失敗して怒ってしまった日と、後悔から学んだこと

「また怒ってしまった」と落ち込むあなたへ——後悔を明日の糧に変える心の整え方
障害のある家族や利用者様と向き合う中で、感情をコントロールできずに強い言葉をぶつけてしまったことはありませんか。静まり返った部屋で、寝顔や背中を見ながら「どうしてあんな言い方をしたんだろう」と激しい後悔に苛まれる。そんな夜を過ごしているのは、あなただけではありません。
支援の現場や家庭は、きれいごとだけでは済まない感情のぶつかり合いの連続です。しかし、その「怒り」や「後悔」は、あなたが真剣に相手と向き合っている証拠でもあります。この記事では、私が実際に経験した「失敗」のエピソードを交えながら、怒りの正体を知り、後悔を前向きな学びへと変えていくためのヒントを詳しくお伝えします。読み終える頃には、自分を責める手が少し緩まり、明日また笑顔で向き合うための勇気が湧いてくるはずです。
あの日、私はなぜあんなに怒ったのか
積み重なった「小さなもどかしさ」
怒りが爆発する時、その原因は決して直前の出来事だけではありません。数日前から続いていた寝不足、何度も繰り返されるこだわりへの対応、あるいは仕事でのストレス。それらが心のコップに少しずつ溜まり、最後の一滴が注がれた瞬間に溢れ出してしまうのです。
私の場合、その日は朝から予定が狂いっぱなしでした。自閉症スペクトラムのある息子は、いつもと違う靴下であることを理由に30分以上玄関から動こうとしませんでした。私は必死に平静を装っていましたが、心の中では刻一刻と迫る仕事の会議時間に焦り、感情のダムが決壊寸前になっていたのです。
「正しさ」を押し付けてしまった瞬間
「どうして分かってくれないの!」「いい加減にして!」——その言葉が口から出た瞬間、息子の体はびくっと震え、表情から感情が消えました。私は息子の困難さを理解しているはずなのに、その時は「社会のルール」や「親としての正論」を武器にして、本人の特性をねじ伏せようとしてしまったのです。
怒っている最中の私は、「この子の将来のために厳しくしなくては」という大義名分を自分に与えていました。しかし、実際には自分の思い通りにならない現状への苛立ちを、一番反論できない相手にぶつけていただけでした。自分の未熟さを突きつけられたような気がして、怒鳴った直後から心は冷たい氷のように冷え切っていきました。
⚠️ 注意
怒りに任せた叱責は、本人の「脳」に強いストレスを与え、学習能力を低下させる可能性があります。後悔したときは、まず自分自身を落ち着かせ、本人の安心感を取り戻すことを最優先にしましょう。
静寂の中で訪れる激しい自責
夜、息子が寝静まった後にリビングで一人座っていると、昼間の自分の形相や声がフラッシュバックします。「あんなに怖がらせる必要はなかった」「この子は悪くないのに」。そんな思いが頭を駆け巡り、自分は支援者失格、親失格だという結論に辿り着いてしまいます。
後悔は、過去を変えられないからこそ痛みを伴います。しかし、この苦しみは「次はもっと良くしたい」という願いの裏返しでもあります。もし自分に愛情がなければ、後悔することさえなかったでしょう。自責の念に押しつぶされそうな時は、まず「自分はそれほどまでに相手を想っているのだ」と、自分の愛情の深さを認めてあげることから始めなくてはなりません。
怒りのメカニズムを理解して対策を練る
アンガーマネジメントの視点を取り入れる
怒りは、二次的な感情だと言われています。その根底には「不安」「悲しみ」「疲れ」「期待」といった一次的な感情が隠れています。私が息子に怒った理由も、表面上は「動かないこと」への怒りでしたが、深層心理では「仕事に遅れて評価が下がる不安」や「理解されない悲しみ」がありました。
自分の怒りがどの一次感情から来ているのかを分析することで、次回の爆発を未然に防ぐことができます。「あ、今私は不安を感じているんだな」とメタ認知(自分を客観的に見ること)ができるようになれば、感情の波に飲み込まれる前に一呼吸置くことが可能になります。2025年の最新の研究でも、感情のラベリング(名付け)はストレス軽減に極めて有効であることが示されています。
「6秒」の壁を乗り越える工夫
怒りのピークは、長くて6秒間と言われています。この6秒をやり過ごすことができれば、理性を司る前頭葉が働き出し、最悪の事態を避けることができます。しかし、支援の最中に6秒を待つのは至難の業です。そこで、自分なりの「儀式」を決めておくことをお勧めします。
