パニックやこだわりに寄り添うために学んだこと

「パニック」を責めないために——本人の困り感に寄り添う新しい視点
外出先で突然、叫び声を上げたり座り込んだりしてしまうパニック。あるいは、日常生活が立ち行かなくなるほど強い「こだわり」。家族や支援者として向き合っていると、時にもどかしさや、周囲の視線に負けそうになることもあるでしょう。かつての私も、どうにかしてこの行動を止めたいと焦り、心身ともに疲弊していました。
しかし、パニックやこだわりは「嫌がらせ」でも「わがまま」でもありません。それは、言葉で伝えられない本人の「困り感のサイン」です。この記事では、私が長年の支援と生活を通じて学んだ、パニックの正体と具体的な寄り添い方について詳しくお伝えします。この記事を読み終える頃には、パニックを「恐れるもの」から「本人の心を知る手がかり」へと捉え直すことができるようになるはずです。
パニックの正体:脳内のアラートが鳴り響く時
「わがまま」ではなく「緊急事態」
パニックを理解する上で最も大切なのは、本人が「好きでやっているわけではない」と知ることです。自閉症スペクトラムなどの特性を持つ方にとって、周囲の音や光、あるいは予期せぬ予定の変更は、私たちが想像する以上に強い恐怖や不快感を伴います。脳が「生命の危機」を感じ、防衛反応として暴れたり叫んだりしている状態なのです。
パニックの最中、本人の脳内は激しい混乱に陥っており、周囲の説得や叱責を理解する余裕は1%もありません。私たちはついつい「落ち着いて」「静かにして」と声をかけてしまいますが、それは火事の現場で「熱くないよ」と言っているようなものです。まずは、これが「脳のシステムエラーによる緊急事態」であることを、支援者側が深く認識する必要があります。
「氷山の一角」を見つめる
目に見えるパニック行動は、氷山の一角に過ぎません。その水面下には、何時間も、あるいは何日も前から積み重なってきたストレスが隠れています。「朝の靴下が少しきつかった」「いつもと違う道を通った」「昨日あまり眠れなかった」。こうした小さな負荷が蓄積し、コップから水が溢れた瞬間にパニックが起きます。
私たちはつい「なぜ今、こんなことで怒るの?」と原因を目の前の出来事に求めがちですが、本質的な原因はもっと深い場所にあります。表面上の行動を修正しようとするのではなく、水面下に隠れた「生きづらさの要因」に目を向けること。これが、本質的な寄り添いの第一歩となります。パニックは、本人からの必死なSOSなのです。
⚠️ 注意
パニック中に無理に抑え込んだり、強く叱ったりすることは逆効果です。本人の恐怖心を煽り、パニックを長期化させたり、二次障害(うつや対人恐怖など)に繋がったりする恐れがあります。
感覚の「過敏さ」が生む苦しみ
多くのパニックの背景には、感覚過敏があります。私たちには気にならない蛍光灯のチカチカや、遠くで鳴っている工事の音、服のタグのチクチクした感触。これらが、本人にとっては耳元でサイレンが鳴り続けているような苦痛である場合があります。2026年現在の福祉研究でも、感覚の多様性は非常に重視されています。
本人が特定の場所で必ずパニックになるなら、そこには何らかの「感覚的な不快」が潜んでいる可能性が高いです。それを「我慢させれば慣れる」と考えるのは危険です。まずは本人の感覚の世界を想像し、「この世界は彼らにとって時に攻撃的である」という前提で環境を整えていく優しさが求められます。
「こだわり」は心の安全装置
世界を予測可能にするためのツール
「いつもと同じ道でないと歩けない」「物の並び順に決まりがある」。こうしたこだわりは、周囲からは不便に見えますが、本人にとっては不安な世界を生き抜くための「安全装置」です。先が見通せないことへの不安が強い彼らにとって、変化しないパターンは、暗闇を照らす灯台のような役割を果たしています。
こだわりを守っている時の本人は、深い安心感の中にいます。逆に言えば、そのこだわりを無理に崩されることは、足場を奪われるような恐怖を意味します。こだわりを「やめさせるべき悪癖」ではなく、彼らが精神的なバランスを保つために編み出した「サバイバル技術」として尊重することから、信頼関係が始まります。
