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感覚過敏・鈍麻が生活に影響する仕組みを解説

📖 約32✍️ 鈴木 美咲
感覚過敏・鈍麻が生活に影響する仕組みを解説
感覚過敏・鈍麻が日常生活に与える影響を解説。感覚特性は、脳の神経フィルタの機能不全によるもので、過敏は脳疲労やパニック、鈍麻は危険察知や身体コントロールの困難を引き起こします。過敏への対策は、ノイズキャンセリングや調光眼鏡などの「ノイズリダクション」による環境調整を徹底します。鈍麻への対策は、加重ブランケットやバランスボールなどの「感覚統合的なアプローチ」で、必要な刺激を補給します。自分の「感覚プロファイル」を知り、専門家の指導のもとで「感覚ディエット」を取り入れることが、心身の安定に繋がります。

感覚過敏・鈍麻が生活に影響する仕組みを解説

「小さな音が雷のように響く」「特定の服のタグが肌に触れるとパニックになる」「熱さや痛みを感じにくく、怪我に気づかない」「いつも体がだるくて、集中できない」—五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)や体の感覚が、人とは違う形で処理されることで、日常生活に深刻な困難を感じていませんか。

このような「感覚の特性」は、特に発達障害(ASD、ADHDなど)を持つ方において多く見られ、単なる「わがまま」や「慣れの問題」ではなく、脳の神経伝達の仕組みに関わるものです。

この記事では、感覚の過敏さ(ハイパー)と鈍麻さ(ハイポ)が、それぞれどのような仕組みで心身の疲労や行動の困難を引き起こすのかを、わかりやすく解説します。

そして、感覚の特性を理解した上で、日常生活での負担を軽減し、より快適に過ごすための具体的な環境調整や対処法(感覚ディエット)をご紹介します。自分の感覚の特性を知り、それに寄り添うケアの方法を一緒に探していきましょう。


感覚特性の基本:過敏と鈍麻のメカニズム

感覚の特性は、外部からの刺激が脳に届いたときに、その情報が過剰に増幅されたり、逆にほとんど認識されなかったりすることで生じます。

感覚の門番「神経フィルタ」の機能不全

通常、私たちの脳は、膨大な外部情報の中から必要なものだけを選別し、不要な刺激を遮断する神経フィルタ(ゲート)を持っています。

感覚過敏の場合、このフィルタの門が開きっぱなしになり、全ての刺激が脳に流れ込んでしまいます。これにより、小さな音でも大音量に感じ、脳が情報処理の過負荷(オーバーロード)状態に陥り、疲弊します。

感覚過敏(ハイパー)がもたらす影響

感覚過敏は、日常生活における「不快な刺激」の回避行動として現れやすいです。

  • 対人関係の困難:他者の声のトーンや表情の変化を過剰に読み取り、疲弊したり、強い不安を感じたりする。
  • パニック・メルトダウン:騒音や強い光など、刺激が限界を超えたときに、感情や行動のコントロールを失う。
  • 特定の素材の拒否:特定の服の素材、食事の食感や匂いに対する強い拒否反応。

これらの回避行動は、「自分を守るための防御反応」であると理解することが、周囲の支援において最も重要です。

感覚鈍麻(ハイポ)がもたらす影響

感覚鈍麻は、フィルタの門が閉じすぎている状態です。必要な刺激が脳に届きにくいため、危険察知や自分の身体のコントロールに困難が生じます。

感覚鈍麻の特性 生活上の困難
痛覚・温覚鈍麻 怪我や火傷に気づかず、重症化させてしまう。
固有受容覚鈍麻 自分の体の位置や力加減が把握できず、動きがぎこちない、物にぶつかりやすい。
前庭覚鈍麻 バランス感覚が不安定で、常に動き回り、強い刺激を求める(多動性)。


