気持ちが落ち続けた日々——うつとの出会いと向き合い方

灰色の世界に沈んでいく日々
ある日を境に、世界から色が消えました。好きだった音楽も、美しいと思っていた景色も、楽しかった趣味も——すべてが灰色に見えました。感情が消え、喜びを感じることができなくなりました。
それは突然ではなく、じわじわと。最初は「ちょっと調子が悪い」程度だったものが、次第に深い穴へと落ちていく感覚。這い上がろうとしても、壁は滑り、足場がない。気持ちがただ落ち続ける——そんな日々が続きました。
これは、私が「うつ病」と出会い、向き合い、そして少しずつ回復していく過程の記録です。同じように暗闇の中にいる方、大切な人がうつと闘っている方に、少しでも希望を感じていただければ幸いです。
気持ちが落ち始めた頃
最初は小さな変化だった
振り返ってみると、最初の変化は本当に些細なものでした。朝、起きた時に感じる「今日も頑張ろう」という気持ちが、なんとなく湧いてこない。それだけでした。
でも私は、「疲れているだけ」「睡眠不足のせい」だと思っていました。少し休めば元に戻る——そう信じていました。
初期の変化は、以下のようなものでした。
- 朝の目覚めが悪く、起きるのに時間がかかる
- 好きだったコーヒーの味が、なんとなく美味しく感じない
- 趣味の読書を始めても、集中できずにやめてしまう
- 友人からのメッセージに返信するのが面倒に感じる
- 週末に出かける気力がなく、家で過ごすことが増える
- なんとなく、すべてが億劫に感じる
これらは単独で見れば、「誰にでもあること」でした。でも後になって気づいたのは、これらが同時に、継続的に起きていたということです。
⚠️ 注意
うつ病の初期症状は、「疲れ」や「やる気の低下」など、日常的な不調と区別がつきにくいことがあります。こうした状態が2週間以上続く場合は、専門家への相談を検討してください。
気づけば深い穴の中に
気づいた時には、私は深い穴の底にいました。どうやって落ちたのかも、いつから落ち始めたのかもわかりませんでした。
朝起きることができなくなりました。正確には、起きる理由が見つからなくなりました。仕事に行っても、何のためにやっているのかわからない。家に帰っても、何をする気力もない。
食事の味がしなくなりました。何を食べても同じ。というより、食べる意味がわからなくなりました。体重は1ヶ月で7キロ減りました。
そして何より、感情が消えました。嬉しい、楽しい、悲しい、怒り——そうした感情が、まるで霧の向こうにあるように、手が届かなくなりました。
「無気力」という名の苦しみ
周囲からは「やる気がない」「怠けている」と見えたかもしれません。でも実際には、「やりたくてもできない」状態でした。
シャワーを浴びることすら、大きな決断が必要でした。歯を磨くことも、着替えることも、すべてが重い。まるで全身に鉛を纏っているような感覚でした。
仕事では、簡単な作業にも時間がかかるようになりました。メールの返信一つ書くのに1時間。会議では集中できず、何を話しているのか頭に入ってこない。
| 以前の私 | うつの私 |
|---|---|
| 朝6時に自然に目覚める | アラームを何度も止めて起きられない |
| 朝食をしっかり食べる | 食欲がなく、ほとんど食べない |
| 仕事に集中して取り組む | 同じ資料を何度も読み直す |
| 昼休みに同僚と楽しく話す | 一人でうつむいている |
| 退勤後は趣味や友人と過ごす | まっすぐ家に帰り、ベッドへ |
| 週末は外出や活動 | 一日中ベッドから動けない |
「うつ病の無気力は、『やる気がない』のではなく、『やる気を出す機能が壊れている』状態です。車で言えば、エンジンがかからない状態。気合いで何とかなる問題ではないんです」
— 後に主治医が説明してくれた言葉
「うつ病」との出会い
職場で倒れた日
転機は、職場で倒れた日に訪れました。
会議中、突然めまいがして、その場に座り込んでしまいました。同僚が救急車を呼び、病院に搬送されました。検査の結果、身体的な異常は見つかりませんでした。
でも医師は言いました——「心療内科を受診してください。うつ病の可能性があります」と。
その言葉を聞いた時、私の中には複雑な感情がありました。「まさか自分が」という驚き、「やはりそうだったのか」という納得、そして「どうしよう」という不安。
診断を受けた日
数日後、私は心療内科を受診しました。問診票に答えながら、改めて自分の状態の深刻さに気づきました。
