合理的配慮の申し出方:伝え方・手続き・注意点

障害を持つ方が、社会のあらゆる場面で、他の人と平等に参加し、能力を発揮するために不可欠な**「合理的配慮(ごうりてきはいりょ)」。この配慮は、障害者差別解消法によって提供が義務付けられていますが、実際にその配慮を受けるためには、当事者からの明確な「申し出(意思表示)」が必要です。
しかし、「どのように伝えれば理解してもらえるのか」「手続きはどこから始めればいいのか」「申し出をする際の注意点はあるのか」といった、「合理的配慮の申し出方」に関する具体的な情報は、まだ十分に共有されているとは言えません。このため、「困っているのに、どう伝えていいかわからない」**という状況に直面している方も少なくありません。
このガイド記事では、合理的配慮を「求める側」である障害者本人、ご家族、そして支援者の皆様が、最大限の効果を得られるよう、「申し出の準備」「具体的な伝え方」「手続きの流れ」「対話のポイント」という4つのステップから、そのすべてを徹底的にわかりやすく解説します。
この情報が、皆様の困りごとを解決し、スムーズに配慮を受けるための一助となり、より自立的で快適な地域生活を実現するための一歩となることを願っています。
パート1:申し出の前に—準備と心構え
合理的配慮の申し出を成功させるためには、感情論ではなく、客観的かつ建設的な準備が不可欠です。まずは、ご自身の状況を整理し、提供者側が理解しやすいように準備しましょう。
1.「困りごと」と「必要な配慮」を明確にする
配慮を求める際の最も重要なステップは、「何に困っているか」と「何があれば解決するか」を明確にすることです。
- 困りごとの具体化(障壁の特定):「仕事がうまくいかない」ではなく、「電話が鳴り続けるとパニックになり、指示が頭に入らなくなる」というように、原因となっている環境や状況を特定します。
- 配慮の提案(解決策の提示):「電話応対の業務を減らしてほしい」「指示は文書と口頭の両方でお願いしたい」など、実現可能な具体的な解決策を提案します。
💡 解決策は複数用意する
提供者側が提案された配慮(案A)を「過度な負担」として拒否する可能性に備え、「もしAが難しければ、代替案としてBやCならどうか」というように、複数の選択肢を用意しておくと、対話がスムーズに進みます。
2.支援の根拠となる書類を準備する
ご自身の障害特性や配慮の必要性を客観的に示すための書類は、対話の説得力を高めます。
- 診断書・意見書:医師や臨床心理士による「障害の特性と、それによって生じる困難さ」、そして「必要な配慮の内容」が記載された書類。
- 障害者手帳:身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳など、障害の公的な証明。
- サービス等利用計画:相談支援専門員が作成した計画書があれば、生活全般におけるニーズや、現在受けている支援が客観的に示せます。
3.「誰に」「いつ」申し出るかを決める
申し出先やタイミングを間違うと、話が進まない場合があります。
- 申し出先:
- **学校:**担任、学年主任、特別支援教育コーディネーター
- **職場:**直属の上司、人事部、産業医、障害者職業生活相談員
- **公共機関:**窓口の担当者、サービス責任者
- タイミング:業務や活動が始まる前や、トラブルが大きくなる前の、相手が十分な時間と余裕を持って対応できるタイミングを選びましょう。(例:急に窓口で長時間の説明を求めないなど)
パート2:効果的な「伝え方」の技術
合理的配慮の申し出は、「交渉」ではなく「コミュニケーション」です。相手に理解と共感を求めるための、効果的な伝え方の技術を身につけましょう。
1.「I(私)メッセージ」で伝える
相手を責めるのではなく、ご自身の状況を主語にして伝えることで、相手は攻撃されていると感じずに、問題解決に集中しやすくなります。
- 悪い例(Youメッセージ):「あなたが指示を口頭だけで出すから、私はいつもミスをする。」
- 良い例(Iメッセージ):「私は聴覚情報だけでは処理が難しく、ミスをしてしまうことがあります。そのため、文書でも指示をいただけると助かります。」
2.障害の「特性」と「困難」を分けて説明する
専門的な用語を並べるよりも、「特性」が「具体的な困難」にどう繋がっているかを説明する方が、提供者は配慮の必要性を理解しやすくなります。
- 特性:「私の障害特性として、聴覚過敏があります。」
- 困難:「その結果、電話の着信音や周囲の雑音が頭痛を引き起こし、業務に集中できません。」
- 配慮の提案:「つきましては、ヘッドホンの使用を許可いただくか、電話応対業務を他の業務に替えていただくことは可能でしょうか。」
3.要望を「具体的に」「簡潔に」伝える
曖昧な表現は、提供者側が「何をすればいいかわからない」という状態を生み出します。誰が聞いても同じ行動がとれるように、具体的に伝えましょう。
