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家族が疲れすぎないために工夫していること

📖 約50✍️ 鈴木 美咲
家族が疲れすぎないために工夫していること
障害のある家族を支えるケアラーが、心身の限界(共倒れ)を迎える前に実践すべき工夫をまとめた記事です。完璧主義を捨て「60点のケア」を目指す心の持ち方から、罪悪感なく福祉サービス(レスパイトケア)を計画的に利用する手法までを詳しく解説。さらに、睡眠の質向上や介助技術の習得といった身体的負担の軽減策や、きょうだい児との関係性、相談支援専門員の活用術も網羅しています。実例を交えながら、自分自身を大切にすることが家族全体の幸せに繋がるというメッセージを届けます。

「共倒れ」を防ぐために——家族が自分自身を大切にするための知恵と工夫

障害のある家族のケアを担っていると、いつの間にか「自分の時間」や「自分の体調」が後回しになっていませんか。目の前の課題に対応することで精一杯になり、気づいた時には心が折れそうになっている。そんな経験を持つ方は少なくありません。ケアは短距離走ではなく、長く続くマラソンのようなものです。支える側が倒れてしまっては、本人の生活も成り立たなくなってしまいます。

この記事では、家族が疲れすぎて「共倒れ」にならないために、日々の生活で取り入れられる具体的な工夫や、心の持ち方についてお伝えします。2026年現在の福祉サービスの動向を踏まえた外部資源の活用法から、家庭内でできる小さなリフレッシュ術まで、幅広くご紹介します。この記事を読むことで、自分自身を大切にすることへの罪悪感を手放し、持続可能なケアの形を見つけるヒントが得られるはずです。


心の負担を減らす「意識」の切り替え

「100点満点」のケアを卒業する

私たちが疲れ果ててしまう大きな原因の一つに、「完璧でありたい」という願いがあります。食事は手作りで、家の中は常に清潔に、そして本人の要求にはすべて応えたい。その責任感は素晴らしいものですが、毎日100点を出し続けることは不可能です。まずは「今日は60点でも合格」と自分に言い聞かせる練習をしてみましょう。

例えば、疲れている日はデリバリーや冷凍食品に頼る。掃除を一日休む。これらは決して「手抜き」ではありません。限られたエネルギーを、最も大切な「笑顔」で接することに集中させるための賢い戦略です。家庭の平穏は、完璧な家事よりも、支える側の心のゆとりによって作られます。自分に厳しすぎる物差しを一度横に置いてみませんか。

「罪悪感」を「必要経費」と捉え直す

自分のために時間を使ったり、福祉サービスを利用して本人を預けたりする際に、言いようのない罪悪感に襲われることがあります。「自分だけ楽をしていいのだろうか」という思いです。しかし、この休息こそが、質の高いケアを続けるための「必要不可欠なコスト」です。車がガソリンなしでは走れないように、人間も休息なしでは動き続けられません。

罪悪感が湧いてきたら、「これは明日もっと優しく接するための投資だ」と捉え直してみてください。あなたがリフレッシュして活力を取り戻すことは、本人にとっても「穏やかな家族」と一緒にいられるという大きなメリットに繋がります。自分をケアすることは、家族全体をケアすることと同義なのです。

💡 ポイント

「疲れた」と感じるのは、あなたの心が発しているSOS信号です。この信号を無視せず、「お疲れ様、自分」と声をかけてあげるだけで、脳のストレス反応は少し和らぎます。

感情の「ゴミ箱」を家の外に作る

家庭内にストレスを溜め込むと、どうしても家族間で感情がぶつかりやすくなります。愚痴や不安を吐き出せる場所を、家庭の外に最低でも一箇所は確保しておきましょう。親の会や、オンライン上のコミュニティ、あるいはカウンセリングなど、利害関係のない第三者に話を聞いてもらうだけで、心の重荷は劇的に軽くなります。

2026年現在は、メタバース(仮想空間)を活用した家族会や、匿名で悩みを相談できるチャットサービスも充実しています。「こんなことを言ったら引かれるかも」と思うような真っ黒な感情も、同じ境遇の人たちの間では「あるある」として受け入れられます。一人で抱え込まず、感情の出口を作っておくことが、長期的な安定に繋がります。


外部サービスを「当たり前」に使い倒す

レスパイトケアを計画的に組み込む

「レスパイト(respite)」とは、一時休止、休息という意味です。障害福祉におけるレスパイトケアは、家族が一時的に介護から解放され、休息を取れるように支援するサービスを指します。多くの人が「もう限界だ」と感じてからサービスを探し始めますが、本来は「限界が来る前」に定期的に利用するのが成功のコツです。

例えば、月に一回は必ずショートステイ(短期入所)を利用するとカレンダーに書き込んでしまいましょう。特に用事がなくてもいいのです。「一晩中ゆっくり眠るため」「映画を一本見るため」という理由で十分です。予定として組み込んでしまうことで、「預けるための理由」を探すストレスから解放され、定期的な心身のメンテナンスが可能になります。