「死にたいと思ったことがありますか?」——その質問に、私は「はい」にチェックを入れました。正確には「消えてしまいたい」と思っていました。積極的に死にたいわけではないけれど、「このまま目が覚めなければいいのに」と、毎晩思っていました。
医師との面談は1時間近くに及びました。いつから症状があるか、どんな状態か、生活にどう影響しているか——一つひとつ丁寧に聞いてくれました。
そして告げられた診断——「うつ病」。中等度から重度の状態だと言われました。
💡 ポイント
うつ病の診断基準には、抑うつ気分、興味・喜びの喪失、食欲や体重の変化、睡眠障害、精神運動の変化、疲労感、無価値観・罪悪感、思考力・集中力の減退、死についての考えなどがあります。これらの症状が2週間以上続く場合、診断がつくことがあります。
診断を受けた時の気持ち
診断を告げられた瞬間、私は泣きました。でもそれは、悲しみの涙だけではありませんでした。
安堵——「やっと、この苦しみに名前がついた」
恐怖——「これからどうなるのだろう」
罪悪感——「自分が弱いからこうなった」
でも同時に、希望——「治療法があるんだ」
医師は優しく言いました——「よく来てくれましたね。つらかったでしょう。でも大丈夫、一緒に治していきましょう」。
その言葉に、私は初めて「助かるかもしれない」と思えました。
うつと向き合う日々
休職という決断
医師からは、すぐに休職を勧められました。でも私は躊躇しました。「仕事を休んだら、周りに迷惑がかかる」「自分がいないとプロジェクトが進まない」——そんな思いがありました。
でも医師は、はっきりと言いました——「今休まないと、もっと長く休むことになります。最悪の場合、復帰できなくなる可能性もあります」。
その言葉で、私はようやく休職を決意しました。診断書を持って上司に報告すると、予想外の言葉が返ってきました。
「実は心配していたんだ。もっと早く言ってくれればよかったのに。ゆっくり休んで、元気になってから戻ってきてほしい」
この言葉に、私は救われました。
薬物療法の開始
治療は、抗うつ薬の服用から始まりました。最初は「薬に頼るのは負け」だと思っていました。でも医師の説明で、考えが変わりました。
「うつ病は、脳の神経伝達物質のバランスが崩れている状態です。薬は、そのバランスを整える手助けをします。眼鏡をかけるのと同じです。視力が悪い人が眼鏡をかけるように、脳のバランスが崩れている人が薬を使う——それだけのことです」
服薬を始めて最初の2週間は、副作用に苦しみました。吐き気、眠気、だるさ——これらの症状が辛く、「やめたい」と思ったこともありました。
でも医師は「最初は副作用が出ることがあります。2〜3週間で落ち着くことが多いです。もう少し続けてみましょう」と励ましてくれました。
そして3週間目、変化が訪れました。朝、少しだけ「起きてもいいかな」と思えたのです。
✅ 成功のコツ
抗うつ薬の効果が出るまでには、通常2〜4週間かかります。また、最初の薬が合わないこともあります。焦らず、主治医と相談しながら自分に合った薬を見つけることが大切です。
カウンセリングという支え
薬物療法と並行して、カウンセリングも受け始めました。週に1回、臨床心理士と1時間話す時間。
最初は「何を話せばいいのか」わかりませんでした。でもカウンセラーは、ただ私の話を聞いてくれました。否定も、アドバイスもせず、ただ聞いてくれました。
そしてある日、カウンセラーは言いました——「あなたは、ずっと自分を責め続けてきたんですね」。
その言葉で、私は気づきました。私は自分に対して、とても厳しかった。完璧であろうとし、失敗を許さず、弱さを見せることを恥だと思っていた。
カウンセリングを通じて、私は少しずつ「自分を許す」ことを学んでいきました。
回復への道——小さな変化の積み重ね
「良い日」と「悪い日」
治療を始めて1ヶ月ほど経った頃から、変化が現れ始めました。でもそれは、一直線の回復ではありませんでした。
良い日があれば、悪い日もある。昨日は調子が良かったのに、今日は起き上がれない。そんな波がありました。
最初は、この波に戸惑いました。「良くなったと思ったのに、また戻ってしまった」と落胆しました。
でも主治医は言いました——「回復は波を描きます。でもトータルで見れば、確実に上向いている。悪い日があっても、以前ほど悪くはないはずです」。