感覚過敏を和らげる「環境のノイズリダクション」

感覚過敏による疲労を軽減するためには、日常的に触れる環境からの不要な刺激(ノイズ)を物理的に減らすノイズリダクションが有効です。

聴覚過敏への「音のバリア」

騒音や突発的な音が苦手な場合、聴覚を保護するためのツールを積極的に利用しましょう。

  • ノイズキャンセリングヘッドホン:周囲の不要な低音域の騒音を大幅にカットし、脳の負担を軽減します。
  • 耳栓:特に会話の妨げになりにくい、特定の周波数帯をカットする耳栓も有効です。

人が多い場所や、交通機関での移動時など、脳がオーバーロードしそうな状況で事前に装着することが成功のコツです。

視覚過敏への「光と情報の調整」

光のちらつきや、情報量の多い視覚刺激は、脳疲労の大きな原因となります。

⚠️ 注意

蛍光灯のちらつき対策として、ブルーライトカットや、調光機能付きの眼鏡(サングラス)を屋内でも使用することが有効です。

また、職場のデスク周りや生活空間から、無関係なポスターや物を減らし、視覚的な情報量を最小限に抑えましょう。

触覚・嗅覚・味覚への個別対応

触覚、嗅覚、味覚の過敏さに対しては、徹底的な回避と代替手段の利用が基本です。

  • 触覚:服のタグは全て切り取る、天然素材(綿など)の服を選び、季節を問わず決まった肌触りのものを着用する。
  • 嗅覚:無香料の洗剤や石鹸を選び、公共の場で苦手な匂い(香水、タバコなど)に遭遇した時のためのアロマオイル(好きな匂い)を携帯する。
  • 味覚:味覚過敏による偏食対策として、調理法を固定したり、代替栄養食を活用したりする。


感覚鈍麻を助ける「感覚統合的なアプローチ」

感覚鈍麻を持つ方は、自ら強い刺激を求める行動(多動、体を揺らすなど)をすることがあります。これは、脳に必要な情報を届けるための無意識の行動(感覚探索行動)です。

「固有受容覚」を補う活動

体の位置や力加減が分かりにくい固有受容覚の鈍麻に対しては、体に強い圧や負荷をかける活動が有効です。

  1. 加重ブランケット:就寝時やリラックス時に、重い毛布を使用し、体に深く持続的な圧を与える。
  2. ディープ・プレッシャー:体を強く抱きしめる、背中を強くさするなど、深い圧覚刺激を与える。
  3. 重いものを運ぶ:バッグに重りを入れ、それを運ぶなど、日々の活動に重い負荷を意識的に加える。

これらの活動は、脳に「自分の体がここにある」という確かな情報を与え、結果として多動やそわそわ感を鎮める効果があります。

前庭覚を整える「リズムと揺れ」

バランス感覚を司る前庭覚の鈍麻は、常に体を動かし続ける(前庭覚探索行動)原因となります。

支援のポイント:

