聴覚・視覚障害のある子の教育支援まとめ

聴覚・視覚障害のある子の「学ぶ権利」を守る!最適な教育の選択肢と合理的配慮のすべて
お子さんが聴覚や視覚に困難を抱えている場合、「通常の学校で学ぶことができるのだろうか?」「将来、社会で自立できるのだろうか?」といった、教育と進路に関する深い不安を感じていらっしゃることでしょう。情報へのアクセスやコミュニケーションにおいて、健常の子どもたちとは異なる壁があるため、適切な教育支援なしに学びを継続するのは非常に困難です。
しかし、ご安心ください。現在の日本では、障害の種類や程度に応じて、特別支援学校(ろう学校・盲学校)、特別支援学級、通級指導教室といった多様な学びの場が用意されています。さらに、ICT(情報通信技術)の発展により、音声認識、点字ディスプレイ、拡大読書器などの強力なツールを活用した「合理的配慮」が、通常の学校や大学でも当たり前に受けられる時代になりました。
この記事では、聴覚・視覚障害のある子どもの教育支援の全体像を把握するために、専門的な学校の役割から、インクルーシブ教育の現場で利用できる具体的な支援機器、そして進学や就職を見据えたキャリア教育の進め方までを詳細に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、お子さんにとって最も能力が伸び、安心できる学びの環境を選択し、教育を通して自立に向けた確かな土台を築き上げるための具体的なステップが得られます。共に、お子さんの可能性を最大限に引き出すための道筋を探っていきましょう。
聴覚障害のある子どもの教育支援:コミュニケーションの壁を超える
聴覚障害は、音声によるコミュニケーションや情報取得に大きな壁を生じさせます。教育支援は、この「聞こえの壁」を乗り越え、言語能力や学力の獲得を確かなものにするために欠かせません。
1. 聴覚障害教育の主な三つの選択肢
聴覚障害のある子どもの教育の場は、主に障害の程度や保護者の方針によって三つに分かれます。
- ろう学校(聴覚特別支援学校):手話、指文字、口話、補聴器・人工内耳など、専門的なコミュニケーション手段を用いた指導が受けられます。集団生活の中で手話による言語習得や聴覚障害者としてのアイデンティティを育むことができます。
- 特別支援学級:通常の小学校・中学校の中に設置され、特定の時間に個別指導や少人数指導を受けます。普段は通常の学級で過ごす交流教育が中心です。
- 通級指導教室:通常の学級に在籍しながら、週に数時間、言語指導やコミュニケーション指導など、個別の課題解決のための指導を受けます。軽度〜中等度の難聴児に多く利用されます。
どの教育形態を選択するかは、早期からの言語獲得とコミュニケーション手段を最優先に、専門家との相談を経て決定することが重要です。
2. 聴覚障害児が活用する具体的な支援機器
聴覚障害のある子どもたちの学習環境を保障するためには、補聴器や人工内耳といった基本的な補助具に加え、授業の音声を確保するための専門機器が不可欠です。
- FMシステム(ワイヤレス補聴援助システム):先生がマイクをつけ、その音声が子どもの補聴器や人工内耳に直接届くシステムです。距離や周囲の雑音に影響されずに、先生の声をクリアに聞くことができます。
- 文字通訳(リアルタイム字幕):授業の内容をパソコンやタブレットに即時入力(要約筆記)し、文字情報として提供する支援です。特にディスカッションやグループワークで効果を発揮します。
これらの機器の利用は、小学校・中学校への合理的配慮として認められており、教育委員会や学校を通じて整備が求められます。
3. コミュニケーションを支える人的支援
機器だけでは解決できない、複雑なコミュニケーションや集団生活のサポートには、専門的な知識を持つ人的支援が欠かせません。
- 手話通訳者・要約筆記者の配置:授業、ホームルーム、学校行事などで、情報保障を担います。特に高校や大学の進学において、重要な役割を果たします。
- 専門の教員による巡回指導:通級指導教室に在籍しない場合でも、ろう学校の教員が通常学級を訪問し、担任の先生への助言や、子どもへの個別指導を行う支援もあります。
