起業と就職、どちらが自分に合う?判断ポイントまとめ

起業と就職、どちらが自分に合う?判断ポイントまとめ
「自分らしい働き方を見つけたい」— これは、多くの障害のある方が抱える共通の願いではないでしょうか。選択肢として、安定した企業で働く「就職」と、自分のアイデアやスキルで事業を立ち上げる「起業」があります。どちらも魅力がありますが、自身の障害特性やライフスタイルを考えると、どちらの道を選ぶべきか、判断に迷ってしまうことがあるかもしれません。
この記事では、就職と起業という二つの大きなキャリアパスについて、それぞれのメリット・デメリットを詳細に比較検討します。特に、障害のある方が重視すべき「働き方の自由度」「収入の安定性」「利用できる支援制度」といった視点から、あなたにとって最適な選択肢を見極めるための具体的な判断ポイントをまとめました。この記事を読み進めることで、ご自身の未来に対する明確な指針が見えてくるはずです。
安定を求めるなら「就職」:メリットと課題
「就職」とは、一般的に企業や団体と雇用契約を結び、給与を得て働くスタイルです。障害のある方の就職においては、「障害者雇用」という制度を利用することが多く、これにより合理的配慮を受けながら働くことが可能となります。この安定性とサポート体制は、就職の最大のメリットと言えるでしょう。
就職の最大の魅力:収入の安定と安心感
就職の最大の魅力は、なんといっても収入が安定していることです。毎月決まった日に固定給が支給されるため、生活設計が立てやすく、将来への経済的な不安を軽減できます。特に、体調の波があり、一時的に働けなくなる可能性がある方にとって、この安定性は非常に重要です。
また、社会保険(健康保険、厚生年金)や雇用保険に加入できるため、病気や失業といった万が一の際にも保障があるという安心感があります。これらは、起業した際に個人で負担しなければならない部分であり、就職の大きなメリットの一つです。
💡 ポイント
雇用保険に加入していれば、会社を辞めた後も失業手当を受け取れる可能性があります。これは、次のキャリアを探す上での大きな支えとなります。
合理的配慮とサポート体制の充実
障害者雇用枠で就職した場合、企業は障害者雇用促進法に基づき、障害のある方が働く上で生じる困難を解消するための「合理的配慮」を提供することが義務付けられています。たとえば、聴覚障害のある方への情報保障(筆談、字幕対応)、身体障害のある方への物理的な環境整備(バリアフリー化)、精神障害や発達障害のある方への業務内容や勤務時間の調整などが挙げられます。
また、職場には上司や人事担当者だけでなく、ジョブコーチや産業医といった専門的な支援者が配置されている場合もあります。これらのサポート体制があることで、体調や業務に関する悩みを相談しやすく、安心して長く働くことに繋がります。
就職で注意すべき課題:柔軟性の低さと人間関係
就職には多くのメリットがありますが、いくつかの課題もあります。一つは、働き方の柔軟性が低いことです。基本的に、企業が定めた勤務時間や場所で働く必要があるため、体調に合わせて「今日は少し遅く出勤したい」「今日は自宅で集中したい」といった自由な調整が難しい場合があります。
もう一つは、人間関係の複雑さです。企業という組織の中では、多様な価値観を持つ人々と協力して仕事を進める必要があります。特に、コミュニケーションに困難を感じる障害特性を持つ方にとって、社内の複雑な人間関係や上司・同僚との連携は、大きなストレス源となりやすい側面があります。
自由を追求するなら「起業」:可能性とリスク
「起業」とは、会社を設立したり、個人事業主(フリーランスを含む)として独立したりして、自分自身の事業を立ち上げ、運営していく働き方です。この道は、自分の能力を最大限に活かし、理想の働き方を実現できるという大きな魅力があります。
圧倒的な自由と自己実現のチャンス
起業の最大のメリットは、働き方の自由度が極めて高いことです。働く時間、場所、仕事の内容、そして一緒に働く人まで、すべて自分で決めることができます。これにより、障害特性に合わせて「午前中は休息し、集中力が高い夜に仕事をする」といった、理想的なワークスタイルを実現できます。
また、自分の持つ特別なスキルやアイデアを活かし、社会に貢献できるという自己実現の喜びも大きいです。企業では活かせなかった特性が、起業の世界では独自の強みとなるケースも少なくありません。例えば、特定の分野への深いこだわりや、高い集中力が、専門性の高いサービス提供に繋がることもあります。
「会社員時代は、決められた業務しかできずストレスでしたが、起業してからは自分の得意な分野だけに特化できるため、仕事が楽しくなり、体調も安定しました。」
— 障害のある起業家 Cさんの声
起業で直面する現実的なリスクと責任
自由の裏側には、大きな責任とリスクが伴います。起業の最も大きなリスクは、収入の不安定さです。特に事業を立ち上げた初期段階では、売上がゼロになる可能性もあります。仕事がなければ、当然ながら給料は発生しません。
さらに、経営、営業、経理、広報など、事業運営に関わるすべての業務を自分自身で行う必要があります。これは、特定の作業に集中したい、あるいはマルチタスクが苦手な特性を持つ方にとっては、大きな負担となり得ます。社会保険や税金の手続きもすべて自己責任で行わなければなりません。
⚠️ 注意