その言葉通り、振り返ってみると確かに変化がありました。
| 時期 | できるようになったこと |
|---|---|
| 1ヶ月目 | 朝、時々起きられるようになった |
| 2ヶ月目 | シャワーを週3回浴びられるようになった |
| 3ヶ月目 | 近所のコンビニに一人で行けるようになった |
| 4ヶ月目 | 本を少しずつ読めるようになった |
| 5ヶ月目 | 友人と短時間なら会えるようになった |
| 6ヶ月目 | リワークプログラムに通い始めた |
小さな「できた」を喜ぶ
回復の過程で学んだ大切なことの一つは、小さな「できた」を喜ぶことでした。
以前の私なら当たり前だったこと——朝起きる、シャワーを浴びる、外に出る——これらが今は大きな達成でした。
カウンセラーは「回復日記」をつけることを勧めてくれました。毎日、どんな小さなことでもいいから、「できたこと」を書く。
最初は「ベッドから出られた」「水を飲めた」——そんなレベルでした。でもそれでいいと言われました。
この日記を続けることで、自分の回復を実感できるようになりました。1ヶ月前の日記を読むと、「あの頃よりできることが増えている」と気づけました。
再発の不安と向き合う
回復が進むにつれて、新たな不安も生まれました。それは「また落ちるのではないか」という恐怖でした。
少し調子が悪い日があると、「またあの状態に戻ってしまうのでは」と怖くなりました。この恐怖自体が、ストレスになっていました。
主治医は、再発予防について教えてくれました。
- 十分な睡眠を確保する(7-8時間)
- 規則正しい生活リズムを保つ
- 無理なスケジュールを組まない
- 自分の限界を知り、休む勇気を持つ
- ストレスサインに早めに気づく
- 定期的な通院を続ける
- 困ったときは早めに相談する
これらを実践することで、再発のリスクを下げられると知り、少し安心しました。
💡 ポイント
うつ病は再発率が高い病気です(初回エピソード後の再発率は約50%)。しかし、適切な治療の継続と生活習慣の管理により、再発リスクを大幅に下げることができます。
復職——社会とのつながりを取り戻す
リワークプログラムでの学び
治療開始から半年後、私はリワークプログラム(復職支援プログラム)に参加し始めました。
そこには、同じようにうつ病から回復を目指す仲間がいました。年齢も職業も様々でしたが、皆「普通に働いていた人たち」でした。
リワークでは、以下のようなことを学びました。
- 生活リズムの安定化(毎日決まった時間に通う)
- 作業能力の回復(簡単な作業から段階的に)
- ストレス対処法の習得(認知行動療法など)
- コミュニケーションスキルの再確認
- 再発予防のセルフケア
特に役立ったのは、仲間との交流でした。同じ経験を持つ人たちと話すことで、「自分だけじゃない」と実感できました。
段階的な復職
治療開始から10ヶ月後、私は職場に復帰しました。でもいきなりフルタイムではなく、段階的な復帰でした。
最初は週3日、1日4時間から。慣れてきたら週5日、6時間へ。そして3ヶ月かけて、フルタイムに戻しました。
職場の理解とサポートがあったからこそ、可能でした。上司は業務量を調整してくれ、同僚は温かく迎えてくれました。
最初の出勤日、緊張で手が震えました。でも同僚が「おかえり」と言ってくれた時、「帰ってこられた」と実感しました。
今の私——うつと共に生きる
復職から1年が経った今、私はほぼ以前と変わらない生活を送っています。でも「完全に元通り」ではありません。
今でも、調子の悪い日はあります。朝起きるのが辛い日、何もやる気が起きない日——そんな日は、無理せず休むようにしています。
月に一度の通院は続けています。薬も、量は減りましたが続けています。これは「治っていない」のではなく、「健康を維持するため」だと理解しています。
そして何より、自分に優しくなりました。完璧を求めず、できない日があってもいい。そう思えるようになりました。
うつと向き合う中で学んだこと
「弱さ」は恥ではない
うつ病になって学んだ最も大切なことは、弱さを見せることは恥ではないということでした。
以前の私は、「強くなければいけない」「完璧でなければいけない」と思っていました。弱さを見せることは、失敗だと思っていました。
でも今は違います。人間は誰でも弱いところがある。それを認めて、助けを求めることこそが本当の強さだと、今は思います。
回復は一直線ではない