ショートステイやヘルパー利用のハードルを下げる

サービスを利用する際、「本人に寂しい思いをさせるのではないか」と不安になるかもしれません。しかし、本人にとっても、家族以外の人(プロの支援者)と関わることは、社会性を育む貴重な機会になります。家庭内だけでは固定化しがちなコミュニケーションに、新しい風が吹くことは、本人の刺激にも繋がります。

信頼できる事業所を見つけるためには、事前の見学や体験利用が欠かせません。スタッフの対応や施設の雰囲気を自分の目で確かめ、「ここなら任せられる」と思える場所を複数持っておきましょう。一つの事業所に依存せず、「支援のネットワーク」を広く持っておくことが、緊急時の安心感にも直結します。

サービス名 主な利用目的 家族が得られるメリット
ショートステイ 宿泊を伴う預かり 連続した睡眠時間の確保、旅行や冠婚葬祭
放課後等デイサービス 学校後や休日の活動 日中の休息、仕事との両立、きょうだい児との時間
移動支援 外出の付き添い 本人の余暇充実、家族の同伴負担の軽減
居宅介護(ヘルパー) 自宅での入浴・食事介助 身体的負担の軽減、家事時間の確保

相談支援専門員を「チームリーダー」にする

「どのサービスを選べばいいか分からない」「手続きが複雑で面倒」という方は、ぜひ相談支援専門員をフル活用してください。彼らはサービスの調整だけでなく、家族の生活全体を俯瞰してアドバイスをくれる専門家です。今の生活で何が一番辛いのか、どうなれば楽になるのかを正直に話してみましょう。

相談支援専門員は、あなたの「代わりに考える人」ではありませんが、あなたの「思考を整理するパートナー」になってくれます。家族だけで問題を解決しようとせず、プロの知恵を借りることで、自分たちでは思いつかなかったような解決策(制度の組み合わせなど)が見つかることも珍しくありません。彼らをチームの頼もしい一員として迎え入れましょう。

✅ 成功のコツ

相談支援専門員には、本人の状態だけでなく「親自身の体調や、きょうだい児の状況」も詳しく伝えましょう。家族全体の状況が伝わることで、より適切な支援プランが立てやすくなります。


身体の疲れをリセットする日常生活の工夫

睡眠の「質」を1%でも上げる努力

身体的な疲れの根本は、やはり睡眠不足にあります。夜間の見守りや体位変換が必要な場合、まとまった睡眠を取るのは非常に困難です。だからこそ、短時間でも「深く眠る」ための工夫が重要になります。遮光カーテンで部屋を完全に暗くする、自分に合った枕を使う、寝る直前のスマートフォンを控えるといった、小さな習慣の積み重ねです。

また、どうしても夜間の対応が続く場合は、昼間の「15分昼寝(パワーナップ)」を取り入れましょう。15分目を閉じるだけで、脳の疲れは大幅に回復します。本人がデイサービスに行っている間や、昼寝をしている間、「今のうちに家事をやらなきゃ」という思いをグッとこらえて、まずは自分の横になる時間を最優先させてください。家事は後回しにしても死にませんが、睡眠不足はあなたの心身を壊します。

身体介助の「技術」をプロから学ぶ

車椅子への移乗や入浴介助など、力仕事が多い場合、腰痛や関節痛に悩まされる家族は非常に多いです。「力ずく」で介助を続けると、いずれ自分の体が動かなくなってしまいます。訪問リハビリの理学療法士(PT)や作業療法士(OT)に来てもらい、「力を使わない介助技術(ノーリフティングケア)」を具体的に伝授してもらいましょう。

体の使い方一つで、負担は驚くほど変わります。また、福祉用具(スライディングボードや介護用リフトなど)の導入も積極的に検討してください。「まだ機械に頼るほどではない」と思わず、元気なうちから道具に慣れておくことが、将来の自分を守ることになります。あなたの体は、替えのきかない大切な財産なのです。

⚠️ 注意

腰や肩に痛みを感じたら、それは「やり方が間違っている」か「限界を超えている」合図です。放置せず、早めに接骨院や整形外科を受診し、介助方法の見直しを行いましょう。

「自分のための健康習慣」を一つだけ持つ

ケア中心の生活になると、自分の食事がおろそかになったり、運動不足になったりしがちです。大きなことはできなくても、「一日にコップ一杯の白湯を飲む」「お風呂上がりに3分だけストレッチをする」といった、自分だけのためのルーチンを一つだけ持ちましょう。

これは健康管理であると同時に、「自分を大切に扱っている」という自己肯定感を維持するための儀式でもあります。どんなに忙しくても、一日のうち数分間だけは「ケアする人」ではなく「自分自身」に戻る時間を死守してください。そのわずかな時間が、心の弾力性を保つ鍵となります。


実例:ある家庭が「倒れる前」に立て直した話

完璧主義のお母さん・Sさんのケース

知的障害と自閉症のある中学生の息子さんを育てるSさんは、非常に熱心なお母さんでした。療育プログラムを家でも徹底し、栄養バランスも完璧。しかし、息子さんが思春期に入り、行動が激しくなると、次第にSさんの体力と気力が限界に達しました。ある朝、どうしても布団から起き上がれなくなり、涙が止まらなくなったのです。