コミュニケーションの支援は、孤立を防ぎ、子どもが安心して集団に参加できるための最も重要な配慮です。
💡 ポイント
聴覚障害のある子どもの教育で最も重要なのは、早期からの言語獲得です。手話か口話かに関わらず、情報へのアクセスが途切れない環境を早く整えることが、将来の学力や進路に大きく影響します。
視覚障害のある子どもの教育支援:触覚と聴覚の活用
視覚障害は、文字情報の読み取りや板書、周囲の状況把握に困難をもたらします。視覚障害のある子どもの教育支援は、主に触覚(点字)や聴覚(音声)を最大限に活用することに重点が置かれます。
1. 視覚障害教育の主な三つの選択肢
視覚障害のある子どもの教育の場も、視力や視機能の程度によって大きく分かれます。
- 盲学校(視覚特別支援学校):点字指導、歩行訓練(オリエンテーション・モビリティ)、拡大文字の指導など、生活や学習に必要な専門的なスキルを系統立てて学ぶことができます。
- 弱視学級:通常の小学校・中学校の中に設置され、拡大教科書や拡大機器などの教材の工夫を受けます。弱視の子どもたちが視覚的な負担を減らして学習できるよう支援されます。
- 通級指導教室:通常の学級に在籍しながら、週に数時間、眼科医の指示に基づく視機能訓練、弱視指導など、個別の課題解決のための指導を受けます。
視覚障害教育では、単なる学力だけでなく、自立した生活を送るためのスキル(歩行、調理、情報機器操作)を習得することが、将来の進路にとって特に重要視されます。
2. 視覚障害児が活用する具体的な支援機器(ロービジョン)
視覚障害の中でも「弱視(ロービジョン)」の子どもたちは、残された視力を最大限に活用するための機器が中心となります。
- 拡大読書器:紙の教科書やプリントを大型のモニターに映し出し、コントラストや色を調整しながら大きく拡大して読むための機器です。
- 拡大教科書:通常の教科書の内容を、大きな文字と図で印刷し直した教科書です。文部科学省の事業として、希望者に無償提供されています。
- タブレット・PC:画面の拡大機能や音声読み上げ機能を標準で搭載しているため、視覚的な負担を減らし、デジタル情報へのアクセスを容易にします。
これらの機器は、授業の板書を撮影して拡大したり、試験問題を読み上げたりする際の合理的配慮として、通常の学校でも導入が進んでいます。
3. 全盲の子どもが活用する支援機器と教材
全盲またはそれに近い視覚障害を持つ子どもたちは、触覚と聴覚を頼りに学習を進めます。
- 点字器・点字プリンタ:紙の教科書は点字に変換されます。点字器を使って手書きでレポートを作成したり、点字プリンタで資料を印刷したりします。
- 点字ディスプレイ:パソコンやタブレットのテキスト情報を点字に変換して表示する機器で、デジタル教材を点字で読むことを可能にします。
- 音声DAISY図書:録音された音声図書で、章やページ移動が容易にできるデジタル録音図書です。図書館や専門機関から提供されています。
全盲の子どもにとって、点字の習得は「読み書きの壁」を乗り越え、進学や就職の可能性を広げるための必須スキルとなります。
✅ 成功のコツ
視覚障害のある子の進学準備は、歩行訓練や情報端末の操作スキルの習熟を学力と並行して進めることが成功の鍵です。盲学校の専門的な指導を積極的に活用しましょう。
学校での合理的配慮を実現するための戦略
特別支援学校や学級ではなく、通常の学校(幼稚園、小中学校、高校、大学)で学ぶことを選択した場合、情報保障や環境整備を学校に求める「合理的配慮」の申請が非常に重要になります。
1. 「個別の教育支援計画」を基盤とする
合理的配慮を学校に定着させるためには、就学相談を経て作成される「個別の教育支援計画」(IIP)に、必要とする配慮を具体的に明記することが不可欠です。
- 聴覚障害の場合:「授業中はFMシステムを常時使用し、板書の内容は文字通訳(要約筆記)によって保証する。」
- 視覚障害の場合:「拡大読書器を使用するための電源・机の確保、定期試験は拡大印刷または別室での音声読み上げを許可する。」
計画に明記することで、担任の交代や進級があっても、必要な支援が継続される保証となります。
