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気づかないうちに限界を超えていた——私の失敗

📖 約57✍️ 鈴木 美咲
気づかないうちに限界を超えていた——私の失敗
障害児を育てる母親であり支援者でもあった筆者が、責任感ゆえに心身の限界を無視し続け、最終的に燃え尽きて動けなくなった「失敗」を告白する体験記です。2026年の福祉データや心理学の知見(共感疲労や受援力)を用いながら、限界のサイン(睡眠不足、イライラ、感情の麻痺)の見極め方、倒れてから気づいた「チームで支えること」の重要性、そして回復に向けた3つのステップ(助けの言語化、60点主義、自分への聖域確保)を解説。ケアラーが自らを救い、持続可能な支援を続けるためのアクションを温かく提案します。

見えない疲労が心を蝕む前に——「まだ大丈夫」という過信が招いた私の失敗

障害のある家族を支える日々や福祉の現場で、毎日を懸命に生きているあなたへ。ふとした瞬間に、理由のない涙が出たり、これまで楽しめていたことが苦痛に感じたりすることはありませんか。2026年現在、ケアを担う人々のメンタルヘルスは「ケアラー・バーンアウト」として大きな社会課題となっています。

かつての私は、「自分が頑張らなければならない」という強い責任感から、心身が発していたSOSをすべて無視し続けてしまいました。その結果、ある日突然、糸が切れたように動けなくなるという大きな失敗を経験しました。この記事では、私がどのようにして限界を超え、そこからどうやって自分を立て直したのか、実例を交えて詳しくお話しします。この記事が、今まさに限界の縁に立っている誰かのブレーキになることを願っています。


「頑張り」が毒に変わる予兆と無自覚の蓄積

身体が発していた初期サインの無視

限界を超える数ヶ月前から、私の身体は確かに異変を知らせていました。夜、布団に入っても目が冴えて眠れない日が続き、朝はひどい動悸と共に目が覚める。慢性的な肩こりや頭痛を「いつものこと」と片付け、市販の鎮痛剤で誤魔化しながら、重度の自閉症を抱える息子のケアと仕事を両立させていました。

2025年の厚生労働省による調査では、自宅で介護や支援を行う方の約68%が「慢性的な睡眠不足」を感じており、そのうちの半数以上が「特別な対策をしていない」と回答しています。私もその一人でした。「身体の痛み」は心への過負荷が表面化したものだったのですが、当時の私にはそれを認める心の余裕すらありませんでした。

「イライラ」が教えていた心の摩耗

身体の異変以上に顕著だったのが、感情の制御ができなくなっていたことです。本来なら笑って受け流せる息子のこだわりや、ちょっとした食べこぼしに対して、激しい怒りを感じるようになりました。怒鳴った後に激しい自己嫌悪に陥り、「自分は親失格だ」と責める。この負のスパイラルこそが、心のエネルギーが枯渇している明確な証拠でした。

心理学ではこれを「共感疲労(きょうかんひろう)」と呼びます。相手を助けたいという気持ちが強いほど、相手の苦しみや困難に巻き込まれ、自分自身がすり減ってしまう状態です。私は息子のパニックを止めることに必死で、自分自身の心がパニックを起こしていることに気づけませんでした。怒りは、心が自分を守るために出した最後の防衛反応だったのです。

💡 ポイント

「最近、怒りっぽくなった」と感じるのは、性格が悪くなったからではありません。あなたの心が「これ以上は無理だ」と悲鳴を上げているサインです。

効率化という名の「感情の麻痺」

限界が近づくと、私は日々のケアを機械的にこなすようになりました。感情を動かすと辛くなるため、無意識に心のシャッターを下ろしていたのです。息子が笑っていても、どこか遠くの出来事のように感じ、ただルーティンワークを消化することだけに執着していました。これは「脱人格化(だつじんかくか)」と呼ばれる、燃え尽き症候群の一歩手前の状態です。

周囲から見れば、私は「冷静にテキパキとこなす立派な母親」に見えていたかもしれません。しかし、その内側は空っぽでした。「何も感じない」ことは、心が壊れるのを防ぐための緊急避難だったのです。この無機質な日々が続いた結果、私は自分が何をしたいのか、何が好きだったのかさえ思い出せなくなっていきました。