「強み」に変える視点を持つ
こだわりは、視点を変えれば「驚異的な集中力」や「正確性」という強みになります。特定の数字に対するこだわりがデータ入力で活かされたり、整理整頓へのこだわりが清潔な環境維持に繋がったりする実例は、就労支援の現場でも数多く報告されています。こだわりを否定するのではなく、それを活かせる場面を私たちが探すのです。
「こだわり=ダメなこと」というラベルを剥がしてみましょう。こだわりがあるからこそ、彼らは自分らしくいられます。家族や支援者がこだわりを面白がり、一緒に楽しむくらいの心の余裕を持てたとき、本人の表情は劇的に和らぎます。「あなたのままでいいんだよ」というメッセージを、こだわりを肯定することで伝えていきましょう。
💡 ポイント
こだわりを制限しなければならない場面(安全に関わる場合など)では、「ダメ」と否定するのではなく、「〇〇の後にやろうね」と代替案や見通しをセットで提案しましょう。
時間という概念の「こだわり」
時間に対するこだわりも頻繁に見られます。「〇時〇分ちょうどに家を出る」といったルールです。これは、彼らにとっての時間の感覚が、アナログな流れではなく、静止画の連続のようなデジタルの塊であるために起こるとも言われています。一分一秒のズレが、世界の秩序を壊すような感覚になるのです。
こうしたこだわりに対し、「細かいことは気にしないで」と言うのは無意味です。むしろ、スケジュールを視覚化し、変化がある場合は事前に(できれば数日前から)予告するなど、「予測可能性」を高める工夫をしましょう。こだわりを尊重しながら、少しずつ「変化しても大丈夫だった」という成功体験を積んでいくことが、心の柔軟性を育みます。
パニックが起きた時の具体的な対応ステップ
ステップ1:まずは支援者が「沈黙」を守る
パニックが起きた瞬間、最も効果的な対応は「何もしないこと(安全確保以外)」です。慌てて声をかけたり、質問攻めにしたり、なだめようと体に触れたりすることは、本人にとって追加の刺激(ノイズ)にしかなりません。まずは情報を遮断し、本人の脳が落ち着きを取り戻すのを静かに待ちます。
支援者が焦ると、その空気は敏感に本人に伝わり、火に油を注ぐことになります。心の中で「これはいつか終わる」「今は脳が嵐の中にいるだけ」と唱え、深呼吸をしましょう。支援者がどっしりと構え、「あなたのパニックに私は動じないし、あなたを嫌いにもならない」という無言の安心感を漂わせることが、何よりの薬になります。
ステップ2:刺激の少ない環境へ誘導する
周囲に人が多い場所や、賑やかな場所であれば、静かな個室や車の中、公園の隅などへ移動を促しましょう。視覚的な刺激を遮るために、アイマスクやパーテーション、あるいは大きめのバスタオルで覆うことも有効な場合があります。2025年からは、公共施設でも「カームダウン・クールダウン(静養室)」の設置が進んでいます。
移動が難しい場合は、周囲の人に「障害の特性で一時的に混乱しています。見守ってください」と一言伝え、物理的なバリアを作ってあげましょう。本人が「ここでは誰にも攻撃されない」「静かにしていられる」と感じることができれば、パニックの収束は早まります。環境調整は、最も副作用のない治療法です。
ステップ3:収束後の「振り返り」を急がない
パニックが収まった直後、本人は激しい疲労感と、自分をコントロールできなかった情けない気持ち(自責の念)に包まれています。ここで「なぜあんなことをしたの?」「次はやめようね」と反省を促すのは禁物です。脳が疲れ切っている時に説教をしても、心に届かないばかりか、さらなるストレスを植え付けるだけです。
パニックが終わったら、まずは「頑張ったね」「落ち着いて良かった」と、嵐をやり過ごしたことを肯定してあげましょう。振り返りは、本人が完全にリフレッシュし、落ち着いた別の日に、絵カードや文字を使って「どうすれば次は楽になれるか」を一緒に考えるスタンスで行います。パニックを罰の対象にしないことが、信頼関係を守る鉄則です。
| 段階 | 本人の状態 | 支援者のアクション |
|---|---|---|