「冷たい水を一口飲む」「トイレに駆け込んで深呼吸する」「心の中で『これは特性だ』と3回唱える」。このように、物理的に距離を置くか、思考を切り替えるスイッチを持つことが重要です。私は怒りが湧きそうになったら、あえて天井を見上げるようにしています。視線を物理的に上に上げるだけで、脳のモードが少し切り替わる感覚があるからです。
💡 ポイント
怒りを感じた瞬間に、手をギュッと握ってからパッと開く「筋弛緩法」も効果的です。体の力を抜くことで、心の緊張も同時に緩和されやすくなります。
期待値を「現在の本人」に合わせる
私たちが怒ってしまう大きな原因の一つに、本人への「過度な期待」があります。「これくらいはできるはずだ」「前はできていたのに」という思いが、現実とのギャップを生み、怒りを増幅させます。しかし、障害特性がある場合、その日の体調や気圧、環境の変化によって、できることのレベルは大きく変動します。
支援の計画を立てる際、目標を「絶好調の時」ではなく、「一番調子が悪い時」に合わせて設定し直してみてください。期待値を下げることは、諦めることではありません。本人が無理なく達成できるラインを守ることで、支援者側のイライラも劇的に減少します。心の余裕は、期待値の調整から生まれるのです。
後悔を「学び」に変換するステップ
失敗した状況を客観的に記録する
後悔をただの苦しみで終わらせないためには、記録が有効です。日記でもスマホのメモでも構いません。いつ、どこで、どんな状況で、自分はどう感じて怒ったのかを書き出してみましょう。書き出すという行為そのものが、脳内の情報を整理し、高ぶった感情を沈めるカタルシス効果(浄化作用)を持っています。
一週間ほど記録を続けると、自分の「怒りのパターン」が見えてきます。「夕方の忙しい時間帯に多い」「特定のこだわりが繰り返された時に爆発しやすい」など。パターンが分かれば、その時間帯にヘルパーさんを頼んだり、環境を整えたりといった具体的な予防策を講じることができます。失敗は、あなたの生活を改善するための貴重なデータなのです。
| 時間帯・場面 | 一次感情(隠れた本音) | 具体的な改善策 |
|---|---|---|
| 朝の準備中 | 遅刻への強い不安 | 準備時間を15分前倒しにする |
| 夕食後の片付け | 肉体的な限界、疲れ | 食洗機の導入、家事の簡略化 |
| 同じ質問の繰り返し | 孤独感、虚しさ | 視覚支援(カード)の活用 |
本人に「謝る」ことの大切さと効果
もし怒鳴ってしまったら、本人が理解できる形で謝罪を伝えましょう。「さっきは怖い声を出しちゃってごめんね。お父さんも疲れていたんだ」。たとえ言語理解が難しい方であっても、支援者の表情や声のトーンから「申し訳ないと思っている」という誠実さは必ず伝わります。
謝ることは、支援者の威厳を損なうことではありません。むしろ、「人間は失敗することもあるけれど、やり直すことができる」という人間関係の修復モデルを本人に示す大切な教育機会になります。謝罪を通じて、傷ついた信頼関係を再構築するプロセスは、それ自体が深い絆を育む「療育」のひとコマになるのです。
「自分を許す」ことが良質な支援への近道
最も難しいのが、自分を許すことです。自分を責め続けている状態は、メンタルヘルスを損ない、さらなるイライラを招く「負のループ」を生み出します。支援者としての自分を許せない時は、「私は今日、全力を尽くした。失敗もしたけれど、それは一生懸命だったからだ」と自分に言い聞かせてください。
24時間365日、聖人君子のように振る舞える人間など一人もいません。私たちは、不完全な人間同士として、ぶつかり合いながら共に生きているのです。自分を許すことができて初めて、相手の不完全さも寛容に受け入れられるようになります。セルフ・コンパッション(自分への慈しみ)は、支援という過酷な現場を生き抜くための必須スキルです。
実例:ある支援者が変わった瞬間
ベテラン支援者Bさんの「手痛いミス」
障害福祉の道に入って15年のBさんは、冷静で温かい支援で周囲から信頼されていました。しかしある時、重度の知的障害がある利用者さんが食事をひっくり返した際、思わず「またなの!?」と大声を出し、本人の腕を強く掴んでしまいました。Bさんはその日の夜、ショックで一睡もできなかったと言います。