起業(個人事業主)の場合、厚生年金や雇用保険は原則として加入できません。国民年金や国民健康保険への加入となり、保障が会社員と比べて手薄になる点を理解しておく必要があります。
障害者起業家への支援制度も存在
近年、障害のある方の起業を支援する動きも活発化しています。地方自治体や日本政策金融公庫などでは、創業融資制度や、起業に必要な知識を学べるセミナーが提供されています。
また、就労移行支援事業所の中には、起業家育成コースを設けているところもあります。これらの制度を活用することで、事業計画の作成や資金調達、マーケティングの基礎知識を学ぶことができ、リスクを軽減しながら起業準備を進めることが可能です。
自己分析:自分に合う働き方を見極めるチェックリスト
起業と就職、どちらの道に進むべきか判断するためには、徹底的な自己分析が不可欠です。ご自身の性格、スキル、そして障害特性を客観的に見つめ直すことが、後悔のないキャリア選択に繋がります。以下のチェックリストを活用し、自分がどちらの働き方に適しているか評価してみましょう。
働き方と性格に関するチェック
あなたの内面的な志向や、働き方に対する希望を確認します。どちらの項目にチェックが多くつくかを見てみましょう。
| チェック項目 | 起業向き | 就職向き |
|---|---|---|
| 毎月の安定した収入が絶対に必要 | ✅ | |
| 失敗を恐れず、新しい挑戦が好き | ✅ | |
| 自分でスケジュールを決めたい | ✅ | |
| 指示されたことを忠実に実行するのが得意 | ✅ | |
| 複雑な人間関係のストレスを避けたい | ✅ | |
| 体調の波に合わせて仕事量を調整したい | ✅ | |
| 誰かのサポートを受けながら働きたい | ✅ | |
| 強いリーダーシップや決断力がある | ✅ |
起業は、自己責任と自律性が求められます。一方、就職は、安定性を確保する代わりに、組織のルールに従う柔軟性や協調性が求められます。ご自身の特性と照らし合わせ、どちらが負担が少ないかを考えましょう。
スキルと特性に関する判断ポイント
ご自身の持っているスキルや、障害特性がどちらのキャリアに有利に働くかを考えます。特定のスキルがどちらかに偏っている場合、その道が適している可能性があります。
- 対人スキル:コミュニケーションの頻度が少なく、テキストベースのやり取りを好む場合は起業(フリーランス)が有利です。チームでの連携が得意な場合は就職も適しています。
- 専門スキル:プログラミング、デザイン、特定の語学など、市場価値の高い専門スキルを持っている場合は、すぐに起業・フリーランスとして独立しやすいです。
- マルチタスク能力:経理や営業など様々な業務を同時にこなす必要があるため、マルチタスクが苦手な場合は、就職して業務を限定してもらう方が安心です。
✅ 成功のコツ
障害特性による「苦手」を無理に克服しようとせず、その「苦手」が最大限にカバーされる働き方を選ぶことが、キャリアの成功に繋がります。
中間的な選択肢とキャリアチェンジの可能性
起業と就職は二者択一ではありません。実は、それぞれの良い部分を取り入れた「中間的な働き方」や、段階的に移行していくキャリアパスも存在します。自分にとって最適なバランスを見つけることが重要です。
まずは「副業」から始めるという選択
「いきなり起業するのは不安だけど、自由な働き方も魅力的」という方には、就職しながら副業としてフリーランスの仕事を始めることを強く推奨します。これにより、会社員としての安定した収入を確保しつつ、フリーランスとしての経験と実績を積むことができます。
- 会社員として働くことで、社会の仕組みやビジネスマナーを学ぶ。
- 仕事後や休日に、自分の得意分野で小さな案件を受注する。
- 副業の収入が安定し、本業の収入を超えそうになったら独立を検討する。
この段階的なアプローチは、リスクを最小限に抑えながら、起業への道を探ることができる最も現実的な方法の一つです。ただし、会社の就業規則で副業が認められているか事前に確認することが必須です。
障害者雇用での「テレワーク」という働き方
近年、一般企業でもテレワーク(在宅勤務)が普及しています。障害者雇用においても、合理的配慮としてテレワークを導入している企業が増加傾向にあります。これは、就職の安定性と、在宅という起業の自由度の高さを両立できる中間的な働き方と言えます。
通勤ストレスを避け、自宅で自分に合った環境を整えながら、会社員としての福利厚生と安定した給与を得ることができます。障害のある方がテレワーク可能な求人を見つけるためには、ハローワークや障害者専門の転職エージェントに相談することが有効です。
総務省のデータ(※可能な範囲で)によると、テレワーク実施率は年々増加しており、特に大企業での導入が進んでいます。障害者雇用においても、この流れは今後さらに加速すると見られています。
迷った時の相談窓口と最初の一歩
起業か就職かで迷い、一人で悩みを抱え込む必要はありません。国や自治体、そして専門の支援機関は、あなたのキャリア選択をサポートするための様々な窓口を用意しています。
専門家への相談が最良の第一歩
キャリア選択で迷った際、最も頼りになるのは専門的な知識を持つ支援員です。
- 就労移行支援事業所:就職・起業どちらの訓練も提供している事業所があります。あなたの適性を診断し、具体的なスキルアップの計画を立ててくれます。