回復は、一直線ではありません。良くなったり、戻ったり、また良くなったり——その繰り返しです。
大切なのは、悪い日があっても、それで終わりではないということ。また良い日が来る。そう信じて、焦らず進むことです。
一人で抱え込まない
そして何より、一人で抱え込まないこと。医師、カウンセラー、家族、友人、同じ病気の仲間——助けてくれる人は、必ずいます。
「助けて」と言うことは、弱さではなく勇気です。その勇気が、回復への第一歩になります。
今、同じように苦しんでいる人へ
あなたのせいではない
もし今、うつの暗闇の中にいるなら、まず知ってほしいことがあります。あなたのせいではありません。
うつ病は、心の弱さでも、性格の問題でもありません。脳の病気です。風邪をひくように、誰でもなりうる病気なのです。
自分を責める必要はありません。まずは、自分を許してあげてください。
助けを求める勇気を
一人で抱え込まないでください。うつ病は、専門的な治療が有効な病気です。
以下のような専門家に、ぜひ相談してみてください。
- 精神科・心療内科の医師
- かかりつけ医(内科医でも相談可能)
- 臨床心理士・公認心理師
- 精神保健福祉センター
- 保健所・保健センター
- 職場の産業医・保健師
最初の一歩は怖いかもしれません。でもその一歩が、あなたを救います。
回復は可能です
最後に、これだけは伝えたいです——回復は可能です。
今は暗闇の中でも、必ず光は見えてきます。時間はかかるかもしれません。でも適切な治療を受けて、少しずつ前に進めば、必ず良くなります。
私も、「一生このままかもしれない」と絶望していました。でも今、こうして記事を書けるまでに回復しました。
あなたにも、必ず回復の日が来ます。焦らず、自分のペースで、一歩ずつ進んでください。
「うつ病は『心の風邪』ではなく『心の骨折』です。風邪なら数日で治りますが、骨折は治るのに時間がかかる。でも、適切に治療すれば必ず治る。それがうつ病です」
— 主治医の言葉
よくある質問
Q1: うつ病は完治しますか?
多くの人が回復し、以前と変わらない生活を送れるようになります。ただし「完治」という言葉より「寛解(症状が落ち着いた状態)」という表現を使います。再発予防のため、寛解後も定期的な通院や服薬を続けることが推奨されます。
Q2: 薬はどのくらいの期間飲み続けますか?
個人差がありますが、症状が改善した後も6ヶ月〜1年程度は服薬を続けることが一般的です。再発を繰り返している場合は、より長期的な服薬が推奨されることもあります。減薬や中止は、必ず主治医と相談しながら段階的に行います。
Q3: 仕事は続けられますか?
症状の程度によります。軽度なら働きながら治療できることもありますが、中等度以上の場合は休職して治療に専念することが推奨されます。焦って無理をすると、かえって回復が遅れたり重症化したりするリスクがあります。
Q4: 家族としてどう接すればいいですか?
まず病気を理解することが大切です。「頑張れ」などの励ましは逆効果になることがあります。本人のペースを尊重し、焦らせないこと。話を聞き、否定しないこと。そして家族自身も一人で抱え込まず、家族向けのサポートを利用することをお勧めします。
Q5: 再発を防ぐにはどうすればいいですか?
規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理が基本です。また、定期的な通院を続けること、自己判断で服薬を中止しないこと、早めに不調のサインに気づいて対処することが重要です。主治医と相談しながら、自分なりの再発予防プランを作ることをお勧めします。
まとめ
この記事では、うつ病と診断され、治療を受けながら回復していく過程についてお話ししました。
- うつ病は脳の病気であり、適切な治療(薬物療法とカウンセリング)で回復できます
- 回復は一直線ではなく、良い日と悪い日の波を繰り返しながら進みます
- 小さな「できた」を積み重ねることが、大きな回復につながります
- 一人で抱え込まず、専門家や周囲の力を借りることが大切です
もし今、気持ちが落ち続けている日々の中にいるなら、どうか一人で抱え込まないでください。助けを求めることは弱さではなく、勇気です。回復は可能です。あなたのペースで、一歩ずつ前に進んでください。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





