合理的配慮が必要になる理由と判断ポイント

障害を持つ方が、社会の構成員として、対等かつ主体的に参加できる環境を整備することは、現代社会の責務です。この実現に向けた具体的な手段の核となるのが、**「合理的配慮(ごうりてきはいりょ)」です。合理的配慮は、単なる「優しさ」や「恩恵」ではなく、「障害者の権利」を守り、「社会にある障壁」を取り除くための法的な義務として位置づけられています。
しかし、なぜ「合理的配慮」が必要なのでしょうか? そして、「どこまでの配慮が求められるのか」「過度な負担かどうかをどう判断するのか」といった、「配慮の必要性とその判断基準」**に関する疑問は、配慮を求める側にも、提供する側にも共通する大きな課題です。
このガイド記事では、合理的配慮がなぜ私たちの社会に不可欠なのかという「根源的な理由」を深掘りしつつ、実際に配慮の提供を「判断する際の具体的なステップとポイント」を、障害者差別解消法の趣旨に基づき、徹底的にわかりやすく解説します。
この情報を通じて、皆様が合理的配慮を「特別なこと」ではなく、「社会を円滑にするための共通ルール」として理解し、その実効性を高めるための一助となることを願っています。
パート1:なぜ合理的配慮は不可欠なのか?—必要性の根拠
合理的配慮の必要性は、大きく分けて「権利の保障」「差別の解消」「社会モデルの実現」という3つの根拠に基づいています。
1.国際的な人権基準—「権利の保障」
合理的配慮は、障害者の人権を守るための国際的な基準として位置づけられています。
- 国連障害者権利条約:日本が 2014年に批准したこの条約は、締約国に対し、「合理的配慮の否定は差別である」と明確に定めています。つまり、配慮の不提供は、人権侵害に当たると解釈されます。
- 目的:障害を持つ方が、他の人と同じように社会生活のあらゆる領域に参加する権利を、具体的に保障するためです。単に「障害があるからできない」と諦めるのではなく、社会の側が環境を調整することで、「できる」ようにするための支援です。
2.社会にある「障壁」を取り除く—「差別の解消」
障害者差別解消法がターゲットとするのは、「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」の2種類です。
- 社会モデルの実現:障害の原因を「個人の心身の機能の制約」にあるとする「医学モデル」に対し、「社会の側にある物理的・制度的・意識的な障壁」にあるとするのが「社会モデル」です。合理的配慮は、この社会モデルに基づき、社会にある障壁を具体的に取り除く手段です。
- 例:車いす利用者が建物に入れないのは、「その人の足が悪いから」ではなく、「建物にスロープがないという社会の障壁」があるからです。合理的配慮は、この障壁(スロープがないこと)を、携帯スロープの設置という個別の調整で取り除きます。
3.社会全体の利益—「インクルージョンの促進」
合理的配慮は、障害者個人の利益だけでなく、社会全体の持続的な発展にも寄与します。
- 多様性の確保:多様な人材が能力を発揮できる環境は、企業や組織の生産性やイノベーションの向上に繋がります。
- 潜在的能力の解放:配慮によって障壁が取り除かれれば、障害を持つ方が学校で学び、職場で働くことが可能になり、社会全体の労働力や知識基盤が豊かになります。
パート2:合理的配慮を始めるための「3つのステップ」
合理的配慮は、「意思表示」「対話」「実現」という3つのステップを踏むことで円滑に進みます。特に、当事者からの意思表示がスタート地点となることを理解することが重要です。
ステップ1:当事者からの「意思表示」
配慮の提供は、障害を持つ本人(または家族・支援者)から、困っている状況と必要な配慮の意思が示された時点で始まります。
- 何を伝えるか:
- 困りごとの具体化:「落ち着かない」ではなく、「騒音で集中できず、作業が進まない」など、具体的な状況とそれがもたらす影響を伝えます。
- 必要な配慮の提示:「静かな席にしてほしい」「文書での指示にしてほしい」など、希望する配慮の内容を明確に伝えます。
- 注意点:事業者は、意思表示がないのに一方的に配慮を押し付けることはできません。また、配慮の裏付けとなる情報(手帳、診断書など)の提示を求められた場合、可能な範囲で協力すると対話がスムーズになります。
ステップ2:提供者との「建設的対話」
意思表示を受け取った事業者は、すぐに配慮の実現に向けて、当事者との対話に入ります。
- 拒否ではなく代替案:求められた配慮が「過度な負担」になりそうでも、すぐに拒否せず、「なぜ難しいのか」を丁寧に説明し、「どこまでならできるか」「代替案はないか」を当事者と話し合います。