| 前兆期 | ソワソワする、独り言が増える | 早めに静かな場所へ誘う、休息を促す |
| 爆発期 | 叫ぶ、暴れる、自傷する | 安全確保に徹し、刺激(声かけ等)を減らす |
| 収束期 | 泣きじゃくる、眠る、ぼーっとする | 責めずに見守り、水分補給などを促す |
| 安定期 | 普段通りに過ごせる | 環境やスケジュールの見直しを検討する |
実例:こだわりを「安心の架け橋」に変えたエピソード
踏切の音にこだわり続けた少年Dくん
小学校3年生のDくんは、鉄道の踏切に対する強いこだわりがありました。散歩の途中で踏切に行くと、1時間以上も動かなくなり、無理に引き離そうとすると激しいパニックを起こして道路に飛び出そうとしました。お母さんは毎日ヘトヘトで、「踏切なんてなくなればいいのに」と涙を流していました。
ある日、支援員が提案したのは「踏切を禁止するのではなく、踏切をスケジュールに組み込む」ことでした。「今日は3回だけ電車を見ようね」と絵カードで約束し、終わったらDくんの好きな電車のシールを貼るようにしました。すると、Dくんは「約束を守ればまた次も来られる」という見通しを持てるようになり、パニックは徐々に減っていきました。
こだわりが「コミュニケーション」の扉を開く
さらに、Dくんのこだわりを家庭内でも活かしました。部屋の入り口に手作りの「遮断機」を作り、お母さんが家事をしていて入ってほしくない時は「遮断機を下ろす」というルールを作ったのです。言葉で「今はダメ」と言われるとパニックになったDくんですが、大好きな踏切のルールなら、面白がって守ることができました。
こだわりを「敵」として排除するのをやめ、「本人の共通言語」として取り入れた結果、お母さんとDくんの間に笑顔が増えました。今ではDくんは、踏切の音を聞き分ける特技を活かして、鉄道模型の走行音を作るイベントに参加するなど、社会との繋がりも持ち始めています。こだわりは、寄り添い方次第で「輝く個性」へと変貌するのです。
✅ 成功のコツ
本人のこだわりを無理に変えようとするエネルギーを、本人が「こだわりを楽しめる時間」を確保するために使いましょう。心が満たされると、他の場面での我慢も少しずつできるようになります。
予定変更のパニックを克服したEさんの話
就労移行支援事業所に通うEさんは、急な予定変更が大の苦手でした。スタッフが急病で休んだり、作業内容が変わったりするだけで、自分の席で頭を抱えて動けなくなっていました。スタッフはEさんのために、「予定変更が起きた時のマニュアル」を一緒に作成することにしました。
「スタッフが休みの時は、Aさんに聞く」「作業が変わったら、一度外の空気を吸いに行く」。こうした具体的な手順をスマホのメモに保存し、パニックになりそうな時に見返せるようにしました。「パニックになっても対処法がある」という自信が、Eさんの不安を和らげました。今ではEさんは、変更があっても自らマニュアルを確認し、落ち着いて行動できるようになっています。
家族・支援者のメンタルを守るために
「私のせい」という呪縛を解く
パニックが起きると、周囲の冷たい視線を感じ、「育て方が悪いのではないか」「支援が未熟だからではないか」と自分を責めてしまうことがあります。特に公共の場でのパニックは、支援者の精神を激しく削ります。しかし、断言します。パニックはあなたのせいではありません。それは本人の脳の特性であり、誰が悪いわけでもないのです。
自分を責めるエネルギーは、さらなる焦りを生み、本人へのイライラとなって返ってきてしまいます。パニックが起きた日は、「今日は特性が強く出た日だったんだな」と割り切り、自分へのご褒美をあげてください。「パニックと自分を切り離す」訓練をすることが、長く支援を続けるための秘訣です。あなたは、もう十分に頑張っています。
「お互い様」のネットワークを広げる
一人でパニックやこだわりに向き合い続けるのは、限界があります。同じ悩みを持つ親の会や、専門の相談機関、SNSのコミュニティなど、本音を吐き出せる場所を必ず持っておきましょう。「うちも昨日大変だったよ」という共感があるだけで、心は救われます。また、周囲の人に本人の特性を少しずつ伝えていくことも、将来的な「過ごしやすさ」に繋がります。
