予測不能な環境でしんどくなる理由と対処法

予測不能な環境でしんどくなる理由と対処法
「急な予定変更で頭が真っ白になってしまう」「新しい場所に行くのが怖くてたまらない」「曖昧な指示が理解できず、強い不安を感じる」—予測できない状況や、見通しが立たない環境で、心身ともに強いストレスや「しんどさ」を感じていませんか。
この「しんどさ」は、特に発達障害(ASDなど)を持つ方において顕著に見られますが、不安を解消するために脳が過剰にエネルギーを消費しているために起こる自然な反応です。これは、決して「わがまま」や「怠け」ではありません。
この記事では、なぜ予測不能な環境が負担となるのかというメカニズムを理解し、見通しを立てるための具体的なツールや、急な変化に対応するための心の準備(コーピング・スキル)をご紹介します。
予測できない状況を「怖いもの」から「準備できるもの」に変えるための具体的な方法を身につけ、日々の不安を軽減し、より安定した生活を目指しましょう。
予測不能な環境が心身に与える影響
見通しが立たない環境は、脳に過剰な負担をかけ、精神的な不安だけでなく、具体的な身体症状を引き起こします。
「未来の予測」にかかる過剰なコスト
私たちの脳は、次に何が起こるかを予測することで、スムーズに行動できるように準備しています。
しかし、ASDなどの特性を持つ場合、非定型な情報(曖昧な指示、予期せぬ出来事)を処理し、未来を予測するための「計算コスト」が一般の人よりも遥かに大きくなります。
この脳の過剰な働きが、集中力を急激に消耗させ、強い疲労感(脳疲労)や、処理しきれない情報の蓄積による混乱(パニック)を引き起こします。
不安が引き起こす「自律神経の過緊張」
「次に何が起こるかわからない」という状況は、脳にとって「危険が迫っている」という信号と同じです。
これにより、身体を戦闘モードにする交感神経が常に優位になり、動悸、発汗、体のこわばり、消化器系の不調といった身体症状が現れます。
この状態が慢性化すると、不安障害やうつ病などの二次障害のリスクを高めます。
曖昧な指示による「実行機能の停止」
「適当にやっておいて」「後で連絡するね」といった曖昧で抽象的な指示は、特にADHDやASDの特性を持つ方にとって、行動を起こすための「トリガー(引き金)」を欠くことになります。
具体的な手順や期日が見えないと、脳の実行機能(計画、優先順位付け)が停止した状態になり、行動が「フリーズ」してしまったり、どこから手を付けて良いかわからず、強いストレスを感じたりします。
予測可能性を高めるための「視覚的サポート」
予測不能な環境を「見える化」することで、不安を具体的に解消し、見通しを立てやすくするためのツールと方法をご紹介します。
スケジュールと手順の「見える化」
口頭での説明や、頭の中での記憶だけに頼らず、必ず「視覚的なツール」を使って、一日の流れやタスクの手順を明確にしましょう。
- デイリー・スケジュール:一日の活動を時間軸で区切り、絵や文字で表現したカードを並べる。変更があった場合は、その都度カードを入れ替える。
- タスク・チェックリスト:仕事や家事の手順をステップごとに細分化し、完了したらチェックを入れることで、達成感と見通しを得る。
「ソーシャル・ストーリー」で社会的状況を予告
初めて参加するイベントや、対人関係のルールが複雑な状況など、社会的な予測が難しい場面では、ソーシャル・ストーリーの活用が非常に有効です。
💡 ポイント
ソーシャル・ストーリーとは、特定の社会的な状況や、他者の行動、それに対する適切な反応を、短い文章と絵で具体的に説明したものです。
例:「会議が始まる時、〇〇さんは挨拶をします」「もしあなたが困ったら、このカードを見せて助けを求められます」
「曖昧さ」を具体的な行動に変換する
「適当に」「頑張って」「考えてみて」といった曖昧な指示を受けた場合は、その場で具体的な行動に変換するための質問をしましょう。
| 曖昧な指示 | 具体的行動に変換する質問 |
|---|---|
| 「資料を適当にまとめておいて」 | 「『適当に』とは、5枚程度に要点を絞るということでしょうか?」 |
| 「なるべく早く連絡する」 | 「『なるべく早く』とは、今日の午後3時までと理解してよろしいでしょうか?」 |
予期せぬ変化に対応するための心の準備
どれだけ準備をしても、予期せぬ変化は起こります。変化が起きた時に、パニックに陥らず、落ち着いて対処するための心の準備(コーピング・スキル)を身につけましょう。
「変わりうる」ことを前提とした計画
計画を立てる際、最初から「この通りにいかない可能性がある」という柔軟性を組み込みましょう。
- 代替案(Bプラン)の準備:もし主要な計画(Aプラン)が崩れた場合に備え、事前に代替の行動(Bプラン)を一つ決めておく。
- 「バッファ」の確保:移動やタスク完了に必要な時間に対し、10分〜15分の余裕時間(バッファ)を意図的に設けておく。
