バリアフリー散策ルートを歩いてみた感想と改善点

近年、多くの自治体や観光協会が、誰もが安心して楽しめるようにと「バリアフリー散策ルート」や「ユニバーサルデザイン観光ルート」を設定・公開する取り組みを進めています。これらのルートは、車いす利用者、高齢者、ベビーカー利用者など、移動に配慮が必要な方々にとって、外出や観光の大きな助けとなることを目指しています。
しかし、実際に「バリアフリー」と銘打たれたルートを歩いてみると、情報上のバリアフリーと、現場のリアルな状況との間にギャップを感じることが少なくありません。「主要な場所はOKでも、途中の小さな段差で立ち往生した」「多目的トイレが鍵がかかっていて使えなかった」といった問題は、残念ながら珍しくありません。
この記事では、実際に車いすを利用する当事者の方と共に、ある観光地のバリアフリー散策ルートを歩いた体験を基に、その良かった点と、ルートを本当に使いやすくするために改善すべき具体的なポイントを、徹底的にレビューします。
この率直な感想と改善点が、バリアフリー観光に関心を持つ当事者やご家族の参考になることはもちろん、ルートを企画・管理する自治体や観光関係者の方々にとって、実効性のあるユニバーサルデザインを考える上での貴重な資料となることを願っています。
今回歩いたバリアフリー散策ルートの概要
今回、私たちが検証のために歩いたのは、地方の歴史的な街並みを観光できる、ある市の「おもてなしバリアフリー散策ルート」(仮称)です。ルートは、主要駅から歴史的建造物、地域の有名グルメスポットを経由し、公園の多目的トイレを利用して駅に戻る約2kmのコースとして設定されていました。
- 想定ターゲット:車いす利用者(手動・電動)、高齢者、ベビーカー利用者
- 情報公開:市のウェブサイトにて、ルートマップ、多目的トイレの位置、エレベーター・スロープの有無を公開。
- 所要時間:ウェブサイトでは約90分と記載。
同行してくれた車いすユーザーのKさん(40代・手動車いす)と、実際にルートを歩いた感想を、以下のセクションで具体的に解説します。
評価ポイント1:良かった点(「情報のバリアフリー」の成功)
このルート設定において、特に評価が高かったのは、「事前の情報提供」に関する部分です。情報の透明性は、不安を抱える利用者にとって、大きな安心材料となります。
良かった点1:多目的トイレの情報が「リアルタイム」だった
多くのバリアフリー情報が抱える課題の一つが、多目的トイレの利用状況が古いままであることです。しかし、このルートでは、主要な多目的トイレの「営業時間」や「オストメイト対応の有無」がウェブサイト上で細かく記載されていました。
「以前、別の街で『多目的トイレあり』と聞いて行ったのに、施設自体が閉館時間で使えなかった経験があります。このルートでは、公園のトイレが24時間開放されていること、観光施設のトイレは17時までと明確に分かっていたので、計画が立てやすかったです。特にトイレに関する情報は、私たちにとって『命綱』ですから、この正確性は非常に評価できます。」
— Kさん(車いすユーザー)の感想
良かった点2:「推奨ルート」と「回避ルート」の提示
ルートマップには、単に目的地を示すだけでなく、「車いす推奨ルート(勾配緩やか)」と「ベビーカー推奨ルート(舗装優先)」のように、利用者層に合わせて最適なルートを色分けして提示していました。また、途中にやむを得ず存在する「段差2cmあり。ヘルパー推奨」といった具体的な注意書きも記載されていました。
これは、すべてのバリアをゼロにすることが難しい現実を踏まえた、非常に誠実な情報公開だと感じました。利用者が、自分の体力や同行者の有無に合わせて「自己決定」できる情報を提供している点が優れていました。
良かった点3:地域の店との「声かけ連携」
ルート上の休憩スポットとして指定されていた複数のカフェや土産物店には、「声かけサポート店」といった独自のステッカーが貼られており、店員さんは私たちが店に近づくと、すぐに声をかけてくれました。
