バリアフリー設計の重要性に目覚めました。
✨ 印象に残っている出来事
古い商店街のバリアフリー改修で、誰もが安心して買い物できる街を実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
建築の専門家の視点で、実際に役立つバリアフリー情報を発信します。
🎨 趣味・特技
街歩き、建築巡り
🔍 最近気になっているテーマ
心のバリアフリー、センサリールーム





