障害者スポーツ教室に参加して感じたこと

スポーツは、私たちに身体的な健康をもたらすだけでなく、精神的な充足感や、他者との交流の機会を与えてくれる、かけがえのない活動です。しかし、障害のある方にとって、一般のスポーツクラブや体育館のプログラムに参加することは、設備のバリアや、指導者の専門知識の不足といった壁に阻まれ、容易ではありません。
そこで重要になってくるのが、地域の障害者スポーツ教室です。これは、参加者の障害特性に合わせた環境とルールが整備され、専門的な知識を持つ指導員がサポートしてくれる、まさに「誰もがスポーツを楽しめる」ための場所です。
この記事では、重度の身体障害を抱えながら、地域の車いすバスケットボール教室に初めて参加した当事者の体験を基に、障害者スポーツ教室がもたらす身体的な変化、そして何よりも大きな精神的なメリットについて、深く掘り下げてお伝えします。
スポーツへの一歩が、いかに人生を豊かに変えるか。その感動と、私たちが地域に求めるべきサポートのあり方を、一緒に考えていきましょう。この体験談が、まだスポーツに挑戦する勇気を持てずにいる方々、そして、地域での障害者スポーツを支える支援者の方々にとって、大きなヒントとなることを願っています。
教室参加を決意するまで:内面に抱えていた壁
主人公の佐藤さん(仮名・30代・脊髄損傷による車いすユーザー)は、事故により車いす生活となって以来、リハビリは続けていたものの、スポーツとは無縁の生活を送っていました。「車いすで激しい運動をするなんて、無理だ」という諦めと、「障害者がスポーツをする姿を見られるのは恥ずかしい」という心理的なバリアを抱えていました。
転機となったのは、地域の障害者福祉センターの広報誌で、「初心者・見学者歓迎」と大きく書かれた車いすバスケットボール教室の案内を見たことです。友人に背中を押され、佐藤さんは見学に行くことを決意しました。
見学で感じた「衝撃と感動」
体育館で目にしたのは、激しく車いすを操作し、ボールを追いかける選手の姿でした。それは、佐藤さんが想像していた「リハビリのための軽い運動」とは全く異なり、一つの競技として真剣に、そして楽しそうに取り組む姿でした。
「車いすを操作することが、リハビリではなく『攻撃』や『守備』というポジティブな行為に変わっていました。参加者は皆、汗だくで、障害の重さに関係なく、一人のアスリートとしてコートに立っていました。その姿を見て、『自分も挑戦してみたい』と強く思いました。」
— 佐藤さんの体験談
その場で参加を決意した佐藤さんは、地域の障害者スポーツ指導員のサポートを受け、教室での新たな挑戦をスタートさせました。
障害者スポーツ教室がもたらした3つの身体的変化
スポーツ教室への参加は、佐藤さんの身体能力に明確な変化をもたらしました。これは、単なる運動による効果だけでなく、障害特性に合わせたプログラムだからこそ実現したものです。
変化1:車いす操作能力(アジリティ)の劇的な向上
車いすバスケットボールは、通常の生活で使う移動とは比較にならないほどのスピードと小回りが要求されます。佐藤さんは当初、車いすをまっすぐ進めることさえ困難でしたが、指導員による個別メニューのおかげで、短期間で大きな進歩を遂げました。
- 具体的な訓練:「8の字走行」「急停止と急発進」「旋回」など、日常生活では行わない複雑な車いす操作をゲーム形式で反復。
- 成果:日常生活においても、狭い場所での方向転換や、エレベーター内での位置調整が格段にスムーズになりました。これは、介助なしで行動できる範囲が広がったことを意味します。
この変化は、佐藤さんにとって、「車いすは障害のシンボルではなく、自分の手足の延長だ」と捉え直すきっかけとなりました。
変化2:「二次障害」の予防と体調管理の獲得
脊髄損傷などの身体障害者は、褥瘡(じょくそう)や血圧の不安定化など、運動不足からくる二次障害のリスクが常に伴います。スポーツ教室は、これらの予防に大きな効果を発揮しました。