- 店員さん:「入口の段差はありますので、お手伝いしましょうか?簡易スロープを出しますね。」
物理的なバリアが残っていても、店員さんの心構えと、それを補う補助具(簡易スロープなど)があることで、私たちは安心して利用できました。この「心のバリアフリー」が、行政主導ではなく、地域全体で取り組まれている点が感動的でした。
評価ポイント2:改善が必要な点(「現場のリアルなバリア」)
一方で、ウェブサイトの情報だけでは見えなかった、現場で直面したいくつかの「リアルなバリア」がありました。これらは、ルートの快適性を大きく損なう要因となっていました。
改善点1:ルート上での「点バリア」の放置
主要な交差点や観光施設への入口は完璧に整備されていましたが、その間の歩道に、車いすユーザーの移動を困難にする「点」となるバリアが放置されていました。
- 例:歩道の真ん中に、劣化により剥がれたアスファルトの穴(直径10cm、深さ3cm程度)。手動車いすのKさんは、車輪がはまってしまいそうになり、危険を感じました。
- 例:植え込みの根が盛り上がったことによる、歩道の小さな傾斜と隆起。
これらの小さなバリアは、健常者には見過ごされがちですが、車いすユーザーにとっては「転倒・停止」のリスクとなります。散策ルートを設定する際は、主要な施設だけでなく、ルート全体の日常的な維持管理が不可欠だと痛感しました。
改善点2:多目的トイレの「使いにくさ」
トイレの場所や利用時間は正確に公開されていましたが、実際に利用した多目的トイレには、以下のような問題がありました。
- 問題1:トイレ内のオムツ交換台が、広げたまま放置されており、車いすが回転できるスペースが著しく狭くなっていた。
- 問題2:車いす利用者が届きやすい位置に非常ボタンが設置されているが、誤操作防止のためのカバーがないため、体が触れてすぐに鳴ってしまうリスクがある。
- 問題3:トイレットペーパーホルダーの位置が、車いすからはやや遠すぎる位置にあった。
バリアフリーは「設置したら終わり」ではありません。利用者が快適に、「誰にも頼らずに」用を足せるよう、利用者の目線で「使い勝手」を定期的に確認し、消耗品や補助具の位置を調整することが必要です。
改善点3:「一時的な障害物」への対応不足
私たちが歩いた際、ルート上の歩道の一部で、急な水道管の工事が行われており、車いすで通行できない状態になっていました。その迂回ルートの案内もなく、私たちは引き返さざるを得ませんでした。
「バリアフリー散策ルートを設定するなら、予期せぬ工事やイベントが発生した場合の『緊急迂回ルート』も想定してマップに記載しておくべきです。あるいは、工事情報をリアルタイムでウェブサイトに掲載し、利用者に注意を促す体制が必要です。情報がないと、せっかくの外出計画が台無しになってしまいます。」
— Kさん(車いすユーザー)の意見
これは、ルートを「観光資源」として位置づける行政部署と、「インフラ管理者」である工事担当部署との情報連携が不足しているために生じる、組織的なバリアだと言えます。
⚠️ 見落としがちな盲点
バリアフリー散策ルートの快適性を決めるのは、大きな工事ではなく、歩道上の小さなひび割れや、一時的な放置物の有無です。ルートの管理者は、車いす目線での定期的な点検を義務付けるべきです。
バリアフリー散策ルートを「真に使えるもの」にするための提言
今回の体験から、「バリアフリー散策ルート」を、情報だけでなく、現場でも真に使えるものにするために、以下の3点を提言します。
提言1:官民連携による「ラストワンフィート」の整備
主要施設間のルート整備だけでなく、「ラストワンフィート(最後の30cm)」、すなわち店舗の入口の段差や、店内のトイレへの導線など、個別の店舗や施設の対応を強化すべきです。
- アクション:自治体が主体となり、ルート沿いの全店舗に対し、簡易スロープの無償貸与や、車いすユーザー応対マナーの研修を義務付け、ユニバーサルデザインの認証制度を設ける。
この「ラストワンフィート」のバリアが解消されることで、単なる散策だけでなく、「地域での消費行動」も促進され、観光ルートの経済効果も高まります。
