家族と支援者の間に“信頼関係”ができた日

見えない壁を越えて——家族と支援者の間に“信頼関係”が芽生えた瞬間
障害のあるお子さんやご家族を支える日々の中で、「支援者の方にどこまで本音を話していいのだろう」「こちらの苦労を本当に理解してくれているのだろうか」と、ふとした瞬間に孤独を感じることはありませんか。また、支援者の側も「ご家族に良かれと思って提案したけれど、負担を増やしてしまったのではないか」と、受容と提案の狭間で悩むことが少なくありません。
家族と支援者は、一人の当事者を支える「チーム」ですが、最初から完璧な信頼関係があるわけではありません。時には誤解が生じたり、遠慮から距離ができてしまったりすることもあります。しかし、あるきっかけを通じて、その距離が劇的に縮まり、手を取り合える日が必ずやってきます。この記事では、2026年現在の福祉現場の視点も交えながら、家族と支援者が本当の意味で「信頼関係」を築けた実例や、そのためのヒントを詳しくご紹介します。
信頼の第一歩は「弱音」を共有することから
「完璧な親」を演じるのをやめた日
多くのご家族は、支援者に対して「しっかりとした親」でありたいと願っています。家庭でのパニックや、日々の介助で疲れ果てている姿を隠し、面談では「大丈夫です、頑張っています」と答えてしまう。これは愛情ゆえの行動ですが、支援者にとっては「本当の課題」が見えにくくなる原因にもなります。
あるお母さんは、放課後等デイサービスのスタッフに対し、ある日ポロリと「もう疲れました、今日は夕飯を作る気力もありません」と涙をこぼしました。それを聞いたスタッフは、責めるどころか「教えてくださってありがとうございます。今日はデイでたっぷり遊んで、お子さんが家でぐっすり眠れるように調整しますね」と寄り添いました。この瞬間、お母さんにとって支援者は「評価する人」から「苦しみを分かち合うパートナー」に変わったのです。
支援者が「分からない」と認める勇気
信頼関係は、支援者の側が「プロとしての万能感」を手放したときにも生まれます。2025年の支援者向けアンケートでは、保護者が最も信頼を感じる瞬間として「分からないことを一緒に考えてくれる姿勢」が上位にランクインしています。専門用語を並べて指導するのではなく、「お子さんのこの行動、どう対応するのがベストか一緒に考えさせてください」と言える誠実さが大切です。
支援者はその分野の専門家かもしれませんが、お子さんの人生の専門家はご家族です。支援者がご家族の知識や経験に敬意を払い、「共に迷う」ことを受け入れたとき、家族と支援者の間にある見えない壁は崩れ始めます。お互いが弱さを見せ合える関係こそが、最も強固な信頼の土台となります。
💡 ポイント
信頼とは「期待通りに動くこと」ではなく、「期待と違ったときでも対話ができること」を指します。まずは小さな本音を伝えることから始めてみましょう。
共通の「小さな喜び」を見つける
大きな目標(自立や就職など)を追いかけるあまり、日々の小さな成長を見落としてはいませんか。家族と支援者が、「今日、自分でお箸を持てましたね!」「帰り際、笑顔でバイバイしてくれました」といった、他人から見れば些細な変化を一緒に喜べるとき、絆は深まります。
2026年の福祉現場では、ICTを活用した連絡帳アプリの普及により、写真や動画でのリアルタイムな共有が進んでいます。言葉だけでは伝わりにくい「できた!」の瞬間を可視化することで、家族と支援者の間に「同じ温度感の感動」が生まれます。この小さな感動の積み重ねが、将来大きな困難にぶつかったときに、お互いを信じる力となるのです。
コミュニケーションの「ズレ」を解消する技術
期待値のすり合わせを定期的に行う
「支援者ならこれくらいやってくれるはず」「家族ならこうしてくれるだろう」という暗黙の期待は、往々にしてズレが生じるものです。このズレを放置すると、「あんなにお願いしたのに分かってくれない」という不信感に繋がります。大切なのは、定期的かつ具体的に「今、何を優先したいか」を確認し合うことです。
例えば、「今はスキルアップよりも、生活のリズムを整えることを優先したい」というご家族の意向と、「せっかく伸びているから新しい課題に挑戦させたい」という支援者の意向がぶつかることがあります。これはどちらが正しいというわけではなく、視点の違いです。テーブルの上にそれぞれの考えを出し合い、「今は休息、3ヶ月後から挑戦」といった妥協点を見つけるプロセスが、信頼を醸成します。
「聞き上手」になるためのアクティブリスニング
家族と支援者の対話において、最も重要なのは「ジャッジ(審判)」をしないことです。支援者はご家族の話を否定せず、まずは丸ごと受け止める「アクティブリスニング(積極的傾聴)」を心がけましょう。同様にご家族も、支援者の提案が現状に合わないと感じたときは、「それは無理です」と断る前に「今の家の中の状況だと、そこまで手が回らないんです」と理由を添えて伝えてみてください。