- 全身運動:バスケットボールは、上半身、特に肩周りの筋肉を強化し、体幹の安定につながりました。
- 体調の可視化:運動することで、自分の疲労や体調の波を客観的に把握できるようになり、日常の体調管理(水分補給、休憩のタイミングなど)への意識が高まりました。
佐藤さんは、「運動後は疲れますが、その『良い疲れ』が心地よく、夜もぐっすり眠れるようになりました。これは、リハビリだけでは得られなかった効果です」と語ります。
変化3:競技用具による「移動の合理化」
教室には、自治体や支援団体から借り受けた競技用の車いすが用意されていました。競技用車いすは、軽量で操作性が高く、一般の車いすとは全く異なる感覚で動かすことができます。
この高性能な用具を使うことで、「自分の能力の限界」と思っていたことが、実は「用具の限界」だったと気づきました。指導員は、競技用具の調整やメンテナンスについても専門的な知識を提供してくれ、佐藤さんのモチベーション維持に大きく貢献しました。
💡 支援者へのヒント
障害者スポーツのハードルを下げるためには、競技用車いすや義足などの用具を、誰もが気軽に試せる「レンタル・貸し出し」制度を地域に確立することが不可欠です。
障害者スポーツ教室が育む3つの精神的メリット
身体的な変化以上に、佐藤さんの人生を豊かにしたのは、スポーツ教室がもたらした精神的な充足感です。
メリット1:「障害」を超えた仲間との出会い
教室には、脊髄損傷だけでなく、脳性麻痺、切断、内部障害など、様々な障害を持つ人々が集まっていました。コートの上では、障害の種別や重さは関係なく、皆が「チームメイト」であり、「ライバル」でした。
「私は自分の障害が一番重いと思っていましたが、もっと重い障害を持ちながら、私よりも速く車いすを漕ぐ仲間がいました。彼らから、『できない理由を探すより、できる方法を探そう』というポジティブなエネルギーをもらいました。ここでは、お互いの障害を笑い飛ばせるような、明るく、フラットな関係が築けます。」
— 佐藤さんの体験談
この「障害を前提とした連帯感」は、孤独感を打ち破り、佐藤さんのメンタルヘルスを劇的に改善させました。
メリット2:「失敗」が許される安全な環境
日常生活で車いすをぶつけたり、転んだりすることは「失敗」であり、恥ずかしいことです。しかし、スポーツの場では、車いすがぶつかることも、ボールを落とすことも、「プレーの一部」として許容されます。
指導員は、ミスをした時こそ「ドンマイ!次はこうしてみよう!」と具体的なアドバイスをくれました。この「失敗を恐れずに挑戦できる環境」は、佐藤さんが日常生活で新しいことに挑戦する際の心理的なハードルを下げる効果がありました。
スポーツ教室は、佐藤さんにとって、「挑戦と失敗がポジティブに評価される、唯一の場所」となったのです。
メリット3:「観客」から「表現者」への自己認識の変化
佐藤さんは以前、社会生活を「傍観者(観客)」として見ていました。しかし、コートに立ち、パスを出し、シュートを決めることで、自分自身が「表現者」となり、チームや地域に貢献しているという強い実感が持てるようになりました。
試合の応援に来てくれた家族や友人の前でプレーすることは、大きな誇りでした。この自己認識の変化は、社会復帰や就労への意欲にも繋がり、佐藤さんは現在、車いすバスケットボールの普及活動にも積極的に携わっています。
✅ スポーツの持つ力
障害者スポーツは、単なるリハビリではなく、「自己肯定感」「仲間との連帯感」「社会参加」といった、精神的なウェルビーイング(幸福)を劇的に高めるための、強力なツールです。
障害者スポーツ教室を地域で発展させるための提言
佐藤さんの感動的な体験を、より多くの障害者に届けるために、地域の障害者スポーツ教室が解決すべき課題と、その発展に向けた提言を行います。
提言1:専門指導員とボランティアの「連携強化」
障害者スポーツ指導員は専門知識を持っていますが、数が不足しています。そこで、指導員がプログラムを設計し、地域の一般ボランティアが運営の補助や、選手の移動介助を担うという連携モデルを構築すべきです。