ある日突然、心が「シャットダウン」した瞬間

積み木が崩れるように動けなくなった朝

その日は突然やってきました。いつものように朝5時に起き、朝食を作ろうとした瞬間、包丁を持ったまま手が震えだし、その場に崩れ落ちてしまったのです。頭では「早く作らなきゃ」「息子が起きる前に準備を」と考えているのに、身体が1ミリも動きません。涙が溢れて止まらず、呼吸の仕方を忘れたかのようなパニック状態に陥りました。

これが、私の完全なシャットダウンでした。それまで張り詰めていた糸がプツリと切れた瞬間です。家族が驚いて駆け寄ってきましたが、私は一言も発することができませんでした。皮肉なことに、この「強制終了」がなければ、私は今でも自分を削り続け、もっと取り返しのつかない事態になっていたかもしれません。限界は、自分ではコントロールできない形で訪れるのです。

「代わりのいない」という思い込みの崩壊

私が倒れたことで、家の中は大混乱になると思われました。しかし、実際には夫が仕事を休み、ヘルパーさんが急遽時間を延長してくれ、実家の母も駆けつけてくれました。私は「私がいなければこの家は回らない」「息子のことは私にしか分からない」と固く信じていましたが、それは私の傲慢な思い込みであったことに気づかされました。

私が動けなくなっても、世界は回り続け、息子は意外にもヘルパーさんとの時間を穏やかに過ごしていました。2024年の家族支援研究では、「特定のケアラーへの過度な依存」が、有事の際のリスクを最大化させることが指摘されています。自分が倒れて初めて、私は「チームで支える」ことの重要性と、自分を甘やかして良い理由を痛感しました。

⚠️ 注意

「私がいないとダメ」という責任感は、時に周囲の助けを拒む壁になります。あなたが倒れる前に、周囲に役割を分散させておくことが真の責任感です。

「うつ状態」との診断と受け入れ

心療内科を受診したところ、「重度の適応障害および抑うつ状態」との診断を受けました。医師からは「これまで数人分の仕事を一人でこなしてきましたね。今は魂が冬眠している状態です」と言われました。診断名がついたことで、私はどこか救われたような気持ちになりました。自分がダメな人間だったのではなく、ただ「病気」だったのだと思えたからです。

回復には数ヶ月の完全休養が必要だと言われました。最初はその長さに焦りを感じましたが、「今ここでしっかり休まなければ、一生支援を続けることはできない」と諭されました。「休むことは、長く続けるための攻めの戦略」であるという視点は、当時の私にとって大きな衝撃でした。それまで私の辞書に「戦略的な休み」という言葉は存在しなかったからです。


再起への一歩:失敗から学んだ「自分を救う」技術

「助けて」を言語化する練習

回復の過程で、私はまず「助けて」と言う練習を始めました。それまでの私は、誰かに迷惑をかけることを極端に嫌い、すべて自力で解決しようとしていました。しかし、言語化しない助けは誰にも届きません。具体的に「今日は1時間だけ一人になりたい」「買い出しをお願いしたい」と伝えることで、周囲も動きやすくなることを学びました。

2026年現在は、ケアラー向けのアプリや相談窓口が充実しており、直接知人に言いにくいことでも、コーディネーターを通じて要望を伝えることができます。「受援力(じゅえんりょく)」、つまり助けを受ける力を高めることが、再発を防ぐための最大の武器になりました。自分一人で抱え込むことは、美徳ではなくリスクなのだと自分に言い聞かせ続けました。

「60点の支援」で自分を許す

かつての私は常に100点、いや120点の支援を目指していました。栄養バランスの取れた食事、完璧な療育スケジュール、乱れのない部屋。しかし、そんな完璧主義が自分を追い詰めていたのです。復帰してからは、「家族が笑っていれば、部屋が散らかっていても、夕飯がレトルトでも60点!合格!」と自分に言い聞かせるようにしました。

驚いたことに、私が「適当」になり、肩の力が抜けると、息子のパニックも激減しました。親の過度な緊張や期待が、息子にプレッシャーを与えていたのかもしれません。「不完全な自分」を受け入れることで、家庭内の空気が明らかに柔らかくなりました。2025年のポジティブ心理学の論文でも、ケアラーの自己肯定感と被支援者の安定には強い相関があることが証明されています。