お互いが「相手を論破する」のではなく、「相手の背景を理解する」というスタンスを持つことが重要です。心理学の研究では、自分の話を正しく理解されたと感じたとき、脳内に信頼ホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌されると言われています。言葉の裏にある「不安」や「願い」に耳を傾けることで、コミュニケーションの質は劇的に向上します。
✅ 成功のコツ
話し合いの最後には必ず「今日決まったこと」を確認しましょう。お互いの認識が一致していることを確認するだけで、後のトラブルを大幅に減らせます。
情報共有の「質」を高める工夫
単に「今日は元気でした」という報告だけでは、信頼は深まりません。2025年に実施されたケアマネジメントの調査データによると、情報共有の具体性が高いほど、サービス継続率が高いという結果が出ています。「〇〇という場面で、△△という配慮をしたら、お子さんが□□のように反応しました」という「条件・配慮・結果」のセットで共有しましょう。
ご家族側からも、家での様子を「成功したこと」だけでなく「失敗したこと」も隠さず伝えてください。失敗の情報こそが、支援者にとって新しい配慮のヒントになります。「昨夜は夜更かししてしまったので、今日は疲れやすいかもしれません」といった何気ない共有が、支援の精度を高め、結果としてお子さんの安心に繋がります。
実例:私たちはこうして「チーム」になった
事例1:パニック対応で一致団結したAさんの家族
自閉スペクトラム症のあるAくんは、外出先での激しいパニックが課題でした。お母さんは「周囲に迷惑をかけるのが怖くて外出が苦痛」と感じていましたが、相談支援専門員とヘルパーさんは諦めませんでした。彼らは何度も会議を重ね、パニックが起きる前兆や、落ち着くための「クールダウンシート」を共同で作成しました。
ある日、実際に外出先で大きなパニックが起きた際、ヘルパーさんはシートに基づき冷静に対応。お母さんも動揺せず、事前に決めていた役割を果たしました。騒動が収まった後、ヘルパーさんが「お母さんのサインの出し方、完璧でしたね」と言ったとき、お母さんは「一人で戦っているんじゃないんだ」と心の底から実感しました。この事件を境に、お母さんと支援者の間には、戦友のような深い信頼が生まれました。
事例2:長期入院を乗り越えたBさんと支援チーム
重度の身体障害があるBさんは、体調を崩しやすく長期入院を余儀なくされることがありました。その間、地域のヘルパー事業所や相談員は、お母さんを孤立させないよう、病院での面会時に他愛もない話をしたり、退院後の生活プランを何度も書き直したりして支え続けました。
「私が病室で一人で泣いていたとき、相談員さんが『お母さんが笑える場所を必ず作りますから』と言ってくれたんです。あの言葉があったから、今の穏やかな生活があります。」
— Bさんのお母さんの声
Bさんの退院後、チームの結束力は以前にも増して強まりました。苦しい時期を共に過ごした経験が、「この人たちなら何を話しても大丈夫」という確信に変わったのです。信頼とは、穏やかな時だけでなく、嵐の時にこそ育まれるものです。
事例3:不登校から社会復帰を目指したCくんのケース
精神的な不安定さから引きこもり状態だったCくん。当初、ご両親は就労支援センターのスタッフを「息子を無理やり外に出そうとする人たち」と警戒していました。しかし、スタッフは半年間、無理に勧誘するのではなく、ただご両親の話を聞きに自宅へ通い続けました。Cくんの趣味の話や、ご両親のこれまでの葛藤に真摯に向き合う日々でした。
ある日、父親がスタッフに「実は私たちもどう接していいか分からなくて、八つ当たりしていました」と謝罪しました。スタッフは「それだけCさんを愛している証拠ですよ」と答え、そこから具体的な支援計画が動き出しました。スタッフが「息子」だけでなく「家族全体」を支えようとする姿勢を見せたことが、不信感を信頼へと変えたのです。
⚠️ 注意
一度築いた信頼関係も、放置すれば薄れてしまいます。定期的にお互いの労いを忘れず、「ありがとう」を言葉にすることが長期的な関係維持の秘訣です。
よくある質問(FAQ)
Q. 支援者の方と意見が合いません。担当を変えてもらうべき?
意見の相違は、より良い支援を作るための「チャンス」でもあります。まずは、なぜ意見が違うのかを論理的に話し合ってみましょう。それでも解決せず、お子さんの不利益になるようであれば、担当交代や事業所の変更を検討することも一つの正当な権利です。2026年現在は、利用者主体の「セルフプラン」や「相談支援」の選択肢も広がっています。「誰のために、何が最善か」という軸を忘れずに、誠実に判断しましょう。
Q. 支援者の方に気を使いすぎて疲れてしまいます。
「自分たちがしっかりしなきゃ」という責任感が強いご家族ほど、支援者に対しても気を使いがちです。しかし、支援者の本来の仕事は「ご家族の負担を減らすこと」です。気を使いすぎることで逆に情報が伝わらなくなるのは、お互いにとっての損失です。「実はちょっと疲れていて、今日の報告は短めでいいですか?」といった正直なリクエストは、支援者にとっても「本音を話してくれている」という安心感に繋がります。プロを上手に「使いこなす」くらいの気持ちでいましょう。