- アクション:自治体が主体となり、一般市民を対象とした「障害者スポーツサポーター養成講座」を定期的に開催し、マンパワーを確保する。
提言2:アクセスしやすい「開催場所」の確保
スポーツ施設自体がバリアフリーであっても、駅から遠かったり、駐車場が少なかったりすると、参加へのハードルが高くなります。教室の開催場所は、公共交通機関や福祉車両でのアクセスが容易な場所を選ぶべきです。
- アクション:地域の体育館だけでなく、大学の体育施設や企業のジムなど、多様なバリアフリー施設を解放してもらうよう、官民連携で働きかける。
提言3:「障害の種別を超えた」交流の場の創出
知的障害者向けのダンス教室、身体障害者向けの卓球教室など、種別ごとに分かれているケースが多いですが、種別を超えた合同の交流イベントを定期的に開催すべきです。
- アクション:例えば、「知的障害者フライングディスクチーム」と「身体障害者車いすバスケットチーム」の合同交流会を実施し、相互理解と連帯感を深める機会を提供する。
誰もがスポーツを楽しめる環境づくりは、地域全体のインクルーシブな社会実現に直結します。
まとめ
この記事では、車いすバスケットボール教室に参加した佐藤さんの体験談を通じ、障害者スポーツがもたらす大きな力を紹介しました。
- 身体面では、車いす操作能力の向上と二次障害の予防という生活に直結する効果がありました。
- 精神面では、障害を超えた仲間との連帯感、「失敗が許される」安心感、そして自己認識のポジティブな変化が得られました。
障害者スポーツ教室は、単なる運動の場ではなく、「自己肯定感」と「社会参加」を育む、地域の大切な福祉資源です。ぜひ、あなたも一歩踏み出し、地域のスポーツ教室の扉を叩いてみてください。そこには、想像を超える喜びと、温かい仲間たちが待っています。
✅ 次のアクション
お住まいの地域の「障害者スポーツ協会」または「障害者福祉センター」に問い合わせて、現在開催されているスポーツ教室や体験会の情報を聞いてみましょう。まずは見学からでも、参加への一歩を踏み出せます。

原田 彩
(はらだ あや)35歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として10年、地域の福祉資源の発掘と繋ぎに力を入れています。「この街で暮らす」を支えるために、施設情報だけでなく、バリアフリースポットや割引施設など、生活を豊かにする地域情報をお届けします。
大学で福祉を学び、卒業後は地域の相談支援事業所に就職。当初は「障害福祉サービス」だけが支援だと思っていましたが、地域の中には使える資源がたくさんあることに気づきました。例えば、障害者割引が使える映画館、バリアフリー対応のカフェ、当事者の方が集まれるコミュニティスペースなど。こういった情報を知っているかどうかで、生活の質が大きく変わります。特に印象的だったのは、引きこもりがちだった方が、近所のバリアフリー図書館を知り、そこで読書会に参加するようになったこと。「外に出るのが楽しくなった」と言ってくださいました。記事では、すぐサポの26万件の施設データベースを活用しながら、地域ごとの福祉サービスの特徴や、知って得する地域情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で福祉を学び、地域の中に使える資源がたくさんあることに気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
引きこもりがちだった方が、バリアフリー図書館を知り、読書会に参加するようになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
すぐサポの施設データベースを活用し、地域ごとの特徴や知って得する情報を発信します。
🎨 趣味・特技
街歩き、写真撮影
🔍 最近気になっているテーマ
インクルーシブな街づくり、ユニバーサルデザイン