✅ 成功のコツ

まずは今日、一つだけ「やらないこと」を決めてください。その空いた時間は、ただぼーっとするためだけに使って良いのです。

自分をケアする「聖域」の時間を確保する

どんなに忙しくても、一日のうち30分は「ケアラーではない私」に戻る時間を死守することに決めました。ヘッドホンで好きな音楽を聴く、お気に入りのハーブティーを飲む、ただ近所を散歩する。この時間は、家族の要望も仕事の連絡もすべて遮断する「聖域」です。この短いリセットがあるだけで、脳の疲労回復度は劇的に変わります。

休息には「物理的な休息」と「精神的な休息」の2種類があります。ただ座っているだけでなく、意識的に役割を脱ぎ捨てる時間を持つことが、心の回復には不可欠です。私はこの時間を「魂の充電時間」と呼んでいます。充電が切れたままでは、どんなに高性能なデバイスも動きません。自分というエンジンをメンテナンスすることは、支援を続ける上での最優先事項です。


福祉サービスを「限界前」に使うべき理由

レスパイトケアは「ご褒美」ではない

私が失敗した大きな原因の一つに、ショートステイや一時預かりなどのサービスを「どうしても無理なときの最後の手段」と考えていたことがあります。しかし、本来レスパイトケア(休息支援)は、限界に達する前に、その限界を未然に防ぐために使うものです。2026年現在は、予防的なサービス利用を推奨する自治体も増えています。

定期的に外部のサービスを利用することで、本人は「家族以外の人との関わり」を学び、家族は「自分を取り戻す時間」を得ます。これは、双方にとっての成長機会です。「預けるのはかわいそう」という罪悪感を、私は「本人の社会経験を広げるチャンス」と変換するようにしました。サービスを賢く使う人ほど、長く、笑顔で支援を続けられるのが現実です。

相談支援専門員との「正直な」対話

それまでの私は、相談支援専門員さんに対しても「頑張っています」「大丈夫です」と良い顔を見せていました。しかし、それでは適切な支援プランは立てられません。倒れた後は、今の辛さ、夜眠れないこと、本人が憎らしく感じてしまうことなど、負の感情もすべて正直に話すようにしました。これが、私に合った本当の意味でのオーダーメイドの支援に繋がりました。

相談員さんは「困りごとの専門家」です。あなたの弱音の中に、解決の糸口となる福祉サービスのヒントが隠れています。かっこいい自分を見せる必要はありません。2025年からは「ケアラー支援」に特化した相談員も増えており、あなたの心に特化したサポートが受けられるようになっています。まずは、自分の「本当の現在地」を誰かに伝えることから始めてください。

項目 以前の私(100点主義) 今の私(継続重視)
家事 すべて手作り、完璧な掃除 時短家電と宅配サービスを活用
サービス利用 冠婚葬祭などの緊急時のみ 月に2回の定期的なリフレッシュ利用
周囲への相談 心配をかけたくなくて隠す 「疲れた」をサインとして早めに伝える
自分への評価 できないことを数えて落ち込む 今日一日生き抜いた自分を褒める

専門職を「外部の脳」として活用する

本人の特性や将来の不安について、自分一人で解決策を出そうとするのをやめました。医師やセラピスト、支援員など、それぞれの分野のプロに判断を委ね、「外部の脳」として活用するようにしました。これにより、意思決定の疲労(デシジョン・ファティーグ)が大幅に軽減されました。意思決定は、思っている以上にエネルギーを消費します。

すべてを自分が把握し、コントロールしなければならないという強迫観念を捨てたとき、私の心に大きな余白が生まれました。プロが言ったからこうしてみよう、という「良い意味での諦め」が、私を楽にしてくれました。私たちは、本人の人生の全責任を背負っているわけではありません。多くの手の中の一人として、適切な距離感を保つことが、真の理解者への道でした。


実例:回復への転換点となったエピソード

事例1:深夜のドライブで取り戻した「個」

倒れてから数ヶ月後、夫の勧めで深夜に一人で1時間だけドライブに行きました。カーステレオから流れるのは、息子が好きなアニメソングではなく、私が独身時代に大好きだったロック。夜の国道を走る間、私は「〇〇くんのお母さん」でも「〇〇職場の私」でもなく、ただの「私」でした。この「役割からの完全な離脱」が、どれほど心を軽くしたか計り知れません。

