ミスが多いと言われる…発達障害の特性理解と職場対応

ミスが多いと言われる…発達障害の特性理解と職場対応:努力で解決できない「ミスの正体」と具体的な支援策
「なぜ自分だけ、こんなにミスが多いんだろう……」
「どんなに注意しても、同じミスを繰り返してしまう。もう何を信じていいか分からない……」
発達障害(ADHD、ASD、SLDなど)の特性を持つ方にとって、「ミスが多い」という指摘は、職場での最大の悩みの一つとなりがちです。当事者はもちろん、ご家族や支援者の方も、この問題の根深さに途方に暮れてしまうかもしれません。
しかし、ミスの多さは、本人のやる気や努力不足ではなく、特性による「情報処理の偏り」と「環境とのミスマッチ」から生じています。叱責や根性論で解決できるものではありません。
この記事では、発達障害の特性が、仕事のプロセス(インプット、実行、アウトプット)のどの段階で「ミス」という形で現れるのかを科学的に分析します。そして、当事者の方が自己理解を深め、企業に適切な支援(合理的配慮)を求めるための具体的な手順と、支援者・企業が導入すべき対策を、詳細なステップでご紹介します。「ミスの正体」を理解し、職場での成功への道筋を見つけましょう。
ステップ1:ミスの原因分析と特性の関連性
原因1:インプット段階でのミス(指示・情報理解の困難)
ミスは、必ずしも作業の途中で起こるわけではありません。そもそも仕事の指示や情報を正しく受け取れていない「インプット段階」で、既にミスの原因が作られている場合があります。
インプットミスを引き起こす特性と具体的なミス例
- 聴覚情報の処理困難(ADHD/ASD): 上司の口頭での指示を最後まで聞き取れない、あるいは、複数の指示を同時に処理できないため、タスクが抜け落ちる。
- ワーキングメモリの不足(ADHD): 指示を聞いている間に、前半の内容を忘れてしまい、作業に取り掛かる前に既に情報が欠損している。
- 抽象的な言葉の誤解(ASD): 「急いで」「適当に」といった曖昧な言葉を独自の解釈で実行し、求められている結果と異なるものを作り出してしまう。
💡 ポイント
この段階でのミスは、当事者が「分かったつもり」になっていることが多く、上司側も「指示した」という認識でいるため、原因究明が最も難しいタイプのミスです。必ず「文書化」で防ぐ必要があります。
原因2:実行段階でのミス(計画・実行機能の困難)
指示を理解した後、実際に作業を進めている「実行段階」で、特性がミスに繋がることも非常に多いです。これは、主にADHD特性の方に見られる「実行機能」に関する困難です。
実行ミスを引き起こす特性と具体的なミス例
- 計画立案・優先順位付けの困難(ADHD): 何から手をつけるべきか判断できず、目の前の簡単なタスクから手を付けてしまい、重要度の高いタスクの納期に遅れる。
- 注意の転換・維持の困難(ADHD): 作業中に外部の音や視覚刺激で注意が逸れてしまい、集中力が途切れ、ケアレスミスを連発する。または、過集中になりすぎて、休憩や次のタスクへの切り替えが遅れる。
- 段取りの困難(ASD/ADHD): 複数のステップがある作業で、手順を飛ばしたり、順番を間違えたりしてしまう。
実行機能の困難は、特にマルチタスクや、時間管理が求められる業務で顕著に現れます。これは、外部のツールや他者の支援によって「実行機能」を補う必要があります。
原因3:アウトプット段階でのミス(確認・終了の困難)
作業が終わり、提出や報告を行う「アウトプット段階」で生じるミスです。これは、作業自体は正しく行えたにもかかわらず、最終チェックの段階で特性が出てしまうケースです。
アウトプットミスを引き起こす特性と具体的なミス例
- 衝動性の特性(ADHD): 「早く終わらせたい」という衝動から、確認をせずに提出してしまい、初歩的な誤字脱字や計算間違いを見逃す。
- 自己評価の困難(ASD): 自分がどこまで完璧にできたか、客観的に評価することが難しく、不十分な状態で作業を終了してしまう。
- こだわり・終了の困難(ASD): 自分の基準で「完璧」に近づけることにこだわりすぎ、納期ギリギリまで作業を続け、確認時間が取れなくなる。
この段階でのミスを防ぐためには、「セルフチェックリスト」の活用や、「ダブルチェックの仕組み」を組織的に導入することが不可欠です。
ステップ2:特性別のミスの改善策(合理的配慮)
改善策1:指示・情報理解のミスを防ぐ「構造化」
インプット段階のミスを防ぐためには、「指示の構造化」(情報を整理して伝えること)が最も重要です。当事者だけでなく、企業側にも協力を求めるべき合理的配慮の中心となります。
指示の構造化のための具体的支援
- 文書化の徹底: 全ての指示は、口頭ではなくメール、チャット、または指示書で明確に文書化してもらう。
- 指示書のフォーマット化: 指示書には、「タスク名」「納期」「優先度(高・中・低)」「完了の定義」を必ず明記するフォーマットを使用してもらう。