提言2:当事者と支援者による「ダブルチェック体制」の構築
ルートの企画・検証を、行政職員だけで行うのではなく、当事者(車いすユーザー)と支援者(理学療法士、福祉住環境コーディネーターなど)の二者が行う「ダブルチェック体制」を導入すべきです。
- 当事者:「車いすの操作性」「心理的な安心感」などの定性的な評価。
- 支援者:「勾配の角度」「必要な段差解消器具」などの定量的な評価。
これにより、情報公開の正確性が向上し、実用性の高いルートとなります。
提言3:「運用マニュアル」の全関係者への徹底
バリアフリー設備が、日々の「運用」で台無しにならないよう、徹底したマニュアル化が必要です。
- 例:多目的トイレの清掃・点検マニュアルに、「オムツ交換台を必ず元の位置に戻すこと」「非常ボタンの作動確認」を盛り込む。
- 例:ルート沿いの工事が発生した場合の「情報公開・迂回案内設置」の手順を、全土木・建設業者に周知徹底する。
インフラの完成度だけでなく、「バリアフリーの意識を共有する地域コミュニティ」を育むことが、真に「歩きやすい街」を作る鍵となります。
まとめ
今回のバリアフリー散策ルートの検証を通じて、情報公開の誠実さ(多目的トイレのリアルタイム情報など)は評価できる一方で、歩道上の小さなバリアの放置や、トイレの使い勝手、工事情報などの連携不足が大きな課題として残っていることがわかりました。
- 真に使えるルートとは、情報が正確であること、そして、現場の小さなバリアが徹底的に排除されていることです。
- 行政、企業、そして私たち住民一人ひとりが、「ラストワンフィート」のバリア解消と、「運用マニュアル」の徹底に取り組むことで、この課題は解決できます。
バリアフリー散策ルートは、地域の優しさを体現する大切な資源です。この体験が、より実効性の高いユニバーサルデザインの実現に貢献できることを願っています。
✅ 次のアクション
お住まいの地域で「バリアフリー散策ルート」があれば、ご自身で歩いてみて、ウェブサイトの情報と現場の状況にギャップがないかをチェックしてみましょう。小さな気づきを、自治体の担当部署にフィードバックすることが、街を変える一歩につながります。

藤原 洋平
(ふじわら ようへい)40歳📜 保有資格:
一級建築士、福祉住環境コーディネーター
バリアフリー設計専門の建築士として15年。公共施設や商業施設のユニバーサルデザインに携わってきました。「誰もが使いやすい」施設情報と、バリアフリーの実践的な知識をお届けします。
大学で建築を学び、卒業後は設計事務所に就職。当初は一般的な建築設計をしていましたが、車椅子を使う友人から「段差一つで行けない場所がたくさんある」と聞き、バリアフリー設計の重要性に目覚めました。その後、ユニバーサルデザインを専門とする設計事務所に転職し、学校、図書館、商業施設など、様々な公共建築のバリアフリー化に携わってきました。特に印象深いのは、地域の古い商店街のバリアフリー改修プロジェクト。車椅子の方も、ベビーカーの方も、高齢者も、みんなが安心して買い物できる街になり、「誰にとっても便利」なデザインの素晴らしさを実感しました。記事では、すぐサポの施設データベースを活用しながら、バリアフリー施設の見つけ方、チェックポイント、外出時の工夫など、実際に役立つ情報を建築の専門家の視点で発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
車椅子を使う友人から「段差一つで行けない場所がたくさんある」と聞き、バリアフリー設計の重要性に目覚めました。
✨ 印象に残っている出来事
古い商店街のバリアフリー改修で、誰もが安心して買い物できる街を実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
建築の専門家の視点で、実際に役立つバリアフリー情報を発信します。
🎨 趣味・特技
街歩き、建築巡り
🔍 最近気になっているテーマ
心のバリアフリー、センサリールーム