2. 教員・生徒への理解啓発と専門家の連携
合理的配慮の成功は、学校全体での理解と、専門家との連携にかかっています。
- 教員研修の依頼:学校に対し、聴覚障害や視覚障害の特性、および支援機器の具体的な操作方法に関する研修を実施するよう依頼する。
- 巡回指導の活用:ろう学校や盲学校の教員による巡回指導を定期的に受け入れ、担任への専門的な指導や助言を仰ぐ。
- ピアサポート:聴覚障害のある生徒の場合、同じクラスの生徒に手話や支援機器の利用について理解を深めてもらい、情報共有やサポートをしてもらう。
特に高校や大学では、支援室を積極的に活用し、情報保障の担い手(通訳者など)を確保することが重要です。
3. 進学・就職試験における特別措置
高校入試や大学入試(大学入学共通テストなど)では、聴覚・視覚障害による困難を解消するための特別措置が設けられています。
- 聴覚障害:英語のリスニングテストの免除(または筆記試験への変更)、試験時間の延長、別室での受験(音声通訳利用時)。
- 視覚障害:点字受験または拡大文字での受験、試験時間の延長、解答方法の変更(点字入力、キーボード入力など)。
これらの措置は、早期(高校3年生の春〜夏)に試験実施機関へ申請し、医師の診断書や学校の意見書を提出する必要があります。高校の進路指導担当と綿密に計画を立てましょう。
⚠️ 注意
合理的配慮は、学校が「可能な範囲」で提供するものです。特に私立高校や大学では、専門的な支援機器や人的支援の準備が間に合わない場合があります。進路決定前に、希望校の支援体制を必ず確認しましょう。
進路と自立を見据えたキャリア教育と福祉サービス
聴覚・視覚障害のある子どもの教育は、学校卒業後の自立と社会参加を見据えたキャリア教育と、福祉サービスの活用が不可欠です。早期から将来の計画を立てていきましょう。
1. 障害特性に応じたキャリア教育の推進
ろう学校や盲学校では、障害の特性を踏まえた専門的な職業教育やキャリア教育が行われています。
- 聴覚障害(ろう学校):パソコン操作、デザイン、美容、機械加工など、視覚情報を中心とした専門分野での職業訓練が行われます。
- 視覚障害(盲学校):理療(あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師)、情報処理、音楽など、触覚や聴覚を活かせる専門分野での資格取得を目指します。
通常の学校に進学した場合でも、キャリア教育の一環として専門学校や職業訓練校の見学を行い、将来の職業について具体的に考える機会を設けましょう。
2. 高校卒業後の進路選択とサポート
高校卒業後、就職または進学のどちらを選ぶ場合でも、福祉サービスとの連携が重要になります。
- 就職の場合:ハローワークの専門窓口や、障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)と連携し、職場の合理的配慮の交渉や就職活動のサポートを受けます。
- 大学・専門学校の場合:進学先の障害学生支援室に早期に登録し、授業での情報保障(通訳、ノートテイク、教材のデジタル化)の準備を進めてもらいます。
大学卒業後も、必要な支援機器や情報保障の利用を継続できるよう、成人後の福祉サービスについて学んでおくことも大切です。
3. 福祉サービスとの連携と経済的支援
自立した生活と教育の継続を支えるために、障害福祉サービスを積極的に活用しましょう。
- 自立支援給付:補聴器、人工内耳のメンテナンス、点字ディスプレイ、拡大読書器など、日常生活や学習に必要な補装具の購入費用について公的な補助を受けられます。
- 移動支援:全盲の子どもが学校や通級指導教室への移動を行う際、ガイドヘルパーの派遣サービスを利用できる場合があります。
これらの福祉サービスは、市区町村の福祉窓口で申請できます。費用負担を軽減するためにも、早めの情報収集が推奨されます。
よくある質問(FAQ)と相談窓口
聴覚・視覚障害のある子どもの教育支援に関して、保護者が抱きがちな疑問と、次の行動に繋げるためのアドバイスをまとめました。
Q1. 補聴器や人工内耳を付けていれば、通常学級で問題ありませんか?