- 曖昧な表現:「もう少し手伝ってほしい。」
- 具体的な表現:「重い資料( 5kg以上)を運ぶ際、ヘルパーの利用をお願いしたいです。」
⚠️ 記録を残す
口頭での申し出だけでなく、重要な配慮については必ずメールや文書でも伝え、記録(証拠)として残しましょう。これにより、「言った」「言わない」のトラブルを防ぎ、人事異動などで担当者が変わった際にもスムーズに引き継ぎができます。
パート3:学校・職場・公共機関での手続きの流れ
合理的配慮の正式な手続きは、場面によって異なりますが、基本的に「相談→計画→合意」という流れは共通しています。
1.学校教育機関での手続き(義務教育・高等教育)
学校では、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」といった文書に、合理的配慮の内容が盛り込まれます。
- 相談:担任や特別支援教育コーディネーターに、「合理的配慮に関する申し出」を行います。
- アセスメント(実態把握):教職員が、生徒の学習状況や生活状況を調査し、困難さの根源と配慮の必要性を判断します。
- 計画作成:学校の専門チームが中心となり、配慮の内容を盛り込んだ計画書(個別の教育支援計画など)を作成します。
- 合意(決定):計画書の内容を保護者や生徒本人と確認し、合意の上で配慮が開始されます。定期的な見直しも計画に盛り込まれます。
2.職場・雇用現場での手続き(ハローワークとの連携)
職場での配慮の申し出は、企業の人事制度や産業医が関与することが多く、外部機関のサポートも活用できます。
- 申し出:直属の上司または人事部に、「合理的配慮を求める旨」と「必要な配慮内容」を文書で提出します。
- 事業者側の検討:企業は、産業医や衛生委員会の意見を聞き、求められた配慮が「過度な負担」にならないか、「代替案はないか」を検討します。
- 対話と合意:当事者と事業者間で建設的な対話を行い、合意に至った配慮内容を文書(合意書や配慮事項の覚書)として残します。
- 外部支援の活用:企業が判断に迷う場合、地域障害者職業センターのジョブコーチなどに相談し、中立的な意見を求めることを提案できます。
3.公共機関・店舗などでの一時的な申し出
駅、病院、店舗など、一時的に利用する場所では、その場での簡潔な申し出が中心となります。
- 窓口での伝達:「聴覚障害があるので、筆談でお願いします」「車いすなので、携帯スロープをお借りできますか」と、具体的な配慮をすぐに実行できるレベルで伝えます。
- 事前連絡:複雑な手続きや特別な介助が必要な場合は、利用日前に電話やメールで施設側に連絡し、必要な配慮を伝えておくのが最も確実です。
パート4:対話で失敗しないための5つの注意点
合理的配慮の申し出は、「人対人」の対話です。配慮を受ける権利があるとはいえ、相手への配慮を忘れず、成功率を高めるための注意点を確認しましょう。
注意点1:権利の主張と協力のバランスを取る
配慮は権利ですが、「要求」として一方的に突きつけると、相手は「脅迫」や「命令」と受け取り、対話の姿勢を閉ざしてしまう可能性があります。
- 協力の姿勢:「私の障害特性を理解し、お互いにとって良い解決策を見つけたいので、ご協力をお願いします」という、協働の姿勢で臨みましょう。
- 妥協点の探求:全てが完璧に実現しなくても、「代替案としてこれなら受け入れられる」という柔軟な姿勢を持つことが、結果として全体の配慮を得る近道になります。
注意点2:過度な負担を理解し、譲歩も検討する
事業者は、「過度な負担」になる場合は配慮の提供義務を負いません。この判断基準を理解しておく必要があります。
- 事業の規模を考慮:相手が小さな商店の場合、「多額の費用がかかる設備投資」をすぐに求めるのは過度な負担となり得ます。その代わり、「費用のかからない人的な介助」など、配慮の質を変えることで対応を求めましょう。
- 「費用ゼロ」の配慮から提案する:まずは「座席の変更」「文書化」「勤務時間の微調整」など、費用負担が少ない(またはない)配慮から提案を始めるのが得策です。
注意点3:感情的にならず、冷静に事実を伝える
過去に差別的な経験があったとしても、その場で感情的に相手を非難することは、対話の妨げになります。常に冷静な姿勢を保ちましょう。
- 事実と意見の区別:「あなたはいつも私を無視する」という意見ではなく、「〇月〇日に、口頭で指示を求めましたが、返答がありませんでした」という事実と、それが引き起こした「その後の作業が進みませんでした」という結果を伝えます。
注意点4:配慮の「期限と見直し」を盛り込む
配慮は一度決めたら終わりではありません。状況が変われば、配慮の内容も変わる必要があります。
- 期限の設定:「この配慮を3ヶ月間試してみて、効果を評価しましょう」というように、試行期間を設けることを提案します。