- リピートバックの習慣: 当事者が指示を受けた後、必ず「理解した内容を自分の言葉で復唱し、上司に確認してもらう」プロセスをルール化する。
「口頭で『これ、さっきの資料と同じ形式で、明日までにやっておいて』と言われると、形式が何だったか、何時までか、パニックになる。メールで箇条書きにしてもらうだけで、不安が8割減る。」
— 発達障害当事者の声
この構造化は、ミスの原因を「指示の曖昧さ」から排除し、当事者が仕事に集中できる土台を作ります。
改善策2:実行・計画のミスを防ぐ「外部機能の活用」
実行機能の困難は、自力で克服するのが難しいため、外部のツールやシステムを「脳の代わり」として活用する合理的配慮を導入します。
実行支援のための具体的支援
- タスク管理ツールの導入: ToDoリスト、カンバン方式(進捗を可視化)、ガントチャートなど、タスクの全体像と優先順位を常に視覚的に確認できるツールを導入する。
- リマインダーの徹底: 重要なタスクの締め切りや、休憩時間、次の会議開始10分前などにアラームやポップアップで通知する仕組みを導入する。
- 集中のための環境調整: ノイズキャンセリングイヤホンやパーテーションの使用を許可し、外部の刺激による注意散漫を防ぐ(感覚過敏の配慮も兼ねる)。
- ジョブ・リデザイン: 複数のタスクを同時に処理するマルチタスク業務を減らし、単一のタスクに集中できる業務に特化してもらう。
これらの支援は、当事者が本来持つ「一つのことに集中する力」を最大限に引き出すための土壌を作ります。
改善策3:確認・アウトプットのミスを防ぐ「チェック体制」
最終的なアウトプット段階のミスは、「第三者の目」と「客観的な基準」によって防ぐことができます。
アウトプット支援のための具体的支援
- セルフチェックリストの作成: 業務ごとに「最終チェックの項目(例:ファイル名の確認、日付の確認、誤字脱字の確認)」を明確にリスト化し、提出前に必ず本人がチェックを行う。
- ダブルチェックの義務化: 重要な書類やデータについては、上司や別の社員によるダブルチェックを業務プロセスとして義務づける。
- 提出時間の調整: 衝動性によるミスを防ぐため、「提出時間の30分前に必ずチェックリストに従って確認する時間」を設け、チェックが完了するまで提出を保留するルールを導入する。
特にセルフチェックリストは、漠然とした「確認」という行為を、具体的に「やるべき行動」に分解してくれるため、特性を持つ方にとって非常に有効なツールとなります。
ステップ3:業務フロー全体を「ミスの予防線」で構造化する
予防線1:ミスの発生源を特定する「業務記録」の義務化
ミスを減らすためには、まず「ミスがいつ、なぜ起きたのか」を正確に把握することが不可欠です。当事者と支援者が協力し、ミスの発生源を特定するための「業務記録」を作成し、定期的に振り返る仕組みを導入します。
業務記録シートに含めるべき項目
| 項目 | 記録内容の例 | 原因分析(支援者と共同) |
|---|---|---|
| 日時・タスク名 | 〇月〇日 10時、顧客Aへの見積もり作成 | — |
| ミス内容 | 金額の桁を間違えた(5万円を50万円と記載) | — |
| ミスの発生段階 | (チェック)アウトプット段階 | — |
| 推定原因 | 集中力が切れ、チェックリストを使わなかった。 | 衝動性、実行機能の低下 |
| 必要な対策 | 休憩後の「30分ルール」を導入し、必ずチェックリストを使う。 | — |
この記録を支援者が分析することで、単なる「不注意」で片付けられていたミスが、「疲労によるワーキングメモリの低下」「指示の曖昧さ」といった具体的な構造的問題として特定され、根本的な対策へと繋がります。
予防線2:ミスの頻度に応じた「フィードバックの調整」
ミスが多い当事者に対し、叱責や感情的なフィードバックを繰り返すことは、自己肯定感を下げ、かえってミスを増やす原因となります。フィードバックの頻度や方法を調整する合理的配慮が必要です。
- ポジティブフィードバックの重視: ミスを指摘する際には、必ず「前回よりも良くなっている点」や「達成できた点」を先に伝え、ポジティブな側面を強調する。
- フィードバックの構造化: 指摘は「いつ、何を、どうすれば良いか」を箇条書きにし、感情的な要素を排除する(例:「〇〇ではなく、△△をしてください」)。
- 頻度の調整: 小さなミス一つ一つを指摘するのではなく、「週に一度の定着面談」でまとめて指導するなど、フィードバックの頻度を意図的に調整し、プレッシャーを減らす。
✅ 成功のコツ
支援者は、企業に対し、「ミスを減らすことが目的であり、叱責はその目的に繋がらない」という点を強く伝え、冷静な対応を促すことが重要です。
予防線3:ミスのリスクが高い業務の「ジョブ・リデザイン」
特定の業務(例:電話応対、データ入力)でミスの傾向が続く場合、当事者の特性に合わせて職務内容を再設計(ジョブ・リデザイン)する戦略的な支援が必要です。