「自分はもうプロを名乗る資格がない」。Bさんは本気で退職を考えました。しかし、上司との面談で言われた言葉に救われました。「Bさんが怒ったのは、その利用者さんに美味しく食べてほしいという情熱があったからでしょう。その情熱を、怒りではなく『環境改善』に向けられませんか?」。
「怒り」を「工夫」に変換した結果
Bさんは後悔に沈むのをやめ、なぜ食事をひっくり返したのかを徹底的に観察しました。すると、その利用者さんは特定の食器の感触が苦手で、それを伝えられずにいたことが判明したのです。食器をシリコン製に変え、ランチョンマットを滑りにくい素材にしたところ、ひっくり返す行動はピタリと止まりました。
Bさんの失敗は、結果として利用者さんの「言葉にならない訴え」を汲み取るきっかけとなりました。もしBさんが怒らずに、ただ淡々と片付けていただけなら、この根本的な解決には至らなかったかもしれません。Bさんは言います。「あの時の後悔があったからこそ、今の私は本人の行動をより深く見つめることができるようになりました」と。
✅ 成功のコツ
失敗した時は、自分を「裁判官」のように裁くのではなく、「科学者」のように観察しましょう。原因と結果の法則を紐解くことで、次はもっとスマートな対応ができるようになります。
家族として歩み寄ったCさんの話
発達障害のある娘を持つCさんは、毎日宿題を教えるたびに親子喧嘩になり、最後には娘が泣き叫ぶという日々を繰り返していました。Cさんは「私は毒親だ」と思い悩み、カウンセリングを受けました。そこで提案されたのは、「宿題を教えるのを一旦やめて、ただ隣で漫画を読む」という一見風変わりなアドバイスでした。
最初は不安でしたが、Cさんが「教えなきゃ」というプレッシャーから解放されると、家の中の空気が軽くなりました。娘さんも、母親が怒らなくなったことで安心し、自分から分からないところを聞いてくるようになりました。「教えること」より「機嫌よく一緒にいること」を優先した結果、皮肉なことに学習効果も向上したのです。
よくある質問(FAQ)
Q. 怒ってしまった後、本人が私を避けるようになりました。どうすればいいですか?
まずは、あなたが穏やかで安全な存在であることを、行動で示し続けましょう。無理に話しかけたり、スキンシップを強要したりせず、本人の好きなものを用意したり、適度な距離で見守ったりする「安心の積み立て」が必要です。信頼の回復には、壊した時間の数倍の時間がかかりますが、誠実に向き合えば必ず関係は元に戻ります。焦りは禁物です。
Q. 感情的に怒るのと、毅然と叱るのの違いは何ですか?
大きな違いは「目的」と「主語」です。感情的な怒りは、主語が「私」であり、目的は自分の不満の発散です(例:私はイライラする!)。一方、毅然とした叱責は、主語が「あなた」であり、目的は本人の安全や成長を促すための情報伝達です(例:火は危ないから離れよう)。自分の感情を排し、事実とルールを伝えるのが「叱る」です。もし感情が混ざりそうなら、その場では何も言わないのが正解です。
Q. 毎日怒ってしまい、自分でもコントロールできません。病気でしょうか?
単なる「性格」や「病気」ではなく、慢性的な疲労やストレスによる「バーンアウト(燃え尽き)」寸前の状態かもしれません。特に24時間体制のケアを行っているご家族は、神経が常に過敏になっています。まずは医師やカウンセラーに相談し、「物理的な休息」(ショートステイの利用など)を最優先で確保してください。あなたが悪いのではなく、あなたの環境に無理が来ているサインだと捉えましょう。
まとめ
失敗して怒ってしまった日は、とても辛く、長い夜になります。しかし、その痛みを感じているあなたは、誰よりも本人のことを思い、良くなりたいと願っている素晴らしい支援者です。後悔を自分を傷つける刃にするのではなく、明日をより良くするための光に変えていきましょう。
- 怒りの背景を探る:自分の一次感情(不安や疲れ)を認め、コップが溢れる前に対処しましょう。
- 失敗をデータ化する:記録を通じてパターンを把握し、仕組みや環境で解決できる道を探しましょう。
- 自分と本人を許す:不完全さを認め、謝罪と修復を繰り返しながら、より深い信頼関係を築きましょう。
今夜は、もう自分を責めるのはおしまいにしませんか。まずは温かい飲み物を飲んで、ゆっくりと体を休めてください。あなたが元気でいることが、本人にとって何よりの支援になるのです。明日、また新しい気持ちで「おはよう」と言えることを、心から応援しています。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