- 情報共有:障害特性とそれに伴う困難さ、そして事業者の事業の性質や財政状況など、お互いの情報を開示し合うことで、最適な落としどころが見つかりやすくなります。
ステップ3:配慮の「実現と見直し」
対話の結果、合意された配慮を実行します。しかし、これで終わりではありません。
- 実施と記録:合意内容に基づき配慮を実施し、いつ、どのような配慮を提供したかを記録します。
- 定期的な見直し:配慮の効果は、時間経過や環境の変化、当事者の状況の変化によって変わります。定期的(例:3ヶ月に一度、年度ごと)に当事者からフィードバックを受け、配慮の内容を見直します。
パート3:合理的配慮の提供を「判断する際の5つのポイント」
事業者が「過度な負担」になるかどうか、つまり「合理的」であるかどうかを判断する際には、以下の5つの客観的な要素を総合的に検討する必要があります。
ポイント1:事業者の「事業の性質と規模」
配慮の提供能力は、事業者の体力に左右されます。
- 大企業と中小企業:大規模な企業や公共性の高い機関(大病院、主要な交通機関など)は、費用や人員の面で対応能力が高いと見なされやすく、より高度な配慮が求められる傾向があります。
- 個人事業:小規模な個人商店などでは、多額の費用がかかる設備投資や、専門性の高い常時人員配置は「過度な負担」と判断されやすくなります。
ポイント2:「費用・財政的負担」の程度
配慮にかかる費用が、事業の継続を危うくするほど高額であるかどうかが判断されます。
- 高額な設備投資:エレベーターの新設や、全フロアのトイレのバリアフリー化など、多額の初期費用がかかるものは、過度な負担となる可能性があります。
- 人件費:配慮のために、新たな専門職員を雇用する必要が生じる場合、それが事業の財政に与える影響。
- 公的支援の活用:国や自治体の助成金や補助金を利用できる場合、事業者自身の費用負担が軽減されるため、過度な負担とは判断されにくくなります。
ポイント3:「実現の可能性」と「安全性」
配慮を実現するための技術的な難しさや、それによって第三者の安全が脅かされないかという点も重要です。
- 技術的な困難:古い建物で耐震性の問題からスロープ設置が物理的に不可能な場合など、技術的な限界。
- 安全性の確保:特定の配慮を行うことで、他の利用者や従業員の安全が確保できなくなる場合(例:危険な場所での常時付き添い要請など)。
- 代替案の有無:求められた配慮が不可能であっても、代替手段(例:対面対応が無理なら、メールや電話で対応する)が存在するかどうか。
ポイント4:「公益性・緊急性」の度合い
その配慮が、社会全体にとってどの程度の必要性や緊急性を持つかという視点です。
- 医療・行政:病院での診察や命に関わる医療行為、役所での緊急な手続きなど、生活に不可欠なサービスに関わる配慮は、公共性が高く、優先的に実現が求められます。
- 緊急性:例えば、地震などの災害時における避難誘導や情報伝達の配慮は、緊急性が極めて高いため、特別な対応が求められます。
ポイント5:「配慮による影響」の程度
特定の配慮が、他の利用者や従業員に不利益を与えないかという点も考慮されます。
- 他の利用者の権利:聴覚障害者への配慮として手話通訳を手配した際に、そのせいで他の利用者の待ち時間が極端に長くなるなど、配慮が第三者に不利益を及ぼす場合。
- 代替案の再検討:この影響を最小限に抑えるための他の配慮の選択肢を再検討することが、建設的対話の重要な部分となります。
✅ 総合的な判断が原則
上記の5つのポイントは、一つだけで判断されるものではなく、全ての要素を総合的に検討して、「過度な負担」になるかどうか、すなわち「合理的」であるかどうかを判断します。
パート4:配慮を求める側・提供側の誤解と正しい理解
合理的配慮をめぐる議論では、いくつかの誤解が生じやすいため、正しい理解を共有しておくことが重要です。
1.当事者側の誤解:「何でも要求できる」わけではない
合理的配慮は、「権利」ですが、それは「自己中心的な要求」を意味するものではありません。
- 過度な要求は控える:最初から「最新設備を導入しろ」など、明らかに事業者の財政や規模を超えた要求をすることは、対話を困難にします。まずは「費用が少なくて済む代替案」から提案しましょう。
- 医師の指示との違い:合理的配慮は、医療的な「絶対的な指示」ではありません。あくまで「社会にある障壁を取り除くための柔軟な調整」であり、提供者との合意が必要です。
2.事業者側の誤解:「前例がないから拒否」はできない
合理的配慮は、個別的・具体的な対応が求められるため、「マニュアルにない」「前例がない」という理由で、申し出を検討せずに拒否することは、差別に該当する可能性があります。