- 対人業務の最小化: 聴覚過敏や非言語情報の読み取り困難が強い場合は、電話応対や来客対応など、即座の判断や複雑なコミュニケーションが求められる業務から外してもらう。
- 得意分野への特化: 集中力や論理性が発揮されるデータ分析、資料作成、プログラミングなど、ミスの少ない得意な業務に職務を特化してもらう。
- 業務ローテーションの調整: 新しいタスクを覚えるのが苦手な場合、業務ローテーションをゆっくりにしてもらうか、固定的な業務に限定してもらう。
ミスの少ない業務で成果を出すことが、自信回復と長期的な定着に繋がります。
ステップ4:自己理解を深めるための支援と外部機関の活用
支援1:特性の客観的な理解(アセスメント)
当事者自身が、自分の「ミスの正体」を客観的に理解できるよう、専門家によるアセスメントを受けることを支援します。
活用すべきアセスメント例
- 心理検査(WISC/WAIS): ワーキングメモリや処理速度、言語理解能力などの認知特性を数値で把握し、ミスの根本原因となっている能力の偏りを明確にする。
- 職業適性検査: 興味や能力の傾向を客観的に把握し、ミスのリスクが低い「向いている職務」の方向性を見つける。
- 専門医の診断: 医師による診断名(ADHD、ASDなど)と、具体的な困りごとや必要な配慮を明記した意見書を作成してもらう(合理的配慮を求める際の強力な根拠となる)。
客観的なデータに基づいた自己理解は、「努力が足りないせいだ」という自己否定のループから抜け出すための大きな一歩となります。
支援2:ジョブコーチによる「現場への橋渡し」
ミスの多い当事者への支援は、机上の計画だけでなく、「現場」で実行されることが重要です。ジョブコーチによる職場訪問支援は、このギャップを埋めるのに最適です。
- ミスの現場観察: ジョブコーチが実際の業務現場でミスの発生状況を観察し、「指示の与え方」「作業環境」「休憩のタイミング」など、企業側が気づいていない構造的な問題を発見する。
- 企業への指導: 観察結果に基づき、ジョブコーチが企業側に対し、「指示の文書化の徹底」「チェックリストの活用方法」など、具体的な配慮の導入と定着を指導する。
- 当事者への指導: 当事者に対し、「この段階で深呼吸してチェックしてください」「質問する時は結論から話しましょう」など、実践的な行動変容を促す。
ジョブコーチの介入により、ミスの原因究明から改善策の実行まで、中立的かつ専門的な視点で一貫した支援が可能となります。
支援3:メンタルヘルスと二次障害の予防
ミスを繰り返すことによる自責の念や職場での孤立は、うつ病や適応障害などの二次障害に繋がる最大のリスクです。メンタルヘルスを守るための支援は、ミスの直接的な対策以上に重要です。
- 専門家との相談: 定期的に臨床心理士やカウンセラーとの面談の機会を設け、ミスへの不安やストレスを吐き出す場所を確保する。
- セルフケアの指導: 疲労やストレスを自覚しにくい特性があるため、意識的に休憩を取る、趣味に没頭する時間を持つなど、「セルフケアのルーティン」を支援者が共に構築する。
- 職場での孤立防止: ミスを減らすための配慮だけでなく、メンター制度を導入し、業務外のサポートや交流の機会を確保する(無理のない範囲で)。
ミスを恐れず、安心して働ける心理的な安全を確保することが、結果的にミスの減少に繋がります。
まとめ
- 🔍 原因の特定: ミスはインプット(指示)、実行(計画)、アウトプット(確認)の3段階のどこで起きているかを業務記録で特定し、その背後にある特性を理解しましょう。
- 📑 合理的配慮の実践: 指示の文書化、タスク管理ツールの導入、ダブルチェックの義務化など、特性を補うための「仕組み」を企業に導入してもらいましょう。
- 🤝 外部支援の活用: ジョブコーチや支援センターと連携し、特性の客観的なアセスメントを行い、企業への指導と職務の再設計(ジョブ・リデザイン)を進めましょう。

酒井 勝利
(さかい かつとし)38歳📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター
作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。
リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。
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💭 福祉の道を選んだ理由
リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。
🎨 趣味・特技
DIY、キャンプ
🔍 最近気になっているテーマ
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