- 評価の取り決め:「3ヶ月後に、上司と私で面談の場を設け、配慮の効果と課題について話し合いましょう」というように、見直しのプロセスを事前に約束しておきましょう。
注意点5:支援者・相談支援専門員を同行させる
重要な話し合いや、複雑な配慮を求める際には、第三者の同行を積極的に活用しましょう。
- 同行者の役割:
- **記憶のサポート:**当事者が緊張して伝えられなかった内容を補足する。
- **客観的な視点:**話が感情的になった際に、冷静に論点を整理する。
- **専門知識:**相談支援専門員であれば、法制度や助成金の知識から、提供者側の負担軽減策を提案できる。
パート5:申し出が困難な場合の対処法と外部機関
もし、申し出が拒否されたり、対話がうまくいかなかったりした場合は、決して諦めず、公的な外部機関のサポートを求めましょう。
1.まずは「相談窓口」を活用する
配慮に関するトラブルや相談を受け付けている公的な窓口は多くあります。
- 自治体の相談窓口:市区町村の障害福祉担当課や、人権・行政相談窓口。自治体によっては「障害者差別解消相談窓口」を設けています。
- 行政機関:職場での問題は都道府県労働局、学校での問題は教育委員会など、所管する行政機関に相談します。
- 障害者職業センター:職場での合理的配慮に関する問題解決について、事業者と当事者間の調整を行うサポート(ジョブコーチ支援など)を受けられます。
2.「障害者差別解消支援地域協議会」の活用
自治体に設置されている「障害者差別解消支援地域協議会」は、当事者と事業者間の紛争解決を支援する役割を担っています。
- 支援内容:中立的な立場から事実関係を調査し、双方の話し合いを仲介し、助言やあっせんを行います。
- 重要性:対話が途絶えた場合でも、公的な第三者の介入により、差別解消に向けた道筋をつけることが期待できます。
✅ 最後の手段:法の力
合理的配慮の不提供が「差別」に当たると判断された場合、最終的には裁判所での解決を図ることも可能ですが、これは時間と費用がかかります。まずは、対話と公的機関のサポートによる解決を目指しましょう。
まとめ:合理的配慮は「共に創るもの」
合理的配慮の申し出は、「自分には何が必要か」を社会に向けて明確に発信し、「社会と自分との接点」を再構築する大切なプロセスです。
- 準備:困りごとと必要な配慮(代替案を含む)を明確にし、根拠となる書類を準備する。
- 伝え方:「I(私)メッセージ」で冷静に、特性と困難を分けて具体的に伝える。
- 対話:過度な負担の基準を理解し、協力と妥協の姿勢で臨み、合意内容を文書で記録する。
この知識と技術を身につけることで、皆様の申し出はより円滑に進み、誰もが能力を発揮できるインクルーシブな社会の実現に繋がります。
✅ 次のアクション
あなたが最も困っている場面を一つ選び、「困りごと」「必要な配慮(案A)」「代替案(案B)」の3点を、このガイドの伝え方を参考にして短い文章にまとめてみましょう。これが、最初の「意思表示」の準備となります。

阿部 菜摘
(あべ なつみ)36歳📜 保有資格:
社会保険労務士、精神保健福祉士
社会保険労務士として障害年金の申請支援を専門に12年。「難しい」と言われる障害年金を、分かりやすく解説します。医療費助成、各種手当など、お金に関する制度情報をお届けします。
大学卒業後、社会保険労務士事務所に就職し、障害年金の申請支援を専門に担当してきました。これまで500件以上の申請をサポートし、多くの方の生活を支えるお手伝いをしてきました。障害年金は「難しい」「通らない」と諦めている方が多いですが、適切な書類準備と申請を行えば、受給できる可能性は十分あります。実際、初診日の証明が難しいケースでも工夫して認定を受けた例もあります。特に心に残っているのは、精神障害で長年苦しんでいた方が障害年金を受給できたことで、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。制度を知ることの大切さを実感しました。記事では、障害年金の申請方法、特別障害者手当、医療費助成など、「知らないと損する」お金の制度を、専門家として正確かつ分かりやすく解説します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
社会保険労務士として、障害年金の申請支援を通じて多くの方の生活を支えたいと思ったことがきっかけです。
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精神障害のある方が障害年金を受給でき、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。
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