- 義務化の重み:2024年4月以降、民間事業者にも合理的配慮の提供は義務となりました。前例主義ではなく、「現時点で可能な最善の対応」を検討する姿勢が求められます。
- マニュアル作成の必要性:よくあるニーズ(筆談、誘導など)については、事業者側であらかじめ対応手順をマニュアル化しておくことが、現場の負担軽減とスムーズな対応につながります。
パート5:合理的配慮の実効性を高めるための連携
合理的配慮が机上の空論で終わらず、実際に機能するためには、専門職や公的機関との連携が欠かせません。
1.相談支援専門員の活用
サービス等利用計画を作成する相談支援専門員は、合理的配慮のプロセスにおいても重要な役割を担います。
- ニーズの言語化:当事者の困りごとや特性を客観的に言語化し、事業者に伝わりやすい形で配慮内容を整理します。
- 対話の仲介:当事者と事業者の間で意見が対立した場合、中立的な立場から対話を仲介し、建設的な解決策を導き出すサポートを行います。
2.自治体・地域協議会の役割
自治体が主体となって設置する「障害者差別解消支援地域協議会」は、紛争解決の場としての機能も持ちます。
- 事例の蓄積:地域協議会は、地域内の合理的配慮の事例や成功例を蓄積し、それを地域内の他の事業者と共有することで、配慮の提供を促します。
- 相談窓口:配慮の不提供によって差別が疑われる場合、この協議会や自治体の人権相談窓口が、最初の相談先となります。
⚠️ 記録と証拠
配慮を求めたが拒否された、あるいは合意内容が守られていないという状況が発生した場合、いつ、誰に、どのような配慮を求めたか、そして拒否された理由などを、文書やメールで記録し、証拠として残しておくことが、後の相談や紛争解決において極めて重要になります。
まとめ:合理的配慮は社会の進化
合理的配慮は、障害のある人が社会で直面する「見えない壁」を、一つひとつ対話を通じて取り壊していくための、社会全体の進化のプロセスです。
- 必要性:障害者の人権保障と社会モデルの実現のために、法的に不可欠。
- 判断の鍵:事業の性質・規模、費用、安全性、公益性の5つのポイントから、総合的かつ客観的に「過度な負担」ではないかを判断する。
- 成功の鍵:当事者からの明確な意思表示と、提供者との建設的対話を、相談支援専門員などの専門職がサポートすること。
この深い理解こそが、合理的配慮を特別なことではなく、「誰もが生きやすい社会の共通ルール」として機能させるための土台となります。
✅ 次のアクション
あなたが属する組織(学校、職場、事業所)の規模と財政状況を客観的に評価し、「もしスロープ設置を求められた場合、過度な負担になるか」を、この記事の「判断の5つのポイント」に照らして検討してみましょう。

阿部 菜摘
(あべ なつみ)36歳📜 保有資格:
社会保険労務士、精神保健福祉士
社会保険労務士として障害年金の申請支援を専門に12年。「難しい」と言われる障害年金を、分かりやすく解説します。医療費助成、各種手当など、お金に関する制度情報をお届けします。
大学卒業後、社会保険労務士事務所に就職し、障害年金の申請支援を専門に担当してきました。これまで500件以上の申請をサポートし、多くの方の生活を支えるお手伝いをしてきました。障害年金は「難しい」「通らない」と諦めている方が多いですが、適切な書類準備と申請を行えば、受給できる可能性は十分あります。実際、初診日の証明が難しいケースでも工夫して認定を受けた例もあります。特に心に残っているのは、精神障害で長年苦しんでいた方が障害年金を受給できたことで、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。制度を知ることの大切さを実感しました。記事では、障害年金の申請方法、特別障害者手当、医療費助成など、「知らないと損する」お金の制度を、専門家として正確かつ分かりやすく解説します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
社会保険労務士として、障害年金の申請支援を通じて多くの方の生活を支えたいと思ったことがきっかけです。
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精神障害のある方が障害年金を受給でき、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。
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