A. 補聴器や人工内耳は「音を大きくする」ことはできますが、「雑音の中から必要な音声を聞き分ける」ことは苦手です。そのため、通常学級でも「聞こえ」と「情報保障」のための合理的配慮が不可欠です。
- FMシステム:周囲の雑音の影響を最小限に抑えるために、必須の支援機器と考えて、学校に導入を求めましょう。
- 視覚的情報:聞こえにくい情報を補うために、板書を写真に撮る許可や、文字通訳の活用をセットで申請しましょう。
Q2. 点字や手話は、いつから始めるべきですか?
A. 手話や点字は、言葉や文字を学ぶ手段そのものであり、早期に始めることが推奨されます。特に手話は、脳の言語機能の発達に深く関わるため、早期(0歳〜3歳)から始めることが、コミュニケーションと認知の発達に大きなメリットをもたらします。
盲学校やろう学校の幼稚部では、専門的な指導が受けられますので、就学相談を待たずに情報収集を始めましょう。
Q3. 地域の小学校・中学校に籍を置いたまま、専門的な支援を受ける方法は?
A. 「通級指導教室」を利用することで、地域の学校に在籍しながら専門的な指導を受けることができます。また、ろう学校や盲学校の教員による巡回指導も、通常の学校での学びを支援する強力な手段です。
聴覚障害や視覚障害を専門とする特別支援学校は、地域の学校への支援センターとしての機能も担っていますので、積極的に学校を通じて相談してみましょう。
相談窓口・参考リンク
聴覚・視覚障害のある子どもの教育支援に関する具体的な相談は、以下の窓口を活用してください。
- お住まいの地域の教育委員会(就学相談窓口):最適な学びの場(特別支援学校、学級、通級)の決定と、合理的配慮の導入に関する相談の中心となります。
- ろう学校・盲学校:専門的な教育内容、支援機器、巡回指導に関する具体的な情報や相談を受けられます。
- 福祉事務所(補装具費支給担当):補聴器、点字ディスプレイ、拡大読書器などの購入費補助に関する手続きの窓口です。
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ):高校卒業後の進路、就職活動、職場での合理的配慮に関する相談をサポートしてくれます。
まとめ
聴覚・視覚障害のある子どもが充実した教育を受け、社会で自立するためには、専門的な教育支援と合理的配慮の導入が不可欠です。ろう学校や盲学校といった専門性の高い学びの場の選択肢を理解し、FMシステム、拡大読書器、点字ディスプレイなどの支援機器を積極的に活用しましょう。
「個別の教育支援計画」に必要な配慮を具体的に明記し、進学や就職試験においても特別措置を申請することで、お子さんの能力を正当に評価してもらえる環境を整えることができます。早期からの言語習得と自立スキルの獲得を重視し、お子さんの未来への道を力強く切り開いていきましょう。
まとめ
- 聴覚障害教育はFMシステムや文字通訳で情報保障を、視覚障害教育は点字、拡大読書器で情報アクセスを確保することが中心である。
- 通常の学校で学ぶ場合は、「個別の教育支援計画」に合理的配慮を明記し、専門の学校の巡回指導を積極的に活用する。
- 早期からの言語習得(手話・点字)と、自立した生活・学習のためのスキル習得が、将来の進路と自立を支える土台となる。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
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💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
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実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
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