たった1時間でしたが、帰宅したときの息子への接し方が劇的に優しくなりました。心のコップを一度空にすることで、再び愛情という水を注ぐことができるようになったのです。リフレッシュは、贅沢品ではありません。私たちが正常な判断力と優しさを保つための、必要不可欠な栄養素なのです。

事例2:ショートステイで知った「息子の自立」

初めて息子をショートステイに預けた2泊3日、私は罪悪感でいっぱいでした。しかし、迎えに行ったときに支援員さんから渡された報告書には、「他のお友達と一緒にカードゲームを楽しみ、笑顔で過ごしていました」という記述がありました。私のいない場所で、息子は私が知らない成長を見せていたのです。私が「自分が守らなければ」と囲い込んでいたことが、逆に彼の世界を狭めていたことに気づきました。

私が休むことは、息子に「母親以外の信頼できる大人」を作ってあげるチャンスでもありました。この経験から、サービス利用への抵抗感が完全に消えました。2026年の今、ショートステイは本人にとっての「宿泊学習」であり、私にとっては「エネルギー補給」の貴重な機会として定着しています。

「倒れたことは私の人生最大の失敗だと思っていましたが、今では、私の人生を立て直すために必要な通過点だったと確信しています。」

— 私の回復ノートより


よくある質問(FAQ)

Q. 自分が休むと、他の家族(特に兄弟児)に迷惑がかかりそうで踏み切れません。

兄弟児さんにとっても、あなたが倒れてしまうことが一番の「迷惑」であり、大きなショックとなります。むしろ、あなたが定期的にリフレッシュし、穏やかに過ごしていることが、兄弟児さんの精神的な安定に直結します。2025年の「ヤングケアラー・兄弟児支援」の調査でも、親が適度にサービスを利用し、自分の時間を楽しんでいる家庭ほど、兄弟児の幸福度が高いことが示されています。家族全員の幸せのために、まずはあなたが自分を大切にしてください。

Q. 職場に迷惑をかけるのが怖くて、休みや配慮を申し出ることができません。

あなたが無理をして突然長期離脱することのほうが、職場にとっては大きな痛手となります。2026年現在は、改正障害者差別解消法や仕事と介護の両立支援制度がさらに進んでおり、企業側も「無理のない働き方」を模索しています。正直に今の状況を話し、「長く戦力として働き続けるための調整」として配慮を求めてください。あなたの誠実な申し出を拒む職場であれば、それは環境そのものを見直すべきタイミングかもしれません。あなたの健康以上に優先される仕事はこの世に存在しません。

Q. 限界かどうか、自分ではどうやって判断すればいいですか?

以下の3つの指標が一つでも当てはまれば、すでに限界の兆候です。

  • 以前は楽しかったことに全く興味が持てなくなった。
  • 寝ても疲れが取れず、朝、絶望感とともに目が覚める。
  • 大切な人(家族や同僚)に対して、冷淡な感情や攻撃的な気持ちを抱くようになった。
これらは「意志の強さ」で解決できるものではありません。早急に医師や専門機関に相談してください。「まだやれる」は「もう無理」の裏返しであることが多いのです。


まとめ:今日から自分を救うために

「気づかないうちに限界を超えていた」——私の失敗は、あなたに同じ道を歩んでほしくないという願いとともにここに記しました。かつての私のように、自分を追い詰め、すべてを背負い込むことが「正しい姿」だと思わないでください。あなたが壊れてしまっては、あなたが愛する人々を守ることはできないのです。

  • 身体と心の小さなSOSを無視しない:睡眠、食事、感情の動きを客観的にチェックしましょう。
  • 「助けて」を戦略的に使う:受援力は、支援を続けるために不可欠なプロのスキルです。
  • 自分を主語にする時間を持つ:1日30分、何者でもない自分に戻る「聖域」を守りましょう。

今、あなたがやるべき最大のアクションは、自分に「頑張ったね」と声をかけ、何か一つだけ、今日やるはずだったタスクを諦めることです。レトルトカレーを温めるだけでも、洗濯を一回休むだけでも良いのです。その一歩が、あなたの人生を、そして家族の未来を守る大きな分岐点になります。あなたは一人ではありません。私たちが、そして多くの支援者が、あなたのすぐそばにいることを忘れないでください。あなたの笑顔が戻る日を、心から待っています。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

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