Q. 信頼していたスタッフが辞めてしまいました。どう向き合えばいい?
福祉業界では人材流動が激しく、信頼していた担当者が去ってしまうのは非常に辛い経験です。しかし、これまでの信頼関係で得られた「知恵」や「工夫」は、お子さんやご家族の中にしっかりと残っています。新しい担当者に対しては、「前の担当者とは、こういうやり方で上手くいっていました」という「成功パターンの引き継ぎ」を自ら主導してみましょう。過去の信頼を新しい信頼の種にすることで、チームはより強固にアップデートされていきます。
「チーム」として未来を描くための3つの提案
1. ポジティブなフィードバックを贈る
支援者は、トラブルやパニックの対応など、ネガティブな場面で呼ばれることが多いものです。だからこそ、「あの時の配慮のおかげで、家でも落ち着いて過ごせました」「スタッフさんの笑顔に救われました」といったポジティブなフィードバックは、彼らにとって何よりの報酬になります。2025年のケアワーカーのモチベーション調査でも、「利用者家族からの感謝の言葉」が最大のやりがいとして挙げられています。
感謝を伝えることは、支援者の自己肯定感を高め、結果としてより質の高い支援をあなたのお子さんに還元することに繋がります。お互いに「認め合う」文化を作ることで、チーム全体の雰囲気が明るくなり、お子さんにとっても最高の成長環境が整います。言葉にすることの力を信じましょう。
2. 共通の「支援のしおり」を作成する
口頭での情報共有には限界があります。家族、ヘルパー、学校、相談員など、関わる人が多い場合は、共通の「マニュアル」や「プロフィールシート」を作成することをお勧めします。これは単なる情報の羅列ではなく、「チームの羅針盤」です。例えば、「パニックの時はこうしてほしい」「この言葉をかけると安心する」といった情報を一元化することで、誰が担当しても一貫した対応が可能になります。
このシートを一緒に作成するプロセスそのものが、家族と支援者の「価値観のすり合わせ」になります。「うちはこの言葉は使いたくない」「このスキルを伸ばしてあげたい」といった想いを明文化することで、チームの目指す方向がピタリと一致します。2026年現在はデジタルツールで更新も容易ですので、ぜひ「私たちのチームの教科書」を作ってみてください。
3. 「自分たちの時間」を大切にする勇気を持つ
家族と支援者の良好な関係を維持するためには、ご家族自身が「ケアだけに追われない時間」を持つことが不可欠です。支援者に対して、「この時間はレスパイト(休息)として使いたいので、完全にお任せします」と宣言する勇気を持ってください。支援者側も、ご家族がリフレッシュして笑顔で戻ってくることを、心から願っています。
ご家族が元気でいることは、支援の成功の50%を占めると言っても過言ではありません。支援者を「自分の自由時間を奪う他人」ではなく、「自分の人生を取り戻すためのパートナー」として捉え直したとき、信頼関係は完成します。お互いに自立し、尊重し合える関係。それこそが、一人の当事者を支え続けるための、最強の持続可能な形です。
| 関係性の段階 | 特徴 | 必要なアクション |
|---|---|---|
| 導入期 | 緊張、遠慮、手探り状態 | 頻繁な情報共有と顔合わせ |
| 葛藤期 | 意見の相違、期待のズレが表面化 | 本音での対話と期待値の調整 |
| 安定期 | 弱音の共有、阿吽の呼吸 | 定期的な振り返りと労いの言葉 |
| 成熟期 | 自律したチーム、未来の共創 | 新しい可能性への挑戦と感謝の循環 |
まとめ
家族と支援者の信頼関係は、一朝一夕にできるものではありません。それは、日々の小さなやり取り、時にはぶつかり合う葛藤、そして共に流した涙や笑いの積み重ねによって、ゆっくりと、しかし確実に育まれていくものです。
- 弱さを分かち合う:完璧を演じるのをやめ、等身大の言葉で対話しましょう。
- 具体的に共有する:曖昧さを排し、事実に基づいた情報交換でミスマッチを防ぎましょう。
- 共に喜ぶ:小さな成長を最大級に祝い、チームの士気を高めましょう。
まずは次の面談の時、支援者の方に「いつもありがとうございます。実は最近、こんなことで悩んでいるんです」と、普段なら飲み込んでしまうような一言を伝えてみませんか。その一言が、あなたと支援者が本当の「チーム」になるための、魔法の合図になるかもしれません。私たちは、あなたが一人で抱え込まず、信頼できる仲間に囲まれて笑顔で過ごせる日を、心から応援しています。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