- ハローワーク(専門援助部門):障害者雇用の最新の求人情報だけでなく、就職に関する専門的な相談も可能です。
- 地域障害者職業センター:職業リハビリテーションの専門家(ジョブコーチなど)が在籍しており、適職探しのための専門的なアセスメント(評価)を受けられます。
これらの機関では、あなたの障害特性を理解した上で、就職と起業、それぞれの道で必要となる具体的な支援(履歴書作成、面接練習、事業計画のアドバイスなど)を受けることができます。
最初に取り組むべき具体的なアクション
迷いを具体的な行動に変えるための最初の一歩は、情報の収集とスキルアップです。
💡 ポイント
キャリア選択は、一度決めたら変えられないものではありません。まず行動してみて、合わなければやり直すことも可能です。そのくらいの気持ちで臨みましょう。
まずは、ご自身の障害特性を活かせる分野のスキル(例:Webライティング、Excel VBA、デザインの基礎など)をオンライン教材や無料セミナーで学び始めてみましょう。スキルは、就職するにしても起業するにしても、あなたの市場価値を高める最高の財産となります。
そして、上記の相談窓口に予約を入れ、専門家と一緒に自分の適性を整理することが、遠回りのようで最も確実な最初の一歩となります。あなたの人生の主導権は、常にあなた自身が握っていることを忘れないでください。
よくある質問(Q&A)
起業と就職の選択に関して、多く寄せられる質問にお答えします。
起業と就職、どちらが障害年金に影響しますか?
障害年金は、原則として働き方(起業か就職か)によって支給が停止されることはありません。しかし、働くことで所得が増加した場合、障害基礎年金を受給している方は、20歳前傷病による場合は所得制限に影響する可能性があります。
また、就職・起業に関わらず、病状や障害の状態が大きく改善したと判断されると、年金の支給額や等級が見直されることがあります。年金への影響については、お住まいの地域の年金事務所にご相談ください。
起業後に就職へ戻ることは可能ですか?
もちろん可能です。起業した経験は、「自律性」「問題解決能力」「専門的なスキル」といった形で、企業で働く上で非常に評価されるキャリアとして見られます。特に、起業で培ったスキルが企業で活かせるものであれば、転職活動で有利に働くことも少なくありません。
ただし、就職活動では、なぜ起業から就職へ戻ることを決めたのかを、ポジティブかつ論理的に説明できるように準備しておくことが大切です。
就職でも自分のアイデアは活かせますか?
はい、可能です。企業によっては「社内ベンチャー制度」や「アイデア募集制度」を設けているところもあります。また、たとえ制度がなくても、日々の業務改善や新しいプロジェクトの提案など、積極的に自分のアイデアを発信していくことで、組織の中で能力を最大限に活かすことはできます。
まとめ
- 就職は収入と福利厚生の安定、合理的配慮を含むサポート体制が魅力ですが、柔軟性や人間関係に課題があります。
- 起業は働き方の圧倒的な自由と自己実現のチャンスがありますが、収入の不安定さや全責任を負うリスクがあります。
- 判断に迷う場合は、副業から始める「中間的なアプローチ」や、テレワークが可能な「障害者雇用」を選択肢に入れることも有効です。
- キャリア選択の際は、就労移行支援事業所など専門の相談窓口を活用し、客観的な自己分析を行うことが成功の鍵です。

菅原 聡
(すがわら さとし)38歳📜 保有資格:
職業指導員、キャリアコンサルタント、精神保健福祉士
就労移行支援事業所で10年以上、障害のある方の「働く」を支援してきました。一般就労への移行支援から就労継続支援まで、幅広い経験をもとに、「自分に合った働き方」を見つけるための情報をお届けします。
大学で社会福祉を学び、卒業後すぐに就労移行支援事業所に就職。当初は「障害があっても一般企業で働けるんだ」という驚きと感動の連続でした。これまで150名以上の方の就労支援に携わり、その8割が一般企業への就職を実現。ただし、「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」が本当のゴールだと考えています。印象的だったのは、精神障害のある方が、障害をオープンにして自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。その笑顔が忘れられません。記事では、就労移行支援と就労継続支援の違い、企業選びのポイント、障害者雇用の現実など、実際の支援経験に基づいた実践的な情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、「障害があっても一般企業で働ける」という可能性に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
精神障害のある方が、自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」を大切に、実践的な情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ランニング、ビジネス書を読むこと
🔍 最近気になっているテーマ
リモートワークと障害者雇用、週20時間未満の短時間雇用