予期せぬ事態が起こっても、あらかじめ「Bプランに切り替える」という行動が用意されていれば、混乱を防ぎやすくなります。
「感情の波」を客観視する訓練
予期せぬ変化に直面したとき、湧き上がる強い不安や怒りをコントロールすることは困難です。
マインドフルネスの考え方を取り入れ、感情に巻き込まれるのではなく、「今、自分は強い不安を感じているな」と客観視する訓練をしましょう。
感情を「否定」せず、「ただの感情の波だ」と捉えることで、過剰なパニックへの発展を防ぎます。
「安全地帯(セーフティ・スポット)」の確保
不安や混乱がピークに達したときに、すぐに避難し、感覚刺激を遮断できる安全地帯(セーフティ・スポット)を事前に決めておきましょう。
✅ 成功のコツ
職場なら空いている会議室、外出先なら静かなカフェの隅など、物理的に刺激が少なく、一人になれる場所を特定し、その場所へ移動する許可を自分に与えましょう。
移動後に深呼吸を繰り返すことで、過剰に高まった自律神経を鎮めることができます。
環境からのストレスを軽減する「支援の仕組み」
当事者の努力だけでなく、周囲の理解と、環境そのものを予測可能にする支援の仕組みづくりが不可欠です。
「合理的配慮」による環境の定型化
職場や学校といった集団生活の場では、特性に基づく困りごとを解消するために、合理的配慮を求めることが重要です。
- 指示の定型化:曖昧な口頭指示を避け、必ずメールやメモで具体的な手順と期限を提示してもらう。
- 事前の情報提供:会議の参加者、議題、場所の変更など、全ての変更事項を前日のうちに通知してもらう。
- 物理的環境の固定:自分の机の位置や配置を勝手に変えない、突然の来客を避けるためのパーテーション設置を依頼する。
「キーパーソン」による緩衝材の役割
予期せぬ事態が起こった際に、当事者と周囲の橋渡しをしてくれるキーパーソン(信頼できる支援者や上司)を設定しましょう。
キーパーソンは、予期せぬ変化を当事者に伝える際の「緩衝材」となり、変化の情報を、当事者が理解しやすい具体的で視覚的な情報に変換してくれます。
また、パニックの予兆が見られた際に、周囲に当事者への配慮を促す役割も担います。
支援機関を活用した「見通しのトレーニング」
見通しを立てるスキルは、トレーニングによって向上させることができます。
就労移行支援事業所や地域活動支援センターでは、計画的なスケジューリング、タスクの分解、時間管理など、予測不能な状況を減らすための具体的な実行機能トレーニングを受けることができます。
よくある質問(FAQ)と次の一歩
予測不能な環境での困りごとに関する、当事者の方やご家族からの疑問にお答えします。
Q. 予定をキャンセルされると怒りが収まりません。
A. 予定のキャンセルは、それまでかけていた「予測のエネルギー」を無駄にされたと感じさせ、強い怒りにつながります。
怒りが湧いた時は、まず深呼吸をして5秒間立ち止まり、「怒っているのは、自分の計画が崩れたからだ」と感情の原因を理解しましょう。その後、用意していたBプラン(代替の活動)に意識を切り替え、実行に移すことで、感情を鎮めます。
Q. 支援者として、急な変更をどう伝えるべきですか?
A. 急な変更を伝える際は、以下の順序を心がけましょう。
- 結論から伝える:「申し訳ありませんが、予定が変わりました」と結論をすぐに伝える。
- 理由を簡潔に:なぜ変更になったのかを、感情を交えず簡潔に説明する。
- 代替案を提示:新しい、具体的な見通し(いつ、どこで、何をするか)をすぐに視覚的に提示する。
Q. 不安が高すぎて日常生活が送れません。
A. 不安が日常生活を困難にしている場合、不安障害やうつ病などの二次障害が進行している可能性があります。
まずは、心療内科や精神科で専門的な診断を受け、薬物療法やカウンセリング(特に認知行動療法)を通じて、不安への対処法を学ぶことが重要です。地域の発達障害者支援センターなども相談先になります。
まとめ
- 予測不能な環境は、「未来の予測」にかかる過剰な脳のエネルギー消費と、自律神経の過緊張を引き起こします。
- 対策は、スケジュールや手順を可視化する視覚的サポート、曖昧な指示を具体化する質問によって見通しを立てることです。
- 予期せぬ変化が起こっても、Bプランの準備と「安全地帯」への避難といったコーピング・スキルで心の安定を保ちましょう。
不安を減らし、安定した生活を送るためには、「予測できないこと」を「受け入れられること」に変える仕組みづくりが最も重要です。
まずは、今日から「一日の行動全てをチェックリストにして見える化する」ことから始めてみましょう。
主な相談窓口・参考情報
- 発達障害者支援センター: 特性に応じた生活上の見通しサポート。
- 心療内科・精神科: 二次障害(不安障害など)の治療と服薬相談。
- 就労移行支援事業所: 計画性や時間管理のトレーニング。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