2026年現在は、地域の店舗や交通機関でも障害理解が深まりつつあります。周囲の助けを借りることは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、本人が社会の中で生きていくための「理解者の種まき」だと捉えてください。助けてと言える勇気が、あなたと本人を守る最強の武器になります。独りぼっちで戦う必要はありません。
💡 ポイント
「ヘルプマーク」や、パニック時の対応を書いた「サポートカード」を携帯しておきましょう。いざという時に、周囲に的確な協力をお願いしやすくなります。
プロの力を借りる勇気を持つ
パニックやこだわりが強く、生活に支障が出ている場合は、迷わず医療や福祉のプロに相談しましょう。投薬治療によって脳の過敏さを和らげたり、行動コンサルタントによる具体的な環境調整のアドバイスを受けたりすることで、事態が劇的に改善することもあります。根性論で乗り切ろうとするのは、本人も支援者もボロボロになるだけです。
外部のサービスを利用して本人と離れる時間を作ることも、立派な支援の一部です。「自分がいないとダメ」という思い込みを捨て、「プロの力を借りてチームで支える」体制を整えましょう。あなたが心身ともに健やかでいること。それが、本人にとっての「最高の安全基地」であることを忘れないでください。
よくある質問(FAQ)
Q. 道路やお店で寝転がって動かない時、強制的に連れて行くべきですか?
安全が確保されているなら、無理に動かさず、落ち着くまで待つのが理想です。しかし、危険な場所や営業の妨げになる場合は、周囲に謝りつつ、速やかに安全な場所へ(抱え上げてでも)移動させる必要があります。その際、声を荒らげたり叩いたりせず、「安全のために移動するよ」と短い言葉で伝えてから行動しましょう。移動後は、本人を落ち着かせるための時間を十分に取ってあげてください。
Q. 本人のこだわりをどこまで受け入れるべきか悩んでいます。
基準は2つです。「本人や周囲の安全を脅かさないか」と「家族の生活が破綻しないか」です。これらをクリアしているなら、基本的にはこだわりを尊重して構いません。逆に、家族の睡眠が削られたり、金銭的に無理があったりする場合は、代替案を探す必要があります。100%受け入れるか、0%にするかではなく、「ここまではOKだけど、ここからは無理」という境界線を、視覚的に分かりやすく提示していくことが大切です。
Q. パニックが怖くて外出するのが億劫になってしまいました。
そう思うのは、あなたがそれだけ辛い思いをしてきた証拠であり、自然な反応です。無理に遠出する必要はありません。まずは、自宅の庭や、必ず落ち着ける公園など、「安全な避難場所」がある範囲での外出からリハビリを始めましょう。また、デイサービスの送迎や、ガイドヘルパーさんの移動支援を利用して、プロの付き添いがある中で外出体験を積み直すのも一つの手です。焦らず、あなたの心が「行ってみようかな」と思える日を待ちましょう。
まとめ
パニックやこだわりに寄り添うことは、本人の「心の世界」を冒険するような旅です。その旅には困難も多いですが、本人の困り感を理解し、環境を整えていくプロセスは、何物にも代えがたい深い絆を育んでくれます。
- パニックは「SOS」である:本人の脳が限界を迎えているサインだと捉え、安全確保と刺激遮断に徹しましょう。
- こだわりは「安心の源」である:否定せず、予測可能な世界を作るための大切なツールとして尊重しましょう。
- 支援者自身の心を守る:自分を責めず、プロや周囲の助けを借りて、チームで支える体制を作りましょう。
今日からできるアクションとして、まずはパニックが起きた時の「環境の静かさ」を再確認してみてください。そして、本人が一番落ち着く「お守り」のようなアイテムを常に持ち歩く準備をしましょう。あなたが優しく見守るその瞳が、本人にとって世界で一番の安心できる場所になります。私たちは、あなたの寄り添う日々を、心から応援しています。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