✅ 成功のコツ

多動を無理に止めず、トランポリン、ブランコ、バランスボールなど、安全でリズミカルな動きができる環境を提供しましょう。

また、着席時にはバランスボールチェアや、足元にフットレストを置くことで、無意識の揺れを許容しつつ、集中を助けることができます。

痛みや温度変化への注意喚起

痛覚や温覚が鈍麻な場合、怪我や体調不良に気づきにくいというリスクを伴います。

支援者は、定期的な身体チェック(怪我や発疹がないか)を行い、季節の変わり目には、意識的に温度を尋ねるなど、外部からの注意喚起を継続的に行う必要があります。


心身の不調を防ぐ「感覚ディエット」の活用

感覚ディエットとは、感覚の特性に応じて、必要な刺激を「補給」し、不要な刺激を「制限」することで、脳の感覚系のバランスを意図的に整えるプログラムです。

「感覚プロファイル」の作成

感覚ディエットを始める前に、まずは自分の感覚プロファイル(感覚の好き嫌い、苦手な状況)を詳細に把握しましょう。

感覚 過敏(苦手) 鈍麻(求める)
聴覚 大声、金属音 大きな音、音楽
触覚 服のタグ、ベタベタ 深い圧、振動
前庭覚 回転、高い場所 揺れ、素早い動き

このプロファイルに基づいて、一日のスケジュールに「感覚休憩」を組み込む計画を立てます。

感覚休憩(Sensory Breaks)の導入

集中が途切れたり、イライラし始めたりする前に、意識的に感覚休憩を取り入れましょう。

  1. 過敏な時の休憩:静かな部屋で耳栓をし、目を閉じて5分間過ごす(刺激の制限)。
  2. 鈍麻な時の休憩:ガムを噛む(口腔内刺激)、壁に両手で体重をかけて押す(深い圧覚の補給)。
  3. リセット活動:好きなリズムの音楽を聴きながら、同じ動作を繰り返す(反復行動による感覚の安定)。

感覚休憩は、脳が情報を処理し直すための、非常に重要な時間です。

二次障害の予防と専門家への相談

感覚の困りごとを無視し続けると、慢性的なストレスから不安障害、うつ病などの二次障害につながるリスクが高まります。

日常生活に支障をきたしている場合は、専門家のサポートを受けましょう。作業療法士(OT)は、感覚統合の専門家であり、個別の感覚プロファイルに基づいた感覚ディエットの具体的な指導をしてくれます。


よくある質問(FAQ)と相談窓口

感覚の特性に関する、当事者の方やご家族からの疑問にお答えします。

Q. 感覚過敏と鈍麻は同時に起こることがありますか?

A. はい、一人の人の中で感覚ごとに過敏と鈍麻が混在することはよくあります。例えば、聴覚は過敏なのに、触覚(特に圧覚)は鈍麻で強い刺激を求める、といった具合です。

また、疲労度やストレスレベルによって、同じ感覚でも過敏になったり、鈍麻になったり変動することもあります。

Q. 感覚的な不調を言葉で伝えるには?

A. 感覚の不快感を言葉で表現するのは難しいものです。まずは、「痛い」「かゆい」ではなく、「ザワザワする」「チカチカする」「うるさい」といった感覚の表現を具体的に記録し、周囲に伝えましょう。

イラストやチェックリストを使って、不快な感覚の強度を伝えるツール(例:感覚スケール)を作成することも有効です。

Q. 支援者として、特性を尊重するには?

A. 支援者は、当事者の感覚の訴えを「真実」として受け入れ、環境調整を最優先する姿勢が重要です。

「慣れれば大丈夫」と強要せず、耳栓の使用や特定の衣類の着用といった合理的配慮を積極的に受け入れましょう。また、当事者と一緒に感覚プロファイルを作成し、理解を深める努力が大切です。


まとめ

  • 感覚特性は、脳の「神経フィルタ」の機能不全によるもので、過敏は情報オーバーロード、鈍麻は刺激不足を引き起こします。
  • 過敏な特性には、ノイズキャンセリングや無香料化などの「ノイズリダクション」を徹底しましょう。
  • 鈍麻な特性には、加重ブランケットやリズミカルな運動で深い圧覚や前庭覚を補給する「感覚統合的なアプローチ」が有効です。

感覚の特性は、自分自身を守り、生活していくための大切な「個性」です。その特性を否定せず、上手に付き合うための具体的な方法を身につけていきましょう。

まずは、今日から「最も苦手な感覚刺激(音、光、触感)を一つ特定し、それを完全に遮断する道具」を用意してみることからスタートしてみてください。

主な相談窓口・参考情報

  1. 作業療法士(OT): 感覚統合療法や感覚ディエットの専門的な指導。
  2. 発達障害者支援センター: 特性理解と生活環境調整のアドバイス。
  3. 心理カウンセラー: 感覚特性に伴う不安や二次障害のケア。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

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