「私は失格だ」と自分を責めるSさんに、訪問看護師は優しく言いました。「Sさん、今は息子さんの療育よりも、お母さんの『お休み』が一番の療育ですよ」。この言葉に衝撃を受けたSさんは、それまでの生活をガラリと変える決意をしました。まずは、週に一度利用していた放課後等デイサービスを、上限いっぱいの週五回に増やしました。

「空白の時間」がもたらした変化

最初は、空いた時間に何をすればいいか分からず、ソワソワしていたSさん。しかし、思い切って近くのカフェで本を読んだり、美容院に行ったりする時間を自分に与えました。息子さんを預けている数時間、「お母さん」という役割を完全に脱ぎ捨てる時間を作ったのです。すると、数ヶ月後にはあんなに重かった体が軽くなり、息子さんのパニックに対しても「まあ、そんなこともあるよね」と笑って流せる心の余裕が戻ってきました。

興味深いことに、Sさんがリラックスすると、息子さんの状態も安定し始めました。親の緊張感は本人に伝播します。Sさんが「手抜き」を始めたことで、家庭内の空気が緩み、結果として息子さんの生活の質も向上したのです。現在、Sさんは地域の「親の会」のリーダーとして、かつての自分のようなお母さんたちに「もっと楽をしていいんだよ」と伝え続けています。

「役割」を分担した父親・Kさんのケース

重度の身体障害がある娘さんを持つKさんは、仕事と介護の両立に悩んでいました。「妻にばかり負担をかけられない」と夜間のケアを一人で引き受けていましたが、仕事でのミスが増え、自身も鬱状態に近い症状が出てしまいました。そこで、Kさんは家族会議を開き、役割を細かく分担し直すことにしました。

Kさんが担当していた夜間ケアの一部を、訪問介護の夜間巡回サービスに切り替えました。費用はかかりましたが、「睡眠を買う」と考えたのです。その分、Kさんは土日のどちらかを「娘と二人で全力で遊ぶ日」とし、奥様が一人で外出できる時間をプレゼントするようにしました。役割を整理し、外部の力をお金で買うことで、家族全員が「倒れない」仕組みを再構築できたのです。


よくある質問(FAQ)

Q. サービスを使いたいけれど、本人が場所見知りでパニックになるのが怖いです。

いきなり数時間の利用を目指すのは禁物です。まずは見学だけ、次は30分だけ、その次はご飯を食べるだけ……というように、数ヶ月かけて「スモールステップ」で慣らしていきましょう。スタッフの方に本人の「好きなもの(お菓子やキャラクター)」の情報を事前に伝え、施設を「好きな場所」としてインプットしてもらうのがコツです。焦らず、本人のペースに合わせることが、結果として一番の近道になります。

Q. きょうだい児への影響が心配で、自分の休息を優先できません。

きょうだい児にとって最も辛いのは、親が倒れたり、常にイライラして暗い顔をしていたりすることです。あなたが休息を取ることで心の余裕を取り戻せば、きょうだい児の話をじっくり聞く時間が作れるようになります。サービス利用で空いた時間を、あえて「きょうだい児と二人きりでデートする時間」に当ててみてください。「あなたも特別だよ」というメッセージが伝わり、家族の絆はより深まります。「親の休息」は「きょうだい児の笑顔」に直結します。

Q. 経済的な理由で、有料のサービスや自費の休息を控えがちです。

福祉サービスには所得に応じた自己負担上限額が設定されているものが多く、想像よりも安価に利用できる場合があります。また、自治体独自の「ファミリーサポート」やボランティア団体による支援など、低額で利用できるリソースも存在します。まずは相談支援専門員や役所の窓口で、「予算内でできる工夫」を相談してみてください。「今、無理をして将来的に働けなくなるコスト」と天秤にかければ、現在の休息への投資は決して高くはないはずです。


まとめ

家族が疲れすぎないための工夫は、何か特別な魔法を使うことではありません。「自分を大切にしてもいい」と自分に許可を出し、周囲の助けを借りる勇気を持つことから始まります。あなたは一人で全てを背負う必要はありませんし、その資格も、その義務もありません。

  • 「自分ケア」をスケジュールに書き込む:休息は余った時間でするものではなく、先に取り分ける「重要事項」です。
  • プロの支援を信頼して任せる:サービス利用は「手抜き」ではなく、本人の世界を広げる「社会参加」の機会です。
  • 100点を目指さない自分を愛する:不完全なままで、今そこに笑っていること。それだけで、あなたは最高に素晴らしい家族です。

まずは今日、自分のために美味しいお茶を一杯淹れることから始めてみませんか。そして、気になっていた支援事業所の電話番号をメモすることから一歩を踏み出してください。あなたの心が少しでも軽くなり、明日また穏やかな気持ちで家族と向き合えることを、心から願っています。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

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